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最終部:タワー・オブ・バベル
その230 敗北
しおりを挟む<バベルの塔:三十階>
お父さんと黄金の騎士が襲いかかってきてからどれくらい経過したのか、十分か一時間か……それすらも分からないほど一進一退……いえ、苦戦を強いられていた。
「でやぁ!!」
「甘いな、力に頼りすぎているぞ。もう一人の勇者とやらはバランスよく戦っていたようだが。魔王の娘は無理に近接をする意味があるのかな?」
「くっ……」
「ガゥゥゥ……!」
黄金の騎士はレイドさんと私、レジナが。お父さんは残りのメンバーが相手をする形になった。というより、無理矢理分断されたような動きをされている。
「私は分かっていたつもりだが……強い……!」
「片手で自分の剣を耐えられるなんて初めてでありますよ……しかも素手で……」
<腐るな。相手は元とはいえ魔王だぞ? フレーレ、回復を。カルエラートは前衛を維持でなるべく引きつけてくれ>
「カームさん冷静ですね ≪ヒール≫!」
フレーレの回復で傷を癒して再び対峙するカルエラートさん達。しかし、すでに体力は限界を迎えていた。休憩、とばかりにお父さんが四人に話かける。
「ルーナにも教えてあるが、俺は魔力操作の技術がある。攻撃を受ける側に集中すれば可能だ。カルエラートは皆を守ることに注力し過ぎだ、ウェンディは周りを見て動いていないから孤立する。まあ、即席で組んでいることを考えれば、俺を相手にここまで耐えられるのは上出来か」
「……」
カルエラートさんとウェンディの二人が悔しそうに顔を歪める。そうは言うけど、お父さんは真の姿で戦っていないのに苦戦を強いられているのは技量の差に他ならないからだ。
「ヴァイゼさんはどうしてそちら側に……」
「それは俺に勝ったら教えてやる。ルーナの友達といえど容赦はせん……とはいえ、そろそろ終わりにしようか。時間が惜しい」
チラリと黄金の騎士へ目を向けると、黄金の騎士はコクリと頷いた。その瞬間、私の背筋をゾクリとした何かが駆け抜ける。
「まさか……!」
「気づいたか、流石は俺の娘。全力で防御しろよ?」
<この魔力はマズイぞ!? ソニックウェーブ!>
ズズズ……と、元の骸骨の姿に戻るお父さんが剣を掲え上げる。カームさんのソニックウェイブがヒットしているがものともしない。
それを見たカルエラートさんが慌てて攻撃を仕掛けながらウェンディへ叫ぶ。
「ぼやっとするな! 死ぬぞ!」
「ハッ!? わ、わかったであります!」
「残念だったな、一歩遅い! アーリーイロウション!」
剣に黒いモヤのようなものが纏ったその時、お父さんの剣が振り降ろされる。衝撃波となったモヤが四人を包み込む。
「うわ!? 闇がまとわりついて……!」
「力が抜けていくであります!? ああああ!?」
<ぬぐ……飛びたてん!? フレーレだけでも!>
「きゃああ!?」
カームさんがかろうじてフレーレを咥えて闇の外へと放り投げ、フレーレはお尻から着地する。瞬間、カルエラートさんが闇に完全に飲まれ……。
ザシュ! バシュ! ズバッ!
「……!?」
闇に飲まれ声も聞こえなくなったが、何かを斬り裂く音が絶え間なく続く。これ、本当にまずいんじゃ!?
「みんな!」
「おっと、こっちは行き止まりだ」
「どいて!」
キィン!
「俺が止める! 早く!」
「残念だけど、君達も一旦ご退場願おう。次に来るときは、交代要員も連れて来ることだ」
「え!?」
「何だと……!」
私とレイドさんで黄金の騎士を攻撃をし、倒せないまでも鎧に傷をつけていた……はずだったのに、黄金の騎士が腰にある鞘を一撫でした途端、見る見るうちに修復していったのだ!
「シャインエクスプロード」
驚愕している私達を余所に、技を発動する黄金の騎士。光の奔流が私達を飲みこんだと思った時にはすでに意識を失っていた。
◆ ◇ ◆
「ルーナ!?」
ルーナとレイドの方へ目を向けたその時、黄金の騎士が剣から放った一撃がルーナ達を吹き飛ばしているのを見てフレーレが叫んだ。同時にカルエラート達を覆っていた闇が消え去った。
「あ、ああ……」
そこにはカルエラート、ウェンディ、カームのボロ雑巾のようになった姿があった。装備品には傷が無いのに、血が噴き出ているという不可思議な有様でもある。
「すぐに回復をしてくれ」
「い、言われなくてもします! ≪リザレクション≫」
ヴァイゼを睨みながらフレーレが回復をし、全員の傷が回復する。しかし流れた血までは回復しないし、疲労もそのままなので目を覚ます様子は無かった。
「それじゃ二人とも悪いんだけど階下まで運んでやってくれ。女神様と、そこの僧侶ちゃんだけじゃ運べないだろうし。二十階までしか運べないからそこまで降りたら誰かに迎えに来てもらうといい」
淡々と緑と紫の騎士へ指示を出し、ヴァイゼと共にまたテーブルへ着席してお茶を飲み始める黄金の騎士。
「ヴァイゼさん! どうしてこんなことを! ルーナは実の娘じゃないですか!」
「……連れて行ってくれ」
「ヴァイゼさん!?」
ずるずると引きずられながらフレーレが追い出され、騎士二人と忍び、アステリオスがそれぞれ担ぎ上げ、下へ降りて行った。
「一緒に戻らなくていいのか?」
「俺があいつらの所へ戻る時は、あいつらが俺達を倒してからだな」
「……難儀な事だ。私も王だったから、貴方の考えも分からないでもないが」
「それより、神裂は大丈夫なのか?」
「あの男は、この塔に居る限りは私達にある程度の自由を与えているから、そうそう口出しはすまい。むしろ強くなった方が楽しめると考えるだろう。ただ、私達が彼女たちの強化をしている時間が長くなれば興味を失くして私を強制的に襲いかからせるくらいはしそうだ。だからあまり時間はかけられん」
黄金の騎士がお茶を飲みながらヴァイゼへと神裂に関しての予想を言う。するとヴァイゼがカップに目を落としながら呟いた。
「俺もあまり時間が無い。できれば神裂の所まで、この仮初の命が持つかどうか……時間が無いのに強化訓練を行わないといけないのは少し焦燥感があるな」
「私も協力してあげたいけど、ここを素通りさせるくらいしかできないのが残念だよ」
「いや、それだけでも十分だ」
「残りは私を覗いて六人。強さは私とそれほど変わらないけど、嫌らしい感じの者が結構多そうだった。手合せをしているわけではないけど、雰囲気で分かる。特に賢者のような爺さんがいるのだけど、かつて私に仕えていたマーリンという預言者に雰囲気が似ていてね。あれは危険な感じがする」
「賢者、か。フォルサが生きていたら良かったのだが。セイラでは経験が少ない……どちらにせよ、今度は残りのメンバーを連れて来てもらわなければならんか。回復まで三日というところかな」
「さて、心が折れていなければいいのだけど」
黄金の騎士はそれだけ言うと、器用にお茶を飲み始めた。
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