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第六部:救済か破滅か
その177 休息
しおりを挟む「うーい、今帰ったぞー」
酔っ払いのおじさんみたいな事を言いながら地下室から出てくるパパ達。結構かかったけど、無事戻ってきてくれてよかった!
「レイドは居る? ディクライン、剣を貸して頂戴」
「レイドさんなら部屋に……「ここに居るぞ」ここに居ました!」
喉が渇いたと、食堂へ顔出してきたレイドさんが答えてくれた。フォルサさんがパパの剣を奪い、レイドさんに詰め寄っていた。
「あなた……ディストラクションを持っていたわよね? 少し貸して頂戴?」
「ち、近いな……構わないですよ。持ってくるんで待っててください」
レイドさんが飲み物を飲んでから部屋へ戻っていく。横にはチェーリカが居たのだがレイドさんに興味を示さなかったのが気になった。
「……手を繋いでいるわね」
<ただいまー! この二人はまあ、こういう仲になったよ>
<ぴー。あんたが言ったらダメでしょう……こういうのは本人から言わないと……>
すると、足元にちょこんと白いウサギが擦り寄ってきた。
「可愛いーー! どうしたのこの子! 着いて来ちゃった?」
<ふんふん……あなたからも愛の匂いがするぴょん……>
「喋った!?」
顔を近づけると、ウサギが私の匂いを嗅ぎながら喋り始めたのだ! って、まあ喋る動物はもはや珍しくないけど……むしろレジナ達がいつか喋るんじゃないかと思っているくらいだ。
「もしかして愛の剣の? カームさんが”誠実の胸当て”で、アネモネさんが”慈愛の盾”だったからそうでしょ?」
<ですぴょん! リリーって言うですぴょん。早く子作りをするぴょん>
「何でそうなるのよ!?」
<ぴー。構わなくていいわ。アネモネも居るの? ならこれで本当に全員揃ったのね>
<100年前に作られてから久しぶりだね。ちょっと探しに行こうか、カームさんに会いたいねオイラは>
<ぴー。あの人騎士だったからねえ>
パタパタと飛んでいくジャンナとファウダーを追って、ウサギも駆け出していった。
カームさん……真面目そうな人だと思ったけど、騎士だったんだ。守護獣になるとかなにがあったんだろうね?
そこでチェーリカが私の袖をひっぱって耳打ちをしてきた。
「(チェーリカはソキウスの大切さに気づきました! レイドさんは残念ですけど諦めますから、ルーナさん、頑張ってください!)」
「ふえ!? そ、そうなの!? お、幼馴染から一歩前進!?」
「大きい声で言わないでくださいよーソキウスと恋人になったなんて!♪」
「お前のほうが声がでかいけどな……ま、まあそういう事だから……よろしくな!」
「あ!? 待つですよ! ソキウス!」
「……一体何があったんだろう……」
アクアステップに行っていたパパたちの帰りが遅かったけど、関係しているのかな? それはともかく、私はパパとフォルサさんをイスに座らせてお茶を出す。
「お疲れ様、パパ。どうだった?」
「んあ……色々あったけど……さっきのウサギも仲間に出来たし、フォルサが探していたアイテムも手に入ったぞ」
背伸びをしながら満足そうに笑うパパを見て私も顔がほころぶ。するとそこにママが食堂へと入ってきた。どうやらチェーリカやジャンナ達の騒ぎを聞いて帰って来たことに気づいたらしい。
「おかえりディクライン!」
「あ、ああ、ただいま! そっちは大丈夫だったか?」
「ちょっと具合が悪くなったけど今はこの通りよ」
「……気をつけてくれよ? ただでさえお前は……」
パパが立ってママの肩に手を置くと、さっきまで大人しくお茶を飲んでいたフォルサさんの目が見開かれた。そしてボソボソと喋り始める。結構怖い。
「でもねアイディール……この人は水着みたいな格好をしたボインの女の子を穴が開くほど見ていたのよ……」
「ば、馬鹿!? こんなところで言うんじゃない!? ルーナも居るだろ!?」
「……どういうこと?」
「えー……パパ旅先でそんなことを……?」
「多分カルエラートに匹敵するモノに釘付け……食い入るように見ていたわ!」
ママと私が目を細めると、フォルサさんが大げさにガタンと立ち上がり叫んだ! そしてさらに衝撃の事実を告げてきた……!
