パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その227 商売

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 <拠点:入り口>

 ディクラインが騒ぎを聞きつけて入り口へと向かっていると、ビューリックの女性騎士と男性騎士が何者かを取り囲んでぎゃーぎゃーと言い争っている。そこにソキウスとチェーリカ、そしてチェイシャも現れる。

 「あ、ディクラインさん! なんですかね、この騒ぎ」

 「分からん。が、どうも嫌な予感がする……」

 「俺も……」

 <とりあえず急ぐぞ、一応わらわ達が拠点の代表みたいになっておる。ゴタゴタを片づけねば>

 チェイシャが駆け出し、チェーリカは「?」と首を傾げてトコトコと二人に着いて行く。先程から聞こえてくる叫び声はどこかで聞いたことがあるとディクラインとソキウスは思っていた。

 「すまない、何か困ったことでも起きたか?」

 「あ、勇者殿。今みんなで取り囲んでいる男なのですが、魔物に襲われている所を助けて連れて来た途端、足がもつれたと言って女性騎士に抱きついたり、転んだ拍子にプリーストの法衣を中から覗いたりと破廉恥な事ばかりするので……」

 「は、離すんだな!? こんなことをしている暇は無いんだな!」

 揉め事は勘弁してほしいが、丸腰で魔物に襲われていたというので、危なかったのは間違いない。しかし聞けば聞くほどどこかで聞いたことがある声だと顔を顰めるディクライン。
 程なく、ちょっとどいてくれとばかりに騎士達を押しのけて騎士達に縛られた男を確認すると……。


 「……誰だ?」

 「お、思っていたやつと違う……」

 「?」

 そこには細身で、いかにも平民というような格好をした男が縛られて転がっていた。顔立ちはまあまあ整っているが、縛られてなお近くにいるプリーストの下着をみようともがくソレはまるで醜い芋虫だった。すると男はディクライン達を見て歓喜の声を上げ、ジタバタしだす。

 「お……おおお! チェーリカにソキウスなんだな! ひ、久しぶりなんだな! そっちは……えっとディ……ディ……ディケイドさんなんだな!」

 「違う」

 ゲシッ!

 「おう!?」

 「蹴ったらダメですよ!?」

 <知り合いかや?>

 「いや、何かイラっとしたから……で、お前は何者だ? どうして俺達の名前を知っている?」

 チェーリカに止められて何とか踏みとどまるディクライン。そして男は驚愕の自己紹介をする。

 「な、何を言ってるんだな! お、俺はタークなんだな! ニーナの従兄の!」

 「はあ? タークはあなたみたいに痩せてなかったですよ? どちらかと言えば醜い豚……いえなんでもないです」

 「でも声はそっくりなんだよな……」

 「本人なんだから当然なんだな!? ニーナの毒を盛ったのがバレて追放したのはお前等なんだな!」

 ディクライン達しか分からないであろう経緯を口にするターク。そこでディクラインがため息をついて口を開いた。

 「ま、お遊びはこれくらいにしてやるか。元気そうじゃないか、両親はどうした?」

 「あれ、もう終わり?」

 「つまらないですー」

 <なんじゃ、本当に知り合いなのか>

 痩せたとはいえ、喋り方と行動、雰囲気でだいたい把握していたソキウスとチェーリカも、面白いのでディクラインにのっていた。一人チェーリカだけはさっぱり分からんとぷりぷりする。
 
 「あ!? そ、そうなんだな! 父上と母上が危ないんだな! お、俺は助けを呼びに出て来ただけなんだな!」

 「本当か!? 馬鹿! マジで下着見てる場合じゃないじゃないか! 行くぞソキウス、チェーリカ!」

 ブツン、とロープを切ってタークを解放すると、三人はターク誘導で両親の元へと向かう。

 ◆ ◇ ◆

 「た、確かこの辺に……あった、パンくずなんだな! これを辿って行けば……」

 ぜえぜえと息を切らせながら、タークが目印を見つける。そこで女性の悲鳴が聞こえてきた。

 「きゃあああああ!? あなたぁぁぁ!?」

 「チッ、急ぐぞ!」

 「ああ!」

 「仕方ないのです」

 声のする方へ走ると、すぐにタークの両親は見つかった。見覚えのある屋台を背に、斧を持った父・イゴールが肩から出血しながらも応戦していた。

 <あれか! 麻痺弾じゃ!>

 今にもとどめを刺そうとしていたサーベルタイガーに似た魔物三体へチェイシャは不意打ちを仕掛けた。一体が痺れて倒れ、二体がこちらに気付き回避していた。

 「こんのぉ!」

 イゴールの一撃がサーベルタイガーの首を刎ね、絶命させる。仲間が殺され、一瞬怯むがすぐに怒りの咆哮をあげイゴールへと襲いかかる!

