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第六部:救済か破滅か

その159 正体

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 <ヌウウ!? 飛べヌ!>

 「こっちは何度か女神の守護獣とは戦っている上にお前たちの主が加入しているんだ、色々な対策は考えてあるさ!」

 レイドは錘のついたロープをカームの足に巻きつけて移動を制限する。もちろんそうなるとカームは飛ぼうとするが、ニアの命令で手伝ってくれている冒険者達がロープを掴み、重さで飛べないようにしていた。バランスを崩した隙に、反対側からも錘つきロープが飛んで拘束していく。

 「もらった!」

 <愚か者メ、これしきのことデタタカエヌ我ではなイ>

 レイドが額の宝石めがけて斬りかかるが、カームは身をよじって回避をする。簡単には殺されまいと、羽の風圧でレイドを下がらせていた。

 「くっ、ジャンナとはまた違った羽の使い方をする!」

 「羽を落とすわ《ゲイルスラッシュ》」

 <クッ……人間フゼイが、女神のシトたる我に傷をツケルトハ……>

 アイディールが風属性の中級魔法を放つと、左の羽がズタズタに切り裂かれた。飛ぶのは諦めレイド達に向かってくるカーム。冒険者も踏ん張るが、四肢をつかった動きにずるずると引きずられる冒険者達だった。

 <ならば噛み殺してくレルわ!>

 「その攻撃は見切っている! そして盾は攻撃にも使えるんだぞ! スマイトカウンター!」

 二人の間にカルエラートが割り込み、くちばしをガードした後にシールドの縁で額の宝石を強打! ピシっとヒビが入りカームが悶絶する、
 
 <ガァハ!? ナンの! 我に勝てるものか!>

 「ん!? きゃ!」

 強打を受けて一瞬のけぞるが、そこは女神の守護獣たる意地か、態勢を立て直す前に手でカルエラートを払いのけた。

 「カルエラート! この……!」

 <まずは女、オマエからだ!>

 「させるか!」

 大きく口を開けたところにレイドの剣が伸びる。だが、カームはそれを見て口を閉じ、振りぬく事が出来なかった。

 「ぐぐぐ……!」

 <フぬぬぬ……!>

 「アイディール今だ! 魔法で打ち砕け!」

 両手で渾身の力を込め、鍔迫り合い状態を続けていたが、やがてアイディールの魔法が宝石を直撃した。

 「いい子だから動かないでよね……《マジックアロー》! 連続射出!!」

 スコーンといい音を立ててヒビが入った宝石に突き刺さるも、まだ砕けない。だが、アイディールはそれを見越して5本、6本と連続で同じ所を狙う。耐えられなくなったカームが一旦引こうと、口から剣を放したその時。

 <!?>

 「今度こそ終わりだ、お前も小さくなるのかな? はあああ!」

 パキン……

 ジャンプしてカームの額めがけて剣を振り下ろすレイド。見事クリーンヒットして、宝石は粉々に砕け散った!

 <グオオオオオオオオオオン……!?>

 ピシ……ピシ……ガシャーン!

 目から光の無くなったカームの体もガラス細工のように砕け散り、跡形も無くなった。残骸の中に、胸当てのようなものが現われ、起き上がったカルエラートがそれを拾いながら二人に駆け寄ってきた。

