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第六部:救済か破滅か

その167 偽頼

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 それから二日ほど情報収集を待つため、ディクライン達は屋敷でだらだらと過ごしていた。ふかふかのベッドに何もしなくても出る食事を満喫していた。

 「今日も雨か。ソキウスに稽古をつけてやりたいんだがこれじゃあ外に出られん」

 「別にいいですよ。ソキウスはこの家の子になるに違いないです!」

 かくいうソキウスは今日もニーナの部屋に連れて行かれておりここには居ない。あの夜から、ソキウスとチェーリカの仲は日に日に悪くなっていったのだ。

 「ま、それはソキウス次第ね。戦力が減るのは痛いけど、人の幸せを優先してあげないとね」

 「……え!? お、置いていくですか……?」

 「そりゃあね。無理矢理連れて帰って二ーナがついてくると言い出されても困るし」

 チェーリカの顔が一瞬曇るが、フォルサはそのまま話を続ける。

 「とりあえず今後決まっている事だけど、マジックディビジョンが手に入ればすぐに戻る事にするわ。女神の封印は正直なところ二の次……すでに神裂とかいうのに始末されているみたいだから多分何も無いのよね」

 <一応調べておいた方がいいと思うけど、オイラも何もないと思うなあ>

 ファウダーも腕組みをしてうんうんと頷く。

 「エクソリアと何かしてたみたいだから行動指針はフォルサに任せる。けどホープさん次第だな。大きい商人ともなれば情報は手に入るだろうけど」

 「封印の場所とどっちが早いかしらね……」

 話し合いをしばらく続けていたが、昼食の準備ができたとメイドの一人が声をかけてきたので、食堂へ向かった。


 「さあさ、皆様。席に着いて下さい、ソキウス様はこちらへ」

 「あ……」

 「……」

 チェーリカが声をかけようとするが、ソキウスに睨まれそれ以上声を発する事ができなかった。あんな顔をされたのは……多分初めてだ、と驚いていた。

 すでに慣れたホープ達との食事。その席にはまだ、タウィーザとタークも残っていた。するとタークが突然こんなことを言い出す。

 「あ、あんた達、遺跡やダンジョンを探してるって、い、言ってたんだな。こ、心当たりがあるんだな」

 「お、そうなんだ? まあすぐ見つかるとも思えないけど一応行っておいた方がいいな。体も鈍りそうだし……案内は必要か?」

 「お、俺が一緒に、い、行くんだな。この辺を拠点にしている冒険者のお客さんから聞いたから、ば、場所はわかるんだな」

 タークの言う心当たりはダンジョンらしく、入り口は森の中に半分埋まる形で発見されたらしい。二ーナの件で怪しいと思っているディクライン達だったが、とりあえず行くだけ行ってみようということになった。
 少し遠いので、明日の朝早く出発する事に決め、その日は各々自由に過ごす事になった。

 「それでは皆さん、また夕食の時にでも……行きましょう」

 「うん」

 相変わらずソキウスにべったりだが、ソキウスは二ーナに慣れてきたのか焦る様子はなくなっていた。嬉しそう、というわけでもないがこのまま押し切られることはあるかもしれない。

 <ぴー。行っちゃうわよ?>

 「知りません!」

 自室へ戻るチェーリカを見てため息をつくジャンナ。ディクラインの肩にのり一言呟いた。

 <やれやれ、重症ね……>

 「ヘタに幼馴染ってのがよくないのかね? 居て当たり前になってたとか?」

 「レイドについては恋愛ってよりは憧れって感じだと思うわ。本当に大事なのは誰なのか、気づいて欲しいけど……」

 <今のままじゃダメじゃない……?>

 「その時はその時よ。お互いこのまま意固地を拗らせたら私は容赦なくソキウスは置いて帰るわよ?」

 荒療治だけどね、と付け加えてフォルサはチェーリカの訓練をすると後を追いかけて行った。

 <ぴー。恋愛してなさそうなフォルサが言っても、説得力がないわね>

 ジャンナは辛らつだった。



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 そして次の日。

 一行は門の前に集まって、用意してくれるという馬車が来るのを待つ。雨のため、雨具装備である。

 するとソキウスが自分は行かないといい始めた。

 <どうしたんだい? 急に行かないって……>

 「昨日、ニーナが血を吐いたんだ。毒は治っているけど病気が治っているわけじゃないからだって。病院へ連れて行くから悪いんだけど……」

 ソキウスがそこまで言うと、チェーリカが鼻を鳴らしながら捲くし立てるように遮った。

 「……ふ、ふん! どうせ演技に決まってます! ソキウスはお人よしですね、きっと騙されて……」

 パチン!

