パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その225 騎士②

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 散開した私達は予定通り、標的を目指して肉迫する。カルエラートさんの両脇にレイドさん、ウェンディが付いて分断させる作戦だ。

 「そりゃあであります!」

 「っと、この子凄い力だ!?」

 大剣を軽々と振るい、同じく大剣を持つ緑の騎士へ斬る、というより殴りつけるといった感じで攻撃をすると一メートルは後ろに飛ばされた。それでもバランスを崩さなかったあたり本気で、というのは間違いない。
 そのままカルエラートさんとカームさんが押し切る形で紫の騎士との距離を離す。

 「背中を見せるとは愚かな!」

 「そっちもね!」

 凄い勢いでカルエラートさん達を追おうとするが、どこへ向かうかが分かっていればフェンリルアクセラレータをかけた私でも追いつける!

 「はっはっは、一人で俺を止められると思っ……」

 ズベシャ! 

 「うお!?」

 と、派手に頭からこけた紫の騎士。何をしたかというと、前に回り込んですぐにガントレットでガードしながらその場で伏せたのだ。
 斬りかかろうとした瞬間に私の姿が消え、急停止もできず私につまづいてこけた……そういうことである。
 レイドさんが倒れた騎士へ攻撃を仕掛けるが、鎧を着ているとは思えない速さで立ち上がり私達に向き直る。

 「ふむ、こちらはお前達だけか? さっき『正午までは強い』と言ったつもりだったんだけどな」

 紫の騎士が私とレイドさんへそんな事を言ってくるが……。

 「今、何事も無かったように立ち上がったけど、転んだのを無かった事にしたいのかしら……?」

 「い、いや、分からないけど……あれは無様だったな……」

 「わぉん」

 「うるさいな!? ……いいだろう、時間もあまり無いし一気に行くぞ」

 来た! 会話で時間を稼ごうと思ったけど、流石にそこまで油断はしないか。目が慣れた私がレイドさんに声をかける。

 「レイドさん、右!」

 「こっちか!」

 「素早さで翻弄は難しいか? ならば」

 ガキン! 腕だけを振って予測する位置へと剣を伸ばし、紫の騎士がそれを剣で受け止める。一旦下がるかと思われたが、力押しで連撃をかけてきた。

 カン! キン、ガイン!

 「切り返しが早い……!」

 「どうした、勇者とやらはこの程度なのか?」

 普通の剣に見えるけど、手首をうまく使い、レイドさんが一度攻撃をする間に二回は反撃をしてくる。足を止めての斬り合いは何かの演武のように見えるくらいだった。

 「なら私も攻撃すればどうかしら!」

 「む」

 私の攻撃が加わり、じりじりと下がり始める騎士。手数は増えたけど、やっぱり致命打にはなっていない。でもここまでは予想通り。しかし、騎士は妙な事を口走る。

 「剣だけを見るんじゃない。焦っても相手の挙動を見逃すな。そっちの女の子は攻撃する場所が定まっていないな、それではダメージを与えるより自分の疲労の方が大きいぞ。それ」

 「ぐ……な、何を」

 「きゃ!?」

 レイドさんのわき腹を蹴ってを強引にふっとばし、私はひょいっと避けられたと思ったら足を引っかけられて転ぶ。さっきのお返しとでも言いたいのかしらね!

 「はっはっは、降参するか? 命までは取らんぞ」

 「馬鹿な事を言うな、これからだろ?」

 「なるほど、いい気迫だ。それに剣も業物だな、我々の武器に匹敵する。だけどまだ使いこなせてはいないのが残念だ」

 レイドさんの剣を見て首を振り、何となくため息をついたように見える。それがカチンときたのかレイドさんが攻め立てる。

 「これは貰い物だが、使いこなせていないとは思わない! 真空烈破!」

 「ふむ、まあ敵の言う事を信じろってのも難しいか。体で解らせる方がお前みたいなのにはちょうどいいか」

 レイドさんの技を見ても驚く様子も無く半身で構えると、ゆらりと剣先が揺れた。

 「カースド・リターン」

 呟くように言った瞬間、レイドさんの放った刃が返された! さらに騎士は踏み込んでレイドさんのプレートアーマーを十文字に斬り裂いた。

 「あれを抜けてくるとは……!」

 「危ない!」

 「ガウ!」

 「おっと……」

 もう一歩踏み込まれていたら危なかったかもしれない……レジナと共に割り込んで妨害すると、大人しく後ろに下がった。トントンと、床に剣を叩きながら紫の騎士は私を無視してレイドさんに声をかける。

