152 / 377
第六部:救済か破滅か
その173 怒髪
しおりを挟む<あ、愛だっぴょん……!>
そう叫んだリリーが宝石を砕かれながらも窓から飛び出し、物凄いスピードでチェーリカとソキウスを追い抜く。その間、見る見るうちに巨大な白いウサギへと変貌を遂げた。
ボスン
<ま、間に合ったっぴょん>
「……? 痛くない?」
チェーリカがやわらかい感触を受けて恐る恐る目を開けると、大きな毛皮に着地したのだと気づく。すると、ウサギとなったリリーの体にヒビが入り始めた。
「ど、どうして助けてくれたですか?」
<私はいつも男に騙されてばかりだった人生だったっぴょん……愛しても捨てられる。そしていつしか体でしか繋ぎとめられない愚かな女になってしまったっぴょん……>
もうすぐ砕けるであろう体を震わせ、リリーはそっと背中からチェーリカとソキウスを降ろす。
<ニーナもソキウスが好きだったぴょん、でもお前のほうがもっとソキウスを好きみたいだっぴょん。そしてソキウスも……>
「え……? で、でもチェーリカは嫌われ……」
<いい愛を見せてもらったっぴょん!>
「あ! ちょっと! 肝心な所を……」
カシャァァァァァン……
チェーリカの言葉に答える事も無く、リリーは粉々に砕け散った。最後は笑っているように見えた。後は自分で何とかしろとでも言いたげに……。
「う、ううん……」
「ソ、ソキウス!? だ、大丈夫です?」
「チェーリカ? 俺は一体?」
「よ、良かったです!」
人目も気にせず、チェーリカはソキウスを抱きしめて泣き始めた。それにちょっとびっくりするが、上を見ると窓からフォルサが親指を立ててニヤリと笑っていたのでやれやれと思いながらそっとチェーリカの背中を叩いて、一言だけ呟いた。
「ごめんな」
「ううん……それはチェーリカが言う事です……ごめんなさい……いつもありがとう……」
降っていた雨が、止んだ瞬間だった。
---------------------------------------------------
「雨降って地固まる、ね」
窓から二人を見ていたフォルサが、ぐっと拳を握り頷いた。それを横にいたファウダーが聞き、感心したように言う
<うまいこと言うなあ……>
<ぴー。フレーレの師匠だから仕方ないわ、それより二人を迎えに行きましょうよ>
「そうね、その前にジャンナ。あなたの血を少しもらえるかしら?」
<? 何に使うのかしら?>
フォルサは無言で、ホープに介抱されているニーナを見ていた。
「ニーナ、怪我が無くてよかった……」
「ひ、一安心なんだな……まさか指輪があんなものだとはおもわなかったんだな……」
ニーナをベッドへ寝かせているとタークが安堵して呟く。だがそれを聞き逃すホープではなかった。今度はタークとタウィーザに向き直り、珍しく怒りを顕にして二人に詰め寄った。
「ターク、お前は今、指輪があんなものだったと言っていたな? まさかあれはお前が?」
ギクリと身をこわばらせて、口をあわあわさせるターク。
「無言は肯定と受け取るぞ!」
カッ! と、怒りの声をあげると、タークは苦し紛れに言い訳をしてきた。
「た、確かに、お、俺が拾ったんだな! で、でもあのボインはこいつらの知り合いっぽかったんだな! き、きっとニーナとこの家を狙ってるんだな、そうに違いない! ほ、本当なら毒を飲んだニーナを俺が助けて……」
「馬鹿!?」
タークはそれ以上言葉を放つ事ができなかった。ホープが歩み寄り、タークを殴ったからである。タウィーザは慌てて口を塞ぐが間に合わなかった。
「正体を現したな! 私は病院から連れて帰ってから原因が『毒』だったなど言った覚えも無いし、フォルサさん達も原因までは言って居なかった。私はいつもの発作が悪化したものだと思っていたが……それも、お前達の仕業か! 一歩間違えればニーナは死んでいたかもしれないんだぞ!」
激怒するホープに、タウィーザが開き直って叫んだ。
「あんたがさっさっとタークとニーナを結婚させればこんなことをせずに済んだのよ! 全部あんたが悪いんじゃない!」
「ふざけるな! ニーナはタークを嫌がっていた。私もタークの態度には呆れ果てていたよ。どうして結婚させると思った? こんなにぶくぶく太らせて……躾をしなかったお前が言えた事か!」
太る、というのは体質もあるだろう。一概に太っているからといって蔑む対象にはならないし、してはいけない。だが、タークの場合、怠惰な生活によってこうなってしまったのは想像に難くないだろう。太ると分かっていても食べる。すなわち堪え性が無いのだ。
「ば、馬鹿にするな、でぶー!?」
タークが食い下がろうとした所で、今度はファウダーの尻尾で頬をぶたれた。
「顔は親父にもぶたれた事無いんだな!?」
<さっきから聞いていれば勝手な事ばかり言う。お前達みたいなのが居るから本当に好きな人と結ばれないヤツがいるんだよ!>
「しゃ、喋った!?」
「なんと……!」
「……今だ! 逃げるよターク!」
「な、なんだな!」
ホープが喋ったファウダーに気を取られた瞬間、タウィーザは木箱を奪い、タークを促して部屋から出た!
「あ、お前達!!」
「あっははははは! 油断していた方が悪いのさ!」
意外に足が早い! ホープが部屋から顔を覗かせた時点ですでに階段まで到着していたが、そこで動きが止まった。タウィーザはへたり込み、タークは再び殴られて吹っ飛んだ。
「ま、そう来るよな? 俺から逃げられるわけ無いだろ。チェーリカ達を助けに走ったんだが、怪我の功名ってやつだな?」
階段からすっと現われたのは……ディクラインだった。壁に叩きつけられていたと思ったが、いつの間にやら復活していたらしい。
「でもアイディールには報告するわね」
「おいぃぃぃぃ!?」
「あ、ああ……」
フォルサの声に返答しつつも油断せずにタウィーザの前に剣をちらつかせるディクライン。がっくりと頭を落とし、タウィーザはそこでようやく観念したのだった。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。