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第六部:救済か破滅か

その161 封殺

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 ダラードの魂と思わしき黒い影が消滅した後、シャールの体は倒れ地面に血溜まりを作る。動かなくなったシャールにモルトとミト、そしてニアが近づいてきた。

 「親父!」

 「ひいおじい」

 二人の呼びかけにゆっくりと目を開けると、ポツリポツリと話始めた。

 「モ、モルトか……す、すまんなこんな情けない姿を晒して……ミト、元気だったか……大きく、なったなあ……」

 「喋るんじゃない! アイディール、回復魔法を!」

 「いい、私の肉体はもはや朽ちている。回復魔法で治りはせんよ」

 「でもやってみないと!」

 アイディールがリザレクションを使うと傷口は塞がったが足先から土くれのようなものに変化していく様子が伺える。

 「そんな……!? 呪いか何か?」

 アイディールが焦る声を上げる中、チェイシャが追いついてきて、シャールのところへやってきて声をかける。

 <なんじゃこれは……。シャール、わらわが分かるか?>

 「ええ、チェイシャ王女……あの時と変わらず美しいお姿……別荘で少しお話が出来て嬉しゅうございました……しかし申し訳ありません、このような事になってしまい……全ては私の弱い心が悪いのです」

 シャールは涙を流し目を瞑る。今度はそこにリアラとオットブレがやってきて、膝をついて話しかける。驚いた目で二人を見るシャール。

 「私達の身内が……本当に申し訳ありませんでした。死してなお国と王女へ執念を燃やすとは……」

 「シャール殿、許してくれとは言わん。そして王女がよければ私は王座を降りてもいいと思っている、それが我々にできるせめてもの罪滅ぼしだ」

 涙を流すリアラに、王座は返すと宣言する二人に、シャールは首を振って微笑み、そして告げた。

 「……あ、あなた達がダラードを殺したのは知らなかったが……あの男がいなくなってからの国はいい方向へ向かっていた……それは分かっていた……分かっていたのに、私は、憎んでしまったのだ……そこをつけこまれた……」

 「今は王女が生きていると分かったからいいようなものの……あなたの怒りはごもっともです……」

 リアラがシャールの手を取ると今度はニアがシャールへ質問する。

 「お義父さん、いったいアンタに何があったんだい?」

 「……王女には話したが私は謎の声に導かれてこの肉体を得た。しかし、同時にダラードの魂も呼び寄せてこの体にしまいこんだ……私はヤツに抗ったがこの通り……」

 「目的は何だったんだ……?」

 シャールはそう聞いてきたレイドの方を向くとまた話し始める。

 「この国をダラードに攻めさせ混乱を招く……その腹づもりだったようだ……どこで嗅ぎつけたかはわからんが、王女が生きている事をダシに、して私とダラードを唆した……気をつけろ、本当の標的は、君達、そう言っていた……」

 「私達が標的だと? 敵対しているものはアルモニア以外いないはず……女神以外にこんなことができるやつがいるだろうか……?」

 カルエラートが眉をひそめて誰とも無く呟くと、シャールがその言葉に続けて声をふりしぼる。体も半分は土くれに変わっている。


 「あ、あれは、人間の力では……ない……あれはか……」

 すると突然乱入してくる影があった!

 メ"ェェェェェェ!!!

 「スナタロウ!? みんな避けて!」

 ミトが叫ぶと、一行に突撃してくるスナタロウを間一髪回避する。だが……。

 「うがああああああ!? ス、スナタロウ!? お、お前はまさか!? 女神の封印を解きし者達よ! 恐らく黒幕は……!」

 ベキベキベキ……!

 <シャール!?>

 スナタロウがシャールの首を咥えたかと思うと、そのまま首の骨を噛み砕いた。手ごたえを感じたのか、シャールを捨て、今度は浮遊しているカームへと迫る!

 <む!? 俺が狙いか! させんぞ!>

 ソニックウェーブで飛び掛ってきたスナタロウを追い返すと、ミトがその首へ掴まる。呻くようにスナタロウが唾液を撒き散らしながら暴れる!

