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第六部:救済か破滅か
その155 探察
しおりを挟む「もう夜か……」
ダンジョンから外に出たレイドの口からそんな言葉が漏れた。
「夜だけど止まっている場合じゃないわね。ラクダはどうする?」
「アイディールとミトが乗っておけばいいだろう、疲れているんじゃないのか? さっきの戦闘、動きが鈍かったぞ」
カルエラートがアイディールをラクダに乗るように言うと、疲れた顔で笑いながら答えていた。
「あ、分かる? 砂漠の暑さと寒さにやられたんだと思うけどちょっと体が重くてね」
「体調が良くないならスナジロウ君に乗るといい。私はスナタロウ君に乗る」
ミトが合図すると、スナジロウはしゃがむ。それにアイディールがまたがると、スナジロウはすっと立った。並ぶと分かるが、スナタロウのほうが少し大きい。衣を羽織っているせいもあり、横幅もスナジロウより大きく見える。
そしてミトがスナタロウにまたがり、下に居るレイドを見る。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと怖かったけど……今はひいおじいが何であんなふうになったか確かめないと」
「シャールもそうだが、カームもおかしかった。エクソリアに確かめたいが……」
カルエラートがスナジロウの綱を引きながらカームの様子を思い出す。最初は紳士的態度だったのに、と漏らす。
「今回は何事もなく行きそうだったのにな……」
レイドがスナタロウを引きながら歩き始めると、即座にそんな事を呟く。レイドは出会った守護獣とは毎回戦っているためだ。
すると、アイディールがそれに対して反論をする。
「うーん。チェイシャが狐から人間に戻った時点で怪しい感じはしたのよね。ま、早い所戻りましょ、途中一回仮眠を取るのを忘れないようにね」
「ああ……そういえばミト、この国は他国の冒険者は少ないのか?」
「? そんなことない。どうして?」
「いや、さっきの集団はこの国の人間しか居なかったような気がした。ダンジョンに来た冒険者に他国の者が少なくないというなら一体どこへ消えたんだろうな……」
「それはもう私達の考えるところじゃないわ。もし最悪のケースならこのあと犠牲者を出さないようにするのがせめてもの出来る事よ」
アイディールが凛とした顔で前を見ながらレイドに言い放つ。
シャール達がどこに消えたかは分からないが、目的は分かっている。チェイシャもきっとそこに来るだろう。
目指すはサンドクラッドの城。四人は早足で町への帰路を歩くのだった。
---------------------------------------------------
<む……ここは?>
チェイシャが目を覚ますと、静かな部屋のベッドの上だった。どこかで見たことがある、とチェイシャは窓の外を見る。
<なるほど、別荘か。ここは確かにわらわとシャールしか場所を知らぬ>
「お分かりいただけましたか?」
窓の外を見ていると、後ろから声がかかる。チェイシャは振り返らずに目を閉じてその声に応じる。
<確かに本物のようじゃ、だがこんな強攻策をとる男ではなかったと思うがな>
「あの事件で私も考えたのですよ、相手に話が通じなかったら力を見せ付けて大人しくさせるのも必要だと」
<じゃが、圧政を強いれば民は反発するじゃろう。だからこそわらわは話を聞き、話を聞いて国を治めていた>
チェイシャが振り返り、威圧するようにシャールの目を見ながら語りかける。シャールは少し目を細めて話を続ける。
「まあ、それでも構いませんよ。国を取り返した暁には、他国者の往来は厳しくするつもりです。犯罪を犯したものは即奴隷か処刑……この国によそ者は要らないんですよ」
そういえば、とチェイシャはダンジョンでの事を思い出す。襲ってきた冒険者は自国の者ばかりだった気がする。まさかと思いシャールへと尋ねる。
<ダンジョンへ行った者が帰らないというのはお前の仕業で間違いないな? 他国の者はどうした、先程は見かけなかったぞ?>
それを聞いてニヤリと笑うシャール。
