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第六部:救済か破滅か

その171 激昂

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 「これはディクラインさんにフォルサさん。雨の中お疲れ様でした、どうでしたか?」

 ホープは木箱を大事そうに抱えたまま、応接室で待っていた一行に労いの言葉をかける。どこかすっきりした、そんな表情だ。それにひきかえ、少し後ろに立るタウィーザの顔は心なしか青い。

 「いやあ、当たりだったんですけど、生憎、何も手がかりが残されていませんでした。とりあえずこれで目的の一つは終わりました。情報提供ありがとうございました」

 「そうですか、それは残念でしたね……ああ、そんなに濡れたままでは風邪を引きますぞ。お話ししたいことがありますので、さっぱりしてから食堂へ来ていただけませんかな?」

 フォルサはチラリと木箱を見た後、猫なで声でホープへと微笑んだ。

 「……分かりましたわ。それじゃ皆行きましょうか」

 「……」

 「……」

 「それではわたし達は部屋へ一旦戻りましょう」

 チェーリカとソキウスの目が合うと、ニーナは慌ててソキウスの手を引き、連れて行こうとする。しかしその前にその場を離れていった。

 「チェーリカ……」

 「(あの子、本当にソキウス様を諦めたようね? ライバルが居なくなったのは喜ばしい……)」

 すると、そこに泥だらけになったタークがニーナの元へ走ってきた。すでに応接間にはソキウスとニーナ、そしてタークしか残っていない。

 「ニ、ニーナ! こ、これをあげるんだな!」

 「ちょっとタークさん、汚いですよ? ……あら、きれい」

 ニーナが掌でそれを受け取ると、ハンカチでキレイに泥を拭き取り、明かりに透かすときれいに発光していた。

 「さ、さっきの祭壇で、み、見つけたんだな! あ、あいつらも見つけられなかったんだな!」

 「良いものをありがとうございます。これは『この家に好き勝手に出入りしている滞在費』として受け取っておきますね」

 二ーナがニコリといい笑顔でタークを見ると、タークは一瞬ポカンとした顔でニーナを見た後、顔を真っ赤にして怒り始めた。

 「な、何を言うんだな! お、俺の気持ちを踏みにじるつもりなのかな!」

 すると、ニーナはやれやれといった感じで、腰に手を当ててタークに言い返す。

 「あなたたち親子、といっても叔母様とあなただけですけど。何かと理由をつけてウチに来て、大量に飲み食いをするわ、貴金属を持ち帰るわでこっちはかなりはらわたが煮えくり返る思いなんですけどね? さらにわたしと結婚しよう? ふざけないでください! 容姿は百歩……いや一万歩譲って、気にしないですが、わたしはあなたのその性根が大嫌いなんです! お金があるからと、庶民へ嫌がらせや横柄な態度……知らないと思っているのなら、やはりおめでたいですね」

 「(へえ)」

 ニーナが捲くし立ててタークへ詰め寄ると、ソキウスがそれを見て感心していた。ただ黙ってわがままを言うだけじゃないんだな、と。

 「う、うぐぐ……」


 言い返すことができないタークに、さらにニーナは怒りの言葉を浴びせる。好きなソキウスが近くに居るというのもあるので多少興奮気味ではあるが。

 「そのお金もお父さんのおかげで店を持っているのでしょう? お母さんのお姉さんだからって、いつまで甘えるつもりですか。ねえ、叔母様!」

 すると扉の影からタウィーザが冷や汗をかきながら登場。うわずった声でニーナへと怒鳴り始めた。

 「な、生意気な娘め……! 本当に妹そっくりで嫌になるわね! タミアも生前から私に説教ばかり……この家には近づくなと言っていたわ」

 「マ、ママ!」

 タークがデブい体を転がるようにふるわせ、タウィーザの後ろへ隠れる。

 「お母さんは正しかった、ということです。お父さんもその内あなたたたちをどうにかすると言っていましたからいい機会でしょう。その気になればソキウス様達を用心棒として雇う事もできますし」

 二ーナがふふん、と鼻を鳴らしタウィーザを睨むと彼女は歯軋りをしながらニーナを睨みつけた。やがて、持っていた埴輪を床に叩きつけ、激昂し叫んだ。

 「どいつもこいつもバカにして……! いいわ、その言葉、必ず後悔させてやる……泣くんじゃないターク! ニーナひとり手篭めにできないとか……情けない!」

 「ぶ、ぶひぃ……!?」

 バシバシとはたかれながら逃げるように応接室から出て行く。足音が遠ざかるのを確認したニーナは一度息を吐き、咳き込んだ。

 「ふう……ごほ……ごほ……」

 「……大丈夫か? 叫びすぎたんじゃ? でも、すごいんだなきちんと意見を言うなんて俺、感心したよ」

 ニーナの背中をさすりながら水を飲ませるソキウス。

 「ふふ……ごほ、お母さんも気の強い人でしたから似たのかも?」

 ペロッと舌を出しておどけるニーナ。さらにソキウスは話を続ける。

 「チェーリカもよく冒険者ギルドの荒くれ者とかにガミガミ言ってたなあ……ニーナと違って本当は気が弱いんだけどな。だから心配で追いかけたんだけど……」

 「……やっぱりソキウス様はチェーリカさんのことを?」

 寂しげな顔でニーナはソキウスに問うと、困った顔でニーナに答えた。

 「そうだなあ、妹みたいな感じでもあるんだけど、こうして離れてみるとやっぱり大切なんだなって思ったよ。このまま二ーナと一緒になってもきっと悪い人生じゃないんだろうけど、多分いつか後悔しそう」

 「そう、ですか……し、仕方ありませんね。ふふ、いつ死ぬか分からない子より、幼馴染の方が、いいですよね」

 キィン……

 口についた血を拭うと、泣きながら微笑み、ニーナはソキウスの手を取る。

 「もう我侭は言いません。最後に、わたしを部屋まで送ってくれませんか? それを最後にしたいです」

 キィン……

 「ごめんな……」

 「いいんですよ。でもこの何日かはとても楽しかったです! ぞっとソキウス様を独占していたから後でチェーリカさんにも謝っておかないと……」

 「俺はあいつが謝ってくるまでそのままで居るつもりだけどな! 今回も勝手に怒って勝手に文句つけられただけなんだし!」

 ソキウスがおどけて言うと、二ーナが笑いながら歩きだす。

 「ふふふ、チェーリカさんの顔が楽しみですね」

 キィン!

 そしてニーナの部屋に到着し、中に入ったところで異変が起きた。先程タークに渡された指輪が、鈍く輝きを放っていたのだ。

 「な、何?」

 「二ーナ! それを捨てろ!」

 「て、手から離れない……」

 そして、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。

 <愛だっぴょん……愛の匂いがするっぴょん……愛は……勝ちとるものだっぴょん!>

 カッ!

 外で雷が光ったと同時に、指輪も目が開けられないくらいの光を放つ!

 「きゃあああああああああ!」

 屋敷に二ーナの絶叫が響き渡った。
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