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最終部:タワー・オブ・バベル
その192 順調
しおりを挟む<塔の外>
<あれはワイバーンにゃ!? 早くこっちへ来るにゃ!>
先行して冒険者の救出に向かったバステト。視界に入ったのは血を流している冒険者三人と、遠くから見えたドラゴンはワイバーンだった。
空から奇襲してくる相手に対して策がないのか、防戦一方である。
「ね、猫!? だ、誰でもいい助けてくれ!」
<猫じゃないにゃ! 来る……!>
冒険者と入れ違いに前へ出るバステト。ワイバーンの爪をレイピアで受け流す。
<ふにゃ……ビリビリするにゃ……こいつめ!>
上昇する前に手に持った石を投げつけると、ワイバーンの足にヒットしてバランスを崩す。予想外のダメージを受け驚いていた。
<さ、今のうちに逃げるにゃ。この先にキャンプがあるからそこまで逃げるにゃよ!>
「わ、分かった……!」
後ろを気にしつつしんがりを勤めるバステト。先程の投石で狙いをバステトに絞ったワイバーンが急降下してきた!
<やらせないにゃ!>
レイピアを構えて迎撃態勢を整えるが、その時ワイバーンの頭上に影が射す。
<遅くなったな>
「ただのワイバーンとか久しぶりだな、一気に行こうぜ」
急降下してくるワイバーンに突撃してくるのはカームと、その背にソキウスが乗っていた。チラリとカームの方を見て分が悪いと判断して逃げようとするが一瞬遅かった。
「旋風斬だ、ズタズタにしてやるぜ!」
ギャォォオン!?
ソキウスの技で羽をもぎ取られ大きく傾くワイバーン、そこにカームの爪が背中に突き刺さる!
<ふむ、運が悪かったな。今日の夕飯になってもらおうか!>
ズブシュ!
突き刺した爪に力を込め、一気に背中を抉ると文字通り血の雨が降ってきた。そのままワイバーンの体が地上へと落下し砂煙をあげた。
<うえ、ぺっぺ! 落とす所はもうちょっと遠くが良かったにゃ!>
<む、すまんな。加減ができなかった>
「悪ぃ! 羽を落とすのが早かったな、もうちょっと下で落とせばよかったぜ」
<もういいにゃ。それよりさっきの冒険者は……>
バステトが振り向くと、三人の冒険者はポカーンと口を開けて立ち尽くしていた。酷い怪我だが、それを忘れてしまったかのように。
「あ、ありがとう……その、大丈夫なのか? その魔物は……?」
年配の冒険者がカームの背に乗ったソキウスに聞く。それに対し、不思議そうな顔でソキウスは答えた。
「ん? カームの事か? ああ、問題ないぜ? 今助けてもらったろ?」
「確かに……ん? どうしたんだモルトさん?」
<モルト?>
ソキウスが答えていると、冒険者の中にサンドクラッドでの一件でレイド達が関わったモルトがおり、カームを見て声を上げた。
「どうもこうもねぇ。お前、あの時レイド達と一緒にいた魔物じゃないか? わしじゃ、ミトの祖父のモルトだ」
<おお、サンドクラッドの! 久しいな!>
「お前さんがここにいるって事は、あいつらもいるんだな?」
<うむ。すでに何人かは塔の攻略を始めている。どうやらそっちも同じ目的のようだな>
カームが尋ねるとモルトは頷き、ここまでの経緯を話してくれた。神裂の演説の後、リアラがニアと冒険者を集めて対策を練った。いざ出撃すると、町の外に見たことも無い強力な魔物が徘徊していたため、あえなくとんぼ返りする事になったという事だった。
しばらくギルドで生態や行動などを調べ、少しずつ狩ることができるようになったのでバベルの塔を目指したという。
「でも三人は少ないんじゃないか?」
「坊主の言う事ももっともじゃが……わしらは先行して来たのだよ。後から増援が来る予定じゃ、時間はあるようで無い。少しでも足場を固めておきたくてな。一応、強力な魔物はあの手この手で倒せるようになった。もし失敗してもワシら老いぼれなら痛手は少ない。まあ、ワイバーンみたいな空からの攻撃はさすがに無理じゃったわい!」
<むう……ミトに聞かせられんぞそれは……>
