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最終部:タワー・オブ・バベル
その241 継承
しおりを挟むガン! ガキン! ギィン!
パパとお父さんが言い合いの末、一対一の戦いを始めたのを余所に私達はアルトリウスさんの話を聞くため、テーブルに着席した。紫の騎士と緑の騎士はアルトリウスさんの横に並び立っていた。
「さて、あまり時間もないので手短に話そうか。大した話ではないが、この先の事だ」
「この先ということは、塔の上ってことですか?」
アルトリウスさんはコクリと頷き、話を続ける。
「戦力として考えた場合、この先のボスと呼ばれる者達は基本的に私達と同等の力を持っている者ばかりだ。逆を言えば私達に勝てる君達なら、撃破自体は問題ない、とも言える」
「確かに、十階も二十階も強かったですね。ヴァンパイアはセイラが危うくやられそうでしたし、二十階はアネモネさんが……」
思い出して顔を伏せるフレーレ。続けてレイドさんが質問をした。
「では、全力で行けばあなた達を倒せたということか。しかし、ヴァイゼさんと小芝居をした意味はあるのか? 結局二回目で倒せたが……」
「それについては私とヴァイゼ殿の見立てが低かった、というだけで問題は無い。実に強かったよ。だが訓練の意味はもう一つあってな、それは協力体制と隙を見せないということだ。戦力に申し分はないが、個々の力だけで乗り切れるほど弱くは無い。しかし雑魚は別だ、そこの牛君や三馬鹿程度のレベルで苦戦をするようでは到底神裂には勝てない」
チラリと見ると、がっくりしている牛君と憤慨しているござるたちが喚いていたが、とりあえずスルーした。
神裂側の彼らが言いたいことは、今後はしっかり役割を持って進むようにしろってことらしい。罠を外すためのカイムさんのように。この人も紫や緑の騎士、さらに他にも何人もの騎士と共に救済のための戦いを行っていたそうだ。その中でも裏切りや、諍いは発生する。そうならないよう目を光らせておけ、とも。
それと神裂は塔の中での動向を全て見ているので、迂闊に切り札は出さない方がいいという事、そしてフレーレが誘拐されたように神裂自身やボスが動かなくとも、部下を外に出すことは可能だということだ。
「これは君達も知っているだろうが、彼の能力『反転』はとても厄介なものだ。これを封じる策を講じるのも忘れるな」
実はアルトリウスさん、ここに召喚された際に神裂と戦ったそう。でも反転の能力で、攻撃を封じられ戦いにならなくなってしまったらしい。あれかぁ……確かにあれは厄介だけど、エクソリアさんあたりが何とかしてくれないものかしらね。
「最後に……ここから以降のボスは、私の世界から未来の者や、異形の化け物など多種多様だ。特に、私の世界と同じ者には気を付けてな。見慣れない武器を持っていた……ただ、お互い手の内は見ていないのでそれ以上は分からない。が、あまり性格のいいものではなさそうだった」
「敵なのにそこまで心配していただいて……ありがと……」
と私がいいかけた時、お父さんがテーブルに吹っ飛んできてガラガラガシャンとひっくり返した。
「ふふ、やるな。流石はディクライン……あ痛!?」
「『ふふ、やるな』じゃないでしょうが! あーあ、テーブルがめちゃくちゃじゃない! もう戦うの禁止!」
するとパパもこちらに寄ってきて不満げな声をあげる。
「えー、今いいとこだったのに……」
「聞こえなかった? 私は禁止って言ったのよ?」
「わ、分かったから落ち着け!? 弓を引き絞るな!?」
まったくもう……子供みたいなこと言うんだから……とりあえずテーブルを片づけて、座り直すとセイラが開口一番、アルトリウスさんにお礼を言う。
「ご忠告ありがとうございます! 色々教えてもらったから、きっと倒せますよ」
と、セイラが言ったその時だ。
『まあ、こうなったか。余計な事を言ってみたいだが、想定内だぞ?』
「……神裂か、俺達は確実に進んでいる。観念してもう出てきたらどうだ?」
『は! まだまだ駒はあるんだ、楽しませてくれよ? ぎゃははは! それに新しい駒も手に入ったしな、少しは強くなったみたいだが、それ以上のものを作ってやるよ……!』
「まさか……ホイット達を……!」
ニールセンさんが、立ち上がって声のする天井を見上げるが、神裂は笑いながらそれには答えなかった。
『お楽しみってやつだ! 知りたかったら登ってくることだ……ああ、そうだ。お前達は裏切った、ということで消えてもらうとするかー』
「チッ、やはりそうくるか」
紫の騎士が舌打ちをすると、アルトリウスさんが口を開いた。
「構わん。どうせ貴様が約束を守るとも思えんしな。戦って消えても良かったが、この世界の為に少しでも協力出来て良かった」
『減らず口を。じゃあな』
神裂はそのまま何も言わなくなると、次の瞬間、鎧の隙間から煙のようなものが立ち上り始めた。
「おっと、どうやら私達も消されるみたいですね』
「ど、どうしてでござるか? 拙者達はそのままなのに……」
すると緑の騎士が笑いながら言う。
「脅威だと思われていないんだろうな? ま、このまま消えたらどうなるか分からないし、その方がいいと思う。長生きするんだな」
「だな、中々楽しかった……だが消える前にやっておくことがある、か。おい、おっさん勇者!」
紫の騎士が、持っていた剣をパパに投げ渡す。
「っと!? 危ないな!? ……これは」
「俺の愛剣”ガラティーン”だ、どうせ消えるならあんたに持ってもらいたい。持っていたら俺と同じく、正午までなら能力があがるおまけつきだ」
「お前……」
「では、私はあなたにこれを」
緑の騎士はニールセンさんに自身の大剣を渡していた。
「話を聞く限り、あなたは王を倒しに行くとか。であればこの剣は最適かと」
「フフ、それは自分に対しての皮肉かな?」
「……そうですね、ここにいるのは偶然ですが、本来あなたには合わせる顔がありませんからね。そういうことで私も王に反旗を翻した者だったのですよ。この裏切りの魔剣”アロンダイト”役に立つといいですが」
ニールセンさんが受け取り、コクリと頷く。
「確かに。しばらくお借りします」
緑の騎士が頷き、最後にアルトリウスさんがレイドさんの前へ立つ。
「?」
「君にはこれだ」
そういって差し出したのはあの回復能力を持った鞘だった。
「これは……」
「本来はこの剣……EXキャリバーン……エクスカリバーとセットで使うんだが、あいにく反転して能力はかなり落ちている。だが君の剣から私の剣と同じ力を感じる……受け取ってくれるかな?」
レイドさんは迷いなく鞘を受け取った。
「お預かりします」
「神裂を倒して、この世界が君達にとっての理想郷になることを祈るよ。さらばだヴァイゼ殿」
「……ああ、助かった。なに、すぐ会えるさ」
それだけ言うと三人の騎士は煙のように消え、鎧だけがガラン、と床へ転がった。
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