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最終部:タワー・オブ・バベル
その181 遊戯
しおりを挟む『馬鹿な!? あの時確かに消滅したはずだ!』
エクソリアさんが姿の見えない神裂に叫ぶと、横からちょんちょんとアルモニアさんが私の肩を突いてきた。シロップは抱いたままで。
『(誰だっけ?)』
「(私の中に居たときにも戦ってますけど!? 異世界の人、らしいです。よく分からないんですけど……)」
『(ああ、転生者か)ズィクタトリアを倒してくれた事は感謝するけど、それだけじゃないわよね? 転生者の9割は平穏に暮らしたがる。だけどあなたはそうはいかないみたいね? さらに神を手にかけた。バレたら一瞬で消されるわよ』
アルモニアさんが挑発するように言い放つと、神裂は笑いながら話しを続ける。
『俺としてはそこの妹女神をめちゃくちゃにしたいところだが、それよりも面白い事を思いついてな?』
「……どうせロクでもない事だろう」
「変態ですからね……」
『変態じゃねぇよ!? そこの金髪巨乳、お前も回復魔法が使えるようになったみてぇだな』
戦った事のあるレイドさんが、目を細めて呟き、フレーレの呆れた言葉に憤慨する神裂。フレーレは天然で女神よりも挑発していた。
「巨乳ってわたしの事ですか!? いやらしいですね、すぐ滅しましょう女神様」
「はい、モーニングスター」
セイラがフレーレに武器を渡すと、ママが二人をポカリと叩きながら言い聞かせるように話す。
「落ち着きなさい。今はチェイシャ達が心配だわ、フォルサも珍しくこういう場面で起きないし……」
ママがカルエラートさんとチェーリカにソキウスを使い、城の中へ気絶した守護獣とフォルサを連れて行った。それを見届けて今度はレイドさんが神裂に問う。
「それよりお前はどうやって生き延びたんだ? 体は消滅したはずだと思ったがな」
『おお、それな。あの時エクソリアに消滅させられそうになった時、ダメージを反転させて消滅を免れた。それでもダメージはでかくてな? 細胞が活発化しすぎて死にそうになった、癌細胞みたいな感じだろうな。で、俺はゲルスの体を捨てて魂だけになったんだよ。ゲルスの体はどうなったかしらねぇがな。はははははは』
「何てヤツ……」
宿主の人生を狂わせたあげく捨てるなんて……アルモニアさんはそこまでのことはしなかったわよ。私が歯噛みしていると、さらに神裂は言葉を続ける。
『その後、俺は憑的を探す必要ができたが、まずは力を回復させるために眠りにつくことにした。すぐにエクソリアの部屋を思い出してそこで回復していた所に、さっきの馬鹿が大声でお前達に宣戦布告をしてたって訳だ』
「そこで不意打ちをして、乗っ取った?」
ニンジャだからか、不意打ちに興味を示すカイムさん。それよりも神の体を乗っ取る事ができるということが驚きなんだけど……。
『そうだなぁ。恩恵<創造>は細かい条件をつければ割と何でも出来る。何と言ったら通じるかねえ? 体に魂を入れる部屋があるとしよう。それは通常一つしかないわけだが、<創造>でもう一つ増やす……そんな感じか? ゲルスの時は相性が重要だと思っていたが、力が上がって神すら手玉に取れるようになった訳だ』
「それで神になった気分はどうだ?」
『あまり面白いもんじゃねぇな。ズィクタトリアの記憶を見る限りこっちの世界も変なヤツは多いようだが、つまらなさそうだ』
「そうか。ではもう一つ。お前はどうすれば殺せる? どうやら世界の危機は去っていないようだし、速やかに消えてくれると助かるんだが」
ずっと黙っていたお父さんが神裂にそんな事を聞く。一瞬黙って神裂は笑い始める。
『ぎゃはははは! へえ、そう来るかね! それは面白い質問だ。俺はまだこの体に馴染んじゃいねぇ、今なら殺せるかもな? そうだな……それじゃさっきの面白い事についてにも繋がるからそれを話そうか』
するとフレーレがハッとした顔で私を見ながら言った。
