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最終部:タワー・オブ・バベル
その226 合格
しおりを挟む「加勢してきてもいいぞ?」
紫の騎士がカルエラートさん達の戦いを見始めながら私とレイドさんにそんな事を言う。この人から殺気も戦意も感じられないため、私達が駆け出しても後ろからバッサリ、ということにはならないと思う。だけど頭を振って私達も観戦に回る事にした。
「大丈夫、フレーレ達が勝つのを信じて待つわ」
「そうか。それならしっかり見てやらないとな」
「どういうつもりで……」
「まあそう焦るな。お、大剣の嬢ちゃんが行ったぞ」
レイドさんが不審な顔をして私と騎士の間に入って聞いてくれるが、騎士はカルエラートさん達の方を指差し、レイドさんを止めた。今は何を聞いても答えてくれそうにないと、渋々戦いの行方を見る事にしたようだ。
さて、緑の騎士とフレーレ達は……。
◆ ◇ ◆
「カルエラート殿、続いてくだされ!」
「任せろ、フレーレ、カーム殿、私が出たら援護を」
<任せておけ>
「はい!」
ウェンディが、ダン! と、力を込めて剣を振り降ろすと、緑の騎士はそれを同じく大剣で受け止め、いや受け流す。バランスを崩したところに蹴りを入れようとするが、それをカルエラートが阻む。切返しが間に合わず、闇の剣がガントレット部分に触れた。
ベキン!
「チッ、魔法剣か。意外といいものを持っている!」
闇の剣が触れた部分が板のチョコレートのようにごそっと取れて床に落ちる。カルエラートと相性が悪いと判断した緑の騎士は数を減らす為、フレーレに狙いを絞って攻撃をかけてきた。
「その恰好、神官か何かと見た。癒されては困るし、まずは君から倒させてもらうよ」
「そうはいかないであります!」
「挟むぞウェンディ」
「おっと、掛け声を出しているようじゃまだまだだ。大剣の子はまだ慣れていないのが見え見えだ。それでも怪力は関係ないか……少し技を使わせてもらおう、ヴォーテクス」
緑の騎士が剣を回すと、空気の流れが変わった。向かっていたカルエラートとウェンディがさらに加速し、緑に騎士へと突っ込んで行った!
「わわ……!? ええい、行くであります!」
「ま、待て、ウェンディ!? うあ!?」
グシャ!
騎士は勢いのついたウェンディを回避し、ウェンディはそのまま逆サイドから引きこまれていたカルエラートへぶつかってしまう。
「はっはっは、本来なら吸い込んで斬り裂く技だけど、今はこっちのお嬢さんが優先でね、後にしてもらうよ……んあ!?」
「よそ見していると危ないですよ!」
フレーレがすれ違いざまにモーニングスターでヘルムに向かってスイングし、クリーンヒット。勢いがついたその身体は空中で一回転して床に叩きつけられ……
<フレーレ! 一歩下がれ!>
「え!?」
て、おらず、剣の柄でフレーレの脇腹を右から狙っていた。それをカームが見切ってフレーレがギリギリのところで回避することが出来た。
「おっと、邪魔をしてくれたね」
<無論! お前の顔、拝ませてもらうぞ>
カームが空中から爪で襲いかかり、それをガードする緑の騎士。再度距離を取り、フラフラだったカルエラート達と共に四方を塞ぐ。
「結構粘るね。私もそれほど手加減をしているつもりは無いから尚更ね」
本気でやれば一瞬でカタがつくとでも言いたげに大剣をプラプラさせながら言った。そして紫の騎士の方を見て呟く。
「あれ、あっちは終わったみたいだ。勝ったのか負けたのかわからないけど……」
「勝ったに決まってます! 次はあなたの番ですよ」
「OK、ならこちらも終わらせようか。私の勝利で締めて、ね。さあ、打ちこんできなよ、君の力を見せる時じゃないかい?」
緑の騎士が挑発するように、ウェンディに向かって言うと、ウェンディが怒声をあげながら突っ込んで行った。
「上等であります! そのヘルムごと潰してやる!」
「……」
ゴォン!