 「一瞬怯んだのは失敗だったな」

 ギャン!?

 イゴールを攻撃しようとしたサーベルタイガーにはディクラインがカバーに入り、鼻っつらを剣で叩き下がらせた。もう一匹はソキウスとチェーリカ、チェイシャに囲まれると、一目散に逃げていった。

 ガウォォン!?

 まさかの置いてけぼり。生き残ったもう一匹も涙目でその後を追い、逃げ去って行った。

 「チェーリカ、頼む」

 「はいです! ≪ヒール≫」

 「す、すまねぇ……って、あ、あんた達は!?」

 「あの時の……!?」

 イゴール、そして妻のタウィーザが目を丸くして驚きの声を上げた。

 「何とか間に合ったか。悪運は強いようだな?」

 「まったくです! でもこんなところで何を?」

 <話は後じゃ、拠点に戻ってからにした方がええ>

 チェイシャに促され、親子は屋台へ戻り引き始める。

 「ふう……荷は無事か……ターク、おめぇも屋台を引くのを手伝ってくれ」

 「わ、分かったんだな」

 男二人が屋台を引いて歩きはじめたところで、ディクラインがタウィーザに質問をする。

 「とりあえず無事で良かったが、どうしてこんなところに居たんだ? 外の魔物はかなり強力だから戦闘の恩恵があってもかなり危ないんだが……」

 するとタウィーザは肩を竦めて語りだす。

 「あんた達に追い出されてから転々と町を渡り歩いて細々と暮らしてきたわ。そしたら突然あの馬鹿でかい塔が出来たじゃない? あそこなら冒険者が集まるから商品が売れるかもしれないと思ってやってきたのよ」

 「マジか……でも魔物はどうしたんだ? さっきのを見ている限り、勝てる魔物は多くないだろ?」

 何故かドヤ顔のタウィーザに呆れ顔の一行。考えは間違っていないが、無謀にも程がある。

 「……魔物避けの薬があるのよ。ホープの所で厄介になっていた時はまったく使わなかったけど、タークの恩恵は調合士なのよ。その辺の草とか水、キノコとかで作れる恩恵なんだけど、ちょうど切れてしまってあのざまってわけ」

 「あいつがそんな恩恵をもっているのか……激痩せしたのは?」

 「旅をすると体力を使うでしょ? それに食事も一気に質素になったからかしらね? みるみる痩せて舞い散ったわ」

 一ヶ月ほどの旅で今の体型になった、とタウィーザは言う。さらにタウィーザの恩恵で商売自体は悪くない稼ぎらしいが、お金が無いことに懲りたのか、我儘は二人とも減らしたと語った。


 「着いたぞ、拠点内なら魔物に襲われることはないから、ゆっくりしていってくれ。ただ、タークよ。女性に何かしたら魔物の餌になる事は覚悟しておけ? 今ここに居るのはビューリックの騎士にサンドクラッドの冒険者達だ」

 「わ、分かったんだな……」

 ブルリと体を震わせ敬礼をするターク。そこでイゴールがディクラインに質問を投げかけた。

 「こりゃすげぇな……タウィーザの予想通りって訳か。旦那、ここで商売しても構わないのかい?」

 「ん? あー、そうだな。ふっかけたりしなけりゃ大丈夫、だな。薬とか食料があればこっちも助かるし、いいんじゃないか」

 <そうじゃのう。町に無いものとかあれば、多分売れるぞ>

 「お、そうかい? ありがてぇ! もちろん旅をしている時に色々掘り出し物はあるんだぜぇ? 例えば……これなんかすごくないか? 何と超稀少のポーション、霊薬だ!」

 「『霊薬!?』(じゃと!?)」

 イゴールが小瓶を持って得意気に笑っていた。
 
 
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