 「え……?」

 何が起こったのか一瞬わからないチェーリカ。
 しかし、すぐにじんわりと頬が熱くなるのを感じていた。……そう、ソキウスに頬を叩かれたのだ。

 「チェーリカが俺の事を嫌いだってのはわかったし、それはもういいよ。けど、人の悪口は言っちゃダメだぜ。昔はそういうの嫌いだって言ってたじゃないか……ごめん……」

 ディクライン達が黙って見守る中、ソキウスはディクライン達に頭を下げて屋敷に戻っていった。直後、馬車が到着し、放心状態のチェーリカを連れて出発したのだった。

 
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 昼を過ぎた頃、目的地に到着した一行。

 途中何があるか分からないと警戒していたが、情報に嘘はなかったようだ。さらにタークは一緒についていくと言い出した。

 「こ、ここ。ここなんだな。も、森も危険だから、い、一緒に連れて行ってもらうんだな!」

 「こ」が多いな……ディクライン達はそう思いながらもダンジョンと思わしき洞窟に足を運ぶ。チェーリカは相変わらず放心したまま黙って後ろをついてくるだけだった。心配したジャンナとファウダーが肩に乗り、先へ進む。

 「チェ、チェーリカちゃんは……ど、どうしたんだな……お、お兄さんに話してみるんだな!」

 「いえ、間に合ってるです」

 タークの受け答えにははっきりと拒絶を示すチェーリカ。ぐぬぬ……と歯軋りをしながらほくそ笑むという器用な顔を作り考える。

 「(こ、この先には雇ったごろつきが居るんだな……くくく……お、俺を怒らせたことをこ、後悔するんだな……!)」

 この洞窟はダンジョンでも女神の封印の場所でもなんでもないただの洞窟だった。以前、盗賊のような粗悪な者達が隠れ家として利用していた事があったため、入り口が半ば隠れるようになっていたのだ。タークはそれを知っており、待ち伏せをするには丁度いいと、昨日のうちに手配していたのだ。

 「……《ライティング》」

 チェーリカが明かりを灯すと、湿気の多い地域のせいか、苔むした壁や小動物の姿が見受けられた。途中分岐もあったが基本的には一本道を進む事になる。

 「……人の気配?」

 ディクラインが指を手にあて、喋るなとジェスチャーをする。こっそりと奥の広い場所を見ると、装備を整えた男達が集まっているのが見えた。

 「(き、気づかれたんだな!? このままじゃ、ふ、ふいうちをされてしまうんだな!)」

 タークは焦り、どうするかと悩んだ末……


 「な、なんでこんな所に人が居るんだな! あ、怪しいヤツラなんだな!」

 急に大声を出したのだ!

 「あ!? このバカ叫ぶな」

 ディクラインが頭をポカリと殴り、口を塞ぐが時すでに遅し。男達はディクライン達を発見する。仕方なく姿を出す事にした。

 「(全然気づかなかった!? ナイスだ坊ちゃん!)おいおい、こんな所に人だと?」

 「俺達のアジトを見られたからにはタダで返すわけにはいかねぇな?」

 「へへ、女もいるじゃねぇか」

 総勢10人。全員が棒読みでディクライン達に話しかけながら武器を構えていた。ちょっと痛めつけて、お金をもらう。そういう契約だった。

 「(ガキはともかくあの女、美人だな)」

 「(だな……お、俺惚れそう……!)」

 中身はどうあれ、フォルサの見た目は良い。男達は契約とは別にフォルサをロックオンしていた。しかしディクライン達は特に驚く様子も無く頭を掻きながら男たちに目を向ける。

 「あー……何だ。こっちは争う気は無いんだ、この先に行きたいだけなんだけど通してくれないか?」

 「私がお目当てみたいだけど、興味は無いわ」

 無駄な争いをする必要は無いと言うディクラインに、何故かドヤ顔で挑発するフォルサ。それを聞いて男達は鼻で笑う。

 「無駄な戦いを避けるってのは賛成だが……その姉ちゃんとガキを置いていくならいいぜ?」

 人数で勝っているので、ニヤニヤしながらディクラインに交渉をもちかける男達。棒読みは相変わらずだ。

 「そりゃ無理な相談だ。フォルサはお前達の手に負える……」

 そこまで言ったところで男達が待ってましたとばかりに声を上げた。

 「だろうな! じゃあ力づくで奪ってやるぜー! かかれ!」

 うひゃひゃ! と10人の男達がディクライン達に襲い掛かる!
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