パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その244 意図

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 「とりあえず、脅威は感じないな」

 ディクラインが巨大カブトムシのような魔物を真っ二つにしてながら呟くと、レイドがそれに反応した。

 「そうですね。確かに迷路は整然としていないので面倒ですけど、魔物も外に居るのとそれほど変わらないですね」

 レイドの言うとおり、男性陣は快進撃を続けており。男性パーティ一行は三十三階の中間あたりまで進んでいた。
 曲がりくねっていたり、天井が急に低かったり狭かったりと天然の洞窟のような作りではあったが、魔物も人型がおらず昆虫や動物系ばかりなので苦労せず倒せていたのだった。

 「そろそろ野営の準備をしましょう、丁度いい所に洞穴のようなくぼみがあります。あそこなら休めると思います」

 やがて陽も落ちた頃(時間的に)カイムが野営場所を見つけて言葉を放つと、言葉にぞろぞろと中へ入って腰を落ち着けた。

 「この調子ならルーナ達よりも先に三十五階に行けそうだな」
 
 ヴァイゼが火をおこしてお茶を作りながら呟くと、レイドがカバンを漁りながら答える」

 「ええ、それじゃそろそろ飯にしましょう。ほら、お前の分もあるぞ」

 「わん♪」

 レイドのカバンから、作っておいたお弁当が各自に配られると、暖かいお茶を飲みながらお弁当を食べ始めた。

 『うん、カルエラートのご飯は冷めても美味しいね』

 「でも弁当は今日だけだ、明日からは食材を使って自分たちで作るしかない。その前にどこかで合流できるといいんだけどな」

 レイドの言葉にエクソリアの満足気な顔が影を差す。

 『そう……そうなんだよね……ボクの懸念点はそこさ。ここから戻るのは簡単だけど、戻ってもルーナ達がいるとは限らないし、恐らく性格上進むことを選ぶだろうと思う。向こうもこっちの事をそう思っているはずさ』


 「ですね、それが何か?」

 『このダンジョン、恐らく無理をしてでも先へ行かせるための罠と見ていい。戻るにしても進むにしてもあちら側と意思疎通が出来ないから、向こうを信じて進むしかないだろう? 選択肢がないって訳なのさ』

 エクソリアが言うには女性陣との信頼関係があればあるほど、心配して先に行って合流を果たそうとするだろうということ。で、男性陣はちょっとくらいの無茶は問題ないと思うところがあるのでそこを突かれない様にしろとのことである。

 『ま、女神たるこのボクがいるから無茶をさせるつもりはないけどね!』

 「大丈夫かねぇ……」

 「いいじゃないか、わざわざ変体までして来てくれたんだ頼りにさせてもらおう」

 「わふ……わふ……」

 弁当は食べられないので茶だけをすすりながらシルバを撫で、ドヤ顔のエクソリアへヴァイゼはそう言い、エクソリアは気分よくご飯を平らげた。

 しかし、エクソリアの予想外の所で彼らは苦戦する羽目になる……。


 ◆ ◇ ◆


 「少し様相が変わったわね?」

 私達が三十二階にあがった所でセイラがキョロキョロと辺りを見ながら呟いた。確かに、先程までより一部屋が広くなり、床も絨毯が敷かれている……だけどなによりも。


 「魔物でありますな」

 「ええ、でも襲いかかってきませんね」

 <生意気にもわらわと同じ狐型か、あっちは狸のようじゃが……>

 ママとフレーレ、チェイシャの言うとおり、二匹の魔物が口元を歪めてこちらを見ていた。だが、こちらが見えているはずなのに襲いかかってくる気配は無い。

 「とりあえず警戒しながら進みましょう。こっちの通路からなら大丈夫でしょ」

 ママが魔物が居る場所とは違う道を指差して言った。見れば部屋には三つ通路が伸びていた。その内二つの通路を魔物が塞いでいる形だった。

 「しんがりは私でいいわ、後ろを見ながら歩くわね」

 「じゃあわたしがその前にいきますね」

 私とフレーレで後ろを警戒。カルエラートさんを戦闘にして歩いていくと……。

 「動き出した……! みんな止まって!」

 「やはり後ろから狙って来たわね」

 私達は後ろを振り返り武器を構えて迎え撃つ体制に入る。

 入る……。


 「動きませんね……」

 フレーレがじっと目をそらさず見ていたけど、ニヤニヤと笑ったまま動くことは無かった。

 「後ろを向いたまま進んで襲いかかってきたら迎撃、それでいいと思う。カルエラートさんはそっちをお願いします」

 「分かった」

 すると、私達が少し進むたび魔物は歩を進めてくる。で、立ち止まると魔物も立ちどまる。

 「もう、イライラするわね!」

 「いっそこちらか打って出てはいかがですか?

