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最終部:タワー・オブ・バベル

その186 覚悟

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 「世界の中心まで馬車で二週間ってとこらしい。幸いでかい目印だから迷う事もないな」

 レイドさんが御者をしながら、後ろ向きに私達に言う。

 ちなみにこの馬車にはレイドさんとフレーレにカイムさん。狼達にチェイシャ、ジャンナ、ファウダーと、ほぼ最初のメンバーが乗っている。

 フォルサさんを除いても全部で12人いるため、馬車は全部で三台借してもらうことになった。残りの振り分けはお察しだと思うので割愛するわ!

 「徒歩で一ヶ月くらいって言ってましたもんね。カイムさん達ニンジャだったらもっと早そうですけどね?」

 「そ、そうですね! ニンジャは隠密が基本なので、ぶつかり合いは苦手だと思う人もいますが、敵に見つかった時には迅速に逃げないといけない体力が必要ですし、囲まれた時に戦えないと意味がないので鍛えていますね」

 フレーレに話しを振られたのが嬉しかったのかペラペラと饒舌になるカイムさん。うーん、分かりやすい。

 <しかしフォルサは残念じゃったのぅ……>

 「はい……友達のダークドラゴンさんが亡くなった後、死ぬつもりだったから後悔はしていないかもしれないですけど、わたしはもっと一緒に居たかったです」

 <ぴ。でもあっさり死んじゃったわね……>

 「そうね……殺しても死なないと思っていたけど……」

 <……! みんな、魔物だ! オイラが先行するよ!>

 フォルサさんの話でしんみりしていた所でファウダーが声をあげた。御者台に顔を出すと、大きな蜂の魔物がこちらを目指して飛んでくるのが見える。

 魔物は節操がないのでどこも同じような魔物が徘徊しているため、一度見つけた魔物は便宜上名前をつけてメモしていたりする。

 「キラービーね、走りながら戦う?」

 「だな、他の馬車もそのつもりみたいだ! カイム御者と戦闘、どっちがいい?」

 「たまには私も戦いますよ!」

 「任せた!」

 「<ドラゴニック・アーマー>」

 馬とみんなに防御の補助魔法をかけ、戦闘開始だ! 私の補助魔法の効果範囲はかなり広いので、残りの馬車にももちろんかかっている。

 ブブブブブ……

 「ふっ! 炎舞手裏剣! たあ!」

 <これでも食らうのじゃ!>

 カイムさんが炎をまとった手裏剣を投げ、近づいてきた相手には蛇之麁正という刀で攻撃していた。見事な切れ味をしているわね。
 そしてチェイシャが尻尾から火球と緑色の針のようなものを飛ばす。チェイシャの尻尾は9本に戻り、それぞれ火や氷、雷などを出せるようになっていた。ちなみに緑は……毒だったりする。

 キィィィィ……

 ブゥン!

 次々と二人が落としていくと、怒りに燃えるキラービーが加速して突っ込んでくる! ここは私が!

 「シューティングスター・ディフュージョン!」

 愛の剣以外にも私には弓のレイジングムーンがある。魔力が増大した今、この技を使ってもまったく疲れないので、新しい必殺技も作ることが出来た。


 ズドドドドド

 一気に砕け散るキラービーたち。こりゃ敵わんと思ったか、いずこかへ飛び去っていった。

 「がう!」

 「わんわん!」

 レジナとシロップが馬車から飛び降りて、キラービーの死体を回収しにいった。私達にはよくわからないんだけど、チェイシャが言うには神裂製の魔物を食べるとレジナ達は強くなっている気がするそうだ。

 「きゅふぅん!」

 「あ、ラズベ、あなたはダメよ」

 野良子狼は名前が無いと不便なので私が名前をつけた。目が赤かったので、ラズベリーからとったの。シロップとはあまり仲が良くないんだけど、猫のリンとはじゃれあっていたりする。

 「これくらいの相手なら退治できるようになりましたね」

 フレーレが馬車の中から声をかけてきた。戦闘に参加しなかったのは理由があって、回復魔法を使えるフレーレやセイラはなるべく前へ出ないようお願いしているためである。万が一の時、回復できないとまずいと判断したためそう決めた。

 「そうね……ギルドカードの数字がとんでもないことになってるし」

 「ま、塔の中はまだ強いらしいし、油断はできない。できるだけ戦っておいて損はないと思うよ。道中、町や村でも休むつもりだからね」

 レイドさんが、同じく御者をしているパパとお父さんに目配せをし、少し速度を落としながら再度進む。その後も何度か魔物に襲われ、時間を浪費してしまい、この先にある町に到着する事は叶わなかった。

 今日は野営し、数時間だけ仮眠を取ったらすぐに出発し、町へ向かう予定に決めた。ちなみに見張りはクジで決め、馬車ごとに一人立てる。出発したら今度は見張りが荷台で寝ることになっているので損はないのだ。

