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最終部:タワー・オブ・バベル
その210 叱咤
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<バベルの塔:一九階>
カイムさんの動きが元に戻り、妖しげな罠に引っかかる事は無くなった。さらに魔物との戦いもレジナ達のおかげでほぼ先制を取れたのでダメージを負うことなく進めていた。
「ほとんどマッピングが終わったな……というか殆ど歩かされている」
「あ、本当だ」
私がレイドさんのマッピング板を覗き込むと、一八階までと違いびっしりと歩いた形跡が残されていた。それを見てお父さんが声をかける。
「魔物にうまいこと誘導されていたかもしれないな。この先、恐らく隠し扉だろう?」
「そうですね……ここか? ……階段ですね」
カイムさんが突き当りの壁を叩きながら呟くと、ボコッと壁が崩れて階段が見える。魔力や体力を使わせるために遠回りをさせたのだろうとお父さんは言う。確かに魔物を追うと行き止まりが多かったように思う。
『さて、登ってすぐに戦闘とはならないだろうけど一応ボスと戦うメンバーを決めておかないかい?』
階段を登ろうとしたところで、エクソリアさんが声をかけてきた。そうか、もう二〇階だしボス部屋になるんだっけ。
「カイム、お前はここまでずっと先導してきてくれたから、今回は休め」
「え? いいんですか?」
「そうね、また移動中は頼りにする事になりそうだから休んでいて。とりあえず私は行くわよ」
パパとママによりカイムさんは休息をしてもらうため今回は外れてもらうことになった。カイムさんも疲れていると実感しているのだろう、反論も無く受け入れていた。
「今回はじゃんけんとかではなく、決めてしまおう。俺とディクライン、アイディールは確定だ。残りは……」
<アタシは行かせてもらうよ? 暴れたりないからね>
<ではわらわは待つとしようか。リリーはどうする>
<留守番でいいっぴょん!>
「やる気ないわねぇ……じゃあ、私が行くわ」
「なら最後は俺に行かせてくれ」
アネモネさんとレイドさん、そして私が手を上げるとお父さんが頷きメンバーが決まった。そして階段を登りきると、今までのような襖と違い、門のような扉がそびえ立っていた。
『これがボス部屋って訳ね? 念のため私が開けましょう……あれ? 開かない……』
アルモニアさんが扉を押すと、扉はビクともしなかった。先ほど拾った鍵かと思ったけど鍵穴らしきものは無かった。
そこにカイムさんが前に出てきて言った。
「あ、えーと……非常に言いにくいのですが……これ引く扉です……」
カイムさんが引くと、ギィという音共にあっさり開いた。
『……』
顔を真っ赤にしたアルモニアさんがススス……と、後ろに下がって顔を覆っていた。ちょっと可愛い。それはともかく完全に扉を開き中を覗くと私達は当たって欲しくない予想が当たってしまった事に気付く。
「ガウ!」
「フレーレ!?」
「あ! ルーナ! す、すいません……捕まっちゃいました……」
部屋の奥に備え付けられた檻の中に、フレーレが居た。レジナの鼻は間違っていなかったのだ。部屋の中はというと、檻以外はだだっ広く、床は畳が敷き詰められていた。
私達は他に人物が居ないか確認していると、サッと部屋の中へ入る人影があった。
「馬鹿! カイム!?」
パパが慌てて止めるが、カイムさんは聞こえておらず真っ直ぐにフレーレの居る檻へと向かっていた! それは無茶よ!?
