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第六部:救済か破滅か
その163 成功
しおりを挟む<魔王城:庭>
「で、出来た! お父さんできたー!」
「流石は俺の娘、飲み込みが早いな」
歓喜の声をあげる私に、お父さんは手放しで喜んでくれた。ついに私は魔力の底上げに成功したのだ! いやあ、疲れた……。
「わふ♪」
「わんわん!」「きゅんきゅーん♪」
「あんた達もお祝いしてくれるの? ありがとね!」
レジナ達も私の足元でぐるぐると回りながら祝福してくれる。三匹の背中を撫でながら休憩していると、エクソリアさんが庭へとやってきた。
「あれ? どうしたんですか?」
『今やっている事に飽きてね。調子がどうか確かめに来たんだよ』
「あ、そうなんですね。私は丁度、魔力の底上げに成功した所です! やっと次のステップです!」
『(ふうん、この短期間でモノにするとはいい素質じゃないか。魔王の恩恵はあくまでも『スキルを使えるようになる』というだけで、それなりに努力は必要だからね。案外姉さんを引き剥がすのも難しくないか……?)』
「どうしました?」
『いや、何でもない。ところで、その髪はどうしたんだい?』
考え事をしていたエクソリアさんに声をかけると、逆に私の髪の毛、ヘヤーについて質問されてしまった。ちなみに今の私は髪の毛が真っ白になっており、お父さんと同じ状態だったりする。
「パパが偽装魔法をかけてたんですけど、もうその必要も無いかって事でお父さんが解除したんです。まだ鏡を見ると違和感がありますけど、こっちが本当の色ですしね」
「きゅんきゅん」
シロップが私の髪を咥えて引っ張っていた。レジナとシルバは白い髪の私に比較的早く馴染んだけど、シロップはたまにこうして甘噛みをして確認をしてくるのだ。
「べたべたになるから手にしてね?」
「きゅーんきゅん……♪」
抱っこすると、あむあむと私の手を噛み始めた。やっぱり人によって噛み心地が違うのかしら……?
「わん!」
シロップばかり可愛がっているのに嫉妬したのか、シルバが頭をぐりぐりと押し付けてくる。少し大きくなったけど二匹抱きかかえられないほどじゃないので、シルバも抱っこしてやると、嬉しそうに目を細めた。
「甘えん坊なんだから……で、お父さん。次は何をするの?」
「そうだな。次は魔王の固有スキルを覚えようか、魔法とは違う固有のスキルがいくつかあるんだ。魔力の底上げが出来たなら、魔力が回復したあとに使えると思うよ」
固有スキルか……攻撃系なら嬉しいわね。今は補助魔法と剣だけだもん。
レイドさん達と一緒に居る時から思っていたけど、私自身の攻撃力はパワフルオブベヒモスで上げるだけだから火力は無いのがね。
フレーレは回復魔法もマジックアローも使えるし、最近はフォルサさんから聖魔光って技を教えてもらってたみたい。
そんな事を考えながら休憩のため城へ戻ると、私達以外の話し声が聞こえてきた。この声は……。
「フレーレ! セイラさんにバステトも!」
「あ、ルーナ! ただいま戻りましたよ!」
「にゃーん♪」
<疲れたにゃー……セイラに追い回されてクタクタにゃ。お風呂、入りたいにゃ>
一体何があったのか? バステトの毛はボロボロだった。キューティクルなどあったものではない……。
「きゅんきゅーん!」
「わんわん」
<お前達は優しいにゃー……>
涙をぬぐうバステトはシルバとシロップに任せて、私は二人に向き直った。
「早かったわね? どうだった?」
私が二人に質問すると、セイラさんがマジックバッグから小ぶりの盾を取り出しながら答えてくれた。あれが女神のアイテムかな?
「場所があまり遠くなかったから往復が早かったのよー。これ、おみやげねとりあえず、慈愛の盾ね、後は……」
「あ、あのセイラ? 先に紹介をした方が? ベルダーさんのことも……」
「確かにそうね。フレーレ、よろしく!」
「私ですか!? もう……アネモネさん、こちらへ」
<はいはい、すまないね。アタシはアネモネ。嫉妬のアネモネさ。よろしく頼むよ>
白い蛇がにょろりとフレーレの足元へ来て鎌首をもたげてぺこりと頭を下げた。私もそれに習って頭を下げる。
「私はルーナです! 女神の守護獣ですね、こちらこそ」
<アタシには敬語は要らないよ、肩が凝るからね>
肩……?
