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最終部:タワー・オブ・バベル

その182 破滅①

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 <ビューリック国 謁見の間>

 神裂が宣言をする少し前、ルーナを救出すべくようやく国境を越えていたアルファの町のギルドメンバーがビューリック国へ訪れていた。

 ひと悶着あるだろうと、ギルドマスターのファロスを筆頭に、クラウス達ブラックブレードのメンバーと、シルキー。そしてどうしても着いて行くと暴れていたフォルティスが足を踏み入れた。

 しかし、すでにクーデターは終わっていたためすんなり入国。町もそれほど混乱した様子も見られず、ファロス達は面食らっていた。そして、そのまま謁見の申請をすると、それも即受理され、今は壁が半壊した謁見の間で待ちぼうけを受けていた。

 「……罠、だったりするかしら?」

 シルキーが呟くと、ファロスが首を振ってそれを否定し、口を開く。

 「そこの壁、そして来る途中焼け焦げた建物もあった。恐らくクーデターは成功したのだろうと思う。気になるのは、王を打倒したという事であれば誰が次の王になるのか、だな」

 結局、先代を倒しても次に王になる者が同じように邪悪な性質を持っていたら国のありようはきっと変わらないからだ。

 「でもよぉ、相当酷いやつだったんだろ? 先代の王。クーデターを起こすくらいだから、それ以下って事はないんじゃないか?」

 「クラウスの言う事も一理ある。だが、私達がここに来たのはルーナさんの無事を確かめるのが目的だ。この国の行く末は私達には関係ない」

 フォルティスは腕組みをしながら、何故か謁見の間に備え付けられているソファに腰をうずめた。しばらく待っていると、裏の扉から小柄な女性がにこやかに入ってきて、その後ろから笑みを絶やさない男が続いた。

 「やあ! 遠路はるばるようこそビューリックへ! 私はアンジェリアという。この国の騎士団長だ」

 白いドレスをまとった女性がアンジェリアと名乗り、横にいた男が肘で突いて訂正させる。

 「お、おお……そうだったな……騎士団長兼、ビューリック国王代理だ」

 「やはり先王は?」

 ファロスが尋ねると、横に居た男、エリックが代わりに答えた。

 「申し遅れました。僕は副団長のエリック。クーデターの考案者で、ルーナちゃんを連れてくるように言った主犯でもあるねー」

 軽い口調でそう言うと、フォルティスが立ち上がろうとする。それをクラウスが引き戻し、ファロスが話しを続ける。

 「……我々にはクーデターの成否は興味が無くてね。そのルーナちゃんは無事なのかな?」

 「それなんだけどねー……」

 エリックはクーデターの顛末を話し始めた。
 
 事の発端である王の振る舞い、この国のことやゲルスと、ゲルスに乗り移っていた神裂のこと。そしてルーナはレイドやフレーレ、女神の片割れやディクラインと共にいずこかへ転移してしまった事を

 「やはり来ていたのか……」

 苦い顔をするファロスにフォルティスが肩を叩いて話しかける。ルーナが無事だと分かっただけでも良かったといった顔で言う。

 「あの二人は監視を逃れられた時点でこちらに打つ手が無かった。冒険者としては失格だが、それはもういいだろう。それよりも……」

 「どこへ行ったか、ですね。でも、それこそこちらができる事はもうありませんよ? ルーナは無事でここには居ない。行方も分からないとなると帰ってくるのを待つしかありません」

 シルキーに同意して、クラウスも言葉を続ける。

 「まあフォルティスの旦那はルーナちゃんが気になるから探したい気持ちもあるだろうが、俺達ゃここまでだ」

 「すまないな。我々もこの国を救ってくれた礼をしたいと思っているんだ、盛大なパレードをだな……」

 興奮気味に話すアンジェリアを見て困惑するアルファの町のギルドメンバー。エリックが咳払いを一つして、ファロス達へ話しかけた。


 「ま、そういうことなんでねー。もしそちらに帰ってきたらぜひ教えて欲しいんですよー? もちろんこちらに帰ってきたときもお伝えさせてもらいます。が、罰を与えるといった事は無いでしょうねー?」

