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第六部:救済か破滅か

その166 喧嘩

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 「それでは、ニーナの回復とディクラインさん達との出会いに乾杯!」

 部屋に通された後、雨に濡れた体を温めるためにとお風呂を用意され、ディクライン達はゆっくりとした時間を過ごした。風呂から外を見ると雨が降り続いていたが、激しいものでもなく風情があった。

 そして夕食になり、ホープの音頭でグラスを掲げ、それぞれがお酒やジュースを口にする。料理は肉料理と魚料理が同時に出されており、舌鼓を打っていた。

 「あ、美味しいです」

 「うん、俺は肉の方が好きだけど、この魚もうめぇな!」

 ソキウスは何とかニーナの手を逃れ、チェーリカの隣に座っている。ご機嫌斜めだったのが今は普通に戻っており、ソキウスはホッとしていた。

 タウィーザはフォルサと。タークはニーナにちょっかいをかけているので、ニーナはソキウスの相手が出来ずイラだっていた。そんな様子でしばらく他愛ない話と食事を楽しんでいたが、ホープが食事に区切りをつけてディクライン達に話しかける。

 「んん、そういえばお礼の話がまだだったね。こちらは金貨100枚支払ってもいいと思っているが……」

 「ま!? ホープさん、あなた正気ですか!?」

 「お、俺も欲しいんだな!」

 ホープの言葉でタウィーザが吹き出し、タークが謎のねだりを言った。だが、そこでフォルサが口を挟む。

 「金貨100枚は私達には勿体ありませんよ? チェーリカの魔法で治しただけですから。お礼でしたら、私達のお願いを聞いていただけないでしょうか?」

 胸元で手を組んで上目遣いをするフォルサ。仕草としてはかわいいため、ホープも少し鼻の下を伸ばして顔を赤らめていた。

 <(ぴー。怖い怖い……)>

 「内容にもよるが……どういったお願いになりますかな?」

 「はい。私達は探し物をしておりまして……ホープさんの情報網なら見つかるのでは、と思っているのです」

 「ほほう? 商人は情報が命……よくご存知だ。それで?」

 顎に手を当てて満更でもない表情で続けてくれとフォルサに会話を促す。するとフォルサがしめたとばかりに一気に捲くし立てる。

 「まず一つは、あまり冒険者でも立ち寄らない、または最近現われたというような遺跡やダンジョン、洞窟などがないか。もう一つは『マジックディビジョン魔力分裂』という宝玉です。この国にあるはずなのです。そしてその間この屋敷を拠点にさせていただけないでしょうか? ニーナさんもソキウスが気に入ったようですし。もちろん見つかるまで、などという気はありません。そうですね……食事と寝床を一週間も提供していただければと思います。」

 「む……」

 マジックディビジョンの名前が出た途端、少しホープの顔に動揺が見られた。食事と寝床については特に何も言わないので問題ないのだろう。フォルサはホープの動揺に気づかないフリをして話を続けた。

 「特に宝玉はレアなものですので、見つかるとは思えないのは承知の上ですが、ホープさんなら、と思いまして……」

 「……分かった。では明日から情報の提供を行うとしよう。もちろん、この屋敷はゲストルームであれば自由にしてもらってかまいませんよ」

 「図々しいお願いで申し訳ありませんがどうかよろしくお願いしますね♪」

 契約は成立したと、上機嫌のフォルサにホープはにこりと笑いかけ、酒を飲む。そこにディクラインが耳打ちをしてきた。

 「(お、おい女神の封印はいいけどマジックディビジョンってなんだ? そんなものを手に入れるなんて聞いてないぞ?)」

 「(ちょっと個人的に、ね。大丈夫、害があるものじゃないから。ここで商人と仲良くなれたのは良かったわ。自力で探すとなると時間かかるからね。ただ、ホープさんの動揺は気になるわ)」

