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最終部:タワー・オブ・バベル
その221 入替
しおりを挟むレイドさんと晩御飯を持ってママとセイラが休んでいる小屋へ向かうとパパが椅子に座ってじっとママを見ていた。私に気付くと少し疲れた顔で笑いかけてくれた。
「おう、ルーナにレイドか。晩飯終わったんだな」
「うん。はい、これパパの分」
「助かる」
少し冷えてしまった夕飯を食べ始めるパパ。レイドさんは隣のベッドに寝ているセイラの髪を撫でていた。
「塔へは私達が行くから、パパは残っていて。後、エクソリアさんが診てくれるみたい」
「馬鹿言うな、お前達だけ行かせる訳には行かないだろ? 俺も行くぞ」
「でも……」
「ルーナ、恐らくカイムはまだ出られない。かと言ってカイムとアイディールが完治するまで待つには階を登れていないのも事実なんだ、ディクラインさんに戦列を離れられるとかなり厳しい」
ママの傍に居て欲しかったけど、レイドさんが言う事も一理あるか……。
「それに俺が抜けると守護獣達が出張ることになるだろ? そうなると、あいつらは無理をする可能性が高い。だから抜ける訳にはいかんということだ」
すると外で聞いていたのかカルエラートさんが部屋に入って来た。
「水臭いじゃないかディクライン。ここは私が行こう、お前はアイディールと一緒に待っていてくれ」
「お前……いや、お前は鎧が無いだろ? それに要の盾も。だからここの守りを……」
と、パパが言ったところでカルエラートさんがニヤリと笑いながら一度外に出て、手に何かを持って戻ってくる。
「ここの守りはお前がやればいい。鎧と盾は……ここにある!」
影から鎧と盾を取り出しドヤ顔でパパに突きつけるのを見て私は驚いた。
「い、いつの間に!? 拠点のお母さんになったんじゃ……」
「誰がお母さんだ!? 今日クラウス達に買い物を頼んだだろ? その時にお願いしておいたんだ。お金に糸目はつけなくていいから一番いいのを頼むとな」
「……しかし……」
それでもパパは浮かない顔をして口を開こうとする。だけどカルエラートさんはそれを遮るように言った。
「たまには休め。ずっとアイディールと一緒に過ごす暇が無かっただろう? それとも私の実力では通用しないとでも?」
「いや、そんなことは……分かったよ、頼めるか?」
「任せておけ。それとエクソリアにはセイラの事も頼んでおく。何かおかしい気がするんだ。というわけでルーナにレイド、私は塔を登るのは初めてだからよろしく頼む」
「ああ、盾が居るのは心強い。さしあたってフレーレを守ってもらうか……道中は罠に気をつけないと……」
「うん、カルエラートさんも無理はしないでね?」
私がそう言うと、死ぬのは嫌だからなと返してくれた。
そして翌日、もう一日休む事に決めてメンバーを決める事になった。
懸念だったカイムさんのケガは、表向き問題なさそうに見えたけど、疲労の蓄積とのダブルパンチで戦闘が出来るまでには至っておらず、やむなくお留守番になった。さらに宣言通りエクソリアさんがこちらに残る事になったので人手はかなり減ってしまう。
私、レイドさん、フレーレ、カルエラートさん、アルモニアさん、カームさん、そしてリリーが今回のメンバーとなった。ギリギリ七人か……地味に減らされているのは痛手ね。お父さんと牛君もいるけど、昨日は戻って来なかった。それを含めて九人。ボス部屋は慎重に入らないといけないと思う。
<わたしはお留守番かにゃ……>
<オイラも行きたいんだけどなあ>
<ぴー。拠点の拡張にはファウダーが欠かせないし、バステトは足が速いから見回りには最適。まだ出番じゃないわよ>
バスやジャンナがそんな事を話していると、騎士達に任せたとかで二十階から戻ってきたエリックが声をかけてきた。
「やあ、明日からまた登るんだってー? 僕も一緒に行きたい所だけど、もう少し待って欲しいー。代わりにウェンディを連れて行ってもらえるかな? 部下を寄越したいけど、ボス部屋は人数制限があるらしいからね」
