186 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その207 増援
しおりを挟む「……特に怪しい所はありません、休めそうです」
カイムさんが先行して小屋を調査し、問題ない事を確認。私達はその言葉でぞろぞろと小屋へ入っていく。中はシンプルな作りで、真ん中に囲炉裏が設置されていたため私は火をおこしてようやく腰を落ち着ける事ができた。
「はあ……つっかれたぁ……」
<手ごわい相手じゃったのう、カイムは特に神経をすり減らしたと思うし感謝するぞ>
ゴロリとタタミに寝転がると、チェイシャが近くに寄ってきてそんな事を言う。レジナ達も私の近くに来てじゃれてくる。シルバは大きくなってきたからお腹に乗られると重い……。
「こうなると二十階のボスとやらも一筋縄ではいかないだろうな。強さは置いとくとして、搦め手が得意な相手だとこちらは分が悪い」
お父さんが胡坐をかいて、考える仕草をしていた。確かにヴァンパイアのように正攻法なら、数はこちらが多いのでボスが一人であれば力押しで何とかなる。けど、今回のように奇襲や暗闇といった対応は噛みあわなければ難しい。
<とりあえず神裂とやらはこちらの戦力を把握しているフシがあるさね>
『それもあるけど、交戦した時と今ではこっちも戦力が違う。もしかするとこっちの能力を調査しているんじゃないかと思うんだよね』
「そっか、どこかで見ている可能性が高いものね。でも最上階までには私達も強くなるんじゃない?」
アネモネさんの言葉にエクソリアさんが答え、ママがそんなことを言う。確かにここの魔物は外よりも格段に強い。実際外なら一人でも魔物を相手にするのは難しくないが塔の内部は協力して戦わないと結構危険だったりする。せめて移動中は戦力を増やして楽が出来たらいいのにね。そんな事を考えながら目を瞑っていると、急速に眠気がきたのだった。
◆ ◇ ◆
<塔の外:拠点>
「ちくしょう、むざむざと攫われるたぁな……」
「すまない、私がついていながら……しかし何故フレーレだったのかが分からん。攫うなら意識の無いセイラの方が楽だったはずなのだが……」
「むう、目的が不明というのは厄介なものじゃ。しかしトマスが転移陣から出てくる時に塔へ入っていく人影を見たらしいから、塔へ連れて行かれたというのが濃厚じゃろうな」
夜通し付近を捜索したが、フレーレや男達は見つからなかった。クラウスにカルエラートとモルトが、自滅した男を外へ埋葬しながら話をしている所で、唯一の手がかりはトマスのみた人影のみ。それも大過なことが分からない状態なのだ。
「もし、誘拐犯が神裂の手の者だというなら今後拠点の出入りも考えないといけないな。確実な味方を見つけるのは難しいとは思うが……」
カルエラートが落ち込んでいると、クラウスが首を振って言い放つ。
「いんや、俺も簡単に中へ入れ過ぎた、悪かった」
「反省するのは必要じゃ、中々……ん? ちょっと待て、あれは……」
カルエラートとクラウスがお互い頭に下げ合っていると、慌てた様子でブラウンが走ってくるのが見えた。
「リーダー!! カルエラートさん! 塔を目指してきたっていう人たちが!」
「やれやれ、言ったそばからか」
カルエラートがため息をついて首を振り、拠点へと向かうのだった。
四人が拠点へ戻ると、ブラウンの言うとおり見慣れない人達がいた。いや、『人達』ではなくもはや『一団』といった方が早いであろう数だった。
「多いのう、あの鎧はサンドクラッドの物じゃない。となると別の国から来たのか?」
「あ! ありゃもしかして!?」
クラウスが思い出したかのように走っていき、カルエラート達三人もそれに着いて行く。総勢で五十人はいるだろうか? 明らかに騎士だと思われる集団がカルエラート達へ振り返り、クラウスは恐らく居るだろうと予測していた人物の元へと辿り着いた。
「おやー? あなたは確か……」
「やはりいやがったか、確かエリックとか言ったか?」
「うんうん、覚えていてくれたとは光栄だよクラウスさんー?」
「……知り合いか?」
カルエラートが尋ねると、クラウスが口を開いていた。
「こいつはビューリック国の副団長のエリック。前にルーナちゃんを誘拐した事のあるいけすかねぇ野郎だ
」
「おっとー、美人さんを前に酷い紹介だねー?」
「ふむ、ディクラインがルーナを助けに行ったあの時か」
カルエラートが睨むと、エリックは肩を竦めてため息をつく。しかし、悪びれた様子も無く質問を始めていた。
「あの時の事を知っている、ということはルーナちゃんもここに居るのかなー? で、ここは一体何なのか教えてくれると非常に助かるんだけどー?」
カルエラートがクラウスに目を向けると、「いけ好かないが身元は問題ない」と言うので現状について話すことにした。
「その前に名乗っておこう。私はカルエラートだ。さて、どこから話すべきか……」
そしてこの拠点の事、現在ルーナは塔を制覇中で、思ったより苦戦していること、そしてフレーレが誘拐された事を掻い摘んで教えると、エリックはいつもの笑みを止めて顎に手を当てて考え始めた。
「なるほどねー。一筋縄ではいかないと思っていたけどもう少し覚悟は必要かー。ルーナちゃんには借りもあるし、協力させてもらうとしようーイリスー、ウェンディ」
「はーい」
「どうしましたか?」
エリックが呼ぶと、声の可愛い女の子がシュン! と一瞬で目の前に現れた。遅れて長身の女性もやってくる。二人が敬礼をするのを見届けてからエリックはオーダーを出した。
「ウェンディはその力を活かして拠点の拡張を手伝ってー。イリスは僕と一緒に塔へ向かう。そうだねー他に何人か連れて行こうか? 選別を頼むよ。ビューリックの騎士は外で野営の準備を進めさせてー。まあ信用されるようになったら、拠点に入れる様交渉するー。ウェンディは騎士達のまとめと、指示をもらってから動くのを中心に考えてくれー……で、いいかな?」
イリスとウェンディは「はっ!」と返事をして、それぞれやるべき事をするために散って行った。
「……助かる。いいのか、外は魔物に襲われる可能性が高いぞ? それにもう行くのか?」
「それなりに鍛えたやつらを連れて来たからねー。ま、拡張したら負傷者をお願いするかも? んー、勇者達が登っているなら、無理に戦わないでサポートに徹するのが安全そうだしー? ……フレーレちゃんの居場所にあたりがついているなら行くべきだ……なーんてねー」
またへらへらと笑みを浮かべながら、そんな事を言うエリック。そのままヒラヒラと手を振りながら騎士達を集め、話を始めていた。今後の動きについての事だろう。
「食えない男じゃのう、だが……」
「あれでもビューリックのクーデターを成功させたってヤツだからなぁ。それに戦力が増えるのはありがてぇな。拠点に人が増えりゃ俺も塔へ行くとすっかな」
「モルトさんにここを任せて私も登るべきか」
「おいおい、ワシに押し付けるのはやめてくれ!? 勇者パーティが作り始めた拠点だ、そのメンバーが居る方がいいだろうよ。サンドクラッドの連中が来たら、ワシも中へ入る。それまでは拠点の拡張作業を手伝うさ」
「むう……」
毎回お留守番になっているカルエラートは頬を膨らませるが、セイラの事を放っておくわけにもいかないか、と納得し拠点へと戻っていく。
「もう、夕方か……みんな無事で帰ってきてくれ。そうだ、明日は買い出しに行かないと……」
戻って来ないルーナ達を思いながら、日課となったご飯の準備に取り掛かるカルエラートだった。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。