 セイラが叫ぶと、ウェンディが『むっふー』と鼻息を出しながら嬉しそうに剣を握っていた。しかし、丁度その時、カルエラートさんが止まれと声をかけてきた。

 「どうしたのカルエラート?」

 「前からも来た」

 見れば、前方にはヤギっぽい魔物がじっとこちらを見ていた。通路は二人並んで歩ける程度の横幅だから、倒さずに抜けるのは難しい。そこでアルモニアさんが口を開いた。
 
 『なるほどね、魔物はこっちが動けば向こうも動いて、攻撃してこないと進んで、狭い通路に入った所で挟み撃ちにする、ってとこかしらね』

 「ということは、魔物を見かけたら倒した方がいいってことですか?」

 『そうなるわね。恐らくここで気付くことまで予想済みで、魔物をみかけたら倒させて疲弊させるのが目的でしょうね。一つ下の階で襲ってこないファンシーな動物を見せてきたのもこのためでしょう』

 「倒していいでありますか! 行っていいでありますか!」

 「ウェンディはちょっと落ち着きなさいね」

 私はウェンディを窘めながら振り返ってみる。

 確かにジャイアントビーバー以外は襲ってこなかったわね……しかし、とりあえずやる事は一つだ。

 「チェイシャ、魔法弾を前にいる狸へお願い。その後ウェンディは狸へ攻撃して! フレーレ、狐にマジックアローを撃てる? で、カルエラートさんとママはヤギを! セイラとアルモニアさんは、不利になってきそうな方へ行ってもらうから待機で」

 <ですぴょん!>

 <任せておけい!>

 私は瞬時に判断して、各自にオーダーをするとチェイシャが早速魔法弾で攻撃をかけると、二匹の魔物は一斉に襲いかかってきた! 攻撃に対しては反撃をするようになっているのかしらね! 後、リリーは返事は良いからちゃんと下がっててね!?

 ボウン!

 ギャイォン!

 <何と!>

 「チェイシャ殿! こいつ!」

 狸魔物にチェイシャの魔法弾がヒットするが、構わず突進し、ウェンディを避けてチェイシャに体当たりを仕掛けてきたのだ。

 「この!」

 ギャイン! グルルル……

 ウェンディがチェイシャへ追撃に移ろうとした狸魔物を剣で逆に押し返すと、ニヤニヤ笑いを消してこちらを睨みながら唸っていた。その時横ではフレーレが魔法を使ったところだった。狸は任せて私はこっちを相手にしよう!

 「≪マジックアロー≫!」

 ドスドスドス!

 キェェ!

 「あまり効いていない!? でもこれで!」

 狐の魔物がマジックアローの直撃を受けて足を止める狐。だが、ダメージはそれほどないようだ。狐は近接は諦めて尻尾を伸ばしてきたので、私はそれを切断すると、割とあっさり斬れた。

 ギェェェェ!?

 「こいつら……もしかしたら魔法より物理攻撃の方が効くんじゃない?」

 「試してみましょうか!」

 フレーレがモーニングスターを構えて突撃し、狐……をスルーして、私を睨んで油断していた狸の横っ面をぶん殴った!

 ぐしゃ!

 何故か分からないけどモーニングスターを握ったフレーレは容赦がない。補助魔法のかかったその一撃は狸魔物を壁に叩きつけ、頭がぐしゃっとなってずるりと崩れた。壁には血がべっとりとついていて軽いホラーだ。

 「本当ですね! 次は……」

 「フ、フレーレ殿、自分の出番が……」

 私達がポカーンとしている中、ゆらりと狐魔物へ振り返ったフレーレ。

 キェェ!?

 狸魔物の惨状を見て、ビクッとした狐魔物は一目散に逃げ出した。まさかの逃走である……。

 「あ! 逃げましたよ! 仲間を見捨てて逃げるなんて、アントンみたいな狐ですね!」

 「うん、これは逃げると思うわ」

 そしてビクンビクンと動いていた狸魔物を見て、フレーレが一言。

 「まだ動いてますね。これが狸寝入りですかね?」

 <いや、死んでおるからな……永眠しちゃったからな……>

 「怖いでありますよ……」

 あのモーニングスターはフォルサさんの呪いでもかかっているのかな……いざという時以外はセイラに使ってもらった方がいいのかもしれない。
 
 そんな狐魔物が逃げ去った後、前方ではヤギ魔物の足をシロップが抑えて、ヤギの首をカルエラートさんがスパッと斬っていた所だった。


 「きゅきゅーん!」

 「はあ!」

 「魔法が効きにくい相手みたいね。マジックアローはものともしなかったわ」

 「それに早かった。狭い通路で四足歩行の魔物が素早く動けるとは驚いた」

 やっぱりこのフロアは物理攻撃が有効みたいね。でも、フレーレとカルエラートさんも同じ頭を攻撃したのにこの差は一体……。
 
 ママが私達に声をかけてきた。

 「もう他には居ないみたいだし、先へ進みましょう。もうすぐ夜になるから安全な場所を探さないと……」

 「あ、そうか。いつもだとカイムさんが見つけてくれるけど今は居ないから自分達でやらないといけないのか」

 <うーむ、戦力は申し分ないが、こういったところで割をくうのう。仕方がないとはいえボスとやらの思うつぼではあるのか>

 「魔物が強くないのが幸いだけどね、急ぎましょう」

 私達は階段付近で小さな部屋を見つけてそこで食事と休憩を取る事になった。レイドさん達は大丈夫かなあ。 
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