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最終部:タワー・オブ・バベル

その246 狡猾

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 「出来たぞ、私特製のビーフシチューだ。ルーナが食材を持っていてくれて助かる」

 「わーい!」

 すでに私達は三四階へと足を運び、夕食と休憩をしていた。

 三十三階も前と似たような作りで、テンやイタチといった姿をした魔物ばかりが生息していて、やはりこちらが動くと魔物も動くという不思議な迷宮だった。
 別にこちらから魔物に向かったら逃げる、という事も無く、それはそれで襲いかかってくるので結局見つけたら倒すのが手っ取り早かった。

 「もぐもぐ……でもここの魔物は強くないですよね? 私のメイスでも簡単に倒せますし」

 「聖魔光で威力をあげているあんたがどの口で言うの……?」

 モーニングスターを持たせるとマズイということでセイラのメイスと取り換えた所、魔物を倒した時、見た目にグロイ感じにはならなくなった。

 <カルエラートとウェンディと同じくらいフレーレも前衛を務めてくれるからわらわ達は楽でいいがな>

 「そうね、ルーナが弓で足止めをした後、カルエラートとウェンディを軸にしてフレーレで遊撃。取りこぼしを私とセイラ、チェイシャでトドメってのはうまくはまったわね」

 「自分も三十階のイケメンとの教訓を得ましたから!」

 <うふふ……楽でいいですぴょん!>

 「あんたはもうちょっと役に立ちなさいよ……」

 「がう」

 「レジナは後で頑張ってもらうからねー」

 「がうがう♪」

 男性陣が居なくても戦闘面で困る事が無いのは本当に良かったと思う。

 でも三十三階は通路、部屋、通路……という感じで単調な作りをしているんだけど、通路ではどうしても戦いにくい事が多かった。
 なので、通路で魔物に出会ったら後退し、大部屋まで引き連れてから戦うようにしていたのだ。で、ママの言うとおり連携で確実に倒し、早い段階で三十四階へと辿り着いたという訳だ。

 「食後のデザートもあるぞ、桃のシロップ漬けは疲れた体にいい」

 「きゅんきゅ?」

 『シロップちゃんじゃないわよ。ほら、おいで』

 「きゅきゅーん」

 相変わらず狼大好きなアルモニアさんが、シロップを抱いてもふもふしていた。ラズベが余ったので私が膝の上に置いておくことにする。

 「きゅふん」

 「あら、食べるの? はい、桃よ」

 「きゅふふん♪」

 「きゅきゅーん!」

 <はっはっは、ずるいと言っておるぞ。わらわにもおくれ>

 子狼達に癒されながら夕食も終わり、見張りを交代しながら眠る事になる私達。このフロアはいわゆる『個室』がないので、大部屋で野営するしかなかった。一応こちらが動かなければ魔物は動かないとはいえ、そんなルールがずっと続くとは思えないので警戒するに越したことはない。


 「そういえばお母さんは?」

 先に仮眠を取って、今の時間は私とセイラが見張りとなった。バタバタしていて聞けなかったけど、お母さんについて聞いてみる事にした。

 「うーん、今は眠っているのか全然出てこないわね。でも、絶対会えないって思ってたからちょっと嬉しいかな? 捨てられたんだって思ってたけど、実は違ったし……」

 「あのヴィオーラの国王ね……」

 「うん、この塔に居るってニールセンさんが言ってたから必ず倒さないと。真相を知ったお兄ちゃんも顔には出さないけど、私と二人の時に仇を取るって呟いていたしね」

 レイドさんも塔に登るついでに倒せるならしめたもの、と言っていたらしい。結局、両親の居ない子供時代を過ごす羽目になったのはあの国王のせいで間違いない。仇として見るには十分すぎる理由だ。

