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最終部:タワー・オブ・バベル
その216 変化
しおりを挟む「戻ったぞ!」
「パパ! 薬を手に入れたのね!」
「ああ、カイムのやつがやってくれた。後で礼を言わないとな」
ものすごい勢いで私の所へ戻り、手にもった注射器を私に見せる。シロップがそれを見て私の背中に張り付いた。
「きゅきゅーん……」
「あれはあなた達のじゃないわ。パパ、急がないと」
「あ、ああ……でも、どうやって使うんだ?」
『太ももだ、太ももに刺して注入するんだ!』
パパが注射器を持って迷っていると、障壁の向こうからエクソリアさんが声をかけてきた。それを聞いたパパはママのスカートをたくし上げ、太ももに針を刺す。
「頼むぞ……」
「わふ……」
シルバが伏せの状態で短く呻き耳を下げた。嫌なら見なければいいと思うけど、結構見る人って多いわよね。血を抜く時。血が苦手なのにじっと見ている人とか。
それはともかく、薬は偽物では無かったようでママの汗と呼吸は徐々に落ち着いてきた。
『顔色が戻ってきた。間に合ったみたいだね』
「ふう……良かった……」
ママの髪の毛を撫でながら、ストンと腰を降ろすパパ。さて、となると後はあの馬鹿でかいカエルを倒せば終わりね!
「パパ、私がアネモネさんの所へ行くわ。今度はパパが休憩しながらママをお願い!」
「すまん、無駄な力を使い過ぎた」
「別にいいんじゃない? あんなに怒ったパパ、初めて見たわ」
「むう……ちょっと恥ずかしい所を見せてしまったか……」
ママに優しくしているところとかあまり見たことないからたまにはいいと思うけどね?
「ガオン!」
「それじゃ、行ってくるわ!」
「わん!」「きゅきゅん!」「きゅふん!」
「気を付けてな。体はでかくなったが、嫌な予感がする」
レジナが一吠えし、パパが注意するように言ったところで私は駆け出す。
すると、カイムさんがこちらに歩いて来ているのが見えた。
「カイムさん!」
「あ……ルーナさん! いいところに! 鍵、あの時魔物から手に入れた鍵を持っていませんか!」
鍵……? 一瞬考えるが、最初の頃に魔物がカギを持っていたのを思い出し、ポケットを探る。すぐに金属の感触があり、取り出してからカイムさんに手渡す。
「あ、ありがとうございます……これでフレーレさんの所へ……」
「待って、その前にこれを」
カバンからハイポーションを取り出し、それもカイムさんに渡す。あちこち傷だらけで、髪もちりちりになっていたので回復をしてもらう。
「んぐ……んぐ……助かりました」
「ううん、それよりフレーレを頼むわね!」
頭を下げるカイムさんの回復は見届けず、私は再びアネモネさんの元へ向かった。
◆ ◇ ◆
「ふっふ、この姿になったら貴様らに勝ち目はないぞ! そおれ!」
<最終手段が蝦蟇蛙とはね、アタシが人化する前なんだったか思い出すんだね!>
大蝦蟇と化したキルヤが舌を伸ばし、アネモネを攻撃する。それに対し、アネモネは蛇之麁正を使って舌を弾き返しながらキルヤに迫る。
いかに舌が長く早かろうと、近づいてしまえば殺すのはたやすいと思っていた。
<でかくなったのは失敗だったね、これで終わりさ!>
「ふっふ……」
アネモネはキルヤの腹を目がけて刀を振る。しかし、キルヤは躱しもせず不敵に笑っていた。構わず刀を叩きつけ、ずぶりと刀が沈んだ。手ごたえあり、とアネモネが思った瞬間吹っ飛んだのはアネモネの方だった。
<何!?>
「ふわーはっはっは! 俺の体は衝撃吸収に電気を通さないゴムのようになっている……貴様の得意技は俺には通用せんぞ……そして……」
キルヤの体がフッと消え、吹き飛ばされたアネモネの後ろへと回り込み、身体を掴んでいた。
<うあ!>
「ふっふ……人間だった時の技が使えないと思ったか? 巨体になったら動きが遅くなる思い込むのが油断の証だなあ。少し惜しいが、このまま握りつぶすか……」
抜け出そうともがきながらアネモネは雷撃を体から放つが、キルヤの言うとおり雷撃はまるで通用しなかった。ギリギリと握る力が強くなったところで、キルヤの腕が手首から切断された。
「む!?」
<わ!?>
「キャッチでござる!」
「よくやった。とりあえず面は切断できる、というところか」
「チッ、水攻めが終わってしまったか……」
ズルン、と腕を再生しながら忌々しげに呟くキルヤ。アネモネがカラスを蹴飛ばしながら床に着地した。
「酷いでござる……」
<どさくさに紛れて尻を触るんじゃないよ! それより助かったよヴァイゼ、見てたかもしれないけどあの巨体でニンジャの技を使えるみたいだね>
そこで早くも復活したカラスが、キルヤに訪ねていた。
「キルヤ様、その姿はいったいなんでござるか……? 拙者、初めて見るでござるが」
「ふん、裏切り者め……と、言いたい所だがいいだろう。というより、そもそも俺はお前達の知るキルヤではない」
「な、なんですと!? ではお主は何者でござるか!」
「見ての通り、蝦蟇の化生よ。何もかもに絶望していたこいつを取り込むのは実に簡単だった、記憶・技……全て頂いたので、俺がキルヤと言っても問題は無いがな」
カラスはそれを聞いてカラスはゴクリと唾を飲みこみ、キルヤを見据えるがアネモネはそれを見てカラスの背中をバン! と叩いた。
<真相なんて今更だよ。あいつはアタシ達の敵、あれを味方するならそれでもいいさ。その代わり、覚悟はしてもらうけどね>
「前門のカエルに後門の蛇!? ……ええい、キルヤ様。拙者達が勝てば何があったか喋ってもらうでござるぞ!」
「ふっふ……勝てる気でいるのか? こういう事もできるのだぞ!」
そう叫んだキルヤの体が震え、三体に分裂した。
<分身、高度な技を使うね>
「ふっふ……しかも全部実体だ……さあ、幕を閉じるぞ……! 貴様等の死をもって!」
<その言葉、後悔させてやるよ>
アネモネが言うと、三つの巨体がニヤリと笑い、襲いかかってきた!
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