鈍い音が響く、ウェンディの渾身の一撃……流石の騎士もこれでは、と誰もが思ったが、それは甘かった。大剣をしっかりと、それも片手で受けとめられていた。しかし威力はあったのだろう、緑の騎士の足元がクレーター状にへこんでいた。
「ぐ、くく……」
「安い挑発に乗るな。鉄則だよ? 攻めさせるってことは、相手に自信があるってこと。だから、次の手が無いとここで君の攻撃は終わり。こうなる」
大剣の軸をずらし力を込めていたウェンディがずるりと体を滑らせてしまう。前のめりになった所で、騎士の大剣がウェンディの背中をロックしていた。
「しまった!」
「一人目、と」
「ウェンディ!」
「ん!? 早い!?」
そこに割り込むのはカルエラート! まさか一足で間合いに入られるとは思っていなかったのか、驚く。そして闇の剣が鋭く騎士の腰あたりを薙いだ。
だが……
「危なかった……! 今のはいい踏込みだったよ、少し冷や汗が出た」
掠めはしたものの、ダメージにはならなかったようだ。
「いいや、まだです! 聖魔光のフルスイング!」
「ぐあ!? ま、回り込んでいたのか!? しかし!」
フレーレの鳩尾へ拳を叩き込み、距離を取ろうとする、だが、フレーレの根性は緑の騎士の予想を上回った! 殴り飛ばしたと思われたが、フレーレは瞬間、モーニングスターを捨てて騎士の手を掴んでいたのだ。その反動を利用してぐるりと回りながら、カルエラートへと投げつける。
「カルエラートさん!」
「お、お、おおお!?」
「ナイスだフレーレ! もう一度同じところを!」
闇の剣が先程ヒットした腰と腕を斬り裂く!
「くっ、油断したか、神官だと侮った……損傷個所が二カ所、か。これは私の負けだね、しかし弱点は分かった。そこを鍛えるとしようか」
「何を……」
<(やはり何かあるのか……攻撃が単発すぎるからおかしとは思ったが……)>
カルエラートが呟くと、緑の騎士が剣を背中に納めて拍手をしながら口を開く。
「はっはっは、君達の勝ちだよ。ここは私の負けだ、登る事を許可しよう」
「え? どういうことですか?」
「言った通りだよ。さて、向こうと合流しようか。結果が気になるし」
軽やかな足取りでルーナ達の所へ行こうとしたところで悲劇は起きた。
「まだまだであります!」
「あれ!? もう終わりだよ!? ストップ! ストップ!?」
ゴォォォォン……!
ドサリ。
緑の騎士はヘルムに大剣を受け、前のめりに、受け身も取らずに倒れた。
「倒したであります! 見てましたかカルエラート殿!」
「あ、ああ……」
「ちょっと気の毒ですね…… ≪ヒール≫ これで何とか許してもらいましょう」
<お前も大概だな……む、ルーナ達が来るぞ>
「あ、ホントですね! 勝ちましたよー!」
フレーレとウェンディがぶんぶん手を振りながらルーナ達を迎え、そして騎士達からこの戦いの意図を告げられる。
◆ ◇ ◆
<拠点:小屋>
「どうだ?」
『経過はいい。けど、できれば霊薬のようなものが欲しい所だね』
<ぴー。あたしの血はダメなのかしら?>
『ジャンナの血はあまり使いたくない。人化の法に影響が出ないとも限らないからね。ボクが作りたいけど、ここじゃ流石にね……』
拠点でアイディールの看病を見ていたが、経過は良好とは言い難く、かといって悪くなっているわけではないのでお手上げ状態であった。
「霊薬か……」
外に出てディクラインが呟く。みんなには悪いがここを離れて探しに行くか、とまで考えていた。そこでまたしても入り口が騒がしい事に気付く。
「ったく……人が落ち込んでいるってのに今度は何だ?」
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「ん……声……?」
どこかで聞いた事のある声のような気がした。
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