 「私も勿論手伝うからね!」

 「期待しているわ、未来の妹なんだし♪」

 「そ、それは言わないで……」

 セイラに不意打ちをくらい、顔を赤くする私……そ、そうよね……セイラはレイドさんの妹なんだもんね……。

 「ふふ、ま、それはともかく神裂の手下になったなら厄介でしょうから、私達が特訓していた魔法や技はそこまで温存させてもらうつもりよ」

 「そういえば特訓の成果、どうなの?」

 「塔の中は監視されているみたいだし、手の内を見せたくないから言えないけど、驚かせるには十分かな?」

 「気になる……」

 セイラの含み笑いを気にしつつ、他愛ない話で見張りの交代時間まで過ごしたのだった。


 ◆ ◇ ◆


 外ならまだ陽も登っていないであろう時間から起き出し、私達は三十四階の探索を開始する。思ったより疲れていなかったのはカルエラートさんの食事のおかげだと思う。私やフレーレでも料理はできるけど、カルエラートさんには敵わない……レイドさん達はちゃんと食べてるかなあ……お弁当、一回分しかなかったし。

 「相変わらず部屋と通路が続いているか」

 私が色々考えていると、しばらく通路を歩いた所でカルエラートさんが大部屋を見て呟いた。外壁の様相は変わらないけど、結局は同じ事の繰り返しのようだ。ここも左右で通路が分かれていた。

 「魔物も大して強くないし、どういう意図でこんな迷宮にしているのかしら? 何か罠が……?」

 「不気味ですけど、わたし達は進むしかありません。三十五階で合流できるかもしれませんから急ぎましょう」

 「そうね」

 フレーレとママの話を聞いて大部屋から右の通路へ行こうとする私達。その時、丁度、大部屋から通路に続く入り口にシロップが鼻をふんふんしながら先頭に立った。

 「きゅん……きゅん……」

 「危ないから戻っておいで」

 私が声をかけたところで、シロップはおもむろに床を叩いた。

 「きゅきゅ!」

 カチッ

 もわっ……


 「きゅきゅーん?」

 「シロップ!?」

 「ガウ!?」

 もわもわと床から白い煙が立ち上り、あっという間にシロップが包み込まれた! レジナが慌てて駆け、私が近づくころには煙は消え、シロップが倒れているのが見えた。

 「シロップ!?」

 「フレーレ、回復を!」
 
 「はい!」

 レジナが咥えて素早く戻ってきたので慌てて抱き上げると、身体はまだ暖かく呼吸もしている。むしろ呼吸は穏やか……?

 「きゅきゅーん……Zzz」

 「もしかして寝ている?」

 「う、うん……何だったんだろ?」

 「睡眠ガス、じゃないですか? もしカルエラートさんが先頭に立って踏んでいたら私達全員眠っていたかもしれませんよ……?」

 そう言われれば……と、フレーレの言う事はすごく納得がいく。シロップがたまたま床を先に踏んでくれたから良かったものの……。

 「これだけで終わるかしら……? 嫌な予感がする、通路へ行きましょう」

 セイラがそう言った瞬間、それは起きた。

 ブォーン、ブォン、ブォン……。

 <遅かったようじゃ!>

 「何でありますかこの音は……!」

 耳障りな音がし、振り向いたチェイシャが叫ぶと、そこには部屋を埋め尽くさんばかりの魔物が出現していたのだ!

 「なるほど、下の階で油断させておいて睡眠ガスで一網打尽か。汚い真似をしてくれる」

 カルエラートさんが即座に剣を抜いて前へ。そして盾を構えてから魔物達を睨みつける。

 <こっちの通路はだめっぴょん、多分全部罠……Zzz>

 <リリー!? お主踏んだの!>
 
 見ればリリーが通路の真ん中付近で眠っていた。兎なのでジャンプ力は高い。なので、シロップの踏んだ罠を飛び越えて確かめたみたいね。

 ……最初に逃げようとして踏んだのではないと思いたい。

 「危ないことするわねー……仕方ない、向こうの通路を空けてもらいましょうか」

 『シロップの仇……!』

 「死んでませんからね!?」

 若干一名、主に最強クラスの力を持つお方がすごい怖い顔をして槍を握っていた。そんな怒りも気にせず、魔物達はこちらを見て威嚇してくる。

 グルルルル……

 シャアアア……

 二十……二十五……多いわね、眠っていたら危なかったかも……ブルリと体を震わせながらも、私は剣を抜いて前にです。

 「ウェンディ、準備はいいな?」

 「当たり前であります! 蹴散らしてやるのであります!」

 カルエラートさんとウェンディが大軍を前に怯みもせず、私達の間に割り込むように入ってくれた。

 「頼もしいわね! さて、確実に叩くわよ、みんな」

 私の合図で魔物との戦闘が開始された。
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