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最終部:タワー・オブ・バベル
その206 暗闇
しおりを挟む戦力を分断された私達は容赦なく襲ってくる黒ずくめの集団……忍びを相手に奮闘していた。ここは向こうのフィールドだけあって、数もさることながら苦戦を強いられていた。私も弓での援護は厳しいため、久しぶりに剣を抜いて対応にあたっていた。
「ガオォォン!」
「うわああああ!?」
ザッパーン!
「ナイスよレジナ、シルバこっちも!」
「わん!」
「ま、前が見え……ぐああ!?」
レジナが相手の首を噛んでそのまま池へと放り込んだり、シルバが顔に取りついて私が斬るといった連携がうまく決まり、少しずつだが数を減らしていく。
チェイシャも素早さとシロップとの連携で麻痺・毒に加えて目つぶしを使い動きを封じていく。それでも攻撃を加えてくる猛者もいるので油断はできないのだ。
「小癪な! もらったぞ!」
「させるか!」
私の背中から斬りかかってきた忍びをレイドさんがその後ろから剣でばっさりと攻撃していた。
「ありがとうレイドさん!」
「背中は任せろ、死角をなくして対応するぞ。カイムは……まだ倒せていないか、やるようだな……」
少し目線を泳がすと、先程偉そうな態度を取っていた男とカイムさんがかなりの速さで交錯し、すれ違いざまに剣戟の火花が何度も散る。手練れのニンジャとしてのカイムさんの戦闘を見るのはもしかしたら初めてかもしれない。
「貴様、主が気に掛けるだけあってやるではないか……」
「何の……ことだ!」
カキィィン!
「はっ!」
「若いな、射線が見え見えだぞ……む」
刀と刀の競り合いをカイムさんが嫌い、突き放してからシュリケンを投げるが無駄の無い動作でスッと回避する男。
「それくらいは分かっている」
カイムさんはシュリケンを投げたと同時にすでに前に出ており、偉そうな男へと斬りかかっていた。
「なるほど、油断はできんらしいな。土遁」
「!? 足元が!」
男がなにやら呟くとカイムさんの足元に穴が空き、咄嗟に別の方向へ進路を変えた。しかし、それを見越していた男がすぐ横に迫っていた!
「マズイ……!?」
「俺の名はサカキ……地獄に落ちても……」
サカキと名乗った男の刀がカイムさんの首へと向かう、無理に穴を避けた態勢からさらに軌道を変えるのが難しいのか焦りの声を上げた。
<そうはいかないってね!>
「チィ、あと一歩のところで! ぐほ!?」
しかし、そこにアネモネさんがしゅるりとサカキの足へ絡みつき、間一髪で刀はカイムさんの肩を切裂いたのみにとどまった。隙を見て刀の柄でサカキの鳩尾へ柄で一撃を加えるとお互い距離を取った。
「ふう……ありがとうございます……」
<ヤツは強い、一人で無理するんじゃないよ>
「カイムさん、こっちももう少しで終わるから持ちこたえて! この、しつこいのよ!」
私が叫ぶと無言でうなずき、じりじりとサカキと間合いを取っているのが見えた。その時、お父さんたちを攻撃していた集団が爆発と共に宙へ舞い、全滅した。
「この程度で囲んだ気になったとは舐められたものだな。『元』がつくとこんなもんか」
「いや、というかお前死んでるし……」
『神裂がこちらをどこまで把握しているか分からないからね。ボク達や実際に戦ったディクライン、ルーナ達と違い、ヴァイゼはあの時居なかったからね』
「な!? 早……」
そんな事を話しながら、素早く私達を囲んでいた忍びの集団を挟み打ちの形にして攻撃していく。流石に後ろからの攻撃には対処できなかったか、サカキを残して忍び達は次々と倒れて行った。
<後はあなただけですぴょん!>
特に何もしていないリリーがサカキを指差し高らかに宣言する。まあ実際その通りなので別にいいんだけど、何かもやもやする……。あ、シロップに噛まれた。
「雑魚共め、足止めもできんとは」
「その間に私を倒せなかったお前にも責はあるのでは?」
「言うわ! これで終わりではないぞ!」
パァンとサカキが手を叩くと、辺りが一面真っ暗になった!?
