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最終部:タワー・オブ・バベル
その208 不安
しおりを挟む<バベルの塔:一五階>
「ふあ……おはよ……」
「起きたかルーナ、良く寝ていたな」
目を覚ました私はお父さんと目が合う。体をゆっくりと起こすとお腹の上で寝ていたシロップがコロンと転がり目を覚ました。
「きゅきゅー……ふぁ……」
「あら、大きなあくび。ぐっすりだったのね」
シルバ達はと思い回りを見ると、囲炉裏の前でシルバとラズベが寄り添って丸くなっていた。
「あれ? レジナとチェイシャがいないわね」
「ああ、今は外を調査中だ。もう少ししたら全員起こすとしよう。とりあえずルーナはレジナとチェイシャを呼んできてくれないか」
朝食の準備をしながらお父さんが探してきてくれと言うのでシロップを抱っこして私は外へ出た。アンデッドのお父さんは寝なくて平気らしく今日は一人で見張りをしていてくれたんだけど、特に夜襲があるといったことは無かったのでこの辺はもう安全だろうという事だった。
「チェイシャー、レジナー、朝ごはんよー!」
「きゅきゅーん」
まだ戦闘の跡が残っている庭を散策していると、雑木林からチェイシャ達がひょこりと出てきた。
<ルーナか、階段を見つけておいたぞ>
「あ、ホント? それは助かるわ!」
「わおわおーん」
自分も頑張ったと、頭を摺り寄せてくるので私はレジナの頭を撫でる。すると、胸元のシロップが撫でて欲しいのかもぞもぞと動いていた。
<しかしレジナが奇妙な事を言っておったのが気になる。ここに居ないはずのフレーレの匂いがしたらしい>
「フレーレ? セイラと一緒に拠点に残ってもらったのに? 追いかけて来た……なら声をかけてこないはずはないか……まさか……フレーレの下着とかをカイムさんが持っていて落とした……?」
「わおん!?」
<そりゃ冤罪じゃぞ、カイムがかわいそうじゃ……>
レジナがそれは無いと前足を振り、チェイシャが呆れてた声で私を蔑む目を向けてきた。
「冗談よ、冗談。辺りには居ないの?」
<うむ、匂いはすぐに消えてしまったそうじゃ。それを聞いて端から端まで調べておったところに階段があったというわけじゃ>
ううむ、気になるけどレジナとチェイシャが探して見つからないならここにはいないのだと思う。拠点で無事を確認するためには二〇階まで行くしかない。
私達が小屋に戻ると全員目を覚ましており朝食の準備ができていた。今日は野菜のスープにパン、干し肉と野営には欠かせないシンプルなものだった。
食事をしながら先ほどの話をすると、パパが険しい顔でパンをかじった。
「もし仮にフレーレちゃんがいたとして、それを確認する術がない。確認をして戻ろうにもここから拠点に戻るより進んだ方が早い可能性が高い。動揺を誘うつもりで本人を誘拐したのか、レジナに分かるようにどこかで手に入れた持ち物の匂いを嗅がせたか……それは分からんが揺さぶろうとしているのは間違いないな」
<進むしかないっぴょんね……もし誘拐されて、あんなことやこんなことをされていたらと思うと胸が張り裂けそうっぴょん。愛が無いのはダメだっぴょん>
リリーが首を振りながら物騒な事を呟いた。それを合図にママが立ち上がり叫んだ。
「そうね、最悪を考えてすぐ動きましょう。こっちも慣れてきたし、二〇階まで一気に行ってから拠点に戻って無事を確認したらいいじゃない!」
「うむ、アイディールの言うとおりだ。早速行こう、カイムすまんがまた頼めるか?」
「……」
「カイム、どうした?」
「あ!? は、はい! い、行きましょう!」
レイドさんがカイムさんの肩を叩いてお願いをすると、ボーっと床を見ていた。もう一度声をかけると慌てたように返事をした。
フレーレの事だから嫌な予感はしたけど、出発した私達に待っていたのは……地獄だった。
「うわ!? カイム大丈夫か!? 臭っ!?」
汚水を出す罠にかかったり……
「きゃあ!?」
「ルーナ!? ぬうおおお!?」
カイムさんが踏んだスイッチで私が落とし穴に落ちかかったり……
「むう!?」
「お、お父さん!?」
『大丈夫、アンデッドだから腹を貫かれたくらいでは死なないよ』
壁から飛び出る槍がお父さんのお腹にどすりと刺さったりと、今までの進軍が嘘のように次々と罠にかかる私達。原因は言わずもがな、カイムさんのせいだった。何とか一七階に辿り着いたが、もう一日が終わるであろう時刻に差し掛かっていたので今日は休む事になった。