「フレーレさん! 今助けます!」
「ダメです! こっちに来たら! きっと罠です!」
<チッ、アタイが追うから援護を頼むよ>
「分かった! ヴァイゼ、アイディール行くぞ!」
「私も!」
「あ!? ルーナ! 痛っ!?」
アネモネさんの叫びで、パパ達が中へ入り、続けて私が入ると、即座に扉の前に魔法障壁が張られレイドさんがべしゃっとぶつかる。その間もカイムさんはフレーレの元へ近づいて行く。
だが……
「うわ!?」
カイムさんの足元に穴がパカッと開きカイムさんは落とし穴に落ちた。
「ほらやっぱり! わたしの事はいいんですよ! バカイムさんって呼んじゃいますよ!」
「う、面目ないです……これは油……?」
落とし穴はそれほど深くなかったみたいでホッとした。フレーレも言葉は辛辣だが、カイムさんが無事で安堵したようだ。そこに聞いた事の無い声が部屋に響き渡る。
「惚れた娘を前にして飛び出すか、しかしその行動が命取りよ」
「……!? まずい! ディクライン、カイムを早く引っ張りあげるぞ!」
ボボボ、と炎が落とし穴の真上に現れ落下していく。パパ達がカイムさんを引っ張り上げたところで炎が落とし穴に吸い込まれるように消え……。
ボウン!
「きゃあ!?」
ものすごい火柱が落とし穴から天井近くまで燃えあがる! もしカイムさんがまだ穴の中に居たら大火傷では済まないケガをしていたに違いない。
「あ、危なかった……」
「馬鹿野郎! 勝手に飛び出すんじゃない!」
「ぐあ!? す、すいません……」
パパに拳骨をもらっているカイムさん。そして、燃えさかる落とし穴と檻の前にいつの間にか一人の男が立っていた。
「フフフ……よくぞ二〇階へ来た。俺はキルヤ。言うまでもないがこの階のボスというやつだ」
「分かりやすい自己紹介ね。ならあんたを倒せばすべて解決よ! フレーレ、もう少し我慢してね!」
「無理しないでください! あう!?」
「ふん、うるさいわ! 火だるまを見れなかったのは残念だが、どうせすぐに息絶える事になる。そこで大人しく見ていろ。こいつらが全滅した時、お前はどうなるか分かっているだろう?」
「離れなさい! ≪マジックアロー≫!」
「む」
叫ぶフレーレの檻を殴りつけ脅すキルヤ。それを見たママが、マジックアローでキルヤを攻撃する。それに合わせてフェンリルアクセラレータで加速した私が斬りかかる。
「女の子を攫ってこっちの気をそごうなんて、いいおっさんが情けないわね。ギッタギタにしてやるから覚悟しなさい!」
「フフ……女どもの方が威勢がいいな、生かして捕らえた方が楽しめるか? 者ども、かかれい!」
外した!? このスピードを見切るなんて! キルヤが叫ぶと、壁や天井から黒装束が次々と出てきた。一五階で戦った集団と同じみたいね。
「さあ、まずは命がけの遊戯といこう……貴様からだ……」
ぐっと前かがみになったかと思った瞬間、キルヤは猛ダッシュしてきた。狙いは……ママ!?
「パパ! カバーを!」
「当たり前だ! せい!」
「ふっふ……! 力では分が悪い……!」
補助魔法は事前にかけてある。キルヤの刀とパパの剣が交錯すると、あっさりキルヤは弾かれる。早いけど力はそれほどない? しかし、足の速さは依然変わらない。斬りかかるパパを紙一重で回避し、その脇をすり抜ける。
「こいつ!?」
「なら私が一撃お見舞いしてやるわ!」
ママがメイスを構える振りかぶる! それを刀でガードするキルヤ。
「ずっと見ていたぞ? 檻にいる娘とお前が回復魔法の使い手ということをな……! シッ!」
「痛!?」
キルヤが片手でメイスを防ぎ、残った手で投げナイフのようなものをママに投げつけてきた。瞬間、身をよじったので肩をかすめた程度で済んだ。
