160 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その181 遊戯
しおりを挟む『馬鹿な!? あの時確かに消滅したはずだ!』
エクソリアさんが姿の見えない神裂に叫ぶと、横からちょんちょんとアルモニアさんが私の肩を突いてきた。シロップは抱いたままで。
『(誰だっけ?)』
「(私の中に居たときにも戦ってますけど!? 異世界の人、らしいです。よく分からないんですけど……)」
『(ああ、転生者か)ズィクタトリアを倒してくれた事は感謝するけど、それだけじゃないわよね? 転生者の9割は平穏に暮らしたがる。だけどあなたはそうはいかないみたいね? さらに神を手にかけた。バレたら一瞬で消されるわよ』
アルモニアさんが挑発するように言い放つと、神裂は笑いながら話しを続ける。
『俺としてはそこの妹女神をめちゃくちゃにしたいところだが、それよりも面白い事を思いついてな?』
「……どうせロクでもない事だろう」
「変態ですからね……」
『変態じゃねぇよ!? そこの金髪巨乳、お前も回復魔法が使えるようになったみてぇだな』
戦った事のあるレイドさんが、目を細めて呟き、フレーレの呆れた言葉に憤慨する神裂。フレーレは天然で女神よりも挑発していた。
「巨乳ってわたしの事ですか!? いやらしいですね、すぐ滅しましょう女神様」
「はい、モーニングスター」
セイラがフレーレに武器を渡すと、ママが二人をポカリと叩きながら言い聞かせるように話す。
「落ち着きなさい。今はチェイシャ達が心配だわ、フォルサも珍しくこういう場面で起きないし……」
ママがカルエラートさんとチェーリカにソキウスを使い、城の中へ気絶した守護獣とフォルサを連れて行った。それを見届けて今度はレイドさんが神裂に問う。
「それよりお前はどうやって生き延びたんだ? 体は消滅したはずだと思ったがな」
『おお、それな。あの時エクソリアに消滅させられそうになった時、ダメージを反転させて消滅を免れた。それでもダメージはでかくてな? 細胞が活発化しすぎて死にそうになった、癌細胞みたいな感じだろうな。で、俺はゲルスの体を捨てて魂だけになったんだよ。ゲルスの体はどうなったかしらねぇがな。はははははは』
「何てヤツ……」
宿主の人生を狂わせたあげく捨てるなんて……アルモニアさんはそこまでのことはしなかったわよ。私が歯噛みしていると、さらに神裂は言葉を続ける。
『その後、俺は憑的を探す必要ができたが、まずは力を回復させるために眠りにつくことにした。すぐにエクソリアの部屋を思い出してそこで回復していた所に、さっきの馬鹿が大声でお前達に宣戦布告をしてたって訳だ』
「そこで不意打ちをして、乗っ取った?」
ニンジャだからか、不意打ちに興味を示すカイムさん。それよりも神の体を乗っ取る事ができるということが驚きなんだけど……。
『そうだなぁ。恩恵<創造>は細かい条件をつければ割と何でも出来る。何と言ったら通じるかねえ? 体に魂を入れる部屋があるとしよう。それは通常一つしかないわけだが、<創造>でもう一つ増やす……そんな感じか? ゲルスの時は相性が重要だと思っていたが、力が上がって神すら手玉に取れるようになった訳だ』
「それで神になった気分はどうだ?」
『あまり面白いもんじゃねぇな。ズィクタトリアの記憶を見る限りこっちの世界も変なヤツは多いようだが、つまらなさそうだ』
「そうか。ではもう一つ。お前はどうすれば殺せる? どうやら世界の危機は去っていないようだし、速やかに消えてくれると助かるんだが」
ずっと黙っていたお父さんが神裂にそんな事を聞く。一瞬黙って神裂は笑い始める。
『ぎゃはははは! へえ、そう来るかね! それは面白い質問だ。俺はまだこの体に馴染んじゃいねぇ、今なら殺せるかもな? そうだな……それじゃさっきの面白い事についてにも繋がるからそれを話そうか』
するとフレーレがハッとした顔で私を見ながら言った。
