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最終部:タワー・オブ・バベル

その240 決着

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 武器を構えた私達が対峙。そこで最初に仕掛けたのはパパ……ではなく私が弓で牽制を行った。
 
 完全に引き絞った一撃ではなく、何本もの矢を放ち足を止める作戦だ。

 「む、小刻みに撃ってきたか……!」

 カカカカカカ、と矢を剣で弾きながら、少しずつ前へと出てくる黄金の騎士。この攻撃ならそうくるよね、で、次の行動は……。

 「では私が娘さんを止めよう。 ……これは!」

 ドゴン!

 「くっ!」

 「魔法の矢は破裂するわよ! レイドさん!」

 「よしきた……!」

 お父さんたちのような手練れなら矢を弾くことくらいは想定内だ。そこで実体の矢に魔法の矢を混ぜて放つ事で迂闊に前へと進ませないようにする。下手に魔法の矢を弾くと爆発するようにもしているから初弾を受けた後ほど警戒は強くなる。足ぶみしたところで畳み掛ける!

 ガキンと、レイドさんと黄金の騎士の剣が交錯し、お互いの動きを止めたので私は弓を討つのをやめる。そこにパパが黄金の騎士へと斬りかかった。

 「お前、俺と戦うんじゃなかったのか?」

 「それはそれ、これはこれだ。倒す事を第一に考えるなら、ボサっとしてるお前を放置してこいつを倒す方が効率がいい」

 「勇者二人がかりとは光栄だな」

 「動くなっての!」

 パパの攻撃を避けようとしたが、レイドさんがそれを許さない。パパの一撃で脇腹に攻撃が当たり、鎧の一部が大きくへこむ。

 「固いな、相変わらず!」

 「ふふ、この前とは見違えるほどよく動く」

 ダメージは取れてる? フルフェイスの兜からでは表情が見えないのは厄介だ。


 「フッ……なるほど、吹っ切れたようだな。だが……そううまいこと……ぐあ!?」

 黄金の騎士を助けるため、お父さんが動き出そうとした瞬間、側頭部で爆発が起こった。

 「こっちは六人居ますからね、ヴァイゼさん!」

 「フレーレちゃんか! いつの間に横……に!?」

 「それそれ! ≪マジックアロー≫!」

 フレーレも接近戦を避け、マジックアローを連射してお父さんの動きを止める。私も便乗して、弓を討ち続けた。マジックアローと弓、その間を掻い潜ってカルエラートさんがお父さんの前へと躍り出た。

 「貴方はここで足止めをさせてもらう」

 「この距離では剣を振れないか、考えたな」

 お父さんが付かず離れずで盾を構えるカルエラートさんを振りきろうと動く。これでお父さんの動きは封じた。そして最後はウェンディが黄金の騎士へ攻撃をしかける!

 「この前のお返しでありますよ!」

 ガコン! と、ウェンディの大剣が黄金の騎士の背中へヒット! 流石に足がカクンと落ちた。しかし、そこは気合いでレイドさんを押し返した。

 「うわ!」

 「やるじゃないか……! わずか一日で、パーティのあり方を見直してくるとは。流石はヴァイゼの娘といったところか」

 「……」

 恐らくだけど今の口ぶりからすると、私が司令塔であることに気づきつつあるかな。なら、ここで攻撃の手を緩めるのは得策じゃない。

 「レイドさん、足元を! パパは頭部を集中的に! ウェンディは隙ができたら重いのをお願いね」

 私の合図で一斉に黄金の騎士へと前進した。そう、訓練の成果の一つは私がみんなのバックアップをすること。元々補助魔法でのサポートが主だったので、剣ではなく弓で後ろから観察することに徹底したのだ。
 流石に一日だけしかやっていないので付け焼刃ではあるけど、冷静に状況を見る事はできていた。ウェンディとは特訓をしていないが、攻撃の要はパパとレイドさんなのでいいところで攻撃してもらうだけでも十分だ。

 「はあ!」

 「たまには俺も技を出しておくか、神速斬!」

 パパパパパン! ガキン!

 「くぅ!?」

 カラン……

 「それ、であります!」

 レイドさんとパパの猛攻で、黄金の騎士も剣を取り落とす。それをウェンディが蹴って遠くへ転がしていた。素手状態になる黄金の騎士が一歩後ろに下がった。

 「見事。私をこうまで追う事ができるとは、流石にこの世界の最強戦力だけの事はある」

 「ま、世界を救うってんだからこんなところで負けている場合じゃないって事だ」

 パパが喋りながらも油断せず剣を向け、睨みつける。レイドさんもジリジリと回り込むように少しずつ移動をしている。すると、黄金の騎士がスッと構えをやめ、腰の鞘に手を添えた。

 「む、回復するつもりでありますか!」
 
 「フフ、今日は違う。君達の成長に敬意を表して……本気で行かせてもらおうと思ってね」

 左手で鞘を。そして右手を鞘の口へと持っていくと、何も無かったはずの場所に剣の柄が現れた。シャキン、と剣を抜くと黒紫色の刀身をした剣が握られていた。美しすぎる剣に、私の背中がブルリと震える。