それを聞いてはっはっはと笑うモルト。簡単にくたばるつもりはないと、カームの大きな腕を叩いていた。そしてバステトが口を開く。
<なるほどにゃ。そしたらカルエラートを手伝って欲しいのにゃ>
「おう……急に喋られるとびっくりするな……キャンプがあるって言ってたな、そこに案内してくれちっとばっかし傷が痛むんで早いところ治療したい」
口ひげの男が腕を押さえて言うので、すぐそこにゃとバステトがキャンプまで案内を始めた。カームはソキウスを降ろし、ワイバーンを手に飛び立っていった。
キャンプに到着するとキール達ブラックブレードが武器を手に出ようとしていた所だった。
「あ、あれ? もう終わったのか!?」
<そうにゃ。カルエラートはどこかにゃ?>
それならあっちだとルーナ達の馬車を固めている付近で壁を立てていると、キールが指差しそこへ向かう。そこにはチェーリカも居た。
「む、バステトか。周辺はどうだ?」
<新しい冒険者のおっさんが来たにゃ。チェーリカ、回復をしてあげて欲しいのにゃ>
三人が前へ出ると、カルエラートが目を見開いてモルトを見ていた。
「あなたはモルト殿……! お久しぶりです。ミトは元気ですか?」
「ああ、もちろん。また会いに……とその前に怪我を治してもらえんか……年寄りには堪える」
「はいです! 《リザレクション》」
チェーリカの回復魔法ですっかり治ると、丸太で作ったイスに座り、モルト達が話し始める。
「それで? もう塔は目の前だが何をしているんだ?」
「ああ、拠点作りをしているんだ。どうも町の中までは強力な魔物は入ってこないようだから、ここを仮の村みたいな状態にすれば安全な拠点になるんじゃないかという訳なんだ」
出来るだけ壁となる板と杭を製作する必要があると、詳しい話をしたところでモルトが口を開いた。
「……そういうことならわしらは得意じゃ。助けてもらったし手伝うのは吝かではない。塔にはレイドやアイディールさんが行っておるのだな?」
「ああ」
「なら攻略は任せてわしらは足回りを固めよう。サンドクラッドの増援が到着した時に休憩できる場所があるのはありがたい。それに、他にも冒険者が来る可能性が高いからのう」
そう言いながらカルエラートの出したお茶を飲み干してパンと手を叩く。
「よし! トマス、ヤーブ。ワシらも拠点作りに参加しよう」
「ほいきた。大工の恩恵は無いが、精々がんばらせてもらうぞい」
「ま、おっさんの経験と勘でやるわい。ぬはっはっは!」
拠点作りに新しいメンバーが増え、作業効率が上がっていく。そして塔には少しずつ人が集まってくるのだった。
その頃、6階へ上がったルーナ達は……。
---------------------------------------------------
<6階>
「こっちが近道ですぜ」
アステリオスの案内で迷うことなく階段まで突き進む。中にはこんなギミックもあった。
「壁が崩れて抜け道が……こういうのもあるのね、参考になるわ」
「体力を使わないで済むなら越したことは無いからな」
<7階>
「スライムが多いな!?」
「お兄ちゃん、凍らせるから斬って! 《フリージング》!」
「核を狙え、そしたら再生しなくなる!」
スライム地獄で少し手間を取ったが、階段までは案内があるので、すぐ8階へと上がっていく。
<8階>
「ここはシンプルに魔物が多いんですね! たあっ!」
カイムさんが曲がり角にいる魔物の気配を感じ取り、奇襲しようとしていた魔物を逆に奇襲するという状況で、難なく進む。少しずつ魔物が動物系と人型が混じるようになってきた。
「動きが素早くても、この横幅の通路じゃ本来の動きはできないな!」
お父さんが猿の化け物を斬り伏せ道が開いた。そこでエクソリアさんが呆れたように言う。
『たまに新しいのがいるけど、色違いが多いね。この分だと10階のボスとやらも大したことなさそうだけど……』
<9階>
「あ!? フレーレ! ママ!」
9階に足を踏み入れた途端、床がぐにゃりと曲がり、巨大スライムがフレーレとママを飲み込むように足元から体内へ取り込まれた!
