パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
181 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その202 暗躍

しおりを挟む
 
 <二十階:ボス部屋>

 「キルヤ様、やつらが十二階へと侵入した模様です」

 純和風の部屋にて、座布団の上で胡座をかきながらキルヤは部下の報告を茶を飲みながら聞く。湯飲みを置いてから一息つくと口を開く。

 「……ようやく十二階か、転移陣の謎を解くのは早かったが歩みは遅いようだな」

 「は。しかし今の所は犠牲者も無く進んでいますので、運は良いかと……」

 「運だけでもあるまい。一人、若いが腕の立つ忍びがいるようだ。この世界の忍びがどんなものか分からんが、そやつが罠を回避しているのであろう」

 キルヤが再び湯飲みに口をつけると、目の前で傅く部下が言う。

 「キルヤ様がお気にされるほどの男とは……私めが始末しても問題ありませぬか?」

 「……ふむ、そうだな。始末できるならそれに越した事は無い。任せる」

 一言、「はっ」とだけ発し、その場から姿を消す部下。一人になった部屋でパチンと指を鳴らすと、別の忍びが現われる。

 「如何されましたか?」

 「……外に今この塔に登ってきているやつらの拠点がある。そこに忍びの想い人が残っている。今回は登ってこなかったからここに連れて来い。丁重にな」

 「し、しかし我等は外に出るなと神裂殿より……」

 「問題ない、ここから出られないのはたがえていない、そうだな?」

 すると目の前の忍びは覆面越しでも分かるほど、ニヤリと笑いキルヤに言う。

 「……そういうことですか、では数人連れて行きます。こんなところに押し込められて鬱憤が溜まっている者もおりますゆえ……」

 そして姿を消す忍び。

 「(ふふふ……これで面白くなる……)」


 キルヤは再び湯飲みに口をつけながら不敵に笑うのだった。



 ---------------------------------------------------


 <十二階:ルーナ達>

 十二階に到達し、十一階よりもさらに鈍足で進む私達。相変わらず罠は多く、カイムさんが解除できるものは解除し、できないものは避けて通るのを繰り返し、何とか十二階は突破していた。


 <うぬぬ……魔力の使いすぎで尻尾がバサバサになってしもうた……>

 <アタシは久しぶりに暴れられたから満足だけどねぇ>

 <ですぴょん>

 「あんたは何にもしてないでしょうが」

 実際、チェイシャとアネモネさんは小さい姿のまま狭い通路でかく乱と遊撃を行い、かなり助かっていた。魔物の脇を抜けて挟み撃ちにしたり、レジナ達と一緒に噛み付いて拘束をするなどの活躍を見せていた。

 が、ママの言うとおり、リリーだけは後ろで応援するばかりで役に立っているかといえば微妙だった。そしてそれは牛のアステリオスも対象になっていた。

 「牛も変身できないと後ろにいるだけだよな」

 <体当たりの一つくらいはしてもいいんじゃないかのう>

 「うっす……すいません……」

 「まあまあ。荷物を持ってもらってるだけでも十分だから」

 ミノタウロス状態だと通路に対して体が大きすぎて武器が使えないのため、あえて牛のままにしてあるのだ。ボス相手に活躍してもらえばいいと思うけどね。
 
 階段を登りきったところでカイムさんと並んで歩いていたお父さんが私達を手で制した。

 「おしゃべりはそこまでのようだ。出てきたぞ」

 「待ち伏せでもしていたかのようなタイミングだなあ。ま、敵地だとこんなもんか。お前の城もそんな感じだったしな」

 パパがぼやきながらお父さんの横に立つ。
 
 十三階へ到着早々戦闘に入るのね……少しくらい休憩したかったけど仕方ないか!

 しかし相手は蜘蛛型の魔物が四体とそれほど多くないので、それほど時間はかからないだろう。飛んでくる糸や毒液を回避しつつ、前衛はレイドさん達に任せて私は弓で応戦する。

 「レジナ達! そいつの足を止めて!」

 「がう!」

 「わおわおん!」

 キィェェェ!?

 前足と後足をレジナとシルバに噛まれて身動きが取れなくなったところにレイジングムーンから放たれた矢が眉間に突き刺さり緑色の液体を撒き散らしながら絶命する。残りを倒そうと見渡すと、一匹天井へ駆け上る蜘蛛がいた!

