パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
143 / 377
第六部:救済か破滅か

その164 治療

しおりを挟む
 

 フォルサが病院に行くと言いだし、よく分からないまま着いていく三人。雨で人通りも少なく、場所はどこか分からなかったが少し歩くと少し大きめの建物が目に入った。
 先程、すれ違った馬車が止まっているのでここが病院で間違い無さそうだ。
 
 「あれかしらね。さ、行きましょう。体を拭くものを貸して貰えるといいんだけど」

 軽やかに歩くフォルサを尻目に、ソキウスが頭に手を当てて呟いた。

 「フォルサ姉ちゃん、恩を売るって言ってたけど何するつもりなんだろうな……?」

 「あの人は俺もよく分からんしなあ……まあ、長生きしている事は間違いない。ここは言う事を聞いておこう」

 <ぴー。あまり歳のことは言わない方がいいわよ……?>

 ひそひそと話す二人にジャンナが釘を指していると、受付へと向かったフォルサが布をもって戻ってきた。

 「はい、チェーリカからね」

 「ありがとうです! とりあえずどうするですか?」

 「そうね……お、丁度戻ってきたわよ」

 皆で髪を拭いていると、馬車から顔を覗かせた男性がとぼとぼと歩いてくる。大声で叫んでいた人物とは思えないほど憔悴している。

 「あの、すいません」

 「ん? 何かな……私は誰とも……ああ、あなた方は先程の……やはりどこかお怪我を? 申し訳ない……」

 少し寂しそうに笑う男性に、ディクラインが話しかける。

 「いえ、我々は大丈夫ですが、慌しかったのが気になりまして……どうしましたか? 随分と落ち込んでいるようですが……」

 「ああ、大した事では……あ、いや、聞いてください。話せば少しでも気が晴れるかもしれない……」

 男はソファに腰掛けて手を組みながら話し始めた。

 「私はホープ。ちょっとした商いを行っている者です。この病院に来たのは、娘のニーナが病気でね、小さい頃から病弱で屋敷から殆ど出ることもない程なのですが、さっき急に容態が悪くなりまして……確かに体力は無いのですが、こんなことはなかったのに……」

 そこまで言うとホープは手で顔を覆い、項垂れる。そこに医者が現われてホープのところへ真っ直ぐ歩いてきた。医者の表情は曇っている。

 「娘さん、あまりいい状態じゃないね……。原因は分からんがもって2,3日ってとこだろう」

 「馬鹿な!? 昨日まで普通に生活していたのにそんなわけが!」

 「よすんだホープさん」

 「そうは言うがね? これは事実なんだ。連れて帰って最後は自宅で過ごさせてやるといいさ。103号室に寝かせてあるよ」

 医者に掴みかかろうとしたホープをディクラインが止めると、一瞬驚いた顔を覗かせたが医者はそそくさと奥へ引っ込んでしまった。我に返ったホープがディクラインの手から離れると、襟を正して頭を下げる。

