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最終部:タワー・オブ・バベル

その198 意図

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 「そこだ、そこに置いてくれ」

 「壁は2mくらいで……」

 「小屋はパーティと男女別で作るか」

 私達は朝早くから拠点作りにいそしんでいた。神裂の生み出した魔物に昼夜は関係ないのか、定期的に人が居る所を狙ってくる。折角作った壁を壊されるわけにはいかないので手分けして討伐にあたる。

 「わう」

 「わんわん!」「きゅんきゅん♪」「きゅふん!」

 「散歩じゃないんだから気をつけなさいよ?」

 「まあ、ずっと塔の中だったしいいじゃないか。外を走り回っていたほうがこいつらも嬉しいんだろう」

 レイドさんと一緒に……とはいかず、私はお父さんとレジナ達と共に周囲を警戒する。もう一つのパーティはパパとママ、そしてバステトが回っていた。
 残りは作業を進めるため壁担当と小屋担当に別れていて、ファウダーは壁、軽く飛べるカームさんが小屋を建てるのに尽力している。

 「やっぱり全員でかかると早いわね。今日中には壁が完成するんじゃないかしら」

 壁は私達が入れるだけの大きさを目指しているのでそれほど大きく囲うつもりが無い。魔物が入って来れない、という検証もあるのであくまでもそれなりなのだ。

 「それにしても魔物が多いな……神裂が狙ってやっているのか? 正直、拠点が機能しないなら塔の攻略は難しい」

 「魔力もポーションも無限じゃないもんね。ここから一番近い町ってどこなんだろ……あ、そうだ。お父さんのは早く塔に登りたいみたいだけど、何が気になるの?」

 魔物を倒しながら昨日のお父さんの言葉が気になったので聞いてみることにした。

 「……ルーナも知ってのとおり、俺は魔王だったろう? ディクラインに倒されたが側近とかも居たんだよ。で、本題だが、本来こういう場合は『倒されまい』と邪魔をするのが一般的だ。誰だって死にたくないし、俺も敵対者が居ない時は正気だったからそういうのは気にしていた。今でこそ何も無いが、魔王城も当時はトラップが多かったんだぞ」

 「そうなんだ。うん、でもやっぱりまずは防御を固めるよね」

 「だが、ボス部屋から外に転移できる、という事は病院にも行けるし、不足した道具も足す事ができる。町までどれくらいかわからないが万全の体制で次に行けるんだ。そうなると考えられる事はいくつかある。途中のボスが異常に強いか、迷路が複雑すぎて期限内に辿り着けないか……それとも、神裂自身で俺達を倒したいのか、だな」

 それに加えて「遊んでいる」可能性もある、とお父さんは言う。あの男の性格からして遊んでいる感はするけどねえ……。

 「まあとりあえず決まった事だ。まずは拠点を作り上げよう。町が近くにあるかはディクラインが詳しいだろうあら聞いてみるか。さて、もう少ししたら昼だ、頑張ろう」

 「わふ!」

 その後もどこから沸いてくるのか分からない魔物達を倒し、昼食を済ませてから再び警戒に当たる。そして陽も落ちかけた頃……。


 「っし! これで完全に囲いが出来た!」

 ついに壁が完成する!
 塔に登っている間も少しずつ進めていたので、小さいながらも周囲から隠れるくらいにはなった。テントやセイラの寝ている小屋、馬車をぐるりと囲み、入り口っぽい扉もつけてある。
 壁の高さは2m程度で、柵に板を横に張りつけただけの代物。上下の間隔を開けて外が見れるようにもしている。
 小屋はセイラの寝ているものとは別に一つ作成。これは女性陣が使ってもいいと、ブラウンさんが言う。でも主にカルエラートさんに視線が向いていたので、きっとそう言う事なのだろう。中途半端に枠組みだけの小屋がいくつかできたけど、あまり壁に時間をかけたくないと途中で止めたのだった。

 「いやあ、皆さんのおかげで一気に終わりましたね!」

 「つか、ブラウン、シーフ辞めてもいけそうだよなあ、すげぇぜ」

 「ふふん、わしらも手伝ったんじゃぞ!」

 「みんなお疲れ様だったな! 今日もワイバーンの肉だ。力をつけてくれ!」

 さらにちょっとだけなら、と、お酒を手に完成を喜ぶ一同。見張りがあるため、酔わない程度に一杯ずつ食事をしながら、カルエラートさん作のワイバーンの肉の煮込みを食べる。口の中でホロリと崩れるお肉の柔らかさは絶品だった。
 するとそこでパパがお酒を一気に飲み干しながら呟いた。

 「さて、結果がどうなるか、だな。状況次第じゃ、塔の一階の方が安全かもしれんが」

 「そうですね。無駄にならなければいいですけど」

 レイドさんがパパに相槌をし、ママやお父さんとも話し始める。私セイラの看病をしているフレーレやチェイシャの所へ向かった。

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 「どう? はい、これ。今日の夕飯」

 <ルーナか。呼吸は穏やかになったが、まだ目を覚ましておらん>

 「フレーレは?」

 「わたしは戦うのはきついですけど、普段の生活をする分には問題ないです」

 吸血された時に魔力を持っていかれたらしく、魔力だけはまだ回復していないそうだ。デッドエンドを使った時の私みたいな状態らしい。

 「とりあえず、塔はいいから休んでてね? 無理して死んだら何にもならないから」

 「……はい」

 <もぐもぐ……これ美味しいぞ、フレーレも早く食べるのじゃ>

 「もう、チェイシャったら……ふふ、そうですね。力をつけておかないと」

 そう言ってフレーレもパンと煮込みを口にして笑う。その後は久しぶりにフレーレと他愛ない話をして私は新築の小屋へと戻り就寝した。


 そして見張りの交代で起こされることなく、朝を迎える。

 壁の効果はあったそうで、攻撃してきたり、中へ入ろうとする魔物は居なかったらしい。なので交代の必要はなかったとシルキーさんが話してくれた。

 だけど、お父さんの感じていた嫌な予感はすぐに訪れる事になった。

 最初に気づいたのはバステトが念のためと外に行ってからのことだった。


 <たたたた、大変にゃぁぁぁぁ!?>

 <どうしたのよそんなに慌てて>

 入り口を転がるように入ってきたバステトにジャンナが飛んでいき声をかける。別にその後ろに魔物がいるわけでもないけど……?

 「はい、お水ですよ!」

 <ああ、ありがとうにゃ……じゃにゃくって! 外! 転移陣が……!>

 「何だ……?」

 パパがただ事じゃない慌て方をするバステトを尻目に外へと出て行く。その後に続いていくと、とんでもない光景を目にすることになった!


 「ちょ……!? 転移陣から魔物が溢れてる!?」

 最初に叫んだのはママ。その言葉通り、転移陣からポコポコと十階までに戦った魔物が次々と出てきていた。塔の近くはかなりの魔物で埋め尽くされている……。

 「マズイ、このまま増え続けられたら転移陣を使うどころか、一階の入り口に辿り着くのも難しくなる! 拠点は大丈夫だろうから、全員でかかるぞ!」

 お父さんの声で、寝起きの頭が覚醒する。

 私達はすでに何十と現われた魔物を倒しに、塔の近くへと走り始めた。 

 
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