パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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最終部:タワー・オブ・バベル

その184 実験

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 三ヶ月前、神裂が生きていたことを知り、世界の崩壊を促す宣言をしたあの日。私達はすぐに城へ戻り、準備を進めるため、全員を集めた。




 <魔王城 食堂>



 「フォルサさんは?」

 「ダメです、まだ目を覚ましません……」

 エクソリアさんが言うには、アルモニアさんを引き剥がすために魔力をほぼ空になるまで使い切ったからだそうだ。

 「チェイシャ達は?」

 レイドさんが守護獣達を心配すると、それについてはママが答えてくれた。パパやエクソリアさんと一緒に連れて行ってたから状況を聞いてきたらしい。エクソリアさん何気に苦労人?

 「守護獣は虫の息よ」

 「サラリと言ったけどそれダメなやつじゃない!? ど、どうなるの?」

 嘘でしょ……何だかんだでみんな一緒に神裂を倒してまたいつものように暮らせると思っていたのに……すると、女神二人が謁見の間へと足を踏み込んできた。

 『待たせたね』

 『今後の事……といってもバベルの塔を目指すしかないんだけど、全員で攻めるってことでいいわね? もちろん私達も参戦するわ』

 「そうだな、一年は長いようで短い。すぐに行動に移した方がいいと私は思う」

 アルモニアさんとカルエラートさんがそう言うとパパがイスを傾けて話し始める。

 「同感だ。面倒なのがあの一帯には転移陣を仕掛けていないから、ここから向かった方が早いくらいってことだな。馬車の用意をしないといけないかもしれんな」

 「だったらニーナのところで借りるです? 事情を話せば貸してくれると思うですけど。あ、もちろんお金は払いますけど」

 「そうだな、転移陣なら持って帰れるしダメもとで行ってみようぜ」

 「……言ってみるか……世界の中心に徒歩だと一ヶ月近くかかるだろうしな」

 『それじゃあその間にチェイシャ達を調整するよ。後、気になったのは魔物の事だ。この世界に居ない魔物を放つと言っていた。それを確認する必要があると思う』

 パパが馬車の手配をアクアステップで出来た友達に借りようとチェーリカ達に言われていると、エクソリアさんが魔物について確認したいと言った。


 「あ、それじゃ私……」

 「確かにな。それじゃあ俺と……レイド、頼めるか? 後は……」

 『言いだしっぺのボクが行こう。直に見ておきたいからね』

 「後はわた……」

 「回復魔法も必要でしょ、私も行くわ」

 「それじゃ早速行こう、ん? ルーナ、ふてくされてどうした?」

 「……別に! 私達、近くで見ててもいい?」

 折角戦えると思ったのに……とりあえず見ておきたいし、それくらいはいいよね?

 「ああ、勿論そのつもりだ。準備できたら行こうか」




 ---------------------------------------------------



 <魔王城 外> 


 魔王城の外はだだっぴろい平原が広がっていた。そういえば初めて外に出るわね、辺りを見回しているとパパが声をあげた。

 「……見たことない魔物……あいつか」

 「何だ? でかい、な」

 「こっちはフォークみたいな武器持ってるんだけど……」

 ママが呟くと、その大きな(推定2.5m)銅像みたいな魔物と、フォークを持って蝙蝠のような羽をつけた魔物がこちらに気づき向かってきた!


 「来たぞ!」

 パパの掛け声でレイドさんが武器を抜き、エクソリアさんが神裂との戦いで見せた光の刃を出して迎え撃つ。



 ……結果から言うと、散々だった。

 銅像……アルモニアさんが言うにはゴーレムには刃が通りにくく、フォークを持ったほうはアークデビルといういわゆる御伽噺で出てくるような魔物らしい。そっちは雷の魔法は使うわ、炎を吐くわで腕力もおかしいくらい高く、レイドさんもパパも大苦戦だった。

 「はあ……はあ……強いなんてもんじゃないぞ……魔法を使う魔物とか反則だろ……」

 「い、一応、倒せなくないないですけど……」

 『……これはマズイね、今まではディクライン一人居ればこの世界の魔物は何とかなったけどこのレベルより上が塔に居るなら全員でかかっても全滅は必死……』

 「あ!? ま、また別のが来ましたよ!」

 エクソリアさんがボロボロの体で説明をしてくれるが、魔物は待ってくれない。また別の魔物がやってきた。ママもかなり消耗しているからここは交代しよう!

 「フレーレ、行くわよ!」

 「はい!」

 『私も少し戦ってみておこうかしら』

 「フレーレさんが行くなら私も」

 「わんわん!」「きゅーんきゅん!」

 「ルーナ、油断するな? 補助魔法はかけておくんだ」
 
 パパが私、フレーレ、カイムさんに、シルバ達を抱っこしたアルモニアさんが外に出て、向かってくる巨大なアリ型の魔物数体と対峙した!