「古臭い手ね<ライティ……>」
ママが明かりを灯そうと魔法を唱えようとしたところでサカキの声が響く。
「させると思うか?」
「危ない……!」
キィン、と火花が散り、一瞬ママのすぐ横にサカキがいるのが見えた。カイムさんが弾いてくれなければもう少しで死んでいたかもしれない。
「ここか!」
「……フッフフ……若造は見えているようだが、勇者共は見えておらんようだな……部下もこの暗闇では動けんので封印していたが、俺一人なら問題ない……いつまでもつかな?」
「ガウ!」
「きゃあ!?」
「ルーナ!? チッ……どこだ……」
「浅かったか、狼もやるものよ……」
どもう私が狙われていたようだったけど、レジナが何かしてくれたのか、私は腕に軽い痛みを覚える程度ですんだ。レイドさんが声を頼りに近くに来てくれ、剣を振るが手ごたえは無かったみたい。
ガッ! キィン!
「わん!?」「きゅんきゅーん……」
「こう暗くっちゃ何も見えん……痛っ!? くそ!」
その後も暗闇の緊張の中、相手が見えているレジナやシルバにシロップ、それにカイムさんが私達に迫るサカキを退けてくれているが完全に相手が有利のまま数十分が経過。致命傷は無いが、太ももや関節など防具の隙間をぬってじわじわとダメージが蓄積されていった。
「ふう……はあ……」
「ガウゥ……」
「どうしよう……何かいい手は無いかしら……」
カイムさんもレジナ達も消耗が激しい、何度かママがライティングを試していたけどその度に阻まれていた。私が考えを巡らせていると、サカキがどこからともなく呟いた。
「フフフ、そろそろトドメと行こう。まずは若造、貴様からだ」
「くっ……!?」
この暗闇で私達を守る事を想定していたのか、疲弊したカイムさんをまず狙いにはしろうとするサカキ。カイムさんがやられたらここはおろか、先に進んでも罠を解除できる人が居なくなってしまう……!
するとそこで、突然エクソリアさんが叫んだ!
『光刃よ!』
「気でも違ったか? 自殺行為とはこのことだぞ女神……!」
手に光の剣を出して、辺りを光らせるエクソリアさん。当然サカキは狙いをエクソリアさんにつけ、恐らく向かっているに違いない。
やられる、と思ったけど、その後とんでもない光景を目にすることになった!
「まずはお前から死ね」
『見えた! 牛!』
「はいぃぃ! ブモフォ!!」
「何と!? うおおおお!?」
何と、光の刃を出したエクソリアさんはそのまま動きもせず、じっと立っていた。サカキが斬りかかろうとしたその時、どこで待機していたのかアステリオスがサカキに体当たりを仕掛け、そのままサカキを押してしばらく突進。そして雑木林の木へと叩きつけた。
「ぐほっ!? この裏切り者め、よくも……」
「貰った!」
シュピン……!
サカキがアステリオスの頭に刀を差そうとしたが、それはカイムさんによって阻まれた。
「ぬかった……この俺が!? し、しかし俺に苦戦しているようではキルヤ様にはとう、て、い……」
息絶えたのか、サカキが喋らなくなるとフロアが再び明るくなる。見渡すと、お父さん以外はケガが酷い。私も例外ではないけど、レイドさんが守ってくれていたので血だらけという事は無い。
「<リザレクション>!」
「た、助かりました……」
「わぉーん♪」「きゅんきゅん♪」
一番ケガが酷かったカイムさんと狼達を回復させ、他のメンバーも癒されていく。痛みは消えたが、どっと疲れが押し寄せてきた。
『私はまだ動けるけど……ここで休んだ方が良さそうね。あの小屋、使わせてもらいましょう』
アルモニアさんの提案により、小屋で一泊する事になった私達。キルヤ、というのがボスらしいけど、サカキでこれだけ苦戦したのにどれだけ強いのか……そう思わずには居られなかった。
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