「……私のローブをめくって……下着を見られたわ……」
うう、と嘘くさい鳴き真似をするフォルサさん。それとは逆に、鬼の形相になったママがパパの胸倉を掴んでいた。
「何? 私が居ない間に随分お楽しみだったのね……?」
「ち、違う! いや、めくったのはそうだが、決して下心があったわけじゃ……」
「問答無用! ちょっとこっちに来なさい!」
「あ……ああ……」
哀れ、勇者は恋人に引きずられ地獄へと向かうのだった……。
「で、本当なんですか?」
「ええ、それ自体はね。結果的にそれでソキウスが助かったわけだからいいんだけど」
パンツを見て助かるソキウス……さっぱり分からない……そうこうしていると、剣を持ったレイドさんが食堂へ戻ってきた。
「ディクラインさんどうしたんだい? アイディールが物凄い顔で引っ張っていったけど……」
「気にしないでいいわ……。良い事をしたみたいだから説得に成功すれば無事だと思う」
よく分からない、といった顔でフォルサさんの前に立ち、剣を手渡した。そういえばレイドさんの剣は蒼いけど、パパの剣は紅いのよね。
「持って来ましたよ」
「ありがと。後はさっきエクソリアに渡したアレを合わせれば……それじゃ私も行くわね」
帰ってきて早々エクソリアさんの部屋に行っていたらしいフォルサさんが、剣を二本抱えて食堂から出て行った。
「慌しいな」
「ねー。レイドさんはこれからどうするの?」
「まだ夕方だし、部屋に……いや、ルーナは暇かい?」
「え? うん。今日の当番はフレーレとセイラだし特訓ももう今日は終わったから暇よ?」
また部屋で本を読むのかな、と思っていたけど意外な返答が返ってきた。
「なら少し話をしないか? ルーナがビューリックへ連れ去れてからゆっくり話していないな、って思ったんだ。ちょうど誰も居ないし……」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、誰か見ていないか探していた。それがおかしくて私は笑う。
「ふふ、そうね。ビューリックの件が終わった後もみんなすぐに旅立っちゃうし、私は城に残されるしで散々だったもんねー。お茶、入れるわ飲むでしょ?」
「ああ、勿論だ。その旅先でね……」
私はテーブルの向かいに座って、レイドさんの話を聞ながら穏やかな時間が過ぎていった。しばらく話していると、後ろから気配がしたので入り口を見ると、チェイシャがぐっと握りこぶしを作ってこっちを見ていた。その横にさっきのウサギ、リリーもうっとりとした表情でこっちを見ている。
「どうかした?」
「ううん! なんでもない! そうだ、レイドさん肩凝ってないですか? 私、新しい技を覚えたんです!」
「はは、肩こりで技なんてルーナらしいな。じゃあちょっと頼もうかな……」
私はレイドさんの後ろに回り、両肩へ手を乗せる。
「それじゃいきますね! <ブラッディフロー>」
そしてレイドさんの悲鳴が城中へ響き渡った。
なんでみんな寝ちゃうんだろう……。
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そして翌日。
フォルサさんが全員に話があると、朝から庭に呼び出される私達。横にはエクソリアさんが立っており、緊張な面持ちで私を見ていた。
私、レイドさん、フレーレ、お父さんにパパとママ。さらにセイラとカルエラートさんにチェーリカとソキウスに、レジナにシルバとシロップがいる。
それに加え、守護獣であるチェイシャ、ジャンナ、ファウダー、バステト、アネモネさん、カームさん、リリーに、さらにフレーレが連れているリンもこのメンバーでは影が薄いが、立派な魔物だ。
よく考えればかなりの大所帯になったものである。
<ふあ……眠いにゃ……起きたからにはご飯を所望するにゃ……>
「にゃーん……」
バステトの背中に張り付いたリンもあくびをしながらゴロゴロと喉を鳴らす。レジナ達狼親子はチェイシャの尻尾に包まってウトウトしている。
「今日は早いですね? ルーナの特訓ですか?」
「それでこの人数は必要ないんじゃないか?」
「うう……寒い……用があるなら早くしてよ……」
パパの腕をつかんで離さないママがフォルサさんを見ながら言う。どうやら説得はできたらしく、今日は元に戻っていた。ただ、パパの顔は見る影も無い。
他にもざわざわとお互い話はじめ、庭が喧騒に包まれる。すると、女神のアイテム、それと剣二本に私が見たこと無い宝玉? を並べてエクソリアさんが言い放った。
『これから姉さんを復活させる』
その言葉に、全員が息を呑んだ。
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