 ---------------------------------------------------






 
 「……痛い!?」

 カルエラートさんに脱臼を治して貰っている私。結果的に『何とかなった』けど、一回の戦いでこんなに消耗していたら正直話にならない。それくらい、強かった……。

 『うう……あやうく卵を産み付けられるところだったわ……』

 「甲殻が固かったから聖魔光で内部を壊しましたけど、複数接近されてたら……」

 「……」

 「くぅーん……」「きゅきゅん……」

 アルモニアさんは、殲滅できなかったけど、順調に倒していた。だが、脅威と感じたアリ達は一斉にアルモニアさんを襲っていた。
 フレーレがセイラにモーニングスターを手渡され、アルモニアさんに群がるアリを背後から殲滅。そしてカイムさんは二回は骨折させられ、もみくちゃにされていた。
 シルバとシロップも成長していたが、アリの子供のような小さいのを相手にするのが精一杯で、それもレジナが後から加勢してなんとか倒せていた。

 私が全員に補助魔法をかけてこれだったから、無かったらと思うとぞっとする。

 「……どうする? 塔に行くまでに全滅するぞこれ……?」

 「「……」」

 城の中に入り、レイドさんが重い空気の中口を開く。すると、ぶつぶつと呟いていたエクソリアさんが私達を見て目を細める。

 『ディクライン、悪いがもう一度戦ってもらえるか?』

 「……? 構わんが、何か気づいたのか?」

 『いや、神裂が向こうの世界の人間と考えるならいくつか試したい事があるんだ』


 そして、今度はパパ、レイドさん、カルエラートさんとエクソリアさん。回復にセイラを据えて戦闘。まだアリの魔物がうろうろしていたので標的はそれになった。

 やはり満身創痍で戦いが終わり、まだ仲間を呼んでいたので慌てて城へ戻る。そこでエクソリアさんが気づいた事を話し始めた。


 『向こうの世界にはゲームと言う、仮想現実で遊ぶ遊戯があるんだ。神裂はその辺りを模して魔物を生み出したみたいだ』


 エクソリアさんいわく、分かった事が三つ。

 一つ目は魔物は町などの施設には入ってこない。これは実際に城に逃げ込んだ私達がアリの追跡を逃れたからにある。境界はどうなっているのか分からないが、急に興味を無くした様に離れていくのだ。

 二つ目は魔物にはダンジョンの魔物みたいな魔法生物に近い存在だという事。ダンジョンと違い、死体が残るので食用にできそうな魔物、例えば遠くにいた二本足で立っていたキノコの魔物は鍋にできるとかである。
 そして驚きなのが、レジナにアリの肉を食べさせたところ、レジナの能力が上がっていた。シルバもシロップも同様で、アリの子供と互角になるくらいになっていた。


 そして三つ目。これは私達に重要で、戦って倒すと何となくその魔物に対する抵抗がつくみたいで、ギルドカードを見るとレベルが上がっていたりしていた。

 普段、冒険者は依頼で魔物を倒す。
 でもそれは増えすぎた個体の討伐であったり、村を襲ったりする、肉を調達するためであればという話で、倒し続けていたら生態系が狂うため、ダンジョンを巡る冒険者でなければそれほどレベルは上がらないのだ。狙って依頼を受ける人は別だけどね。
 
 「ということは、無理して倒し続ければいずれ簡単に倒せるようになる?」

 『そう言うことだね。ただ神裂は一年と言っていた。今からレベリングをするとなると時間はあまり無いから、荒療治になるね』

 「……それでもやるしかないわ、明日から……!」

 そして、それから二ヶ月かけて近隣の魔物を倒した。出てくる魔物に節操が無く、ゴーレムやアークデビルのような相手も居れば、蜘蛛やトカゲ、はたまた見たことの無いドラゴン、ドラゴンゾンビなど枚挙に暇が無かった。

 死に掛ける事も度々あり、フレーレやママ、セイラにチェーリカの回復魔法にはかなりお世話になった。また、元から居た魔物達も困っていたのか、城の庭に逃げ込んでくる魔物や動物が増えてきていた。中にはあのデッドリーベアも居たりする。

 「きゃんきゃん♪」

 「わんわん♪」

 動物の中に子狼が居て、朝食の時、レジナ達に混じって狼が一匹増えていた事も。シルバと仲がいいためそのまま城飼いを余儀なくされた。シロップはお兄ちゃんを取られてご立腹だったけどね。


 「増えたな……」

 「魔物の楽園になるわよこのままじゃ……」

 「まあ、私達が神裂を倒せばこの子達も出て行くでしょ。今も餌を求めて出て行く子も居るしね」

 意外なことに城の中に逃げ込んだ魔物はお互いを襲わない。恐らく本能で、ここで争うのは得策でないと考えているのだろう。

 稀に魔物同士で神裂製の魔物を倒しに出かけたりする。デッドリーベアが先導するところをみると、やはり頭がいい魔物なんだなと思う。

 さらに一ヶ月が経過し、パパとチェーリカ、ソキウスが馬車を借りに出かけ無事持ち帰ってきた。アクアステップもかなり被害が大きいらしく、冒険者達が一丸となって魔物を倒しているそうだ。犠牲は……あまり考えたくない。

 馬車も手に入り、ついに塔へ向かう準備が整った。というのも、チェイシャ達の『調整』とやらが終わったからである。


 『さて、調子はどうだい?』

 エクソリアさんの声でゆっくりと体を起こす守護獣達。これは……!?

 

 世界滅亡まで残り七ヶ月 
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