「確かに何人か居ましたが……国を取り返すのには不要。魔物の餌になってもらいました。まあ冒険者風情、行方不明になっても自己責任ですから我々が疑われる事はありません」
<何という事を……>
「それでは、夜も遅いですが夕食の準備をいたしますので私はこれで。ああ、男に世話をさせるつもりはありませんので。女性冒険者もいたのでメイドとしておつけします」
<待て! まだ話は……>
シャールはそれだけ言い残し、扉を閉めた。
ガチャガチャ
チェイシャは駆け寄ってノブを回すが、外側から鍵がかかっておりノブが回る事はなかった。
<流石にそこまで油断はせんか。テラスから……ご丁寧に鍵をかけておるのか。ふむ、事実上の監禁か>
ベッドにどかっと座りなおし腕を組んで考える。
<(ここを出たとて城までは遠い……今のわらわでは辿りつく前に魔物にやられるのがオチ。シャールはわらわを殺すつもりはない、となるとここはヘタに動かんで言う事を聞いたフリをして城へ向かう時を狙って脱出、それが良さそうじゃな)>
そうと決まればもう一眠りと行こう、そう思い横たわって目を瞑る。あそこにいた冒険者や変異したカームは転移したからレイド達は無事……。
<そうじゃ、カーム! ……気配が無い……ここには居ないのか、変異による影響か……>
色々と予測してみたが、カームが居なければそれも分からない。問題は山積みだが、先送りにし眠るチェイシャ。
しばらく寝ているとドアがノックされ、夕食だとメイド服を着た目がうつろな冒険者に誘われ食堂へと向かった。
---------------------------------------------------
「どうですか、コックはおりませんが料理が得意な者がいましたのでその者に作らせました」
<……悪くない、わらわがこの野菜を好む事、よく覚えておったな>
「異な事を、私が転移してからまだ一ヶ月も経っておりませんよ。ささ、そんなことより召し上がってください。王女もあの冒険者共に連れられてお疲れでしょう、城攻めは明後日にします。ゆっくり休んでください……」
<ちと早計ではないか? 一ヶ月も経たないうちにすぐ攻めるというのか?>
おかしなところを突っ込んでいくスタイルで会話を進めようとチェイシャは食事をしながら話をする。シャールは気にした様子もなく返答をする。
「いいえ、むしろすぐだからこそいいのです。王女がここに居るということは誰も知りません、まだ態勢が整わないうちに攻めるのです」
<しかしわらわが『居なくなった』ということは向こうも知っておる、警戒されておるとは考えないか?>
「……問題ありません、こちらにはグリフォンがいます。空からと地上から両方でかく乱すれば……」
するとチェイシャはあっさりと肯定した。
<そうじゃな、カームが居れば問題なかろう。そうじゃ、レイド達にも助けを乞おうではないか! あの者らは強いぞ、何せ勇者じゃからな!>
「……他国の者の手を借りる事はしません」
ギリっと歯軋りをするシャール。少し感情が見えた気がする、とカマをかけてみることにした。
<うーむ、しかしあの男はわらわの恋人じゃ。国を取り戻したら結婚する予定なのじゃ>
「な!? いつの間に……?」
食いついたか? と、チェイシャはさらに続ける。
<うむ、おぬしを逃がした後に助けられての。危険を犯して助けに来てくれた所に惚れたのじゃ。そういう他国の者もおる、だから……>
「おっと、私はまだ仕事がありました……失礼いたします……」
チェイシャが得意気にレイドの事を言うと、シャールは苛立たしげに食堂から出ていった。ふん、と鼻を鳴らしチェイシャは食事を続ける。
<(さて、どうなっておるのじゃろうな。シャールは本物じゃろうが、カームと同じく操られておる気がするのう……。ミトを見て頭痛がしておったようじゃし。それにここに居る限りは国は無事じゃろう、もう少し足止めをしてみるか? レイド達がサンドクラッドに戻るには2日はかかる、鉢合わせより余裕を持っていたほうが良かろう>
予定をずらさせるためにどうするか、食事を続けながら難しい顔で作戦を考えるのであった。
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