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最終部:タワー・オブ・バベル
その180 退場
しおりを挟むアルモニアさんと和解し、世界はこのまま続いていく。しかもより良い方向へ向かうよう言ってくれた二人の女神。
しかし、その直後聞いたことも無い声が空に響き渡った。
『お前達はもう用済みだ……。アルモニアにエクソリアよ』
「どこに居るの!」
『姿を見せなさいな』
『ボク達を用済みだなんて、いい度胸だね? 消し炭になりたいのかい?』
私とアルモニアさん、エクソリアさんがどこへともなく言葉をぶつけると、声は話しを続けた。レイドさんやパパ、そしてニンジャのカイムさんが辺りを警戒しているけど、姿は見えないみたい。
『ふむ、2級神が主神の俺にそんな口を叩くとは許せんな。だが、まあ記憶を消したのは俺だし、世界をここまで作ったのだ、大目に見てやろう』
『……記憶を消した? 主神……? お前は一体……』
エクソリアさんが冷や汗を流しはじめ、アルモニアさんが頭を抑える。何? 一体何がどうなってるわけ?
『俺の名も忘れているんだっけか。俺はズィクタトリア。いわゆる、神様ってやつだ』
「神って……女神が二人居るのにさらに神がいるのか? しかもズィクタトリアなんて神、聞いたことがない」
「わたし達神職もアルモニア様か、エクソリア様のどちらかを信奉する事があっても、さらに神がいるなんて知りませんよ……」
レイドさんとフレーレが疑問を口にすると、ズィクタトリアはふんと鼻を鳴らして、面倒くさそうに答えてくれた。
『元々この世界は俺が担当して創造する場所だったんだ。だが、イチから作るのは正直面倒くさい。そこで考えた、別の者に作らせてみようとな。そこで白羽の矢が立ったのがそこの姉妹……仲が程よく良かったり悪かったりするから競争しながらだと早いと思ったというわけだ』
『そんなの知らない、わよ……う、あ、頭が……』
『俺が頼んだ、という記憶は消し去ったからな。お前ら2級神をどうにかする事なんて難しくない。そら、思い出させてやろう』
『あ、ああう!? うあああ!?』
ピシャン! といった感じで二人に雷が落ち、その場で崩れ落ちた。よろよろと立ち上がり、エクソリアさんが顔をゆがめて叫びだした。
『思い出した……! あの時ボク達に世界創造を持ちかけてきた男……』
『だけど、私達はそれを断った。もう少しで1級神に上がれるという時にそんな事はしていられないからと』
『だから俺はお前達から記憶を奪い、そして植えつけた。この世界を形にするためにな。フフフ……』
何よそれ……それじゃあ二人は押し付けられたって訳? そこでパパとママが不機嫌な顔をして空に向かって喋りかける。
「ズィクタトリア、とか言ったか? とりあえずこの二人がお前にいいように使われたのは分かった。二人が世界を作った、そして今、この世界は続いていくと決まった。お前は今更、何のようだ?」
「いきなり出てきて用済みだ、なんて何様のつもり?」
『人間風情が口の利き方に気をつけろ? この世界、創ったのはそいつらでも、世界自体は俺のものだと登録されているのだ。壊すのも存続させるのも俺の気持ち一つだぞ? まあ功績が入るから壊す事はないがな』
「何てヤツです!? 宿題を押し付けて手柄だけ奪う最低な行為ですよ!?」
『……いや、手はある。ボク達が直にこいつの上司へ事実を伝えれば、こいつは失脚する』
『さらに言えば世界を創った功績が入り、ズィクタトリアと並ぶ神になれるかも?』
「なら決まりですね! 早いところ戻って言いつけましょう!」
『フ、フフフ……フハハハ……』
「何がおかしい? 気でも狂ったか?」
カルエラートさんが「こいつヤバイ」みたいな顔をして言い放つと、ズィクタトリアが激昂して答えた。
『こんなことで狂うか!? その二人がこっちに戻れないようにしておいた。まあ、現地人と仲がいいみたいだからそのまま暮らすのも悪くないだろ? ただし、死ぬことが無いから退屈かもしれないけどな。その間に報告をさせてもらうよ』
『ボク達がここに居ると分かればそれを追求される。うまくいくもんか』
『やりようはあるんだよ。ルア様やハーレル様のような真面目な神では通用しないが、プランダー様なら……』
どうやら神の中にも不真面目な者がいるみたいね……そこは人間と同じなのか。むしろ神様を模して創られているなら納得はいくけど。
「とりあえず壊す気がないなら、様子見でもいいんじゃないでしょうか?」
『嫌だよ!? そりゃ狼達と過ごせるのはいいけどさ!』
首を傾げながら言うフレーレにエクソリアさんが肩を掴んで揺さぶった。死活問題だと、アルモニアさんも焦っている。
『あ、そうそう。報告する前に世界は改変するからよろしくな。お前達の記憶も全部飛ばして、配置し直す。勇者と魔王は残すとして……』
「記憶を消す!? 何でそんな事を!?」
『記憶を残していたら、いつかこっちの世界に来る事が出来るかもしれないだろうが。復讐されちゃたまらないから、当然だろ。まあ、そういうことだから』
軽い……こんなヤツに世界の全権を握られているなんて……。
「二人とも何とかならないんですか! このままみんなの事を忘れるなんて嫌です!」
『姉さん、一応試すだけ試してみよう』
『そうね……ここでまごまごしていても仕方ないわね』
そう言って二人は空に舞い、空にあるという『神の世界への転移陣』を探しに行った。しかし程なくして二人は魔王城へと戻ってくる。
『……ダメだ、すべて封鎖されている……』
『キーを書き換えられているなんて……』
100年眠っている間に、ズィクタトリアが色々手を回したのだろうと落胆する女神二人。いよいよ万策が尽きた時、ズィクタトリアが笑いながら宣言をした。
『それじゃ、無駄なあがきを見たことだし、そろそろ作り変えるとするか。アルモニアにエクソリアよ、お前達の姿、滑稽だったぞ。プッククク……ハーハッハッハッハ!!』
「くそ……これじゃ何のために……!」
「わ、私、忘れたくないよ……!」
私はレイドさんとフレーレの手を握って、ぎゅっと目を瞑る。こうしていればもしかしたら忘れないかもしれない……そんな奇跡を願わずにはいられなかった。
しかし、私達の想像も及ばない出来事が起こった。
『さて……このスイッチを……ん? お、お前は!? どうしてここに!? よ、よせ、そんなことをしてバレたらお前の魂は完全に消滅させられる……ぎ、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!?』
何!? ズィクタトリアが誰かと話している声が聞こえたと思うと、耳を劈く悲鳴が響いた。声が聞こえなくなった変わりに、ズチャズチャと嫌な音が聞こえてくる。
『な、何だ……?』
エクソリアさんが呟くと、今度は……聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
『あー、あー、聞こえるかクソ野朗共?』
「こ、この声は……!?」
レイドさんが険しい表情になり、ごくりと唾を飲み込む。エクソリアさんも青い顔をして空を仰いだ。さらに言葉が続けられた。
『ズィクタトリアとやらは俺が殺した。良かったな、記憶が消されないですんで? おかげで俺も神の肉体を手に入れたよ! ぎゃはははは! 記憶を消された方がマシだったかもなああ!』
「まさか……神裂……!」
嫌らしい笑い声を思い出して、私は一言だけ呟いた。
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