パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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第六部:救済か破滅か

その173 怒髪

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 <あ、愛だっぴょん……!>

 そう叫んだリリーが宝石を砕かれながらも窓から飛び出し、物凄いスピードでチェーリカとソキウスを追い抜く。その間、見る見るうちに巨大な白いウサギへと変貌を遂げた。

 ボスン

 <ま、間に合ったっぴょん>

 「……? 痛くない?」

 チェーリカがやわらかい感触を受けて恐る恐る目を開けると、大きな毛皮に着地したのだと気づく。すると、ウサギとなったリリーの体にヒビが入り始めた。

 「ど、どうして助けてくれたですか?」

 <私はいつも男に騙されてばかりだった人生だったっぴょん……愛しても捨てられる。そしていつしか体でしか繋ぎとめられない愚かな女になってしまったっぴょん……>

 もうすぐ砕けるであろう体を震わせ、リリーはそっと背中からチェーリカとソキウスを降ろす。

 <ニーナもソキウスが好きだったぴょん、でもお前のほうがもっとソキウスを好きみたいだっぴょん。そしてソキウスも……>

 「え……? で、でもチェーリカは嫌われ……」

 <いい愛を見せてもらったっぴょん!>

 「あ! ちょっと! 肝心な所を……」

 カシャァァァァァン……

 チェーリカの言葉に答える事も無く、リリーは粉々に砕け散った。最後は笑っているように見えた。後は自分で何とかしろとでも言いたげに……。


 「う、ううん……」

 「ソ、ソキウス!? だ、大丈夫です?」

 「チェーリカ? 俺は一体?」

 「よ、良かったです!」

 人目も気にせず、チェーリカはソキウスを抱きしめて泣き始めた。それにちょっとびっくりするが、上を見ると窓からフォルサが親指を立ててニヤリと笑っていたのでやれやれと思いながらそっとチェーリカの背中を叩いて、一言だけ呟いた。

 「ごめんな」

 「ううん……それはチェーリカが言う事です……ごめんなさい……いつもありがとう……」


 降っていた雨が、止んだ瞬間だった。 



 ---------------------------------------------------



 「雨降って地固まる、ね」

 窓から二人を見ていたフォルサが、ぐっと拳を握り頷いた。それを横にいたファウダーが聞き、感心したように言う

 <うまいこと言うなあ……>

 <ぴー。フレーレの師匠だから仕方ないわ、それより二人を迎えに行きましょうよ>

 「そうね、その前にジャンナ。あなたの血を少しもらえるかしら?」

 <? 何に使うのかしら?>

 フォルサは無言で、ホープに介抱されているニーナを見ていた。

 「ニーナ、怪我が無くてよかった……」

 「ひ、一安心なんだな……まさか指輪があんなものだとはおもわなかったんだな……」

 ニーナをベッドへ寝かせているとタークが安堵して呟く。だがそれを聞き逃すホープではなかった。今度はタークとタウィーザに向き直り、珍しく怒りを顕にして二人に詰め寄った。

 「ターク、お前は今、指輪があんなものだったと言っていたな? まさかあれはお前が?」

 ギクリと身をこわばらせて、口をあわあわさせるターク。

 「無言は肯定と受け取るぞ!」

 カッ! と、怒りの声をあげると、タークは苦し紛れに言い訳をしてきた。

 「た、確かに、お、俺が拾ったんだな! で、でもあのボインはこいつらの知り合いっぽかったんだな! き、きっとニーナとこの家を狙ってるんだな、そうに違いない! ほ、本当なら毒を飲んだニーナを俺が助けて……」

 「馬鹿!?」

 タークはそれ以上言葉を放つ事ができなかった。ホープが歩み寄り、タークを殴ったからである。タウィーザは慌てて口を塞ぐが間に合わなかった。

 「正体を現したな! 私は病院から連れて帰ってから原因が『毒』だったなど言った覚えも無いし、フォルサさん達も原因までは言って居なかった。私はいつもの発作が悪化したものだと思っていたが……それも、お前達の仕業か! 一歩間違えればニーナは死んでいたかもしれないんだぞ!」

 激怒するホープに、タウィーザが開き直って叫んだ。

 「あんたがさっさっとタークとニーナを結婚させればこんなことをせずに済んだのよ! 全部あんたが悪いんじゃない!」

 「ふざけるな! ニーナはタークを嫌がっていた。私もタークの態度には呆れ果てていたよ。どうして結婚させると思った? こんなにぶくぶく太らせて……躾をしなかったお前が言えた事か!」

 太る、というのは体質もあるだろう。一概に太っているからといって蔑む対象にはならないし、してはいけない。だが、タークの場合、怠惰な生活によってこうなってしまったのは想像に難くないだろう。太ると分かっていても食べる。すなわち堪え性が無いのだ。

 「ば、馬鹿にするな、でぶー!?」

 タークが食い下がろうとした所で、今度はファウダーの尻尾で頬をぶたれた。

 「顔は親父にもぶたれた事無いんだな!?」

 <さっきから聞いていれば勝手な事ばかり言う。お前達みたいなのが居るから本当に好きな人と結ばれないヤツがいるんだよ!>

 「しゃ、喋った!?」

 「なんと……!」

 「……今だ! 逃げるよターク!」

 「な、なんだな!」

 ホープが喋ったファウダーに気を取られた瞬間、タウィーザは木箱を奪い、タークを促して部屋から出た!

 「あ、お前達!!」

 「あっははははは! 油断していた方が悪いのさ!」

 意外に足が早い! ホープが部屋から顔を覗かせた時点ですでに階段まで到着していたが、そこで動きが止まった。タウィーザはへたり込み、タークは再び殴られて吹っ飛んだ。

 「ま、そう来るよな? 俺から逃げられるわけ無いだろ。チェーリカ達を助けに走ったんだが、怪我の功名ってやつだな?」

 階段からすっと現われたのは……ディクラインだった。壁に叩きつけられていたと思ったが、いつの間にやら復活していたらしい。

 「でもアイディールには報告するわね」

 「おいぃぃぃぃ!?」

 「あ、ああ……」

 フォルサの声に返答しつつも油断せずにタウィーザの前に剣をちらつかせるディクライン。がっくりと頭を落とし、タウィーザはそこでようやく観念したのだった。
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