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最終部:タワー・オブ・バベル
その194 順番
しおりを挟む「さて、それじゃ6人決めよう」
10階の扉前でパパが私達に振り向いて言う。入り口と同じ文言が扉にも書かれていたので、中に入れるのは6人までなのだ。こっちは結構な人数が居るので選別も大変だったりする。
「やはりここは……」
「お父さん?」
ゴゴゴ……と音がしそうな迫力でお父さんが口を開く。まさか戦って決めるとか言わないわよね……? しかし出てきた言葉は予想外のものだった。
「じゃんけんだろう」
全員がガクっと崩れた。
「え、ええ……一番いいのはそれだと思います。ただ、攻撃と回復は分けたほうがいいかと」
真面目なレイドさんが、肯定しつつ戦力について助言をする。フレーレやセイラ、ママは最低一人連れて行きたい。しかし、意外なところ,だが当然のところから声が上がった。
<あのさ……アタシ、じゃんけんできないんだけど……>
<もちろんわらわもじゃぞ?>
<ですぴょん>
「あ!?」
お父さんが素っ頓狂な声を上げて足元のチェイシャ達を見ると、腕を組んで困ったように考え始め、しばらく唸っていた。そして名案とばかりに手をポンと打った。
「戦って決め……」
悪い予感はなぜか当たるものだと私は心で呟きながらお父さんの言葉を遮るように叫んだ。
「却下よ! もう……お父さん、それじゃ本末転倒でしょ? 疲弊した状態でボスと戦えないでしょ」
「そ、そうだな……」
すると、ママはすでにフレーレとセイラを呼んで会議が始まっていた。
「なら、フレーレ、セイラ。私達は話し合いで決めましょう。回復は誰か行かないといけないし」
「……わたしは絶対行きたいんですけど……」
フレーレとママが目で語り合っているのをよそに、レイドさん達前衛組と守護獣が座って話し合いを始めていた。
<たまにはアタイも暴れたいんだけど>
『ボク達はとりあえず神裂まで力を温存しておく……いや、まてよ……』
『どうしたのよ妹ちゃん?』
エクソリアさんが何かを思いついたようにぶつぶつと呟き始め、アルモニアさんがそれを聞き、なるほどと答えていた。何だろう?
そして話し合いの末、パーティが決定。私が突入メンバーに補助魔法を全部かけ、準備が整った。
「それじゃ開けるぞ……」
まず最初に扉を開けたのはレイドさん。突入パーティの前衛である。続いてパパと私が並び、その後ろには……。
<次回は譲ってもらうぞ!>
<そうさね、今回はあのスライムにやられた二人に譲ってやるよ>
ママ、フレーレ、セイラが並んでいた。
そう、回復役全員が突入パーティに入っていた! ママとフレーレはボスにお返しをしたいと言い、セイラはそれに便乗したのだ。
「ま、ボスとやらの初戦だから様子見で回復は多い方がいいでしょ」
私達は神裂を倒すことと同時に生きて帰ることも必要なのだ。なのでその主張には異論は無かった。
そのまま私達6人は中へと入ると、扉の前に透明な魔法壁のようなものが現われ、私達以外中へ入ることが出来なくなった。こちらから戻る事もできそうにない。
<む……一応ここは真面目に作っておるのか……?>
【ふん、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ】
チェイシャが魔法壁を突いて感触を確かめていると、奥から若い男の声が苛立ちの声を上げて出てきた。シルバーブロンドの髪に精気のないやつれた顔色をした病人のような印象を受ける。貴族が着るような服に赤いマント……ダサいわね……。
「お前がここのボスだな?」
【そうだ……俺はルドレイ。この10階のボスだ。本来ならもう戦っているはずだったのだ。それを貴様等! 一階の扉を開け放したままにしおってからに! 一度入ったら10階までちゃんと登ってこんかぁ! スライムの仕込みが無駄になっただろうが!】
「やっぱりボスの仕業だったんですね! ここで成敗します! それにしてもダサいマントですね」
「フレーレもそう思う? 私もそう思ってたの。あれはないわよね」
「服のセンスなんかどうでもいいのよ。すぐに始末するんだし」
『気をつけろ、あれはヴァンパイアと呼ばれる吸血鬼。ボクみたいな美女の血を好んで吸いにくる、この世界にはいない怪物だ』
「わん! がうぅ……!」
【こ、この私を侮辱するとは……ん?】
後衛が物騒な話をしていると、さっきまで青かったルドレイの顔が真っ赤に染まる。ん? 何か違和感? 私が振り向こうとすると、ルドレイが目を細めて声をかけてきた。
【狼はいいとして何で7人いるんだ!? この部屋は6人までだと書いていただろうが!?】
「ああ! エクソリアさんが居るから違和感があった……ってなんで居るんですか!?」
『ちょっとした実験だよ。君達が知ってのとおり、ボクは女神だ。「人」としてカウントされなかったみたいだね? 神裂がミスをしているんじゃないかと思ってやってみたらこのとおりと言うわけだ』
するとアルモニアさんも魔法壁をするりと抜けて、こちらは8人になった。
『そういうことね。まあ、あなたの主がアホだったと言う事で諦めなさい』
【おのれ……有象無象が生意気な……】
ルドレイが私達を睨みつけていると、ふと部屋の中に声が響き渡る。この声は!