「あ、分かったわ。私もルーナって呼んで!」
あいよ、とバステトのところへ戻っていくアネモネ。次に妙に爽やかな男性が前に出てきた。
「彼はカイムさんです。諸事情でベルダーさんが国から出られなくなったので、代わりに着いてきてくれました!」
「初めまして、カイムと言います。フレーレさんからお話を伺っています。ベルダーさん程ではありませんが、役目を務めさせていただきたいと思います」
礼儀正しいお辞儀をして、ルーナと握手をするカイム。
「ルーナです! 一応魔王の娘をやってます! って、ベルダーどうしたの?」
「うーん、蒼希ってベルダーの故郷なんだけど、置いてきた婚約者と結婚する事になったのよ。で、10年放っておいたのもあって、ユリさん……あ、婚約者の人ね? その人の傍にいたいって事」
「それはそれはおめでたい……そういう事なら仕方ないかな。全部終わったら会いに行けばいいしね」
ベルダーもいい年だからここは祝福してあげたい。そう思っていると、フレーレから髪について質問が来た。
「そういえば髪、真っ白ですけどデッドエンドを使ったんですか?」
「ううん。元の髪色はこっちだから、今後はこれでいくの。私もまだなれてないけど、よろしくね」
二人で笑っていると、セイラさんが紹介終わった? と話しかけてくる。私が頷くと、手を叩いてバッグから色々と取り出し始めた。
「じゃあおみやげを出していきましょう! 食べ物が多いんだけど……」
大量のお菓子や食べ物が出てきて面食らってしまう私。この後、お茶になるんだけどつい長話をしてしまい慌てて庭へ戻る私。
「あ、特訓ですか? ガンバルーナですね!」
相変わらずのフレーレにこけつつも安心する私。とりあえずみんな無事で帰って来た。それが何よりも嬉しい。
さて、人が増えたから特訓に幅が広がるかもしれないわね!
レイドさんとパパはどうしてるかなあ……?
---------------------------------------------------
<水と森の国:アクアステップ>
少し時は遡り、ディクライン達の様子はというと……。
「なー、まだ着かないのかよ?」
ソキウスが魔物を倒しながらディクラインへ聞く。歩き始めて早二日、まだ森を抜けれていないからだ。
「もう少しだ。森の中は何があるか分からないから、転移陣は遠くに設定してる」
<この先を抜けると湖に隣接した町があるんだよね>
<ぴー。そうそう……プレジの町よね確か>
ソキウスとチェーリカの肩にそれぞれ乗っているファウダーとジャンナがぼやくソキウスに言うと、フォルサが
会話に参加してきた。
「私は初めてだけど詳しいわね?」
<オイラ達はこの国出身だからね>
<あたし達がここ出身だって知ってたから選んだんじゃないの?>
「私は違うわね。守護獣の割り振りはエクソリアが決めたから、そういうことなんでしょう」
「よっ……ほっ……うーん難しいです……」
一番後ろを歩くチェーリカはフォルサに道中、聖魔光についてレクチャーを受けており、色々試しながら歩いていた。
「移動中はやめとけよ。ほら……」
「大丈夫です! ソキウスも修行しながらの方がいいですよ? レイドさんに比べたらまだまだなんですし」
「ぐう……」
やれやれ、とディクラインが方を竦めていると、ぽつ、っと雨粒が降ってきた。水の国と呼ばれる所以は雨量が多いためということもある。
「おっと、これは急いだ方が良さそうだな。少し走るぞ」
ディクラインが言うと、全員が頷きバタバタと走り始める。やがて森を抜けるとそこには湖に隣接した町が見えた。
入り口には通行を取り仕切る警備隊がおり、そこで身元を確認するタイプの町のようだ。ファウダーはソキウスの懐に隠れる。
<オイラは流石にトカゲっていうには無理があるからね。ちょっと隠れるよ>
他に並んでいる者もいないので、すぐ手続きに入ると、警備隊の人間がディクラインのギルドカードを見て驚いた。
「あ、あなたは魔王討伐の……」
「シッ。あまり公にしないでもらえると助かるかな? まあ、しばらく居るからよろしく頼むよ」
「は、はは! それではどうぞごゆっくり滞在ください!」
無事、プレジの町へと入る事ができた一行。雨をしのぐため宿を目指ざして歩いていると、突然通りから凄い勢いで馬車が走ってきた!
「うわ!? あっぶねぇな! 気をつけろ!」
ソキウスが間一髪すると、馬車は急停止して中から身なりのいい男が顔を出して謝ってきた。
「申し訳ない! 娘が危険な状態なものでね! もしケガがあれば先の病院に居るから来てくれ、治療費は私が払おう! すまないが急いでいるので失礼する!」
慌しく発進する馬車をボーゼンと見送るソキウスとディクライン。
「あの馬車……というより人、かしらね……? ねえチェーリカ、さっきの馬車で何か気づいた事はある?」
「ふえ!? な、何かありましたか!? ……うう、何も分からなかったです……」
おもむろにチェーリカへと質問するが、特に気になる事はなかったと返答する。フォルサはそれを聞いて頷き、再び歩き出してから言った。
「それじゃ、病院へ行きましょうか」
<ぴー。別に誰も怪我してないし、行かなくていいんじゃない? 何しに行くのよ>
「それはもちろん。恩を売りに、よ♪」
不適に笑うフォルサにディクライン達の頭に「?」が浮かぶのだった。
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