 「どうしたの!? 落ち着いて!」

 ミトが叫ぶが、スナタロウは血走った目で今度はミトを壁に叩きつけようとする。そこにモルトがカバーに入り、ミトを助け出す。ミトをニアへ渡すと、モルトはスナタロウの首を一撃で刎ねた。

 ン"メェェェェ……

 断末魔の鳴き声を上げてボフッ! という音共に灰となった。スナタロウの形をした別の何か、という表現が一番しっくりくるだろう。

 「ダメか……」

 レイドがシャールの体を起こすが、すでに事切れており、やがて体が土くれとなって崩れた。

 「……親父……」

 「ひいおじい……スナタロウ……」

 「後味が悪い結末になっちまったね」

 涙を流すミトを抱きしめながら、モルトとニアが崩れてしまったシャールの亡骸を見ながら立ち尽くしていた。ダラードとシャールは、完全にこの世から消えたのだった。

 <(さらばじゃシャール。その内わらわもそっちへ行く事になろう、その時にまた会おうぞ)>



 ---------------------------------------------------



 ダラードによる城への侵攻から早3日。

 あの後、町にはすぐ人々が戻り、次の日には元の喧騒を取り戻していた。そして、国を救った勇者パーティとしてレイド達は城で寝泊りさせてもらっていた。

 そして個室を借り、今はレイド、アイディール、カルエラート、チェイシャにカームが話し合いをしていた。英気を養ったところでカームが話をしたいと言ったからである。

 <あの謎の声を聞いた時、俺は一瞬で意識と体を奪われた。抗う事がまるでできなくてな>

 「体も黒く変色していたわよね? あの声、結局なんだったの?」

 <分からん、と言いたいが雰囲気は主に似ていたな。他に女神が居るという話は聞いたことがないが……>
 
 カームがテーブルの上でおすわり状態で目を瞑り唸る。それをカルエラートが撫でながら、カームへと質問する。

 「アルモニアが何か暗躍しているとかは無いか?」

 <いや、声は高かったが男のようじゃったぞ。わらわ達を狙っておる、というのも気になるわい。わらわ達が女神の封印を解いていること、それにエクソリアと一緒にアルモニアと戦おうとしているのは誰も知らんハズ>

 チェイシャの言葉に三人は確かに、と呟く。
 
 唯一正体を知っていると思われたシャールもすでにこの世には居ない。

 「あのラクダ……まさか声の主が?」

 <かもしれん。シャールをピンポイントで狙っていたからな。そして次に俺だ、あの声に接触した者は始末する気だったんだろう>

 結局、カームが覚えている事は少なかったので情報を掴むまで至らなかった。ただひとつだけ言えることがある。

 「シャールの言う『標的は俺達』ということは、別の地域に散った仲間も気になる。こうなるとエクソリアがいる魔王城も安全とは言いがたいしな。封印も解いた事だし、すぐに戻ろう」

 レイドの言葉に全員が頷くと、チェイシャが思い出したようにポンと手を打つ。

 <そうそう、わらわは最後に一仕事あるから、明日発つでいいかのう?>

 「? まあ一日くらいなら大丈夫だとは思うが……」

 「あ、ピンときた」

 「そうなのか? 私は全然だ」

 何の事か分からないレイドとカルエラートだが、アイディールは何かに気づいたようだった。

 個室から出て、リアラへ明日発つことを伝えると残念そうな顔で一行へと言う。

 「そうですか……それでは今日はパーティを開きましょう! ニアさん達も呼びましょう」

 <うむ。ミトは落ち込んでいたからよいと思う。あ、レイド達は戻っていいぞ、わらわはリアラに話しがある>

 「分かった。何かあれば言ってくれ」

 チェイシャはひらひらと手を振ってレイド達を見送り、リアラと共にその場で話し始めた。


 その後開かれた、夜のパーティは盛り上がった。泣いて目の赤かったミトも少し元気を取り戻して笑顔が見え、いつの間にかレイドがチェイシャの婚約者だという身に覚えの無い風評に焦り、アイディールが酒を飲み、国王が絡まれて冷や汗をかくといったアクシデントもあったが、概ね楽しく賑やかに過ごした。

 そして翌日、チェイシャがやり残した一仕事を行うときが来た。
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