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最終部:タワー・オブ・バベル
その190 逆行
しおりを挟むさて、翌日。
部屋の窓から陽が差し込み始めた頃、私達は再度上層を目指す。五階までの階段はそれほど遠くなく、すぐに上がる事ができた。
「ガウ……」
「どうしたのレジナ? ……草原?」
五階はだだっ広い草原のような場所だった。どこから吹いてくるのか風があり、草の匂いがする。シルバとシロップ、それにラズベが喜びいさんで駆け出していった。
「あ、ダメですよ勝手に走ったら」
「わんわん!」
フレーレの制止を振り切って走っていってしまった。慌ててレジナが追いかけていき、私達も歩を進めることにした。
「十階……じゃないわよね?」
『区切りの階だからかな? こういう休憩スポットみたいなものを設置するものもあるからね』
エクソリアさんがそう言いながら草や花を採取してマジマジと見ていた。何か調べているらしい。よく見れば牛や羊といった動物がウロウロしている。アルモニアさんは狼達に着いていき、きゃっきゃしていた。
「わんわん」「きゅんきゅんー♪」
「も、もうー……」
『ははは、元気ねー』
牛を追い立てて遊ぶのをみるとやっぱり狼なんだなーって思う。牛はすぐにどこかへ行ってしまった。のどかな風景の中歩いているとパパが警戒をしながら口を開いた。
「魔物が出ないなら先を急ごう。楽に通過できるなら越したことはない」
その言葉に異論は無く、レジナ達も離れれば勝手に着いてくるのでどんどん歩いていく。最初はのどかだと思っていたこのフロアだけど、やがて私達は違和感を抱くことになる。結構歩いたと思うけど、どこまで行こうと向きを変えようと階段に辿り着かないのだ。
「……ねえ、下の階こんなに広くなかったわよね?」
「そうですね……あ、あの牛さんさっきシルバが追っていた牛さんじゃないですか?」
フレーレが指差すとまた牛が居た。私には見分けがつかないけど……またもシルバが追い立ててどこかへ行ってしまった。シロップに追い立てられた羊がこっちへ来て私の後ろに隠れるので落ち着かせるために背中を撫でてやった。
「メェー」
するとエクソリアさんが顎に手を当ててなにやら考えはじめ、しばらくしてから口を開いた。
『……四方向に分かれてみるかい? ボクはこっちへ行こう』
何か気づいたのか、右を差してそっちへ行くと言う。するとアルモニアさんが逆方向を指差して言う。
『なるほどね。なら私はこっちへ行ってみましょうか』
「あ、それなら私もお供します」
シルバの頭を撫でながらエクソリアさんと逆の方向へ向かうらしい。それをシルキーさんが追いかける。
それなら残りはということで、私はレイドさん、フレーレ、カイムさんにチェイシャと狼達を連れて、歩いてきた方向を戻る。最後にお父さんに、パパとママ、アネモネさんとリリーがさっきまでと同じ進行方向に進む事にした。
「そんなに広いと思えないんだけどなあ」
「このまま戻れば下り階段に到着するはずですが……」
カイムさんの言うとおり、15分ほど歩いた所で階段に到着した。
「……元の場所、か」
「でもおかしいですよ? 上がってきてから、わたし達かなり歩いたはずです」
フレーレの言うとおり、上がってから2時間以上は歩いている。それが15分足らずで戻ってこれるなんて怪しさ大爆発……。
「ここで降りても仕方ないし、一旦戻りましょう。エクソリアさん達が何か気づいていたみたいだし」
「ガウ……!」
「わぉん」
レジナとシルバが先立って戻り始め、私達もその後を追うように戻る。やはり15分くらいしたところで、分かれて歩いたメンバーと合流する。
『戻ったね。君達の戻った先には下り階段。それで合っているかい?』
「ええ、まあ元の道を戻っただけだからそうですよね」