 「いや、みっともないところを見せてしまって……それでは……」

 立ち去ろうとした所でフォルサがホープに声をかけた。

 「お待ちくださいな。あなたの娘さん、私達なら治療が出来ますけど?」

 「な、何!? 医者がサジを投げたのにできるというのか!?」

 「ええ、この子がきっと助けてくれますわ♪」

 「あ、あたしです!?」

 <(ぴー……うさんくさい笑顔ね……もが!?)>

 <(馬鹿!? 聞こえたら焼き鳥だぞ! ひっ!?)>

 チラリと、ソキウスの頭に乗っているジャンナとファウダーを見るフォルサ。だが、すぐに笑顔でホープに接する。藁にもすがる思いで、ホープはフォルサの手を取った。

 「た、頼む! 礼は必ずする!」

 「毎度ー♪」

 交渉成立。フォルサたちは103号室へと向かった。


 ---------------------------------------------------


 部屋には寝息を立てている女の子がいた。
 歳は15,6といった所だろうか。ソキウスとチェーリカと同じくらいである。だが、呼吸は荒く、顔色も悪い。


 「この子です」

 「ふうん、可愛い子だな。死なせるには勿体無ねぇな確かに」

 ソキウスの言葉にむっとするチェーリカが、何か言おうとしたが、フォルサによって遮られる。

 「それじゃチェーリカ、お願いね」

 「え、ええー!? ……ど、どうすればいいです?」

 半分涙目のチェーリカがフォルサに聞くと、耳うちをしてきた。

 「(あなたアンチドートが使えたわよね? それをこの子に使って。それだけでいいから)」

 「(は、はい……どうなっても知らないですよ?)……それでは行きます……<アンチドート>!」

 パァァァ……

 毒に侵されている者に使うと対象者の体が輝く魔法、アンチドート。チェーリカがニーナに使うと、その体が虹色に光っていた。そして見る見るうちに顔色が良くなっていった。

 「これでもう大丈夫よ」

 「へえ、チェーリカすげぇな! 流石だぜ!」

 フォルサがそう言い、ソキウスがチェーリカの横まで来て背中を叩くと顔を赤くしてふんと鼻を鳴らした。そしてニーナの目がゆっくりと開く。

 「おお……! ニーナが!」

 ぼんやりした目でベッドの横に居る、ホープ、フォルサ、チェーリカ、ソキウスの顔を見た後、もう一度ソキウスの方を見てガバっと抱きついた。

 「好き!」

 「うえええ!? な、何だ!?」

 「ちょ……! ソキウスから離れるですよ!?」

 するとニーナがキョロキョロと辺りを見回して呟く。

 「あら、ここは? お父様、わたくしは一体……?」

 「ニーナ! ここは病院だ。お前は食事の後に急に倒れたんだよ……医者もサジを投げたがこの方達が治療してくれたんだ」

 ホープが涙ぐみながらニーナの頭を撫でる。

 「そうだったんですのね……あ、そうだ。あなた、お名前を教えていただけるかしら?」

 「え? 俺はソキウスってんだ」

 「ソキウス様……ポッ……」

 能天気に自己紹介をするソキウスに、ニーナは顔を赤らめていた。すると横からチェーリカが口を挟む。

 「あなたを治したのはわたしです! わたしはチェーリカ! よろしくですよ!」

 「あら、そうでしたの。それはありがとうございます! おかげでソキウス様と出会う事ができましたわ!」

 「お、おい……そろそろ離れてくれよ?」

 ニーナはソキウスの首に腕を回したままうっとりとした表情でチェーリカに挨拶をする。チェーリカはそれを見て憤慨する。

 「何をしているですかソキウス! 早く離れるのです!」

 「ああ……そんなに大声を出されたらまた具合が悪くなってしまいますわ……ソキウス様、馬車までだっこして連れて行ってくれませんこと?」

 「いや、その……」

 ソキウスがチェーリカを見ながら困っていると、ホープがニコニコとしながらソキウスの肩を叩いた。

 「すまないが頼めるかい? 皆さん今日は私の屋敷に招待させてほしいのだが、都合はどうだろうか?」

 「問題ありません。よろしくお願いしますね。ソキウスはニーナさんを連れていくのよ?(その子、このままだと離れないわよ?)」

 「わ、分かったよ……はあ……」

 「申し訳ありませんソキウス様……(べっ!)」

 ベッドからお姫様抱っこでソキウスが扉へ向くと、背中越しにチェーリカへあっかんべーをするニーナ。それを見てますますヒートアップする。

 「あんの女! 助けるんじゃ無かったです! 何が病弱ですか! もう一回毒を食らわせてやります!」

 フォルサがなだめながらホープたちの後をついていくチェーリカ。いつの間にやらディクラインの所へ移動したファウダーとジャンナがやれやれと肩を竦める。

 <ぴー……厄介な事になりそうね>

 <こじれると後が大変なんだよね……オイラ達みたいに……>

 <ぴー……あの時の話はやめて……>

 <ご、ごめん……>

 「? 何だか分からんが、追いかけるぞ。それにしても食事の後で倒れた、か……。ジャンナじゃないが、これは本当に厄介事になるかもしれんな」

 ディクラインが後を追いつつ、そんなことを呟くのであった。 
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。