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最終部:タワー・オブ・バベル
その229 嵐前
しおりを挟む<バベルの塔:三十階>
「ここが王の部屋だ。六人までしか入れないのは他の階と変わらないんだが……誰が入る?」
「消耗しないのは助かるな……俺は入る」
苦も無く三十階まで到着。階段を登りきると、紫の騎士が扉を背にして聞いてくる。レイドさんがまず立候補したので、続けて私が手を上げる事にする。
「私はお父さんに話を聞かないといけないから行かせてもらうわね」
「回復は必要ですからわたしも行きますよ!」
「わぉん!」
フレーレが手をあげて三人となり、レジナも尻尾を振って吠えた。残るはカルエラートさん、アルモニアさんにウェンディ、カームさん、リリーだけど、リリーは現状戦闘をする訳ではないのでカルエラートさん、アルモニアさんにウェンディ、カームさんから選ぶことになるんだけど……。
『私は今回も外させてもらうわ。任せたわよ』
「分かりました! ちゃんと勝ってきますから!」
私が返事をすると、緑の騎士がアルモニアさんとリリーの前に立って案内を始めていた。
「それでは女神殿と兎殿はこちらへ……」
<どこ行くぴょん?>
緑の騎士が正面の扉から右へ歩いていき、リリーがそれを追いかけて行く。すると、少し先にもう一つ扉があった。
<……観客席……?>
「ええ、この中は戦闘フィールド全体を見渡す事が出来る部屋になっていまして、声をかけることもできます。ただ、支援等は一切できない……そういう部屋なのです」
<面白そうだっぴょん!>
『(わざわざこんなものを用意するなんてね。本当なら、他にも観覧する人間が多いと良かったんだろうけど、そこはアテが外れたってところかしら?)』
ガチャリ、とアルモニアさんとリリーが部屋に通され、緑の騎士が外から扉を閉じた。それを見届けてから紫の騎士が正面の扉に手をかけて振り向かずに言う。
「それじゃ、君達はこっちだ。……王、お連れしました」
「どうぞ。早かったじゃないか」
中から爽やかな青年の声がした後、紫の騎士が先に入る。私達が続き、一番最後に緑の騎士が入ると、扉にいつもの魔法障壁が張られた。
そして爽やかな声が正面から聞こえてくる。
「どうやらウチの騎士は負けたみたいだね? これは魔王殿の勝ちのようだ。まあ、こちらに来てくれよ」
「ウチの娘だからな」
部屋を見渡すと、中は貴族の応接室のようで、白いテーブルに白いイスが設置されており、テーブルにはお父さんが満足気に何かを飲みながら頷いていて、その隣には……やはりフルフェイスの黄金の鎧を着た騎士が座っていた。
それはいい、問題は……。
「……あの騎士の人……どうやって飲んでいるのかしら……」
「ええ……。確かに兜には隙間がありますけど、口まではそれなりに離れているはずです……」
黄金の騎士はティーカップを口に運ぶ動作をしているんだけど、どう見ても中身が口に運ばれているとは思えない。しかし液体をこぼすことなく隙間に吸い込まれるように消えていく……。
そんな私達の思いをよそに、黄金の騎士はティーカップを置いて胸に手を当てて口を開いた。
「ようこそ三十階へ。私は……そうだな、アルトリウスという。この三十階を守る者だ」
「俺はヴァイゼ、魔王だ」
「知ってるわよ!? なんで対抗したの!?」
何故か得意気に笑いながらこっちに来るお父さん。それに合わせて、黄金の騎士が苦笑しながら一緒に近づいてきた。
「まあまあ。ともあれあの二人を一回で退けるとは思わなかったよ。正午を過ぎる前に勝負がつくと思ったんだけど」
「これでもそれなりな戦いを潜り抜けて来たからな。一人だと厳しいかもしれないが、仲間がいるから何とかなった。それで、あんたの目的はなんだ?」
レイドさんが腕組みをしながら黄金の騎士へ声をかける。先程の二人もそうだけど、この人からも殺気は感じられない。二十階のキルヤとはまったく正反対と言えるくらいだ。
「知っているかは分からないけど、この塔の最上階にいるカンザキは塔を守る戦力として、色々な世界の魂を集めて召喚している。それこそ、危険な魔物から過去の英雄のような者まで色々ね。ただ、呼びつけられた私達としては気分よく寝ていた所を叩き起こされたようなもので、正直従う義理も無いんだ。だけど、私のようなボス、と呼ばれる者は嫌でも従うようにされていて、戦わざるを得ないんだ」
「戦う事に不本意な者、それが貴方達ということか」
黄金の騎士の言葉にカルエラートさんが呟く。騎士達は頷き、言葉を続ける。
「私達がこの世界から消えるには、この世界の者に倒されるしかない。大人しくここで塔に挑む人間を倒す? だが、それでは私達の気が済まない……そこでこの塔を登ってくるものを鍛え、対カンザキに脅威となるよう仕向けたいと思ったというわけだ」
「まあ、いわゆる嫌がらせというヤツだな。はっはっは!」
紫の騎士が笑うと、緑の騎士が補足を説明してくれる。
「一応カンザキを打ち倒してみようと試みたが、私達が攻撃できないように何らかの力が働いていてできなかった。だからその役目、君達に託したい」
『そういうカラクリなのね。あ、紅茶がいいわ』
「わかったでござる……」
アルモニアさんの声が聞こえ、声のする方をみるとガラス張りののような壁の向こうにリリーと一緒に座っていた。
「あ! ござるに牛君、後……何だっけ、ござるの仲間!」
「姐さん、どうもです」
「名前覚えられてない!?」
ござるがアルモニアさんにお茶を運んでいるのを見ていると、お父さんが喋り出す。そう言えば話を聞くんだったわね。
「あいつらは俺が連れてきた。少しの間カイムの代わりに使ってやろうと思ってな」
「うん、それはいいんだけどお父さんはどうして先行を? 一緒に行けばよかったと思うんだけど……」
「最初は偵察のつもりだったんだけどな。まさか直通だとは思わなくて、そのままこの三十階まで来たんだ。だが……」
お父さんが話そうとしているのを手で制し、黄金の騎士が指をパチンと鳴らすと、観客席と逆の壁がゴゴゴ……と、奥へスライドしていく。向こう側は闘技場のような場所になっていた。
「その話は後にしよう。まずはボスとしての役目を果たさせてもらう」
「望むところであります! 今度は騎士三人が相手でありますか?」
「いや、私達は手を出さない」
「なら一人で……?」
緑と紫の騎士は手を出さないといい、フレーレが疑問を口にするが、ここまで喋らなかったカームさんが口を開いた。
<……どういうつもりか分からんし、カラクリも分からんが……レイド、おかしいと思わんか?>
「? どういうことだ?」
<このボス部屋には、六人までしか入れない。そうだな?>
「そうね……ハッ!?」
<気付いたか? ヴァイゼ殿を含めると、我々は七人入っていることになる>
カームさんが私の声に返答すると、お父さんがニヤリと笑い剣を抜く。
「気づいたか。この男との戦いが始まったら後ろから挟むつもりだったんだが」
「そう言う意味でも、賭けは魔王殿の勝ちということかな? カリブルヌス、出番だ」
「お父さん、どうして!?」
「知りたければ勝つことだ、行くぞ!」
「まさかここでヴァイゼさんと戦う事になるとは……!」
レイドさんやカルエラートさんが戦闘態勢に入ると、お父さんと共に黄金の騎士が襲いかかってきた……!
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