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最終部:タワー・オブ・バベル
その224 騎士
しおりを挟む<バベルの塔:二五階>
休憩していた二四階から一つ上に上がるだけなので一時間もしない内に到着する。念のためと、カルエラートさんが先頭になり、その後ろにレイドさんとウェンディが並び、その後ろに私とレジナにアルモニアさん。最後はフレーレにカームさん、それとリリーが着いてくるという陣形だ。
「……どうやら、楽観させてはくれなかったらしいな」
「みたいだな」
「あれは……騎士、でありますかね?」
最初にフロアへ立った三人がそれぞれ感想を口にしながら立ちどまったので、私達もフロアへと躍り出て三人の見ている方向をみると……。
<全身鎧の年季を見るに、手ごわい相手だぞこれは>
「ええ、空気が張りつめているわ、少なくとも一五階の相手よりは上ね」
<緊張が止まらないっぴょん……>
そこには全身鎧で身を包んだ騎士が二人、剣を床に突き立てて階段の前に立っていた。左は深い緑色で、右は濃い紫をしていた。
フルフェイスで表情は伺えない。私達はそれぞれ、警戒しながら武器を抜くと、片方の騎士から声がかかった。
「ようこそ二五階へ。お待ちしておりました。ヴァイゼ殿はすでに三十階へおります」
やっぱり先に進んでいたのね、相談なしでどうして行ったのかしら? とりあえず、見た目とは裏腹に誠実そうな感じの声をしている、お父さんがここを通ったという事を告げてくる騎士に対し、私は無駄だと思いつつも聞いてみた。
「それって私のお父さんなんだけど通してもらえるのかしら?」
するともう一人の騎士が肩を震わせて喋りはじめる。
「はっはっは、面白いお嬢さんだ。まあ、お父上ということなら心配にもなるだろうな。だが、安心してくれていい、彼とお供は健在だ。さて、ここを通してくれるのか? という問いだが、答えはノーだ、通りたければ我々を倒してから進むがいい」
ま、それもそうだよね。でも、お父さんが通ったのであれば、倒されていないのはおかしい気もするけど……。 私は少し奇妙な感覚に襲われるが、『倒してから』という言葉を聞き、すぐにカルエラートさん達が騎士へと向かって行った!
「話が早くて助かる、行くぞ!」
「うおぉぉ! であります!」
「元気のいいことだ! こちらの世界の騎士、どれほどのものか試させてもらう!」
カルエラートさんの一撃を、床に刺していた大剣で受け止めながら叫ぶ緑色の騎士。それに追従してフレーレのマジックアローが顔へと飛んで行った。
「いい連携だ。だが!」
「チッ!」
緑の騎士はカルエラートさんを吹き飛ばして、マジックアローを剣で叩き落とした! 補助魔法で威力とスピードが上がっているのに反応するなんて!?
「まだよ!」
「やるな!?」
ガィン!
相手が剣を戻す前に私は横に回り込んで、愛の剣をフルフェイスへと叩きこむ。するといい音を立てて弾き返された。だけど、若干のふらつきを見る所、効いていない訳では無さそうだ! しかし相手も手練れ、すぐに態勢を整えて近くの私へと切り返してくる。
「ふっ!」
下から斬り上げるように私のお腹を薙ぎに来た、流石に体勢がよくないのでこれは簡単に回避できる。すかさずカルエラートさんが盾を使って体当たり……シールドバッシュで緑の騎士を押し返した。
「そうこなくては!」
「負け惜しみを!」
体勢が悪いのに歓喜の声をあげる騎士へカルエラートさんの闇の剣が追撃をかける。しかし、このままでは攻撃に転じれないと悟った騎士は一旦距離を取るため大きくステップを踏んで逃げた。だけどこちらも補助魔法で足は速い。私はすぐに騎士の傍まで走り込み、剣を振った。
「何!? まだ来るのか!? あいた!?」
「もう、固いわねこの鎧! この! この!」
「ルーナ! わたしも手伝いますよ!」
「ガォン!」
騎士へ何度も攻撃するが、全身鎧に阻まれて大したダメージは与えられてい無いようだった。そこにモーニングスターを持ったフレーレに、レジナも参戦してきた。
「レジナ、こいつを転ばすぞ!」
「ガウ!」
カルエラートさんが盾を構えて正面から突進。騎士は私を突き飛ばしてそちらの対応に回った。
「人数が多いとはいえ、こうも後手に回されるとは!」
ガキン!
