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最終部:タワー・オブ・バベル
その242 専用
しおりを挟むアルトリウスさん達が消えてしまった後、私達は鎧を持ち帰って一度拠点に戻ることにした。殆ど模擬戦だったとは言え、全員が疲弊していたからね。どんな罠があるか分からないので、万全にしていこうと転移陣から戻った。
「いい人達だったのに、残念ね……」
私は黄金や緑、紫の鎧を小屋に置いて呟く。正直なところ、戦力として一緒に行ってくれたらかなり心強かったと思う。
『結局、塔のボスは神裂の手足でしかない。生殺与奪の権限が彼にある以上、仕方ないね。でも、完全に力を使えるようになればボク達はともかく、君達も消せるようになるかもしれないね』
エクソリアさんがそう言うと、ブルリと背中が震える気がした。
「一応あれでも神ですからね……こっちも戦力が増えて来たし、楽になるといいですけど」
結局の所、集まってもらった人達は魔物とは戦えてもボスと戦えるほどの人はそう多くないので、私達が負ければ世界は終わりなのだ。
その件でエリックが何か閃いた、みたいなことを言っていたけどどうするのかしら?
<ぴー。時間もあまり無いし、すぐに行くんでしょ?>
「そうですね。まだ半分も登れていないですし……今回は休めば全員が行けるからすぐですよ」
「何にせよ、明日からまた迷路を歩くことになるわ。ゆっくり休んでおきましょう」
そして、その日は何事も無く夜を過ごし、そのまま朝を迎える。慌ただしく騎士達が拠点を出たり訓練をしていたりと忙しい。少し見ない間に拠点の壁もかなり広くなっており、外で待機する人達も殆どいなくなっていた。
「それじゃ、今日から三十一階だ。持ち物は大丈夫か?」
「うん、食料も一週間分私とレイドさんのカバンに詰めてるわ。ハイポーションも十本ずつ、いざという時の為に持ってる!」
パパの言葉に私は答え、転移陣へと入っていく。三十階は私達が出て行ったままで、テーブルセットはそのまま残されていた。
「あいつらの為にも、行こう」
「そうですね……」
レイドさんとフレーレが呟き、私達は三十一階へいたる階段へと足を運ぶ。螺旋階段ではなく、シンプルな壁付けの階段をゆっくり上っていくと三十一階へはあっさりと到着した。
<ではレイド、扉を開けるのじゃ>
「何でお前が言うんだ!? まあいいけど……」
チェイシャの言葉でレイドさんが三十一階の重い扉を押して開く。いきなり魔物が現れてもおかしくないので身構えておく。
だけど、開いた先はただの小部屋だった。
「あれ、行き止まり……?」
セイラがレイドさんの横について奥まで行くと、すぐに壁にあたる。だけどすると、よく見れば左右の壁に扉があった。
「どっちかが正解、という事ですかね?」
「いえ、そうではないようですフレーレさん」
カイムさんが正面の壁を指差すと、金属のプレートに何か書かれているのを発見し、それをママが読み上げていた。
「なになに……左は男性専用の扉、右は女性専用の扉……だって」
「そう来たか、今度はパーティの分割を狙ってくるとはな」
パパが腕組みをして、片目をつぶりながらぼやく。こういった手が来るとは思わなかったけど、ボスの意向で組み立てられる迷宮ならあり得るといったところだ。頭がキレるボスと思って間違いない。
<でも誰かが見ているわけでもあるまい? 全員で同じ扉に入ったらどうじゃ?>
「それも一理あるな……女性専用に入ってみるか……」
「あ、パパ止めた方が……」
チェイシャに言われてガチャリと扉を開けるパパ。
すると……
ブー!
「ぎゃああああ!?」
「ディクライン!?」
何か音がした瞬間、パパの叫び声が部屋に響き、黒こげになったパパが見えない力ではじき出されてきた!
「ちょ、しっかりして! ≪リザレクション≫」
「これは……ちゃんとしないとダメみたいね」
「みたいだな……少し不安もあるが……先に進むためには仕方ないか」
レイドさんがパパを引き起こしながら言う。するとカルエラートさんが口をへの字に曲げて考えていた。
「しかしこうなると男性は少ないから困るな……」
確かに……男性だとパパ、お父さん、レイドさん、カイムさん、ニールセンさんにカームさんとシルバだけど、
女性は、私、フレーレ、ママ、セイラ、カルエラートさん、エクソリアさん、アルモニアさん、レジナ、シロップ、ラズベにチェイシャとリリーが居るのだ。
「エリックとクラウスを呼んできた方がいいでしょうか?」
「そうだな……」
レイドさんが提案をしたところで、エクソリアさんが口を開いた。
『ボクが行こう。回復魔法も使えるし、性別を変えるくらいなんとかなるからね。拠点の戦力をあまり削るのもよくない』
「いいのか? エクソリアなら助かるが……」
「流石は女神ですねー。性別も自由自在なんて」
エクソリアさんが何か呟くと、ボン! と姿が変化……した? 背が高くなった気はするけど、他は変わった様子が無い。
『これでよし、それじゃ行こうか』
『あはは! 妹ちゃん、胸が無いから性別変えてもあまり変わらないわね!』
その時、ピシッと何か亀裂が入る音が聞こえた気がした……!
『……どういう意味かな? 神裂の前に消えたいのかい、姉さんは……!』
ゴゴゴ……と、不穏な空気が流れる中、フレーレがのんきに声をかけた。
「いいですね! エクソリアさんカッコいいじゃないですか! 男性の方、宜しくお願いしますね!」
『え? ああ、うん……』
『そうね、カッコいいわよ!』
『(後で覚えておくんだね)』
『(受けて立つわ)』
ふん、とそっぽを向いて二人はそれぞれ扉へ入っていく。私達もそれを追いかけるため、移動を始めた。
「それじゃレイドさん、気を付けてね! パパとお父さんも」
「ああ、ありがとう。ルーナも気を付けてな」
「こっちは任せとけ、どこまで続くか分からないけどな。行ってくる」
「フレーレさん! くれぐれも無茶は……!」
「大丈夫ですよ! カイムさんも注意してくださいね!」
「あ、ありがたき……! ではっ!」
男性陣が入っていく中、シルバが扉の前でウロウロしていることに気付いた。
「ありゃ、どうしたの?」
「くぅーん……」
どうやら、レジナやシロップたちと離れるのが嫌みたい。しかしレジナが鼻で扉に押していく。
「きゅんきゅん!」「きゅふーん!」
「わん……」
しかしやはり乗り気ではないらしい。仕方ない……。
「シルバ、無事に拠点まで帰れたらあなたの好きな骨付き肉を食べさせてあげるから頑張ってきなさい! シロップ達はちゃんとレジナと私達が守ってあげるから、ね?」
すると、骨付き肉に反応したのかシルバの尻尾がピンと立ち、目を輝かせた。そこにレイドさんが戻ってきた。
「お、シルバまだこんなところに居たのか」
「わん! わんわん!」
「お、おお!? どうした、そんなに靴を引っ張るなよ……よっと……お前も大きくなったなあ」
レイドさんに抱っこされ、顔を舐めながらシルバも扉の向こうへ消えて行った。一応、一回入った後でも出る事は出来るみたいね……。
「ルーナ、行きましょう。シロップ達もおいで」
フレーレに促され、女性専用の扉をくぐる私達。いきなりパーティの分割とはまいったけど、泣き言は言っていられない。さて、今度はどんな罠を仕掛けてきたのかしら……。
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