「くらえ!」
「ふっふ……危ない危ない……」
「大丈夫、ママ?」
「かすり傷よ、残念だったわね。逃げ場はないわよ……う?」
「それは、どうかな……?」
キルヤが私とパパ、それにママに囲まれた状況でニヤリと笑いながらそんな事を言う。その言葉に呼応するかのように、ドサリ、とママがその場に倒れた。
カイムさんの動きが元に戻り、妖しげな罠に引っかかる事は無くなった。さらに魔物との戦いもレジナ達のおかげでほぼ先制を取れたのでダメージを負うことなく進めていた。
「ほとんどマッピングが終わったな……というか殆ど歩かされている」
「あ、本当だ」
私がレイドさんのマッピング板を覗き込むと、一八階までと違いびっしりと歩いた形跡が残されていた。それを見てお父さんが声をかける。
「魔物にうまいこと誘導されていたかもしれないな。この先、恐らく隠し扉だろう?」
「そうですね……ここか? ……階段ですね」
カイムさんが突き当りの壁を叩きながら呟くと、ボコッと壁が崩れて階段が見える。魔力や体力を使わせるために遠回りをさせたのだろうとお父さんは言う。確かに魔物を追うと行き止まりが多かったように思う。
『さて、登ってすぐに戦闘とはならないだろうけど一応ボスと戦うメンバーを決めておかないかい?』
階段を登ろうとしたところで、エクソリアさんが声をかけてきた。そうか、もう二〇階だしボス部屋になるんだっけ。
「カイム、お前はここまでずっと先導してきてくれたから、今回は休め」
「え? いいんですか?」
「そうね、また移動中は頼りにする事になりそうだから休んでいて。とりあえず私は行くわよ」
パパとママによりカイムさんは休息をしてもらうため今回は外れてもらうことになった。カイムさんも疲れていると実感しているのだろう、反論も無く受け入れていた。
「今回はじゃんけんとかではなく、決めてしまおう。俺とディクライン、アイディールは確定だ。残りは……」
<アタシは行かせてもらうよ? 暴れたりないからね>
<ではわらわは待つとしようか。リリーはどうする>
<留守番でいいっぴょん!>
「やる気ないわねぇ……じゃあ、私が行くわ」
「なら最後は俺に行かせてくれ」
アネモネさんとレイドさん、そして私が手を上げるとお父さんが頷きメンバーが決まった。そして階段を登りきると、今までのような襖と違い、門のような扉がそびえ立っていた。
『これがボス部屋って訳ね? 念のため私が開けましょう……あれ? 開かない……』
アルモニアさんが扉を押すと、扉はビクともしなかった。先ほど拾った鍵かと思ったけど鍵穴らしきものは無かった。
そこにカイムさんが前に出てきて言った。
「あ、えーと……非常に言いにくいのですが……これ引く扉です……」
カイムさんが引くと、ギィという音共にあっさり開いた。
『……』
顔を真っ赤にしたアルモニアさんがススス……と、後ろに下がって顔を覆っていた。ちょっと可愛い。それはともかく完全に扉を開き中を覗くと私達は当たって欲しくない予想が当たってしまった事に気付く。
「ガウ!」
「フレーレ!?」
「あ! ルーナ! す、すいません……捕まっちゃいました……」
部屋の奥に備え付けられた檻の中に、フレーレが居た。レジナの鼻は間違っていなかったのだ。部屋の中はというと、檻以外はだだっ広く、床は畳が敷き詰められていた。
私達は他に人物が居ないか確認していると、サッと部屋の中へ入る人影があった。
「馬鹿! カイム!?」
パパが慌てて止めるが、カイムさんは聞こえておらず真っ直ぐにフレーレの居る檻へと向かっていた! それは無茶よ!?