「ルーナを引き渡せとかですかね……子を産ませようとしたくらいですし」
「やめてよ蒸し返すの!? フレーレ行きなさいよ!」
「嫌ですよ!? 変態は嫌です!」
『うるさいぞお前等!? 今言った通り、俺はこの体に馴染んでいない。だから、そこの女神とほぼ同等の力しか使えないし、心臓を抉られれば死ぬだろうなぁ。で、俺は別に世界に興味は無い。そこでゲームをしようと思う』
『ゲームだと?』
エクソリアさんが聞き返すと、神裂が真面目な口調で返してきた。
『そう、ゲームだ』
パチンと指を鳴らす音が聞こえたと思った次の瞬間、大地が震え始める。地震というには激しい揺れが私達を襲う。
立っていられないのでしゃがんでいると、やがておさまり、また神裂が喋り始める。
『世界の中央に塔を建てた。この塔の最上階に俺がいる、元エクソリアの部屋を繋げた』
「あ、あれか……?」
レイドさんが世界の中央、ここからだと丁度真南へ目を向けると、そこには空を突き破る勢いで塔が出来ていた……。
『俺の居た世界の古い話で”バベルの塔”というのがあってな、人間が神に挑戦するために建てるって話なんだが、俺を殺しにくるならいい名前だろう?』
『(この短時間であれだけのものを? ズィクタトリアほどではないけど、私より力は上かもね?)』
『一年』
「何?」
『今日から一年で俺はこの体をモノにする。そうなれば俺を殺す事は不可能になるだろう。その間に俺を殺しに来い』
一年以内に自分を殺しに来い、そう宣言する神裂。私は胡散臭いものを感じて、質問をする。
「あの塔を登るのにリスクはあるのかしら? それに最上階をいつまでも増やし続ける事もできそうだし、こっちが不利すぎないかしら?」
『ぎゃははは! もっともな質問だ! リスクはあるに決まってるだろうが、中には魔物を配置する、お前達の世界には居ないような凶悪なヤツをな! 最上階はルーナの言うとおり増やせそうだが、それはしない。信じるかどうかは自由だがな? どっちにせよお前らに選択肢は無い。一年経てば、この世界は潰す。助かるには俺を殺すしかない』
「なるほどな。それで殺す方法と、面白い事は一致するってわけか」
パパが腕を組んで片目を瞑ってから一言喋る。それにアルモニアさんが呼応した。
『みたいね。思い知らせてやるわ』
『まあ、落ち着け。お前等だけじゃ俺もつまらねぇ。塔も建てた事だし、ここは一つ全世界の皆さんにも手伝ってもらおうじゃねぇか! 俺はこの後、全世界に向けて今のゲームを知らせる。その誰かが俺を殺してもクリアだ! だが、俺も簡単には死ぬつもりは無い。宣言から一時間後、世界に塔よりも少し弱い魔物を放つ。それを潜り抜けて塔を登ってもらおうかね? それじゃあごきげんよう! 一年で俺を殺せるといいなあ? ぎゃーはっはっはっは!!』
「世界中を巻き込む……?」
『マズイな、そんな宣言をされたら世界は混乱する……塔を目指すやつがいるもんか……それにあの自信、何かあるぞ』
「罠だとしても、俺達だけでも行くしかない。とりあえずアイディール達に今の話しをしよう」
パパは何とかなると言ったが、エクソリアさんの予測が概ね当たることになる。
全世界に現われた神裂の姿は、ゲルスと違い若い男の姿だった。一年で世界が滅ぶ……それを聞いた人々は恐慌に陥るか、気の強い冒険者は我先にと塔を目指す。
だが、神裂が世界に放った魔物はあまりにも異質で、強すぎた。
魔王城の周りにも放たれていて、パパ、レイドさん、エクソリアさんが三人でかかってようやく一体倒せるかどうか……そんなレベルの魔物が世界を徘徊していた。
大半は歯が立たず、敗北を喫することになり、段々と塔を目指す者は数を減らしていく。町の中にまでには入ってこないため、いつしか『きっと誰かが神を倒してくれる……』と引きこもり、陰鬱な空気が流れていた。
そして、あれから三ヶ月が過ぎた。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。