223 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その244 意図
しおりを挟む「とりあえず、脅威は感じないな」
ディクラインが巨大カブトムシのような魔物を真っ二つにしてながら呟くと、レイドがそれに反応した。
「そうですね。確かに迷路は整然としていないので面倒ですけど、魔物も外に居るのとそれほど変わらないですね」
レイドの言うとおり、男性陣は快進撃を続けており。男性パーティ一行は三十三階の中間あたりまで進んでいた。
曲がりくねっていたり、天井が急に低かったり狭かったりと天然の洞窟のような作りではあったが、魔物も人型がおらず昆虫や動物系ばかりなので苦労せず倒せていたのだった。
「そろそろ野営の準備をしましょう、丁度いい所に洞穴のようなくぼみがあります。あそこなら休めると思います」
やがて陽も落ちた頃(時間的に)カイムが野営場所を見つけて言葉を放つと、言葉にぞろぞろと中へ入って腰を落ち着けた。
「この調子ならルーナ達よりも先に三十五階に行けそうだな」
ヴァイゼが火をおこしてお茶を作りながら呟くと、レイドがカバンを漁りながら答える」
「ええ、それじゃそろそろ飯にしましょう。ほら、お前の分もあるぞ」
「わん♪」
レイドのカバンから、作っておいたお弁当が各自に配られると、暖かいお茶を飲みながらお弁当を食べ始めた。
『うん、カルエラートのご飯は冷めても美味しいね』
「でも弁当は今日だけだ、明日からは食材を使って自分たちで作るしかない。その前にどこかで合流できるといいんだけどな」
レイドの言葉にエクソリアの満足気な顔が影を差す。
『そう……そうなんだよね……ボクの懸念点はそこさ。ここから戻るのは簡単だけど、戻ってもルーナ達がいるとは限らないし、恐らく性格上進むことを選ぶだろうと思う。向こうもこっちの事をそう思っているはずさ』
「ですね、それが何か?」
『このダンジョン、恐らく無理をしてでも先へ行かせるための罠と見ていい。戻るにしても進むにしてもあちら側と意思疎通が出来ないから、向こうを信じて進むしかないだろう? 選択肢がないって訳なのさ』
エクソリアが言うには女性陣との信頼関係があればあるほど、心配して先に行って合流を果たそうとするだろうということ。で、男性陣はちょっとくらいの無茶は問題ないと思うところがあるのでそこを突かれない様にしろとのことである。
『ま、女神たるこのボクがいるから無茶をさせるつもりはないけどね!』
「大丈夫かねぇ……」
「いいじゃないか、わざわざ変体までして来てくれたんだ頼りにさせてもらおう」
「わふ……わふ……」
弁当は食べられないので茶だけをすすりながらシルバを撫で、ドヤ顔のエクソリアへヴァイゼはそう言い、エクソリアは気分よくご飯を平らげた。
しかし、エクソリアの予想外の所で彼らは苦戦する羽目になる……。
◆ ◇ ◆
「少し様相が変わったわね?」
私達が三十二階にあがった所でセイラがキョロキョロと辺りを見ながら呟いた。確かに、先程までより一部屋が広くなり、床も絨毯が敷かれている……だけどなによりも。
「魔物でありますな」
「ええ、でも襲いかかってきませんね」
<生意気にもわらわと同じ狐型か、あっちは狸のようじゃが……>
ママとフレーレ、チェイシャの言うとおり、二匹の魔物が口元を歪めてこちらを見ていた。だが、こちらが見えているはずなのに襲いかかってくる気配は無い。
「とりあえず警戒しながら進みましょう。こっちの通路からなら大丈夫でしょ」
ママが魔物が居る場所とは違う道を指差して言った。見れば部屋には三つ通路が伸びていた。その内二つの通路を魔物が塞いでいる形だった。
「しんがりは私でいいわ、後ろを見ながら歩くわね」
「じゃあわたしがその前にいきますね」
私とフレーレで後ろを警戒。カルエラートさんを戦闘にして歩いていくと……。
「動き出した……! みんな止まって!」
「やはり後ろから狙って来たわね」
私達は後ろを振り返り武器を構えて迎え撃つ体制に入る。
入る……。
「動きませんね……」
フレーレがじっと目をそらさず見ていたけど、ニヤニヤと笑ったまま動くことは無かった。
「後ろを向いたまま進んで襲いかかってきたら迎撃、それでいいと思う。カルエラートさんはそっちをお願いします」
「分かった」
すると、私達が少し進むたび魔物は歩を進めてくる。で、立ち止まると魔物も立ちどまる。
「もう、イライラするわね!」
「いっそこちらか打って出てはいかがですか?