「ルーナを引き渡せとかですかね……子を産ませようとしたくらいですし」
「やめてよ蒸し返すの!? フレーレ行きなさいよ!」
「嫌ですよ!? 変態は嫌です!」
『うるさいぞお前等!? 今言った通り、俺はこの体に馴染んでいない。だから、そこの女神とほぼ同等の力しか使えないし、心臓を抉られれば死ぬだろうなぁ。で、俺は別に世界に興味は無い。そこでゲームをしようと思う』
『ゲームだと?』
エクソリアさんが聞き返すと、神裂が真面目な口調で返してきた。
『そう、ゲームだ』
パチンと指を鳴らす音が聞こえたと思った次の瞬間、大地が震え始める。地震というには激しい揺れが私達を襲う。
立っていられないのでしゃがんでいると、やがておさまり、また神裂が喋り始める。
『世界の中央に塔を建てた。この塔の最上階に俺がいる、元エクソリアの部屋を繋げた』
「あ、あれか……?」
レイドさんが世界の中央、ここからだと丁度真南へ目を向けると、そこには空を突き破る勢いで塔が出来ていた……。
『俺の居た世界の古い話で”バベルの塔”というのがあってな、人間が神に挑戦するために建てるって話なんだが、俺を殺しにくるならいい名前だろう?』
『(この短時間であれだけのものを? ズィクタトリアほどではないけど、私より力は上かもね?)』
『一年』
「何?」
『今日から一年で俺はこの体をモノにする。そうなれば俺を殺す事は不可能になるだろう。その間に俺を殺しに来い』
一年以内に自分を殺しに来い、そう宣言する神裂。私は胡散臭いものを感じて、質問をする。
「あの塔を登るのにリスクはあるのかしら? それに最上階をいつまでも増やし続ける事もできそうだし、こっちが不利すぎないかしら?」
『ぎゃははは! もっともな質問だ! リスクはあるに決まってるだろうが、中には魔物を配置する、お前達の世界には居ないような凶悪なヤツをな! 最上階はルーナの言うとおり増やせそうだが、それはしない。信じるかどうかは自由だがな? どっちにせよお前らに選択肢は無い。一年経てば、この世界は潰す。助かるには俺を殺すしかない』
「なるほどな。それで殺す方法と、面白い事は一致するってわけか」
パパが腕を組んで片目を瞑ってから一言喋る。それにアルモニアさんが呼応した。
『みたいね。思い知らせてやるわ』
『まあ、落ち着け。お前等だけじゃ俺もつまらねぇ。塔も建てた事だし、ここは一つ全世界の皆さんにも手伝ってもらおうじゃねぇか! 俺はこの後、全世界に向けて今のゲームを知らせる。その誰かが俺を殺してもクリアだ! だが、俺も簡単には死ぬつもりは無い。宣言から一時間後、世界に塔よりも少し弱い魔物を放つ。それを潜り抜けて塔を登ってもらおうかね? それじゃあごきげんよう! 一年で俺を殺せるといいなあ? ぎゃーはっはっはっは!!』
「世界中を巻き込む……?」
『マズイな、そんな宣言をされたら世界は混乱する……塔を目指すやつがいるもんか……それにあの自信、何かあるぞ』
「罠だとしても、俺達だけでも行くしかない。とりあえずアイディール達に今の話しをしよう」
パパは何とかなると言ったが、エクソリアさんの予測が概ね当たることになる。
全世界に現われた神裂の姿は、ゲルスと違い若い男の姿だった。一年で世界が滅ぶ……それを聞いた人々は恐慌に陥るか、気の強い冒険者は我先にと塔を目指す。
だが、神裂が世界に放った魔物はあまりにも異質で、強すぎた。
魔王城の周りにも放たれていて、パパ、レイドさん、エクソリアさんが三人でかかってようやく一体倒せるかどうか……そんなレベルの魔物が世界を徘徊していた。
大半は歯が立たず、敗北を喫することになり、段々と塔を目指す者は数を減らしていく。町の中にまでには入ってこないため、いつしか『きっと誰かが神を倒してくれる……』と引きこもり、陰鬱な空気が流れていた。
そして、あれから三ヶ月が過ぎた。
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