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最終部:タワー・オブ・バベル
その204 玉砕
しおりを挟むカン! キィン!
ドタドタと、狭い室内でバステトがキルヤの刺客と交戦する。バステトは垂れ目の男と、ジャンナは小鳥の姿のまま、もう一人の男を翻弄していた
<む、中々やるにゃ>
「は、猫が刺突剣とは変わった世界だ!」
垂れ目の男は鉤爪でバステトの攻撃を捌く。バステトの攻撃が遅いわけではないが、うまく軸をずらされているため決定打には遠い。このままでは埒があかないと、バステトが叫ぶ。
<ジャンナ、フレーレとセイラを起こして逃がすにゃ! できれば援軍を……>
「それは私が引き受けよう」
バァン!
「ぬぐ!?」
乱暴にドアが開けられ、傍に居た男が派手に吹き飛ばされた。
<カルエラートかにゃ! 助かるにゃ>
「寝るには少々騒がしいみたいだからな。ふふ、これで頭数は同じになったぞ?」
騒ぎを聞きつけてきたのはカルエラート。剣を相手に突きつけて不敵に笑う。その隙にジャンナがフレーレを突いて起こしていた。
<ぴー! フレーレ、起きなさい!>
「う、ううん……ジャンナですか……?」
<そうよ! 緊急事態! 賊よ賊!>
「むにゃ……ぞくぞくします……賊!?」
ガバっと勢いよく布団を剥いで起き上がるフレーレ。横を見ると、目だけ出ている覆面姿の人影を二人見つけ、ぶるりと震えた。気配には敏感な方だがまったく気付かなかったからだ。
「チッ、起きたか……まあいい、蹴散らして連れて行けばいいだけの話!」
垂れ目の男が喋りながらバステト……に行かず、カルエラートへ踏み込む! 同時にもう一人の男が頭上からカルエラートへ襲いかかっていた。
「ふっ!」
<二人で一人を狙うのはいい手だけど、わたしが居る事を忘れちゃダメにゃ!>
「猫、邪魔をするな!」
カルエラートが垂れ目の男の爪を剣で受け、バステトがもう一人の男を蹴り、挟み撃ちの態勢を取る。そこでカルエラートがセイラを起こしているフレーレに声をかけた。
「どうやらこいつらの狙いはお前だフレーレ! こいつらがさっきの冒険者だとしたら後二人いる、そこから動くんじゃないぞ!」
<ぴー、私がクラウスたちを呼んでくるわ! フレーレ、窓を開けて>
「は、はい! セイラ、起きてください!」
<頼んだにゃ!>
木の板が開閉するだけのシンプルな窓をフレーレが開けると、ジャンナが凄い勢いで飛んでいった。カルエラートは頷き、垂れ目の男を押し返す!
「たあ!」
「とっと……! へえ、乳だけじゃなく力もすげぇんだな」
「世迷言を……!」
狭い部屋での交戦が続き、暗闇の中で打ち合いの火花が散る。斬撃は速いカルエラートだが、狭い部屋で思い切り振りかぶることが出来ないので相手の傷は浅かった。
「のらりとする……!」
<焦っちゃダメにゃ、誰か来るまで耐えれば勝ちにゃ!>
「細い剣でよくやる」
ギリギリともう一人の男と睨みあいながらバステトが叫んだ。そこに垂れ目の男が攻撃を止めてバステト目がけて投げナイフのようなものを投げつけた。バステトは避けるためその場を離れると、もう一人の男と垂れ目の男が合流する。
「さて……俺達ぁ直接戦闘は苦手なんだが、逃がしてくれ無さそうだな」
<観念したかにゃ? このままクラウス達が来たらお前達の負けにゃ>
ビシュ、とレイピアで突きながら相手を壁際へ追いつめるバステト。男達は部屋の角を背にし、左右をバステトとカルエラートに塞がれる形になった。
「これで逃げられんぞ」
「……ふん、任務を果たせず戻ったところで殺されるのは目に見えている。大人しく捕まった方が生き延びれるかもな……だが!」
「お前……!」
垂れ目の男が何かを決意し、両手に爪を装着して二人に襲いかかる!
「!?」
<にゃにゃ!?>
ドシュ! ズブシュ!
咄嗟にバステトとカルエラートが反撃に出て、垂れ目の男の体を武器が貫通する。男はニヤリと笑い、そのままバステトとカルエラートの手首を掴んだ。
「な!? は、離せ!?」
「くくっ……そう簡単に外させないぜぇ? げぼ……おい、今の内に連れて行け」
垂れ目の男がもう一人の男に言うと、三人を飛び越えてフレーレへと向かった。
「アカザ、お前の死は無駄ではないぞ」
「フレーレ! 逃げろ!?」
カルエラートが叫ぶと、セイラを起こそうとしていたフレーレの体がビクっと震える。
「で、でも! ……は、はい!」
目覚めぬセイラを再びベッドへ横たえると、フレーレは窓を開け乗り越えようとした。しかし、そこは忍び。あっという間に男に口を押えられ気絶させられてしまった。そこへクラウス達、ブラックブレードのメンバーが駆け込んでくる。クラウスは状況を一瞬で把握し、フレーレを抱えた男へ斬りかかる。
<にゃんとぉ!?>
だが、アカザと呼ばれた垂れ目の男がバステトをクラウスに投げつけて妨害したのだ!
「チッ!?」
「さらばだ」
窓からもう一人の男が出ようとし、それをキールやブラウンが魔法と投げナイフで止めようとするが、アカザがここぞとばかりに懐から何かを取り出し、床に叩きつけた。
「はっはあ! フィナーレだ!」
カッ!
床に叩きつけられた何かはボフっという音共に爆発し、眩いばかりの光を放った。暗闇の中で急に照らされ、その場にいた全員の眼が一瞬で眩む。
「くそ……! 何も見えねぇ!」
<ぴー! フレーレ! フレーレ!>
「はっは……任務完了、だ……」
ドチャっと自分の流した血の海に倒れ込み、そのまま動かなくなった。しばらくしてから目が回復したが、もちろんもう一人の男はすでにどこにも見当たらなかった。
「野郎、一体どういうつもりで……!」
<ぴー! 私も行くわ、空からなら!>
すぐに小屋を出て後を追うクラウス達とジャンナ。カルエラートは手首を掴まれたままだったので、バステトがそれを外していた。
<大丈夫かにゃ>
「すまない。凄い力だった、まだ手首が痺れている……それより私達も追おう!」
<カルエラートは消耗が激しいからセイラを頼むにゃ。わたしが追うんだにゃ!>
よろよろと立ち上がったカルエラートをバステトがベッドへ座らせ、外へと駆け出して行った。
「(こいつらは何だったんだ? 何故フレーレを……)」
よもや塔から出てきた刺客とは思わず、カルエラートは痛む手首を抑えながら考えていた。
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「……あれは」
「間違いないでござる、こっちでござる」
モルトとトマスを躱した二人はフレーレを背負ったもう一人の男を発見する。二人も丁度拠点に戻ろうとしたところだったので入れ違いにならずにすんだ。
「無事か二人とも」
「何とかな。そちらもうまくいったようだが……アカザはどうした?」
もう一人男は目を瞑って首を振ると、二人はすぐに察した。
「そうか。では任務は達成した、戻るとしよう」
忍びとは任務の為に捨石になる事もある。今回はアカザの番だった、それだけの事。悲しいと言う感情は無く、三人は立派に事を成し遂げてくれたと、拠点を後にするのだった。
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