エクソリアさんは頷くと、この四つに分かれた意味を説明してくれる。結論から言うと、別の方向に歩いていったはずなのに私達のパーティ以外は向かい合わせにこの場所へ戻ってきたらしい。私達が戻る前に女神様二人がお父さん達を残して別れて歩いていったけどやっぱり戻ってきたとのこと。
もちろん、すれ違ったりする事も無く。
『何か仕掛けがあるのは間違いないね。あのまま歩き続けていたらどうなっていたか』
やれやれと、肩を竦めてエクソリアさんがため息を吐く。機転が利くの流石だと思ったけど、解決方法はまだ分かっていないらしい。
「きゅふん」
「きゅきゅん」
シロップとラズベが鳴いたのでそっちを見てみると、また牛が居た。
「……あの牛さん、さっきから居ますよね。怪しすぎルー……」
「それ以上言ったら頬をつねるからね?」
「……」
「……」
「あの牛さん怪しすぎルーナじゃないですかねーー!」
「わんわん♪」
フレーレはそんな事を叫びながら走って逃げた! 何が彼女をそうさせるのか? それはフレーレにしか分からない! シルバは遊んでくれるものだと追いかける。
「待ちなさい!」
<はあ……お気楽ねぇ。主、どうするの?>
<まあ待てアネモネ。あやつらもこの状況で遊んでいる訳ではないはずじゃ……ほれ>
<なるほどねぇ>
---------------------------------------------------
<塔の入り口>
<これくらいでいいのか?>
「ああ……そのまま持っていてくれ……」
ファウダーがもう隠していないと知り、元の姿になったカームが空を飛びながら丸太を空中で支えてブラウンを手伝っていた。早朝から作業に入り、昨日蓄えた柵を立てるための支柱作りが淡々と行われていた。大体30人程度がキャンプを作っても大丈夫なくらいに柵を立て、魔物が入って来れないようにするつもりだった。
「この薄くした木を横に並べて繋げたら……ほら、板になったろ。これをいっぱい作ってくれ。釘がもっと欲しいな……うーん……」
「おう! ファウダー伐採に行こうぜ」
<あいよー>
ブラウンに言われてファウダーがクラウスと再び森へと向かう。ジャンナがファウダーの頭に乗ってあくびをしながら喋っていた。
<ぴー。元気ねぇ……それじゃ私も行くからこっちはバステト、お願いね>
<任せるにゃ、カームさんも居るから何とかなるのにゃ>
バステトは三人を見送ると、周囲の警戒を始める。森からは少し離れているため、見晴らしは悪くない。ただ大型の魔物はそれで見つけられるが、アリのような小さくて早い魔物は慎重に警戒する必要がある。
<塔から魔物が出てこないのはいいけど、馬車を守りながらは結構しんどいにゃ。早く拠点が出来て欲しいのにゃ>
馬車周辺と丈のある草むらを切り払って確認するが気配もなく、特に問題なさそうだった。そこへビショップのキールが話しかけてくる。
「猫、そっちはどうだ?」
<バスは虎だにゃ! 失礼にゃよ? こっちは大丈夫、そっちは?>
「お、そうなのか? そりゃ悪かったな! こっちも問題ない、作業の手伝いしようぜ。しかし喋って剣を使う虎とは驚いたぜ」
<まあ、深い事情は聞くにゃ。カルエラートのところへ……>
と、バステトがキールの隣に立ち、戻ろうとした所で気配を感じて振り返る。すると向こうから空からドラゴンが飛んできていた。地上の何かを攻撃しているようで、まれに急降下をしていた。目を細めてキールがそっちを見ると驚いて叫んだ。
「……ありゃあ……冒険者か!? ちっと救援を呼んでくる、俺たちだけじゃ無理だ」
<私が先行するにゃ! カームさんを呼んでくれれば解決するにゃ!>
「おおよ! リーダー……は、森か。しかたねぇ、俺達だけで何とかするか!」
キールはぼやきながら作業しているメンバーの下へ向かって行った。
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