「も、申し訳ありません……」
「まあ、フレーレちゃんの事だからお前が動揺するのは分かっていたが……酷かったな……」
「ニンジャってのはもう少し冷静だと聞いていたが……」
<ったく、情けない男だね! 好きな女が気になるのは分かるけど、今は考えても仕方ないだろう!>
レイドさんやパパは呆れていたが怒ることは無く、代わりにアネモネさんがカイムさんの首を絞めながら激高していた。
「うぐぐ……!? フ、フレーレさんが好きだって何で知ってるんですか……!」
「うん、そりゃあね……」
見ていれば分かる。
だが、カイムさんは隠しているつもりだったらしい。気付いていないのはフレーレだけなんだけどね。
<とりあえず皆無事じゃったからいいが、明日もこんな調子じゃったら……覚悟しておくのじゃぞ>
「ガウ!」
「わう!」「きゅんきゅん!」「きゅふん!」
狼達が歯をガチガチと鳴らし威圧する。
この子達も被害にあっているため容赦はしない方向のようだ。休憩のため選んだ部屋の隅でしゅんとなるカイムさん。少し可哀相だったので私は元気づけてあげるため、話しかけた。
「大丈夫、あれでもフレーレは強くなったもの。何かあってもすぐに死んだりしないわよ! もし誘拐されていたら、誘拐犯を憐れむわ!」
「ルーナさん……そう、ですね。確かにフレーレさんは強い人です……ありがとうございます、吹っ切れました。明日からはご期待通り働いて見せます!」
「無理しないでね? 私達を頼ってもらって構わないんだから」
そういうとにこりと微笑んでから、少し休ませて欲しいと横になった。私はカイムさんから離れて、皆の所へ戻るとレイドさんが話しかけてきた。
「大丈夫そうか?」
「あ、うん。一応、頭では分かってるみたいだし、大丈夫じゃないかな?」
「……まあ、安否が分からない不安は分かるからな……言い過ぎたかと思ったから気になってた」
「ふふ、そうなの?」
「ルーナもビューリックに誘拐されただろう……あの時どれだけ心配したか……」
「た、確かに……すいません……」
私が謝ると、レイドさんがフッと笑って頭をくしゃっと撫でてくれた。あの時のフレーレも同じ気持ちだったのかな? 何があったか分からないけど、無事でいてほしい。心からそう思った。
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:二〇階>
「うお!? こ、こいつ大人しくしろ!?」
「嫌です! こんなところ……ってどこか分かりませんけど、連れて来て! わたしにえっちな事をするのは分かっています! だから全力で抵抗させてもらいます!」
目が覚めたフレーレは布団に寝かされ、男達に囲まれていることに気付くと、即座に暴れ出した。武器は持っていないが、聖魔光がある事までは知らなかった男達は油断していたのだ。
「強いでござる……!」
「フフフ、気の強い女を屈服させる楽しみと思えば……」
「ぶっ倒れているやつの台詞じゃないと思うがな。まあいい、それより今はそんな事をするつもりは無い。まずは我らのボスに会ってもらう。着いて来い」
「ボス……?」
倒れた男が、残る二人の男に両脇に抱えられて立ち上がり部屋を出て行く。フレーレはどうするかと一瞬考えたが、逃げる事はできなさそうだと判断し、渋々着いていく事にした。
ボスが居ると言う部屋にはすぐに到着し、男が声をかけると、中からおじさん、といった感じの声が返ってきた。
「キルヤ様、連れてきました」
「早かったな、入れ」
襖を開けると、広め……それもかなりの広さをもった部屋に男は居た。それを見たフレーレは冷や汗が噴きだしていた。
「(何ですかこの人は……そこにいるだけなのに威圧感がすごいです……)」
フレーレがそんな事を考えていると、耳元で声がした。
「ふむ、中々の美貌だな。今、お前の恋人がここを目指して登ってきている。一番厄介なのは世界は違えど、我らと同じような忍びは考え方が似るのでこちらの思惑の邪魔になりやすい……お前をみて動揺したら……」
壮大な計画をペラペラと喋るキルヤ。だが、フレーレは段々眉をひそませてキルヤに声をかけた。
「あの……わたしに恋人は居ませんけど……誰かと間違えていませんか?」
「え?」
「え?」
フレーレの言葉にきょとんとするキルヤ。フレーレも何だか分からないといった感じで目を丸くするのだった。
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