 「何だあの剣……」

 レイドさんの頬を汗が伝うのをみて、かなりやばい代物だと言う事が分かる。

 「本当はこんな色じゃないんだけど、反転させられているから勘弁して欲しい。では、今度はこちらから行くよ!」

 「ぐ、早い……!」

 私は目で追うのがやっとだった! 狙われたパパがかろうじて剣を弾くと、その勢いのままウェンディへと向かう。察したウェンディは迎撃のため前へ出て当たりをずらそうとした。

 「いい判断だ、ならば」

 「ショルダータックル!? うあ!」

 メキっと嫌な音を立ててウェンディが吹き飛ぶ。何とか踏ん張るが、距離はかなり離れてしまった。そこにレイドさんの攻撃と私の弓が飛んでいく。

 「少し遅い」

 「チッ! 弓をものともせずか」

 肩に刺さりはしたものの、黄金の騎士は構わずレイドさんへ横薙ぎで斬撃を仕掛けてきた。鈍い音が響き、二人の胸当てに傷が入り、レイドさんは反動でこけ、尻餅をついた。それに合わせてパパと復帰したウェンディが畳み掛けて行く。
 
 「これで終わりにするぞ!」

 「わかったであります」

 「うん、いい気合いだ。では、私も最後の一撃を」

 二人の攻撃をバックステップで回避し距離をとる。そして両手で剣を持ったかと思うと、身を捻って溜めを作る。鈍く剣が光りだし空気が震えた。

 「いけない! 三人とも固まってたらまずいわ!」

 「もう遅い。すでに技は出来上がった! シャドウカリバーよ、目の前の敵を倒せ! カレッジブロウ!」

 剣を振り降ろした瞬間、黒い衝撃波が剣から飛び出した……! 殺さないって言ってたけどこれは危険だ!

 「間に合わせる……! シューティングスター!」

 黄金の騎士が溜めている間、私も限界まで弓を引き絞り、最大級の魔力で矢を作っていた。それをほぼ同時に解放したのだ!

 「む!」

 互いの技がぶつかり、爆発を起こす。しかし威力負けをしていたようで、完全には相殺しきれず、衝撃波は尚も飛んできていた。

 「え!? レイドさん!」

 そして驚いたのは私。何と、レイドさんが衝撃波に向かって走り出したから!

 「ルーナの攻撃で弱まっている、ここを返せば……!」

 「……」

 黄金の騎士は動かず、レイドさんの動きをじっと見ていた。そして……!

 「セイクリッドセイバー、俺に力を! ディスタント・ゼロ……!」

 ――瞬間、レイドさんの剣が光り輝き、それを縦に振ると衝撃波が真っ二つに分かれ、消滅した。

 「何と!?」

 「もらったあ!」

 珍しく動揺を見せた黄金の騎士に、一気に踏み込んでレイドさんが斬撃を繰り出す!

 ガキィィン……!

 カラン……カラン……。

 そしてはじけ飛ぶ黄金の騎士、アルトリウスの兜。床に落ち、その素顔が露わになった。

 「……ここまでやるとは思わなかったな。先程の攻撃でもう一度追い返す予定だったんだけど」

 「こんなところで足踏みしている場合じゃない、あなたの思惑は分からんが、続けるか?」

 「いや、力は見せてもらった。私の、負けだ」

 金髪のイケメンが目を伏せてフッと笑い、剣を納めた。

 「いよっし! 流石レイドさん!」

 「いやあ、ルーナの攻撃で弱まっていなかったら危なかったよ。それより、フレーレちゃん達の援護を!」

 レイドさんが言い、私達がそっちをみるとお父さんがカルエラートさんとの戦いを止めたところだった。フレーレのモーニングスターがもう少しでお父さんの後頭部に当たるところだった。


 「? ヴァイゼ殿、どうした?」

 「どうやら決着はついたようだ。俺もここまでにしておこう」

 お父さんが剣を納めると、フレーレがこちらに気付き駆けてくる。

 「ルーナ! 勝ったんですね!」

 「みたいね、かなり魔力を使ったけど……ふう」

 するとお父さんが近づいて来てうんうんと頷きながら言う。

 「流石は勇者二人といったところだな、こうでなくてはいかん」

 「何を偉そうに! ちょっとサシでやるぞ!」

 パパがお父さんに食って掛かっていると、アルトリウスが出口を指差して呟いた。

 「とりあえず、少し休憩といこうじゃないか。……どうやら、下も終わったようだし」

 後ろを振り向くと、ボロボロになったママやエリック達が扉の前で立っていた。そしてアルトリウスがどこから取り出したのか、テーブルとティーセットを人数分出してきた。

 「さて、行き渡ったかな? 下から上がってきた者には申し訳ないが、私とヴァイゼ殿の意図をお話しようか」

 アルトリウスが語り出したその内容とは……?
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