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最終部:タワー・オブ・バベル
その238 爪痕
しおりを挟む「こんなところか、明日からまた塔へ向かうし体力は残しておかないとな。解散だ!」
<ありがとうございましたにゃ……つい本気を出してしまったにゃ>
「バス……恐ろしい子……」
<ちょっとフレーレ達のところへ行ってくるのじゃ>
「元気ねえ……それじゃ私は広場へ戻るわね」
「分かった。俺はもう少しディクラインさんと話をしたいから後で行くよ」
「うん、晩御飯の用意しておくわね」
そんなこんなで一日の半分以上を訓練に使い、へっとへとになりながらいつも晩御飯を囲んでいる焚き火付近へと戻る私。
訓練はかなり充実していた。私やフレーレのように少し前までは初心者でした! みたいなのを除けば、パパもレイドさんも勇者として完成された能力があり、ママやチェーリカ、セイラなんかもお父さんを倒すためにレベルを上げているのでパーティ全体のバランスとしてはかなり高い。
ただ、高レベルの人間になるほど『自分で何とかしよう』とする事が多いので、周りが援護をできるようしっかり見ていなければならない。パーティを組んでいる時は前衛と援護・回復と役割があるけど、今は前衛が多いので、力押しになりやすいという分析となった。
「私は援護に徹するのがいいわねー、状況にもよるけど」
「ガウ♪」
「わんわん♪」「きゅんきゅーん♪」「きゅふん♪」
そろそろご飯ということもあり、あれだけ動いたのに狼達の足取りは軽い。
「ありゃ、まだ誰も居ない」
いつもなら一人二人は大体ここにいるんだけど、フレーレ達もカルエラートさんも戻っていなかった。仕方ないので焚き火の周りに設置してある、木で適当に作った椅子に座って休憩をしていると、ブラウンさんが駆け足で向かってくるのが見えた。
「ブラウンさん」
「ああ、ルーナちゃん。一人かい? いいものが出来たから呼びに来たんだけど……」
「いいもの?」
ブラウンさんが浮足立って話ていると、暗がりの向こうから足を引きずりつつ戻ってくる集団が見えた。焚き火に近づいて来てその姿を映しだした。
「フ、フレーレ! それにセイラにママ、チェーリカも……だ、大丈夫?」
「だ、大丈夫……です……」
「はあ……はあ……ま、魔王戦より、きつかったですよ……チェーリカは死ぬかと思いました……」
<行った時にはもうボロボロじゃった>
チェーリカが地面に倒れ、フレーレが肩で息をしながら、動かないママを支えていた。ケロっとしているのはセイラだけである。
「ま、まあ、ちょーっとやりすぎちゃったかしら……だ、大丈夫……たぶん……」
最後の方は声が小さかったけど、とりあえず大丈夫らしい。するとブラウンさんが丁度良かったと、歓喜の声をあげた。
「皆さんお疲れですか! それなら今からお見せする物はかなり役に立つと思いますよ!」
「??」
ブラウンさんに連れられて歩いていくと、いつのまにやら拠点が拡張されていた。塔のある北側が少しだけ増えていた。そしてそこには横に広い、小屋が建っていた。しかし、高めに設置している窓からはもくもくと煙が出ている。
「これってもしかして……お風呂、ですか?」
「おお! やはり女性にはわかるのかな? 女性もそれなりに多いから水浴びだけってのもちょっと可哀相だなってエリックさんが言ってね。それで作る事にしたんだよ。まあ温泉とは行かないけど、火と水の魔法さえあればゆっくりできるでしょ」
「おおー……エリックらしいと言えばエリックらしい……」
<風呂か、これはいいのう。わらわも入るぞ! 水浴びは飽きていた所じゃ!>
私が謎の感心していると、チェイシャが歓喜の声を上げた。
そしてフレーレに代わって肩を貸していたママがピクリと動く。ギギギ……と、固い動きをしながらお風呂を指差した。
「い、行くわよルーナ……わ、私を桃源郷へ……」
「わ、分かったわ。ブラウンさん、入ってもいい?」
「どうぞどうぞ! まずは拠点を作ったルーナちゃん達に入って欲しかったからね」
ごゆっくりーと、ブラウンさんがその場から離れ私達はお風呂へと向かう。中はシンプルで、村にあった温泉施設に似ていた。
「やっぱりみんなが入るお風呂ってこういう作りなんですね」
ローブを脱ぎながらフレーレが私に言う。声は久しぶりに嬉しそうだ。備え付けてくれていたタオルをもって浴槽に浸かる。
「……ふう……体に染み渡るわね……」
「ママ、おばさんくさいわよ……」
「……いいのよ、あなた達に囲まれていたら嫌でも痛感するし……」
何故か諦めきった声色でぶくぶくと沈んでいった。かなりきつかったのだろう、セイラもチェーリカもフレーレも黙って浸かっていた。
「ま、たまにはいいか……」
「わふん……」
チラリと横を見ると、レジナ達用の浴槽で四匹が首だけ出してのんびりしていた。かわいい。
あ、晩御飯の用意……忘れてた……でも、もう少し……。
私達はしばらくお風呂を楽しんでいたのだった。
◆ ◇ ◆
ルーナ達がお風呂へ入ってから少し経った頃……。
「~♪」
梯子を持った人影がお風呂小屋へと接近していた。
「そこに~お風呂があるから~♪ お、俺は本能のままに生きるんだな~♪」
タークである。
ブラウンがルーナ達を連れて歩くのを見ており、高い窓から覗くため梯子を取りに行っていたという訳だ。そっと音を立てずに梯子をかける。
「ふひひ……こ、こんなところでお風呂を覗けるとは思わなかったんだな……チェーリカも悪くないけど、あのフレーレって人の胸はローブに隠れていたけどきっと凄いと告げているんだな……どれどれ……」
と、窓を覗きこもうとしたところで、足元から声がした。
「カイム」
「ええ」
「え?」
タークが声の近い方……上を向くと、そこには鬼の形相をしたカイムが屋根の上からタークを見ていた。そして下を見るとレイドが腕を組んで見上げているのが見えた。
「ば、馬鹿な!? 完璧に気配を消したはずなんだな!?」
「ああ、カイムが居なければ気付かなかっただろう……な!」
カコン、とレイドの足払いで梯子が崩れる。
「うわ!? モガ!?」
叫ぼうとしたタークの口を落ちながらカイムが塞ぎ、そのまま着地。だが同時に背中に膝を入れていた。
「げほ!? ぼ、暴力反対なんだな!? お、お前等だって興味が無い訳がないんだな!」
「それは想像に任せよう。連れて行くぞ」
「はい」
「い、嫌なんだなー! モガモガ!」
(今、何か聞こえなかった!?)
(そうですか? 覗きする人なんていないと思いますけど……)
(いえ、ターク……あの屋台商店の息子が居ます……見てくるですよ)
(いいわよ、それであなたに何かあっても嫌だし。覗きで死にゃしないんだから。窓も高いし、カイムくらいでしょ見れるとしたら)
(ママ、疲れてるのね……)
そんな会話を聞きながら、レイドとカイムはずるずるとタークを左右で抱えて引きずって行くのだった。
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