カルエラートさんへ大剣の一撃を振り降ろすと、何かを悟ったのか盾ではなく闇の剣で受けた。ギリギリと力の押し合いが始まる。
「……フッ、勘もいいか。盾で受けていたら今ごろばっさりだったんだけどな。しかし、湖の乙女の剣を受けるとはその剣もタダの剣では無さそ……うわ!?」
「ガオォォォン!」
レジナが足元にまとわりついて騎士を転ばせ、派手に尻餅をつかせた。
「くっ、よく訓練されている……殺気!?」
レジナを追い払う動作をしていた騎士が咄嗟に横へ転がった。そこにフレーレのモーニングスターが振り降ろされる!
ゴスン!
「外しましたか!」
と、フレーレが残念そうに言い、カルエラートさんと騎士が戦慄しているのが目に見えて分かった。無理もない、ただのモーニングスターで固そうな床がすり鉢状にへこんだのだから。しかしここはチャンス。その隙に私も回り込み、騎士を取り囲んだ。追撃を行おうと思ったけど、ゴロゴロと転がりながらも即座に立ち上がっていた。
「ふう……いやいや、いい攻撃だ。私がここまで押されるのは久しぶりだ。だけど、向こうの仲間は大丈夫かな?」
「え? ……嘘!?」
緑の騎士が肩に大剣を担ぎながらレイドさん達を見る。すると、ウェンディが首を掴まれ持ち上げられているところを目撃した。
腕を掴んで引きはがそうとしているけど、外れずにもがいているようだ。怪力自慢のウェンディがまさか……そこにレイドさんとカームさんが襲いかかる。
「離してもらおうか!」
<内部そのものを攻撃してやろう、ソニックウェイブ>
「しゃらくさいぜ!」
「きゃあ!?」
紫の騎士はウェンディを振り回してレイドさんへぶつけ、カームさんを剣で殴りつけた。ウェンディが珍しく女の子らしい悲鳴をあげ派手に転がった。
「くっ、何て馬鹿力だ……」
「ううう……まさか補助魔法で強化されている自分が負けるとは……」
すると紫の騎士が笑いながら答える。
「力だけじゃないぞ?」
<ぴ、ぴょん!?>
そう言い放った瞬間、レイドさん達を飛び越えてリリーへと迫る紫の騎士。それを後衛にいて様子をみていたアルモニアさんが止めた。
『速いわね、でもちょっと人間離れしていないかしら?』
ブオン!
アルモニアさんが槍を振ると、バックジャンプをしてそれを回避した紫の騎士。だけどその跳躍力はゆうに三メートルを越えており、そのまま元の場所へと着地していた。
「まあな……一応、裏はあってな? 後一時間……正午までしか持たないんだ。まあ、それまでにはケリをつけるから安心していい。なに、殺しはしない」
正午まで……? 私と同じ補助魔法の使い手なの? と考えた瞬間、紫の騎士がチラリとこちらを向いた、気がした。
ガン!
と、思ったら目の前にカルエラートさんが盾を構えて立っていた。鈍い音と共に、ズズズ、と少し後ろに下がった。
「へえ、良く反応したな。そっちの白い髪の女の子を狙ったんだけ……ど!」
「あ!? きゃあ!?」
続いてフレーレが弾き飛ばされた。かろうじて剣撃はモーニングスターでガードしたみたいだけど、紫の騎士の速さは尋常じゃない! そのまま緑の騎士と合流しこちらを見据えて言う。
「ま、継続的にこのスピードが出せる訳じゃないから、お前さんの補助魔法よりは劣ると思うけどな。さ、続きと行こうぜ?」
「では私も本気で行くとしよう。お前の力が切れる前にカタをつけねばな」
威圧感が増した騎士二人に対し、私は集まってきたみんなに声をかける。
「見たところ、緑の騎士がひきつけて紫の騎士が迎撃ってスタイルだと思うの。みんなは緑の騎士を集中的に狙って? 緑の騎士は剣が不気味だけど、こちらとそれほど差はなさそうだし。紫の騎士はあの力が正午までと言っていたから。こっちは私とレイドさん、レジナで食い止める。緑の騎士を倒したら一斉に紫へかかる、それでいい?」
「ワカッタであります! しかしお二人と一匹で大丈夫でありますか?」
「一応……秘策はあるから、それを使うかもね。カームさんは空から強襲よろしく!」
<よかろう>
『私は後ろで隙の出来た方を狙うわね』
アルモニアさんがそう言い、私達は頷く。槍ならそちらのほうが動きやすいと判断しての事だろう。作戦が決まったので、私はみんなに合図の掛け声をあげる。
「それじゃ……行くわよ!」
その言葉を皮切りにして、散開を始めるのだった。
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