セイラが叫ぶと、ウェンディが『むっふー』と鼻息を出しながら嬉しそうに剣を握っていた。しかし、丁度その時、カルエラートさんが止まれと声をかけてきた。
「どうしたのカルエラート?」
「前からも来た」
見れば、前方にはヤギっぽい魔物がじっとこちらを見ていた。通路は二人並んで歩ける程度の横幅だから、倒さずに抜けるのは難しい。そこでアルモニアさんが口を開いた。
『なるほどね、魔物はこっちが動けば向こうも動いて、攻撃してこないと進んで、狭い通路に入った所で挟み撃ちにする、ってとこかしらね』
「ということは、魔物を見かけたら倒した方がいいってことですか?」
『そうなるわね。恐らくここで気付くことまで予想済みで、魔物をみかけたら倒させて疲弊させるのが目的でしょうね。一つ下の階で襲ってこないファンシーな動物を見せてきたのもこのためでしょう』
「倒していいでありますか! 行っていいでありますか!」
「ウェンディはちょっと落ち着きなさいね」
私はウェンディを窘めながら振り返ってみる。
確かにジャイアントビーバー以外は襲ってこなかったわね……しかし、とりあえずやる事は一つだ。
「チェイシャ、魔法弾を前にいる狸へお願い。その後ウェンディは狸へ攻撃して! フレーレ、狐にマジックアローを撃てる? で、カルエラートさんとママはヤギを! セイラとアルモニアさんは、不利になってきそうな方へ行ってもらうから待機で」
<ですぴょん!>
<任せておけい!>
私は瞬時に判断して、各自にオーダーをするとチェイシャが早速魔法弾で攻撃をかけると、二匹の魔物は一斉に襲いかかってきた! 攻撃に対しては反撃をするようになっているのかしらね! 後、リリーは返事は良いからちゃんと下がっててね!?
ボウン!
ギャイォン!
<何と!>
「チェイシャ殿! こいつ!」
狸魔物にチェイシャの魔法弾がヒットするが、構わず突進し、ウェンディを避けてチェイシャに体当たりを仕掛けてきたのだ。
「この!」
ギャイン! グルルル……
ウェンディがチェイシャへ追撃に移ろうとした狸魔物を剣で逆に押し返すと、ニヤニヤ笑いを消してこちらを睨みながら唸っていた。その時横ではフレーレが魔法を使ったところだった。狸は任せて私はこっちを相手にしよう!
「≪マジックアロー≫!」
ドスドスドス!
キェェ!
「あまり効いていない!? でもこれで!」
狐の魔物がマジックアローの直撃を受けて足を止める狐。だが、ダメージはそれほどないようだ。狐は近接は諦めて尻尾を伸ばしてきたので、私はそれを切断すると、割とあっさり斬れた。
ギェェェェ!?
「こいつら……もしかしたら魔法より物理攻撃の方が効くんじゃない?」
「試してみましょうか!」
フレーレがモーニングスターを構えて突撃し、狐……をスルーして、私を睨んで油断していた狸の横っ面をぶん殴った!
ぐしゃ!
何故か分からないけどモーニングスターを握ったフレーレは容赦がない。補助魔法のかかったその一撃は狸魔物を壁に叩きつけ、頭がぐしゃっとなってずるりと崩れた。壁には血がべっとりとついていて軽いホラーだ。
「本当ですね! 次は……」
「フ、フレーレ殿、自分の出番が……」
私達がポカーンとしている中、ゆらりと狐魔物へ振り返ったフレーレ。
キェェ!?
狸魔物の惨状を見て、ビクッとした狐魔物は一目散に逃げ出した。まさかの逃走である……。
「あ! 逃げましたよ! 仲間を見捨てて逃げるなんて、アントンみたいな狐ですね!」
「うん、これは逃げると思うわ」
そしてビクンビクンと動いていた狸魔物を見て、フレーレが一言。
「まだ動いてますね。これが狸寝入りですかね?」
<いや、死んでおるからな……永眠しちゃったからな……>
「怖いでありますよ……」
あのモーニングスターはフォルサさんの呪いでもかかっているのかな……いざという時以外はセイラに使ってもらった方がいいのかもしれない。
そんな狐魔物が逃げ去った後、前方ではヤギ魔物の足をシロップが抑えて、ヤギの首をカルエラートさんがスパッと斬っていた所だった。
「きゅきゅーん!」
「はあ!」
「魔法が効きにくい相手みたいね。マジックアローはものともしなかったわ」
「それに早かった。狭い通路で四足歩行の魔物が素早く動けるとは驚いた」
やっぱりこのフロアは物理攻撃が有効みたいね。でも、フレーレとカルエラートさんも同じ頭を攻撃したのにこの差は一体……。
ママが私達に声をかけてきた。
「もう他には居ないみたいだし、先へ進みましょう。もうすぐ夜になるから安全な場所を探さないと……」
「あ、そうか。いつもだとカイムさんが見つけてくれるけど今は居ないから自分達でやらないといけないのか」
<うーむ、戦力は申し分ないが、こういったところで割をくうのう。仕方がないとはいえボスとやらの思うつぼではあるのか>
「魔物が強くないのが幸いだけどね、急ぎましょう」
私達は階段付近で小さな部屋を見つけてそこで食事と休憩を取る事になった。レイドさん達は大丈夫かなあ。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。