 「お前さんの剣は正直だからすぐ読める。それにさっきも言ったけど剣に振り回されている。剣と向き合って見ろ、それを作った人の想い。それを聞くんだ」

 ……? さっきもそうだけど、この人、さっきからレイドさんに何かを教えようとしている? 私には……攻撃をする場所が定まっていない、だったっけ。確かに剣に関しては技を覚えるのに必死で剣術というものをまともにやった覚えはなかった。お父さんも『やればできる』みたいな感じであまり参考にならなかったしなあ……。

 「ぐ、剣と向き合う、だと……?」

 「そうだ。それをお前に託した者はよほどお前が大事だったのだろう、受ける度にその想いが伝わるぞ……まあ、今は分からなくてもその内分かるかもしれんな。命までは取らん、また強くなったら来るといい……」

 また半身で構えて先程の技を繰り出す態勢に入る。

 「そっちはいいかもしれないけど、こっちは時間が無いのよ。お父さんも気になるし、負ける訳にはいかないの」

 私は起き上がろうとしているレイドさんの前に立ちはだかり、両手で剣を構えた。足元にはレジナも唸っている。

 「ルーナ……よせ、俺が、やる……」

 「はっはっは、やはり面白いな。しかし、女の子だからと手加減はせんぞ? そっちの勇者ももう動けまい! これで終わりだ。カースド・リターン!」

 高速で踏み込んできた紫の騎士。さっきの剣の軌道は見えていた! しかし私は腰のポーチに手をかけて、またしてもアレを取り出す。私の攻撃は狙いが定まっていない……それをいますぐ修正するのは難しい。だから、私は私の出来る事をする……!

 「もらった……!」

 「私がね!」

 相手のヘルムはフルフェイス。だけど前を見るための覗き穴はあるし、息をするための空気穴はある。となると、私の取る手段は一つ!

 「特製トウガラシ爆弾! 激辛1.5倍バージョン!」

 剣の軌道に、トウガラシ入り爆弾を残して私は後ろに下がる。大ガエルの時は口に放り込めたけど、こいつは足が速い。顔に叩きつけたりするのは難しいだろうから、爆弾を壊させて粉を散布するのが一番効果的だと判断した。

 「ぬあ!? 目が!? 目がぁぁ!?」

 「レジナ!」

 「ガウ!」
 
 レジナが足を噛んで相手の動きを止める。それを確認した私は剣を握り叫ぶ。

 「一点集中!」

 剣を持っている右手を破壊して剣を持てなくする、それでこちらの勝ちだ……!

 「砕けろぉぉぉ! アストラルブレイク!」

 「うおおおおお!?」

 ガキィン! 

 何度か剣を同じ場所へ攻撃し、最後にアストラルブレイクを使うと、派手な音を立ててガントレットが粉みじんに砕け散り、ブシュ、っと腕から血が噴き出した。

 「くっ、まだだ……!」

 「え? きゃあ!?」

 剣を取り落とした騎士は私の胸ぐらを掴んで持ち上げ、ぶん、と勢いよく投げた。投げた先にはレイドさん!?

 「おっと! 大丈夫か? 無茶をしたな」

 「くらくらするー……で、でも何とか腕は使えなくしてきたわ」

 しかし、まだ紫の騎士は剣を持ち上げてこちらへ向かってきていた。レジナは足を噛んでいるが、引きずりながらお構いなしに突っ込んでくる……!

 「やってくれたな! しかし小手先だけで戦えるほどこの先は甘くないぞ」

 くっ、やっぱり動物と違って復帰が早い……! 剣を振り上げた所でレイドさんが私を突き飛ばし、剣で受け止めようと構えた。そして剣が交錯した瞬間……。

 ガキン……。

 「……?」

 振り抜かれると思っていたのか一瞬覚悟を決めたレイドさんだったけど、鈍い音を立てて止まった。そして紫の騎士が剣を下げて肩を落としながら呟いた。

 「ふう……時間切れ、か。まさか私がここまで手こずるとは……勇者には少し不満は残るが……合格だ。この勝負、君達の勝ちだ」

 「ふえ?」

 私は意味が分からず変な声をあげてしまった。剣を背中に下げレイドさんに手を差し出していたが、レジナは噛んだまま離そうとしない。

 「ガウウ……」

 「ほら、私はもう戦意は無い。そろそろ離してくれないか?」

 「おいでレジナ」

 「がう」

 しぶしぶ私の所に来るが、唸るのは止めなかった。

 「よっと……あんた……あなた達は一体?」

 「それはあっちが終わってから話すとしようか。うーむ、初回は絶対に追い返すつもりだったんだが、私も腕が落ちたかな?」

 紫の騎士から威圧感が消え、腕を組みながらはっはっはと笑いながらフレーレやカルエラートさん達の方へ向き、経過を観察していた。
 悪意は感じられない、でも間違いなく神裂の手の者だと思うけど……。

 真意が分からず、レイドさんと顔を見合わせて肩を竦める私だった。
 
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