 「……見張りはルーナ、カルエラート、俺だな。食事を取ったらすぐに寝てくれ、四時間後には出る」

 パパが告げると、ささっと食事の準備をフレーレやチェーリカ、お父さんが行っている。そして戦い以外では役に立っていないアルモニアさんが飯を出せとうるさい。

 『いやあ、自分の作った世界で食事もいいわね。あれ? 今日はカルエラートじゃないの? あなたのが一番美味しいのに……』

 「女神にそう言ってもらえるのはそれは光栄だが、今日はさっき聞いたとおり見張りがメインなんだ。また今度な」

 <リリー、焚き火に突っ込んだらダメにゃよ?>

 <しないっぴょん!?>

 <あー……アタイは酒が欲しいねぇ、無いのかい?>

 「(……あるわよ、いく?)」

 

 そんなやりとりをしながら、夕食が終わり、私は見張りについた。

 目の前でパチパチと焚き火が燃える音を聞きながらカップに入れたスープをすする。パパとカルエラートさんは周辺の見回りを兼ねて馬車の外側を見ているのでここには私と……。

 「わふ♪」

 「わん……」「きゅきゅん……」「Zzz……」

 元気なレジナに、もうおねむの子狼達が一緒に居てくれていた。ラズベはもうすでに寝ていて、シロップもお腹を撫でていたら寝息を立てだした。

 「ふふ、可愛い。レジナは元気ね?」

 「わぉん」

 私の太ももに顎を乗せて撫でてくれとせがむので、わしゃわしゃと撫でると目を細めて嬉しそうにしていた。

 「あんた達も死なないでよね、私を助けるためとかで無茶しそうだし」

 「わふぅん……」

 聞く耳持たないとばかりに耳を折りたたむレジナ。

 「あ! この子は~! それ、わしゃわしゃわしゃ!」

 「わふわふ♪」

 「……またアルファの町で冒険者したいなあ、ちょっと強くなったけど……レイドさんとフレーレと、あんた達。たまには組み替えてソキウスとかチェーリカと討伐にいったりね! 契約が面倒か……」

 デッドリーベアに襲われていた頃が懐かしく感じる。まだ一年も経っていないのにね。レジナもウトウトし始めた頃、後ろで気配がしたので振り向くと、毛布を持ったレイドさんが立っていた。

 「どうしたの? ずっと御者をやってくれていたんだから寝てないと」

 「ちょっと落ち着かなくてね、隣いいかい?」

 「あ、うん。ごめんねレジナ」

 「くぅーん……」

 レジナを足から引き剥がすとレイドさんが隣に座り無言で毛布をかけてくれた。しばらく黙っていたけど、ポツリと話し始める。

 「しかし、波乱万丈だな、まさか世界を救うための戦いになるとは思いもよらなかった。ルーナとパーティを組んでから色々あったなあ……誘拐もそうだし、魔王の娘ってのも驚いたよ」

 「あはは、それを言ったら私が一番驚いたわよ! 女神の腕輪は勝手につけられるし、パパは勇者で本当のお父さんは魔王だし」

 「腕輪というとベルダーか、今頃どうしてるかな」

 「お嫁さんと仲良くやってるわよ、きっと……絶対勝とうね、この戦い」

 レイドさんの肩に頭を預けて呟くと、一瞬微笑んでから顔を引き締める。

 「……だな。戦いが終わったら、その、俺と……」

 「何?」

 「い、いや、何でもない……」

 「そう? うーん、私はもしかしたら死んじゃうかもしれないから言っておこうかな? ……私は、レイドさんの事が……好きです」

 すると、ギョッとした顔になるレイドさん。あはは、びっくりしてる!

 「……はあ、ルーナは何でもスパッと決めてしまうな……クーデターの時も一人で行ってしまった……相当心配したんだぞ?」

 「いやあ、犠牲になるのは自分だけでいいかなーなんて……」

 「残された人の気持ちになってみてくれ。突っ走るのが悪い癖だな、盗賊のアジトの時もそうだったし……」

 「う、面目ありません……」

 しおしおとうな垂れていると、頭に手が乗せられ静かに撫でられる。

 「ま、そんな所が好きなんだけどな……。ルーナの元気には助けられたよ、目を離したら何をするか分からないからハラハラもしたけど。はは」

 「う、いきなり言うのは反則じゃないかしら……」

 「先に言ったのはルーナだろ?」

 ごもっとも。でもこんなにすんなり言ってくれるとは思わなかったので内心びっくりしていたりする。

 「それじゃ、尚の事負けられないわね!」

 「ああ、誰一人死ぬことなく神裂を倒す。命をかけてもな」

 「ダメよ、みんな生きて帰るんだから命をかけちゃ?」

 私がそう言うと一瞬きょとんとしたあと、それもそうかと笑い出した。しばらくしてレイドさんは仮眠を取るため戻り私は一人に戻る。

 外は寒いけど、心は暖かかった。

 そのまま狼達を見ながら私は見張りを続けたのだった。


 

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 「むう……レイドめ……」

 「出て行くなよ? やっとお互いの内を言ったんだ」

 「分かってるって。そういや、その、お前も俺のこと……」

 「はは、そうだな。ま、アイディールに譲るとしようか。お前よりいい男を見つけてみせるさ、ディクライン」

 「……悪いな」

 ディクラインがそう言うと、カルエラートの目から涙が溢れた。

 「気にしなくて、いい……分かっていた、から。私が勝手に想っていた、ただそれだけだから」

 「……」

 
 ディクラインはカルエラートの頭を撫でながら、空を見上げもう一度、悪いな、と口にした。



 一つが始まり、一つが終わった。そんな夜だった……。
 
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