パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その209 困惑

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 <バベルの塔:一八階>

 フレーレの無事を祈りつつ、私達は再び塔の制覇を目指す。そして今は一八階……ちなみに出発してから半日程度しか経っていないがすでに三階ほど登っていた。

 それというのも……

 「そこの右斜め45度のあたりにスイッチがあります。あ、ディクラインさんの今添えた左手を離さないでください、手を離すと天井が落ちてきます。チェイシャさん、ここの床は落とし穴なんですが、向こう側に見える灯篭を右に回してください。それでこの落とし穴は回避できるようになります」

 カイムさんが事あるごとに罠を見切り、どんどん進んでいくからだ。時間の短縮にはなるのでいい事なんだけど……。

 「わっ!?」

 ヒュンと、後ろを歩いていた私にシュリケンが放たれる!? 身動きできず目を瞑ると私の後ろで、ドシュっという音が聞こえたのでおそるおそる振り返ると、襲いかかろうとしていたムカデ型の魔物の頭にシュリケンが刺さり緑の血を噴出させながら倒れた。

 「あ、ありがとうございます……」

 「いえ、それよりも早く行きましょう、すぐに行きましょう」

 「あ、はい」

 いつものようにちょっと頼りない感じの笑顔は消え、真顔でスタスタと歩いていくカイムさんは別人のようだった。気がかりなのは分かるけどちょっと変わり過ぎじゃないかな?

 「うーむ、マズイな」

 「レイドさん?」

 「あいつはニンジャだ、俺も詳しくは知らないが任務遂行のためには自らの死を厭わないところがあると聞く」

 「それがどうマズイの?」
 
 私がレイドさんに聞くと、代わりにアネモネさんが答えてくれた。

 <カイムにとってフレーレは大事な人だ。このまま無事が確認できればいいけど、そうじゃなかった場合どうなるか分からんのさ。もしフレーレが死んでいたりでもしてみろ、勝手に突っ込んで犬死にするかもしれん>

 「わん?」

 「シルバは狼でしょ。なるほどね、冷静に見えるのはまだフレーレがどうなっているか分からないから、か」

 犬、と聞いてシルバが反応していたがそれどころではない。ちょっと気をつけないといけないかもしれないと、レイドさんはカイムさんの横へと立ち並び前へと進んだ。

 「あまり気負うな、俺も人の事は言えんが焦ってもいい事はないぞ」

 「あ、はい……申し訳ないです……」

 <さて、まだ階段までありそうじゃ、気をひきしめていくぞ>

 「ガウ!」

 チェイシャが声をあげ、私達も進んでいく。レイドさんに窘められてカイムさんも少し落ち着きを取り戻していたのか、一八階は慎重に進み難なく階段まで到着する。

 『もうネタ切れかしらね? 魔物も同じようなやつばかりだし本当にゲームみたいだわ』

 『だったら楽だけどね、あまり楽観視しない方がいいとボクは思うけどね』

 女神姉妹が魔物をばっさりと倒しながら、続いて一九階へと足を運ぶ。

 「変わり映えはしないな」

 「それでも手抜きって感じはしないけどね。角に気配があるわ≪ライティング≫!」

 グオォォォ!?

 角で待ち伏せしていた金棒をもった魔物が突然飛来したライティングを見て声をあげた。その直後、狼達に襲いかかられあっという間に喉笛が噛み千切られ絶命する。

 「わぉん」

 「……鍵?」

 シルバが倒した魔物の腰についていた鍵と思わしきものを咥えて私の元へ持ってくる。どこかで使う鍵だろうか……?

 「一応持って行った方がいいな、もしかしたら階段のある部屋が施錠されているのかもしれん」

 「うん、よくやったわねシルバ」

 「わん!」

 お父さんがそんな事を言い、元気よく吠えたシルバは気をよくしたのかテクテクと鼻を鳴らしながらカイムさんと一緒に前を歩きはじめた。負けじとシロップにラズベが後をついていった。

 「先は長い、行こう」

 十九階の探索はまだ始まったばかりだった。



 ◆ ◇ ◆


 <バベルの塔:二〇階>


 「恋人がいない、とはどういうことだ?」

 「えーっと……そのままなんですけど……」

 キルヤが眉をひそめてフレーレに再度質問するが、困った顔をしてやはり同じ回答が返ってきた。嘘をついているような素振りは一切なく、腕を組んで考える。

 「(おかしい……あの若い忍びは間違いなくこの娘を慕っている。しかしこやつに恋人はいないという……まさか……)」

 キルヤが良く考えれば分かる事に気づき、フレーレに質問を投げかける。

 「……あの忍び……カイムとかいったか? あやつから告白されたことは……」

 すると、フレーレが目を丸くしてキルヤを見る。この人は一体何を言っているんだ、という目だ。

 「一体何を言ってるんですか? カイムさんがわたしに告白してくるわけないじゃないですか。友達なのに」

 本気の眼だ。

 キルヤはぞっとした。

 ルーナ達が塔に入ってから、ルドレイ(一〇階のボス)のように手下を使って様子を伺うということを行っていたが、カイムがべったりとフレーレにくっついていて、さらにフレーレも笑顔で接していたのだ。あれほど一緒にいて違うなどということがあるだろうか……あれでカイムの一方的な好意のみだというのなら、この娘はあまりにも残酷すぎる、と。
 
 「……お主、そのカイムという男についてどう思う……?」

 「? カイムさんですか? わたし達に協力してくれてありがたい人ですよ、何でか分からないですけど、わたしにも優しく接してくれますし。ただ、わたし以外の人とももっとお話してくれたらいいのにとは思いますけど……」

 「何と……あ、あの男はお前の事を好いておる事に気付いておらんのか?」

 「変な事を言いますね? わたしなんかが好かれるわけないじゃないですか」

 フレーレが訝しげな目をキルヤに向けながら答えると、周りの男達が青ざめたキルヤに声をかけた。

 「キ、キルヤ様……まさかアカザは犬死……」

 「い、いや、こいつらのパーティは仲間を大切にする。使い道はあろう、あの忍びの片思いとはいえそこを突けばあるいは……も、もういい……とりあえず演舞場の檻に入れておけ、そこが戦場になる」

 「かしこまりましたでござる。ほら、こっちでござる!」

 「何だったんですか! 勘違いなら帰して欲しいです! あ、ちょっとお尻触りましたね!」

 「誤解……ぶふう、でござる!?」

 男二人に連れられフレーレは部屋から出て行った。

 「まったく……鈍感にもほどがある……だが、男の片思いということであればそれはそれで面白いものが見れるはずよ……」

 計画は少し変わったが、やる事は変わらないとニヤリと笑うキルヤであった。
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