 目を少し開いてギルドマスターだというファロスへ尋ねると、ファロスは無言で見返す。そしてフッと笑った。

 「最初はそれなりに罰を与えるつもりだったが、不可抗力だし、レイド達もパーティのメンバーを助けに来ただけ。そう言う事にしておこう」

 「ですよねー。ま、主犯は僕ですけど、他国の僕には何もできませんし、ルーナちゃんは『建前上』同意の上で着いてきましたのでー」

 「……食えん男だ。だからこそ成功したのだろうが……」

 「ささ、それじゃ今日の所は泊まっていってくださいー! あちこち壊れてますけど、客室はきちんとしているので」

 「そうだなあ、拍子抜けしたしそうしようぜ?」

 「そうね、ここまで疲れたし」

 まあ、急ぐ必要も無いかとファロスがエリックへお願いする旨を伝えた所で、騎士の一人が謁見の間に慌てて駆け込んでくる。

 「どうしたー? 客人の前だぞ?」

 「も、申し訳ありません! しかし緊急事態でして……! そ、空に……空に人が……!」

 「何? もう少し詳しく話せ、空が何だというのだ?」

 「そ、それより見てもらったほうが……こちらへ!」

 騎士へ連れられ外に出ると、庭や町は騒然としていた。アンジェリアやファロス達は空を見上げて口をあんぐりと開けて立ち尽くす。空に巨大な人影がそこにあったからだ。

 『俺の名は神裂。この世界の神となった者だ。で、いきなりで悪いが、この世界を壊す事に決めた” はっはあ! お前らの命は俺の手の中ってことだ、オッケー?』

 「か、神裂だと!?」

 「さっき話しにあったヤツか?」

 アンジェリアが驚きの声をあげ、エリックが冷や汗をかく。顔は違うがあの口調は確かに神裂だと思っていた。

 『しかし、だ。お前等も何もせず消されるのは嫌だろう? そこでチャンスだ。さっき世界の中心にバベルの塔という塔を建てた。そこに俺が居る。もう分かったろう? そこで俺を倒せればお前らの勝ちだ』

 「勝てばいい、か。何人でかかってもいいのだろうか?」

 それを聞いていたかのように、神裂はさらに話しを続ける。

 『ちなみに何人でかかってきても構わないぞ? 20でも、100でもな! ぎゃははは、それでも負ける気はしねぇが……そして条件をつけさせてもらうぞ。一年だ。一年以内に俺を倒せなければ、めでたくお前らはこの世から消えることになる。ひひ……そして外には、たった今俺が作った魔物を徘徊させた。それを掻い潜って塔まで来い。急げよ? 一年なんてあっという間だぞ? ぎゃーはっはっはっは!』

 それだけ言うと、神裂は姿を消した。


 「……嘘か本当かは分からんが……」

 「いや、あの男ならできる、と思う。しかしどうして生きていたのか……」

 ファロスとアンジェリアが話していると、クラウスがファロスへ帰るよう促した。

 「ファロスさん、これは緊急事態だぜ。とりあえず真偽は確かめる必要はあるから、一度ギルドへ戻って話し合いだ。悪ぃな、またゆっくり来るとするぜ」

 「いや、神裂の力は我々が良く知っている。すぐに対策をしなければ……エリック、騎士達を集めろ」

 「りょーかいー……厄介な事になったな……」

 エリックは宿舎へ向かい、ファロス達はすぐに町を出る事にした。

 ファロス達は馬車を駆り、町の外に出ると異様な気配に包まれていることに気づく。

 「この気配……ただごとじゃないぞ!?」

 「クラウス、前!」

 「何だ、こいつら!? 虎、か?」

 グルルル……

 それは間違いなく虎だった。だが、その体躯は通常の虎の二倍はあり、二本の牙はとにかく長い。サーベルタイガーである。こんな魔物は見たことが無いと一行は武器を構える。

 すると茂みがガサガサと動き、さらに驚愕する事態が起こる。

 「ト、トカゲ人間!?」

 俗に言うリザードマンという神裂の居た世界のゲームにはありふれた魔物だった。この世界には存在しないため、フォルティスの驚きようも無理は無い。

 「友好的ではなさそうだな……こいつらが放った魔物か……。 !? 来るぞ!」
 
 神裂VS世界、戦いの幕があがった瞬間だった。

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