『ぎゃはははは! いやあ、お前等すごいな。予想外の事をやってくれるぜ。まあ、今回は俺のミスだ、そのまま戦ってもらうとしよう。ルドレイ、できるな?』
【は、はは……! 必ずや……!】
『まあ8人は流石にやりすぎか。増援を送ってやる』
神裂がそう言うと、どこからともなく派手な衣装をした女性が出てきて挨拶をする。
【はぁーい、ルドレイ。手助けするわね? あんた達もやりすぎはダメよ?】
【スーリアか……ヴァンパイアレディのお前なら連携もしやすい、か】
「両方ともヴァンパイア、ということは吸血に気をつけないと……」
『一階の扉の件はそのままにしておいてやろう。とりあえず次のボスからは女神達も人数に数えるようにする。まあ、ここで全滅すればその必要もないが。せいぜい楽しませてくれ』
それだけ言うと、神裂は喋らなくなり、それが戦闘開始の合図となった!
「レイド、お前はルドレイとやらを。俺はエロい……いや、女ヴァンパイアとやらの方をやる」
「パパも懲りないわね!? 危な!?」
「おっと」
【あはは! やるじゃない! 楽しめそ♪】
パパがレイドさんに変なことを言っていると、ママのロッドが後方から飛んできた! それをパパが避けると、一直線にスーリアへと向かったが、読まれていたのかあっさり弾き返された。
レイドさん側は私とセイラ、それにフレーレが同時に攻撃を仕掛ける。ルドレイはセイラを見て、感嘆の声をあげる。
【ほう、お前は中々いい顔をしているな。俺の眷属にしてやろう。そっちの男より満足させられるぞ?】
「おあいにく様、これはお兄ちゃんよ! ……え!? う、動かない……」
フルスイングでモーニングスターを横薙ぎに振るうが、それを片手で受け止めるルドレイ。涼しい顔をしている所を見ると無理しているようには見えない。
【ははは! この程度か、次はこちらの番だ……】
「手を離してセイラ!」
「食らえ!」
ルドレイの爪が伸びて、セイラの首筋へと攻撃をしてきた。フレーレの声でモーニングスターを手放してからバックで回避すると、爪はヒュン、と空を切った。その隙をレイドさんが斬りかかると、ルドレイはモーニングスターを捨てて剣を握り締める。
【ふむ、悪くない連携だな。それなりにこの塔に登る資格はあるようだ。だが……!】
「おわ!? 嘘だろ!?」
剣を掴んだままレイドさんを片手で持ち上げ、床に叩きつけた。私がその隙を攻撃すると、ヒラリと舞うように後ろへ下がるルドレイ。それを見たセイラがレイドさんを回復させ、私達に言う。
「あの爪、凄く嫌な感じがしたわ。掠るのも気をつけたほうがいいかも」
「すまんセイラ。今までと違ってこいつは本当に強いぞ!」
【はははは! どこまで耐えられるかな?】
両手の爪を伸ばしたルドレイが私達に迫ってきた!
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