 「気をつけて、天井から来るわよ!」

 <任せるのじゃ。魔法弾で落としてやるわい!>

 チェイシャが素早く反応し、尻尾から魔法弾を放ち蜘蛛を叩き落す。呻き声を上げながら床へと転がった。その蜘蛛が最後の一匹だったようで、残り二匹はアネモネさんに締め上げられたり、お父さんの剣技で首と胴がお別れをしていた。

 「うーん、こう大きいとちょっと気持ち悪いわね」

 『何? アイディールは虫が苦手なの?』

 恐る恐るチェイシャが倒した蜘蛛を見ながらママが呟き、アルモニアさんが相槌を打つ。冒険者だからそうも言っていられないけどといった話をしていたその時だった!

 「アイディール!?」

 「え? 痛っ!?」

 『こいつ!」
 
 キシャァァァ!?

 何と、チェイシャが倒したと思われていた蜘蛛が急にママに飛びかかり、手の甲に噛み付いたのだ! しかし近くに居たアルモニアさんがすぐに蜘蛛をみじん切りにし、今度こそ蜘蛛は撃退される。

 <大丈夫かや!? すまぬ、倒しきれておらなんだとは……>

 「大丈夫よこのくらいの傷なら。《リザレクション》ほら、あっという間」

 ママが回復魔法で傷を消し、安堵する私達。それを見てエクソリアさんが口を開いた。

 『魔物も階を登るに連れて神裂に影響を受けているのか小賢しいのが増えてきたね』

 「確かにな。死んだフリをする魔物がいない訳じゃないけど虫みたいなのがするのは初めて見たな」

 「きゅんきゅん!」

 ぺしぺしと怒りを顕にしてシロップが蜘蛛を叩き頭を完全に潰していた。死んだフリを見抜けなかったのが悔しいみたいね。

 「アイディール、本当に大丈夫か? 少し休むか?」

 「大丈夫だって! ディクラインは心配性なんだから。さ、行きましょう」

 「お、おい……」

 スタスタと歩き始めたのでパパが慌ててその後を追い、私達もその後を追った。その後も何度か魔物に遭遇するも、幸い十三階はすぐに階段を見つけることができ、十四階も罠に慣れてきたので十一階を歩いていた時よりも半分くらいの速度で進んでいた。

 「お腹すいたわね……」

 「む、そういえば確かに。ああ、もう日が暮れているのか。ディクラインさん、今日はそろそろ休みませんか?」

 <やった! ご飯ですぴょん!>

 「お前は……まあいい、そうだな。適当な部屋を探して一休みするか。順調に進んでると時間の間隔が分からなくなるな」

 <まあいいじゃないか、時間が惜しいんだ。進めるに越した事はないさね>

 「フレーレさんは今頃何をしているだろうか……」

 「カイムさん? フレーレが心配?」

 「え!? いえ! まだニンジャの私に色恋沙汰など……で、では、私が安全そうな部屋を探してきますね。とう!」

 カイムさんは私の質問にしどろもどろになりながら、文字通り煙のように消えてしまった。そんなに照れなくてもいいのにね。でも、フレーレもセイラも回復しているかなあ、戦いに来て欲しいってわけじゃないけど、やっぱり友達には元気で居て欲しいもんね。
 

 ---------------------------------------------------


 <塔の外:拠点入り口付近>


 「もし! もし! 誰かおりませんか?」

 夕暮れ時、拠点の入り口で冒険者風の男達が中に向かって声をかけていた。丁度戻ってきたファウダーとクラウスが後ろから声をかける。

 「お、どうした? 冒険者か?」

 「おお、こちらの方で?」

 「まあ、そうだな。お前達は?」

 念の為ファウダーは喋らず、クラウスが質問をすると、男達は塔の攻略のためここまで来たのだと答えた。しかし、思いのほか道のりが険しく、野営をするかどうか悩んでいた所でこの拠点を見つけたとのことだった。

 「もしよろしければ我々も中に入れてはもらえますまいか? 塔を目指すにしても休息をしておきたいでござる」

 「ござる?」

 「い、いえ、何でもござ……ない」

 「変なやつだな? まあ他にも人が居るから揉め事は勘弁してくれよ? おーい! 帰ったぞ! で、塔に行く冒険者が休ませてくれってよ」

 クラウスがファウダーに乗ったまま中へ入ると、四人の男達もぞろぞろと入ってくる。そして少し離れた所でほくそ笑んでいた。

 「(このご時勢、冒険者なら警戒されにくいと思ったが案の定だったな)」

 「(うむ……後は目標をかどわかすだけでござるな)」

 「(お前もう喋るな)」

 「(静かにしろ、場合によっては飲み水に毒を混ぜて皆殺しだ。くれぐれもばれることが無いようにな)」

 キルヤの放った刺客が拠点内部へ侵入した瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。