 「やったな。ひとまず私達の目的は果たせた」


 「《ヒール》そうね、後は……」

 アイディールが城の方を振り返ると、城の中からシャールとチェイシャ、そして冒険者の一団が駆け出してきていた。

 「何と!? やられたというのか!?」

 <レイド達か! よくやった、これで残りはこやつだけじゃ! わらわの事は気にせず捕らえるのじゃ>

 シャールが驚き、チェイシャが腕を振り回しながら叫ぶと、シャールはチェイシャを自分の所へ引き寄せ剣を構える。

 「貴様が王女の男か……貴様を殺せば諦めもつくか?」

 シャールがレイドを睨んでいると、今度は城からミト達も出てきた。

 「ひいおじい、もうやめよう? 王女はひいおじいのものじゃない。私達も虐げられているわけじゃないよ?」

 「まったく、国王の私がこんなに苦労しているというのに頭痛の種を増やす……別に王座が欲しければくれてやってもかまわんのだが……お前のような奴にはやれんな」

 髭を引っ張りながら、国王のオットブレが呆れたように言い放つ。できれば代わって欲しいくらいだがな! と捨て台詞を残すと、シャールが激昂して国王に言う。

 「お前がそんな事だから、俺が帰ってきたのだろう!」

 <帰って来た……? お主、まさかとは思うがダラードか!>

 「な!?」

 「に!」

 チェイシャの言葉でモルトとリアラが驚く。すでに死んだはずのダラードがシャールに成り代わっているなど、有り得ないと全員がシャールを見る。

 「……少し興奮しすぎたか? そうだ、俺はダラード。この国の支配者よ」

 「ち、父だと?」

 「ではお聞きしますが、おじいさま。どうしてそのお姿なのでしょう? あなたは確かに埋葬されたはず……」

 するとダラードはふんと目を細めて、あのダンジョンでの出来事を語り始める。

 「俺は死後、魂とやらになって彷徨った。何かに呼ばれるようにあのダンジョンへたどり着いた……」

 ダンジョンで彷徨っていると、冒険者らしき連中がチェイシャの事を話しているところに出くわした。冒険者から話を聞くため姿を現したその時、謎の声が聞こえてきたと言うのだ。

 「そいつが言うに、シャールを復活させるついでに俺の魂をシャールの体に入れると言った。何故そんな事をしたのか分からんが、おかげで俺はシャールの肉体を手に入れることができたわけさ」

 <食堂でわらわに語ったのは……>

 「あれはシャールだ。どちらかが眠っている間か、意思の強い方が前に出るようになっていてな。あの時俺は眠っていたのだ。余計な事を喋ろうとしたからすぐに入れ替わったがな」

 そこでモルトが気になっていた事を口にする。

 「しかし、お前がダラードならこの二人は身内だろう? 真相を話せば王座に返れるんじゃないのか?」

 しかし、ダラードは顔をゆがめ、リアラとオットブレが明後日の方を向いた。

 「俺を殺したのはこの二人だ! 先に言ってしまえばまた殺される。そう思った俺はあくまでも『シャール』としてこの城に戻るつもりだったのだ! 王女を手に入れて、俺を殺した息子と孫を殺す……そういう筋書きだった」

 「流石はおじいさま……しぶといにも程がありますわね」

 「首謀者はお前だったか? 我が孫ながら恐ろしいなリアラ……しかし冒険者はこっちの方が数は上、しかもお前たちの方には戦えるものが少ないようだ! お前達、やれ! 皆殺しで構わん」

 シャールが合図をすると、冒険者達がのそりと武器を構えてミト達の方へと向かう。モルト、ミトが武器を構えて迎撃態勢を取るが、交戦する事は無かった。

 「義父から離れたね! そおら、これでもくらいなよ!」

 城のテラスから姿を現したのはニアだった! 何かあった時のためにずっと隠れ続けていたのだ。そして動き出した冒険者の頭上に、投網が覆いかぶさるように降ってきた!

 「う、ぐ……斬れ、ない……」

 網の中でもがき、数人が網を切断しようともがくが、まらで斬れる気配が無かった。

 「当然だ、デザートクロウラーから採れる貴重な糸を何重にも合わせた特殊網さね! 姫様達は城の中へ! モルト、ミト、義父を解放してやりな!」

 「分かってらあ」

 「ひいおじいはどうやったら助けられる……?」

 カーム戦に狩り出されていた冒険者達とレイド達、そしてモルトとミトがダラードを取り囲む。ダラードがチェイシャを抱えてジリジリと下がり、ミトはシャールを何とか助けたいと呟く。

 だがダラードは衝撃の一言を呟く。

 「クク……もはや俺とシャールは同体。俺を殺せばシャールも死ぬ。逆もしかり。そして俺の方が意思が強い故、シャールが表に出る事は殆どあるまい……しかしシャールの意識は残っているぞ? 殺せるかな、俺を」

 そう言いながら笑うダラードだったが、急にダラードがもがき苦しみ始めた。そしておもむろにチェイシャをレイド達のほうへ突き飛ばしたのだ。

 <な、何を……>

 「う、ぐ……お、王女……お逃げください……狙い撃ちをして意識を取り返しましたが……ダラードは執念の塊……私では……くっ、作戦が少し変わったがこれでいい……レイドといったか……王女を頼む……」

 チェイシャがレイド達のところへ戻ると、シャールは頭を下げ、直後ビクンと体が跳ねた。

 「おのれぇぇぇぇ……! シャールのやつどこまでも邪魔を! まあいい、俺一人でも十分だ。チェイシャ以外は皆殺しだ! 《サンドストーム》!!」

 追い詰められたダラードが魔法を放ち反撃を開始した!
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