「フレーレさん! 今助けます!」
「ダメです! こっちに来たら! きっと罠です!」
<チッ、アタイが追うから援護を頼むよ>
「分かった! ヴァイゼ、アイディール行くぞ!」
「私も!」
「あ!? ルーナ! 痛っ!?」
アネモネさんの叫びで、パパ達が中へ入り、続けて私が入ると、即座に扉の前に魔法障壁が張られレイドさんがべしゃっとぶつかる。その間もカイムさんはフレーレの元へ近づいて行く。
だが……
「うわ!?」
カイムさんの足元に穴がパカッと開きカイムさんは落とし穴に落ちた。
「ほらやっぱり! わたしの事はいいんですよ! バカイムさんって呼んじゃいますよ!」
「う、面目ないです……これは油……?」
落とし穴はそれほど深くなかったみたいでホッとした。フレーレも言葉は辛辣だが、カイムさんが無事で安堵したようだ。そこに聞いた事の無い声が部屋に響き渡る。
「惚れた娘を前にして飛び出すか、しかしその行動が命取りよ」
「……!? まずい! ディクライン、カイムを早く引っ張りあげるぞ!」
ボボボ、と炎が落とし穴の真上に現れ落下していく。パパ達がカイムさんを引っ張り上げたところで炎が落とし穴に吸い込まれるように消え……。
ボウン!
「きゃあ!?」
ものすごい火柱が落とし穴から天井近くまで燃えあがる! もしカイムさんがまだ穴の中に居たら大火傷では済まないケガをしていたに違いない。
「あ、危なかった……」
「馬鹿野郎! 勝手に飛び出すんじゃない!」
「ぐあ!? す、すいません……」
パパに拳骨をもらっているカイムさん。そして、燃えさかる落とし穴と檻の前にいつの間にか一人の男が立っていた。
「フフフ……よくぞ二〇階へ来た。俺はキルヤ。言うまでもないがこの階のボスというやつだ」
「分かりやすい自己紹介ね。ならあんたを倒せばすべて解決よ! フレーレ、もう少し我慢してね!」
「無理しないでください! あう!?」
「ふん、うるさいわ! 火だるまを見れなかったのは残念だが、どうせすぐに息絶える事になる。そこで大人しく見ていろ。こいつらが全滅した時、お前はどうなるか分かっているだろう?」
「離れなさい! ≪マジックアロー≫!」
「む」
叫ぶフレーレの檻を殴りつけ脅すキルヤ。それを見たママが、マジックアローでキルヤを攻撃する。それに合わせてフェンリルアクセラレータで加速した私が斬りかかる。
「女の子を攫ってこっちの気をそごうなんて、いいおっさんが情けないわね。ギッタギタにしてやるから覚悟しなさい!」
「フフ……女どもの方が威勢がいいな、生かして捕らえた方が楽しめるか? 者ども、かかれい!」
外した!? このスピードを見切るなんて! キルヤが叫ぶと、壁や天井から黒装束が次々と出てきた。一五階で戦った集団と同じみたいね。
「さあ、まずは命がけの遊戯といこう……貴様からだ……」
ぐっと前かがみになったかと思った瞬間、キルヤは猛ダッシュしてきた。狙いは……ママ!?
「パパ! カバーを!」
「当たり前だ! せい!」
「ふっふ……! 力では分が悪い……!」
補助魔法は事前にかけてある。キルヤの刀とパパの剣が交錯すると、あっさりキルヤは弾かれる。早いけど力はそれほどない? しかし、足の速さは依然変わらない。斬りかかるパパを紙一重で回避し、その脇をすり抜ける。
「こいつ!?」
「なら私が一撃お見舞いしてやるわ!」
ママがメイスを構える振りかぶる! それを刀でガードするキルヤ。
「ずっと見ていたぞ? 檻にいる娘とお前が回復魔法の使い手ということをな……! シッ!」
「痛!?」
キルヤが片手でメイスを防ぎ、残った手で投げナイフのようなものをママに投げつけてきた。瞬間、身をよじったので肩をかすめた程度で済んだ。
「くらえ!」
「ふっふ……危ない危ない……」
「大丈夫、ママ?」
「かすり傷よ、残念だったわね。逃げ場はないわよ……う?」
「それは、どうかな……?」
キルヤが私とパパ、それにママに囲まれた状況でニヤリと笑いながらそんな事を言う。その言葉に呼応するかのように、ドサリ、とママがその場に倒れた。
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