 「(何か考えがあるようだな? ま、とりあえず女神の封印が分かるまではゆっくりさせてもらうとするか)」

 「(ソキウスを鍛えるのも忘れないでね?)」

 フォルサがソキウスの方を見ると、チェーリカとニーナに挟まれて困っている所だった。

 「こ、こいつばっかりずるいんだな! 俺も仲間に入れるんだな! チェ、チェーリカちゃん、か、可愛いんだな」

 「ひっ!? ……あ、ありがとうです……」

 「チェーリカに触るなよ!」

 タークがチェーリカの手を取って話しかけたのをソキウスが払いのけてチェーリカの前に立ちふさがる。

 「な、何をするんだな、庶民風情が!」

 「ソキウス様、女の子を守る姿……かっこいいです……それが私だったら文句ありませんのに!」

 「う、うええ……そ、そうくるのか……お、俺はチェーリカが……」

 ソキウスに抱きつくニーナ。ソキウスはチェーリカが好きだと伝えようとニーナを引き剥がすが、その光景を見て、チェーリカはまたも怒り心頭になった。

 「ソキウスのバカ! もうニーナと付き合えばいいんです! ふん!」

 「身を引いてくれるのですか? それは願ってもありませんわね……! さ、ソキウス様、あーん」

 「ごゆっくりです!」

 「ちょ、チェーリカ!? どこ行くんだよ!」

 「もうおなか一杯だから部屋に戻るです! ニーナといちゃいちゃしていればいいですよ! ソキウスの事なんて好きでもなんでもないんですから、チェーリカには関係ないです」

 ニーナは女の子なので手荒な真似はしたくないソキウス。レイドが好きだ、と言う事は毎回言っていたが、自分の事は本当に何とも思っていないかと、その言い草に落胆し、ソキウスは少し寂しげに言い放った。

 「……俺がニーナと付き合うってのはともかく、お前が俺をどう思ってるのかは分かったよ。悪かったな、村から出る時にも無理やり着いてきて。レイドとうまくいくといいな」


 「……ふん」

 一瞬チラリとソキウスを見て焦るが、すぐに気を取り直して。自分の部屋へと歩き始めた。それにジャンナとファウダーが追いかけていった。




 ---------------------------------------------------




 周りに誰も居ない事を確認したジャンナはチェーリカへと声をかける。

 <ぴー。あれは言いすぎよ?>

 「うるさいです」

 <そりゃあ昔勝手に着いてきたっていうソキウスをうっとおしがるのはいいけど……本当にどうでもいいならオイラ達は気にしないけど……そうじゃないなら、後悔するよ?>

 「? どういうことです?」

 <ぴー。あたし達もあんた達と似たような感じだったって事。ま、あたしはいい所のお嬢様で……>

 <オイラはいわゆる冒険者ってやつだったんだけど身分の違いが……ってまあ面白い話でもないからそれはいいや。チェーリカはソキウスの事は好きでも無いみたいだし、二ーナとくっついても大丈夫かな。あ、でもソキウスがここに残ったら戦力が減るし困るなあ>

 良かった良かったとファウダーが本気でそう言っているの聞き、ジャンナがマジ怒りでファウダーを突いた。

 <ぴー。あんたはちょっとこっちに来なさい。あの頃とちっとも変わってないじゃない!>

 <え? え? 何? ちょ!? 尻尾を咥えるのはやめてよ!? わかった、わかったから! それじゃあまた後でね!>


 騒がしくその場から消えるジャンナとファウダー。一人取り残されたチェーリカは立ち尽くしていた。

 「……後悔……」

 ファウダーの言葉を考えていると、食堂からタークが出てきてチェーリカに話しかけてきた。

 「ま、まったくあの男は酷いヤツだ、チェ、チェーリカちゃんが居るのに二ーナに手を出すなんて! ど、どう? お、俺に乗り換えない?」

 脂汗を流しながらチェーリカの肩に手を回してそんな事を言うターク。ぞぞぞ、と、背筋が寒くなるチェーリカだが、きっぱりとその手を(少し強めに)払いのけながら言った。

 「チェーリカは好きな人が居るので間に合っています! それでは!」

 「ぶひぃ!?」

 すたすたと部屋に戻るチェーリカを見て、恨めしい視線を向けながらタークは呟く。

 「ど、どいつもこいつも、お、俺を蔑ろにしやがってぇ……み、見てろよ……」



 ---------------------------------------------------



 フォルサが部屋に戻ると不貞寝するチェーリカを発見する。

 それを微笑ましく思いながら、フォルサは何も言わず隣のベッドへと潜り込んだ。

 「あーあ、飲みすぎちゃったわ! ソキウスと二ーナのこと満更でも無さそうだったわね」

 「……!?」

 「しばらく屋敷に居るし、結婚とかになったら忙しくなるわね……ふふ、おやすみなさい……」

 フォルサは誰にともなく言い放ち、そのまま就寝した。

 「(ソキウスが結婚……? そ、そんな訳……チェーリカの事が好きなんですから……有り得ないです、よ)」

 しかしソキウスにはあまりいい態度を取っていなかった気がすると、改めて考える。そして、自分が好きなのはレイドさんだ、と言い聞かせるように目を瞑って寝ようとするが、もやもやした気持ちはいつまでも治まらなかった。
 

 雨は翌日も降り続いていた……。
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