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第六部:救済か破滅か

その168 拒絶

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 「ひぃぃぃ!?」

 「なんだこいつら! 強すぎるだろ!?」

 「あの女美人だけど頭おかしいぞ!」

 「撤退……撤退だ!?」


 戦闘が始まって3分。たった3分の出来事だった。

 ディクラインの剣圧で数人が再起不能、残った男が何人かフォルサに斬りかかるが、全てかわされ、関節を極めた後に腕をポッキリと折っていた。

 「キレイに折ったからすぐにくっつくわよ」

 フォルサによる何の慰めにもならない言葉に戦慄した男達が一目散に逃げたという所である。

 「失礼ね。もうちょっと痛めつける必要があったかしら」

 「ぶ、ぶひぃ!? (まさかこんなに簡単に、や、やられるとは……!? こいつら、一体、な、なんなんだ! さ、作戦を考え直さないと……)」 

 「それじゃ先へ行こう」

 ディクラインが先頭を歩き、その後をフォルサにブタ……もといタークが続き、しんがりにチェーリカがとぼとぼと歩く。

 <(ぴー。どうしたの? 身が入っていないわ。そんな事じゃ怪我をするわよ)>

 ブ……タークが前を歩いているので、ひそひそと耳元で囁くジャンナ。するとチェーリカがジャンナとファウダーに質問してきた。

 「あなたたちはチェーリカ達と同じ、って言ったですけど、どういうことです? それを……教えて欲しいです」

 <(あんまり面白い話じゃないけど……いいかいジャンナ?)>

 <(今のチェーリカには聞かせたくは無いけど……ぴー。まあいいわ)>

 ファウダーがコクリと頷き、話し始める。

 <今は割とのんきな場所だけど、昔この国にも戦争があってね……>




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 ファウダーとジャンナ
 
 二人は学校で知り合い、歳が近い事もあり一緒に過ごす事が多かった。やがて卒業した二人は、ファウダーは冒険者にジャンナは商家の娘ということもあり家の手伝いをするようになった。

 冒険者になってから、ファウダーはジャンナのお店で常連となり、よく顔を出していた。学生時代から二人とも好き合ってはいたが、照れくさくてお互い言い出せては居なかったのだ。

 そして卒業をしたころ、国同士の戦争が起こり始めた。

 戦争は商人が儲かる……そんな格言を具現化したようにジャンナの実家は成長していた。町から町へ商品を売る際、移動しなければならないが危険が付きまとう。その為に護衛を冒険者から雇うのだが、ある時ファウダーに声がかかった。

 「あ、ジャンナ! しばらくよろしく頼むよ」
 
 「そうね、どれくらい強くなったのかしら? 見せて頂戴!」

 もちろん二人は仲がいいのは他の従業員は知っていたが、ジャンナの父親はそれを知らなかった。開口一番、ファウダーに釘をさすようなことを言ったのだ。

 「……娘と仲がいいようだが、まさかウチの財産を狙っているのではあるまいな?」

 「ちょっとお父さん、それは……」

 「お前は黙っていなさい。娘には貴族の長男と縁談があってね? 変な噂が立つといけない、この護衛は仕方が無いが……金輪際近寄らないでもらいたいものだね」

 「……」

 財産を狙うとか、そんなつもりは毛頭無い。だが、縁談については初耳だった。

 「結婚、するんだ?」

 「う、ううん……お父さんが勝手に言ってるだけよ! そ、そんな事より早く出発しましょう!」

 「う、うん」

 父親はそれを横目で見て舌打ちをしたが、今回だけだぞとぶつぶつ呟きながら荷物を載せた馬車を出発させた。もちろんファウダー意外にも護衛はいるが、ギスギスした空気に少しばかり緊張が走っていた。

 それから、道中、冒険者崩れの野盗や戦争で森を追い出された魔物など、緊迫する場面が何度かあったが予定通り荷物を運ぶ事に成功する。

 復路は特に何も無く、依頼は大成功だった。

 「それではこれが報酬だ、みなご苦労だった」

 利益が出たせいか上機嫌で金貨を配るジャンナの父親。ファウダーをチラリと一瞬見るが、何も言わず金袋を渡し、護衛依頼は終了した。

 「それじゃあまたお店でね!」

 「うん、またね」

 そう言って別れた二人……だが、その日以降顔を合わせる事が少なくなっていく。ファウダーは護衛を成功させた者の一人として依頼が増え、ジャンナは家から出してもらえなくなり、店に出る事を許されなかった。

 ファウダーに会えない日々が続き、やつれていくジャンナ。それを見た父親がため息をつきながら呟く……。

 「あんなにやつれては縁談もうまくいくまい……あの男の事がそれほどまでに、か? ならば……」

 カッ! ゴロゴロゴロ……


 雷が鳴ると同時に、雨が降り出した。


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 「え? オイラが戦争に? いや、冒険者は自由だから立候補しない限り加担はしないって……」

 「すまねぇが領主様からの依頼でな……この町とプレジの町の冒険者は強制になっちまった。国の政策だそうだ、戦闘も激しくなっているらしいし、人手が足りないんだろう……」

 「……そう、ですか」

 戦争に参加したくないのであれば、国を出るしかない。だが、ジャンナと話ができていないまま国を出るのは悪いと思い、ファウダーはそれを受け入れた。

 「(もう縁談したのかな……はは、我ながら未練がましいとは思うけど……)」

 手にはそれなりに高価なリングがあり、それを弄びながらファウダーは酒を飲む。結婚するなら仕方ない、自分の気持ちを伝えていなかったのだけが心残りだった。


 <ジャンナの屋敷>


 「……そうですか、上手くいきそうですか」

 「ああ、実際に戦争に赴くのはファウダーとかいう男だけ。他の冒険者は後から合流するとか理由をつけて向かわせる予定だよ。悪い虫は早めに駆除しないと。なあ? ははははは!」

 「まったくですな。あの男が死ねばジャンナも諦めがつくでしょう」


 ファウダーの存在が疎ましい父親はついに最後の手段に出た。秘密裏に消してしまうという手はあったが、真っ先に疑われるのは自分だという自覚があったのでそれを諦めて領主に相談したのだ。

 すると、依頼として戦争に向かせればいいではないかと助言をし、領主自ら偽の依頼書をギルドへと配布。そして冒険者は戦争に行くというでっち上げの依頼を成立させたのだった。

 「……バレると私の首も危うい。頼むぞ?」

 「ええ、金を握らせておけば喋る者もおりますまい……死ぬのはあの男一人。戦争の人手不足を解消したと褒められるかもしれませんよ?」

 偽造文書は罪が重い。だが、犠牲になるのはファウダーひとり。金を握らせればわざわざ喋る事をする者などいやしない、そう考えていた。

 だが……。


 「嘘……ファウダーが死んじゃう? ……ど、どうしたら……」

 父親に用事があったので、ドアをノックしようとした所で知らない声が聞こえてきたのでそっとドアを開けて聞き耳を立てていたジャンナ。一番バレてはいけない人物に聞かれてしまった事になる。

 部屋に戻り、枕を抱きしめて考える。しかし、どう考えても行き着く先は一つしかない。

 「……こうなったら……!」

 ジャンナは勇気を出してある事を決意する。
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