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最終部:タワー・オブ・バベル
その222 準備
しおりを挟むパーティメンバーも決まり、お父さんを追いかけるべく準備を進める私達。今日は準備と休息でのんびりしている。
エリックやイリス、ウェンディ達ビューリック騎士団がまとまって拠点の拡張と防衛を行ってくれるため、恐らく次に帰って来たときにはもっと大きくなっているはずだと楽しみになってきた。
クラウスさんとシルキーさんが買ってきてくれた食料や道具を物色していると、モルトさんが慌てて外から帰ってくるのが見えた。
「おーい! 勇者パーティは居るかー! ウチの援軍が来たぞー!」
レイドさんとパパがそれぞれテントと小屋から出てきて、私とフレーレもモルトさんの元へ向かう。装備を磨いていたカルエラートさんも何事かと集まってきた。
すると、モルトさんの後ろから小柄な女の子と、褐色の肌をした冒険者の一団がやってくる。ざっと二十名といったところだろう。
「レイドさん、カルエラートさん。久しぶり」
「お、ミトじゃないか! 久しぶりだな!」
「サンドクラッドでは世話になったな、元気そうで何よりだ」
「ったく、来るなって言ったのに……俺の孫娘、ミトじゃ。一応強力な魔物が出てから訓練はしているから戦える。が、できれば雑用に使ってくれると助かるの」
「おばあちゃんが行ってもいいって」
「あのババア……」
そっか、サンドクラッドにはレイドさん達が行ってたから知ってる人もいるよね。モルトさんにとっては孫娘……かわいいだろうから危険な目には合わせたくないよねやっぱり。私もミトと呼ばれた子に挨拶をする。
「初めまして、私はルーナよ。ミトでいいかしら?」
「わたしはフレーレです!」
「うん。それでいい。ミトです、ルーナお姉ちゃんにフレーレお姉ちゃん宜しくお願いします……アイディールさんとチェイシャ王女は?」
「聞きましたルーナ! お姉ちゃんですって!」
握手をしペコリと頭を下げるミト。とても礼儀正しいし、何より可愛い! 何だかフレーレが興奮していると、ミトはキョロキョロしながらママとチェイシャを探し始めた。
<わらわならここにおるぞ>
「む、声はすれど姿が見えない……王女、流石……」
<ここじゃ!>
チェイシャがミトへ飛び掛かると、ミトが心底驚き抱っこする。
「王女様……?」
<うむ、久しぶりじゃの。人の姿は王女だとばれるからこんな姿をしておる、許せ>
「分かった」
コクリと頷くと、抱っこされたチェイシャが羨ましいのか、シルバ達が足元でピョンピョン跳ねていた。それをみて目を輝かせるミト。
「わ、可愛い。うふふ、ふかふか……」
あっという間に三匹に囲まれへにゃっと顔を緩ませていた。
「うーむ、こんなミトの顔を見たのは初めてじゃな。外の国はいい刺激になるかもしれん、か。それじゃ、残りの冒険者共は俺が面倒を見るわい。とりあえず明日は半分でも連れて行くか?」
「そうですね、道中の味方は多い方がいいですけど、明日の早朝には出発します。次戻って来たときにお願いできますか?」
モルトさんと冒険者達はノリ気だったけど、レイドさんの言うとおりここに来るまでにも戦闘をしているので疲労状態で塔に行くのは危険が伴う。今回はビューリックのウェンディが来るので、次回のメンバーとして来れるようお願いをした。
「もふ……もふ……」
「わんわん♪」「きゅんきゅん♪」「きゅふーん♪」
<そろそろ降ろしてくれんかのう……>
「ふふ、久しぶりの再会だからいいじゃないか、チェイシャ王女?」
カルエラートさんがチェイシャをからかいながらも話が纏まり、モルトさん達は拠点の端へとテントを組みはじめる。ミトは一心不乱に狼達を撫でまわしていたので、そっとしておくことに。すぐ仲良くなってなによりである。
その後解散して準備に戻り、フレーレが怪我をした冒険者に回復魔法をかけてあげたり、冒険者達は小屋を作るのに大忙しな時間を過ごしていた。
「味方が増えてきて助かるわね」
「そうですね、セイラも回復しませんし、アイディールさんもまだ意識が……ディクラインさんも今回は来れないしでどんどんバラバラになっていったので心強いです」
ママとセイラがリタイアしているのは結構痛い。チェーリカとフレーレが今後の生命線になると言っても過言ではないと思う。私は回復魔法を使う事が出来なかったからね……魔王の力は治癒には向かないらしい……。
「少し様子を見に行こうかな、パパも行ってるし」
「わたしも行きますよ! わたしはセイラが心配です、たまに目を覚ましてもボーッとして口も開かないですから……」
すると、シルバ達がミトを引き連れて私の所へ走ってきた。何事かと思ったら、ミトが私にお願い事があるらしい。
「ルーナお姉ちゃん、今日はこの子達と一緒に寝てもいい?」
「え? うん、シルバ達がいいなら私はいいけど。どうなの?」
「わんわん!」
どうやらいいらしい。見知らぬ人が来て興奮しているようで、尻尾が凄い勢いで振られていた。ミトはありがとうといい、またどこかへ走って行く。元気だなあ……。
「うう、フレーレお姉ちゃんって行って欲しかったです……」
何故か手を伸ばして呻くフレーレを置いて、歩き出すと、今度はチェイシャが現れた。
<行ったか……シルバ達にミトは任せておこう……>
毛がボロボロになったチェイシャが私の肩に乗りながら呟く。かなり連れまわされたであろうことは想像に難くない。
<今回もわらわは留守番をするが、お主らは無理をするのではないぞ? いざとなればカームを頼れ>
「……あまり戦って欲しくないけどね」
<正直な所、わらわもここまで苦戦するとは思っておらんかった。敵地に飛び込んでいるから絶対はないと思っておったが、二十階ごときでアネモネが消えたと聞いた時に、これは出し惜しみをしている場合ではないと感じたのじゃ>
「わたし達が頑張ればいいんですよルーナ。それならチェイシャやジャンナ達が消える事はありません」
「そうね……」
<……>
ふと入り口を見ると、クラウスさんとビューリックの騎士、そしてファウダーが賑やかに笑いあっていた。姿はどうあれ生きてさえいてくれたら。そう願わずにはいられなかった。
◆ ◇ ◆
「うう……カルエラートさん……無事で戻ってきてくださいよ……」
「おま、ご飯食べたいだけだろ?」
「ほらほら、後が閊えてるぞ。受け取ったら戻れよ」
そして夜は塔へ行くカルエラートさんを嘆く人達がカルエラートさんのご飯を受けとりに来ていた。作業分担に対してご飯を作ってあげていたそうだけど、今日は全員に作ってあげたらしい。
<カルエラートのご飯は美味しいから仕方ないけどにゃ。ほら、立ち止まるといつまでも食べられないにゃよ>
「にゃーん♪」
シュ……!
バスが列整理を行い、その横でリンが人が増えて嬉しいのかごろにゃんと鳴いた。そしてミトに捕獲されるリン。
そんなこんなでサンドクラッドからの増援を加え、戦力が増える私達。ご飯を食べた後は早めに休み、翌朝を迎える。
やっぱりお父さんは帰って来なかった。もしかして先に進んで死んだとか無いわよね……? アンデッドだからもう死んでるけど、ふとした瞬間、何かの拍子に消えてしまってもおかしくないのがお父さんだ。
パン、と顔を両手で叩き、一言だけ呟いた。
「行きましょう」
私の合図で皆が頷き、転移陣へと足を運んだ。
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