(ごぼ……!?)
フレーレが口を抑えて、苦しそうな顔になると、チェイシャが大きくなり叫んだ。
<いかん! このままでは溶かされてしまうぞ! くらえい、炎魔法弾じゃ!>
チェイシャが尻尾から炎の弾を放つが巨大スライムに吸収され、ママが火傷を負った。
「これじゃ凍らせる事も出来ないわ、剣で斬ったら二人が危ないし……」
「迂闊に近寄るとこっちも取り込まれる……どうする……」
パパが珍しく冷や汗をかいている……二人が取り込まれたのは痛手だった。そこでアルモニアさんがスライムを見つめながら私に聞く。
『ルーナ、あなた魔力を分散させる技を持ってなかった? それとフレーレ聞こえるかしら! ルーナが今からスライムを構成している外側の魔力をはがすから、内側から聖魔光とかいうので破壊してみなさい!』
なるほど、スライムって魔法生物だから魔力を壊せば存在しにくくなるのか……こくこくと頷くフレーレは聞こえていたようで頷いていた。
「すぅ……マジックブレイク……!」
私が前へ出るとと、スライムが取り込もうと突進してくる! それを両手で押さえ、技を発動させるとスライムがビクンと振るえ膜のようなものが剥がれ落ちはじめた。
(ごぼぼぼぼ!)
無理して叫ばなくても技は出るでしょうに……フレーレが何か叫んだ瞬間、スライムが膨張しだした。ミチミチと嫌な音を立て始めたのでみんなに避難するように言う!
「爆発するわ、避けてみんな……!」
ぶぢゅる……!
みんなが伏せると、湿っぽい音を立てて巨大スライムが破裂した。じわ、っと体液らしきものが地面に広がると、咳き込むママとフレーレがこっちに歩いてきた。
「た、助かったわ……ありがとうルーナにフレーレ……」
「うう……べたべたします……」
二人が近づいてくると、強烈な生臭い匂いが鼻をついた!?
「くさっ!? 二人とも凄い匂いよ!?」
「わ、わふん……」「うえ……!? アタイ鼻をおさえられな……」
「レジナぁ!? アネモネさん!?」
あまりの匂いに鼻の利く……利きすぎる狼達は全滅。
かろうじて鼻を押さえることができるチェイシャ、リリーと私達は眉をひそめてフレーレ達から距離を取った。
「何て恐ろしいの……どうする? 進む……?」
「そうだな……」
パパが顎に手を当てて思案する。そして出した決断は……。
<10階>
【フフフ、スライムのトラップに引っかかったようだな……8階まではそれなりの敵を配置し、9階で油断した所をパクっとやる。うまくいったな】
と、玉座に座る男が蝙蝠を通してルーナ達の様子を見ていた。侵入者が入ったと報告があり出番を待っている所だった。
【あの体液は匂いで気づきにくいが、徐々に身体から魔力を抜けさせるという効果がある。ここに辿り着く頃にはあの二人の魔力は枯渇しているに違いない。見たところ二人は回復魔法の使い手。勝ったな……】
頬杖をついてほくそ笑んでいると、ルーナ達は驚きの行動に出始める。
【……ん? 階段を……降りるだと!? いやいやいや、そっちじゃないだろ……お前達は先に進むしかない……どうして戻る……ん? あれ? 一階の扉が開きっぱなし!? おおおお、それはずるいだろぉ!? 10階で俺を倒したら戻れるんだぞ? あ、出て行った。これ以上は無理? あ、そう】
蝙蝠の追跡は一階で途切れた。魔物は外には出られないからである。また、扉を閉めようにも、その扉は外開き……外に出られない男は歯噛みするしかなかった。
【絶対に許さんぞ……!】
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