「え、ウェンディさんを? いいの?」
「うん、君達ばかりが戦う必要は無いんだしねー? 聞けば蒼希とサンドクラッドからも増援が来るらしいし、勇者二人は切り札になりそうだし、むしろ戦力を温存して欲しいくらいだよ」
ウェンディならあのケルベロスだっけ? を投げ飛ばすくらいの怪力を見せるくらいの実力者だし、願っても無い。噂をすれば、とばかりに拠点の外から走ってきた。
「ルーナ殿、話は聞きましたか! 私も一緒に行きますよ、クーデター以来の共闘ですな。また補助魔法に期待してます! あ、もちろん修業はしてきましたからご安心を!」
「こっちこそ! でも無理はしないでね? 命が危ないと思ったら逃げてね」
にっこりと笑ってみんなと握手をしていくウェンディ。アンジェリアさんとイリスが居れば連携が出来ると思うけど贅沢は言っていられない。ともかく心強い味方を得たわね。
「それにしてもお父さんは一体どうしたんだ? 戻って来ないけど……エリック、残ったこちらのメンバーは二十階で何をしてた?」
「ヴァイゼさん、だったかなー? 何か蒼希のニンジャに似た男達と二十一階へ向かったよ? あれ? 聞いてないのー?」
え!? お父さん先に行っちゃったの!? ボス相手でも大丈夫だと思うけど、心配だなあ……。
「ヴァイゼさん、どうしちゃったんでしょうか。やっぱり魔王だから復路は無いんでしょうか……」
「どうしてそう思うの?」
「魔往路だから……いふぁい!? 痛いですよルーナ!?」
「……」
と、無言で頬を引っ張るが、フレーレはかなり回復している。昨日はカイムさんと謝り合うという謎の光景を見たが、気を使うもの同士、ある意味お似合いなのかもしれない。
それはいいとしてお父さん、無茶してないといいけど……。
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:三十階>
「……まさか本当に直通とはな」
ヴァイゼがボス部屋の前で呟くと、カラス達が壁を叩いたりして確認をしていた。しかし特に怪しい所は無いらしく首を振る。
二十一階に到達したヴァイゼは驚く光景を見た。
それは、部屋の中央に螺旋階段が一つあるだけで、その階段の前にあった立て看板に『三十階まで一気に行けます』と書かれていたからだ。
間違いなく罠、しかし他に道が無いので先に登って罠が無いか、カラス達を使って確認をしていたら三十階まで来てしまったという訳だ。
「魔王さん、ボス部屋は行きますかい? 俺は構わないですぜ」
アステリオスが斧を握りしめ鼻息を荒くしてヴァイゼに言う。
「(どうする……? ここのボスはよほど自信があっての事だと思うから直通などという真似をしているに違いない。罠が無いなら一度戻ってルーナ達と攻める方が安全策か)いや、一度戻る……」
と、ヴァイゼが言おうとしたところで部屋の中から声がし、ヴァイゼ達に向かって語りかけてくる。
「やあ、早い到着だったね。魔物も配置していないし当然か。ちょっと暇を持て余していたところなんだ、お茶でもしないかい?」
その言葉が終わると同時に、ギギギ……と、扉が開く。
「みすみす罠に嵌りに行くとでも思うか?」
「いやいや、今はそんな気は無いから安心してくれ。まあ、君の娘たちが来たら本気を出すけどね? どうだい、もしかしたら僕の弱点でも見つかるかもしれないよ?」
「ま、魔王殿……これは間違いなく罠、戻るでござるよ」
ヴァイゼは少し考えた後、見えない声の主へと告げる。
「よかろう、良い茶なんだろうな?」
「そうこなくっちゃ! 騎士の誇りにかけて嘘は言わないよ、さ、どうぞ……」
「腕がなるぜ……」
「牛頭は黙ってろ……あーあ、助かったけどもう死が見えて来たな……」
「アカザ、すぐそっちへ行くぞ……」
「ええい、どうにでもなるでござる……!」
各々が恨み言を言いながらぞろぞろと中へ入り……。
バタン!
扉が重々しい音と共に閉じた。
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