パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
134 / 377
第六部:救済か破滅か

その155 探察

しおりを挟む
 

 「もう夜か……」

 ダンジョンから外に出たレイドの口からそんな言葉が漏れた。

 「夜だけど止まっている場合じゃないわね。ラクダはどうする?」

 「アイディールとミトが乗っておけばいいだろう、疲れているんじゃないのか? さっきの戦闘、動きが鈍かったぞ」
 
 カルエラートがアイディールをラクダに乗るように言うと、疲れた顔で笑いながら答えていた。

 「あ、分かる? 砂漠の暑さと寒さにやられたんだと思うけどちょっと体が重くてね」

 「体調が良くないならスナジロウ君に乗るといい。私はスナタロウ君に乗る」

 ミトが合図すると、スナジロウはしゃがむ。それにアイディールがまたがると、スナジロウはすっと立った。並ぶと分かるが、スナタロウのほうが少し大きい。衣を羽織っているせいもあり、横幅もスナジロウより大きく見える。

 そしてミトがスナタロウにまたがり、下に居るレイドを見る。

 「大丈夫か?」

 「うん。ちょっと怖かったけど……今はひいおじいが何であんなふうになったか確かめないと」

 「シャールもそうだが、カームもおかしかった。エクソリアに確かめたいが……」

 カルエラートがスナジロウの綱を引きながらカームの様子を思い出す。最初は紳士的態度だったのに、と漏らす。

 「今回は何事もなく行きそうだったのにな……」

 レイドがスナタロウを引きながら歩き始めると、即座にそんな事を呟く。レイドは出会った守護獣とは毎回戦っているためだ。
 
 すると、アイディールがそれに対して反論をする。

 「うーん。チェイシャが狐から人間に戻った時点で怪しい感じはしたのよね。ま、早い所戻りましょ、途中一回仮眠を取るのを忘れないようにね」

 「ああ……そういえばミト、この国は他国の冒険者は少ないのか?」

 「? そんなことない。どうして?」

 「いや、さっきの集団はこの国の人間しか居なかったような気がした。ダンジョンに来た冒険者に他国の者が少なくないというなら一体どこへ消えたんだろうな……」
 
 「それはもう私達の考えるところじゃないわ。もし最悪のケースならこのあと犠牲者を出さないようにするのがせめてもの出来る事よ」

 アイディールが凛とした顔で前を見ながらレイドに言い放つ。

 シャール達がどこに消えたかは分からないが、目的は分かっている。チェイシャもきっとそこに来るだろう。
 目指すはサンドクラッドの城。四人は早足で町への帰路を歩くのだった。



 ---------------------------------------------------



 <む……ここは?>

 チェイシャが目を覚ますと、静かな部屋のベッドの上だった。どこかで見たことがある、とチェイシャは窓の外を見る。

 <なるほど、別荘か。ここは確かにわらわとシャールしか場所を知らぬ>

 「お分かりいただけましたか?」

 窓の外を見ていると、後ろから声がかかる。チェイシャは振り返らずに目を閉じてその声に応じる。

 <確かに本物のようじゃ、だがこんな強攻策をとる男ではなかったと思うがな>

 「あの事件で私も考えたのですよ、相手に話が通じなかったら力を見せ付けて大人しくさせるのも必要だと」

 <じゃが、圧政を強いれば民は反発するじゃろう。だからこそわらわは話を聞き、話を聞いて国を治めていた>

 チェイシャが振り返り、威圧するようにシャールの目を見ながら語りかける。シャールは少し目を細めて話を続ける。

 「まあ、それでも構いませんよ。国を取り返した暁には、他国者の往来は厳しくするつもりです。犯罪を犯したものは即奴隷か処刑……この国によそ者は要らないんですよ」

 そういえば、とチェイシャはダンジョンでの事を思い出す。襲ってきた冒険者は自国の者ばかりだった気がする。まさかと思いシャールへと尋ねる。

 <ダンジョンへ行った者が帰らないというのはお前の仕業で間違いないな? 他国の者はどうした、先程は見かけなかったぞ?>
 
 それを聞いてニヤリと笑うシャール。

 「確かに何人か居ましたが……国を取り返すのには不要。魔物の餌になってもらいました。まあ冒険者風情、行方不明になっても自己責任ですから我々が疑われる事はありません」

 <何という事を……>

 「それでは、夜も遅いですが夕食の準備をいたしますので私はこれで。ああ、男に世話をさせるつもりはありませんので。女性冒険者もいたのでメイドとしておつけします」

 <待て! まだ話は……>

 シャールはそれだけ言い残し、扉を閉めた。

 ガチャガチャ

 チェイシャは駆け寄ってノブを回すが、外側から鍵がかかっておりノブが回る事はなかった。
   
 <流石にそこまで油断はせんか。テラスから……ご丁寧に鍵をかけておるのか。ふむ、事実上の監禁か>

 ベッドにどかっと座りなおし腕を組んで考える。

 <(ここを出たとて城までは遠い……今のわらわでは辿りつく前に魔物にやられるのがオチ。シャールはわらわを殺すつもりはない、となるとここはヘタに動かんで言う事を聞いたフリをして城へ向かう時を狙って脱出、それが良さそうじゃな)>

 そうと決まればもう一眠りと行こう、そう思い横たわって目を瞑る。あそこにいた冒険者や変異したカームは転移したからレイド達は無事……。

 <そうじゃ、カーム! ……気配が無い……ここには居ないのか、変異による影響か……>

 色々と予測してみたが、カームが居なければそれも分からない。問題は山積みだが、先送りにし眠るチェイシャ。

 しばらく寝ているとドアがノックされ、夕食だとメイド服を着た目がうつろな冒険者に誘われ食堂へと向かった。

 ---------------------------------------------------


 「どうですか、コックはおりませんが料理が得意な者がいましたのでその者に作らせました」

 <……悪くない、わらわがこの野菜を好む事、よく覚えておったな>

 「異な事を、私が転移してからまだ一ヶ月も経っておりませんよ。ささ、そんなことより召し上がってください。王女もあの冒険者共に連れられてお疲れでしょう、城攻めは明後日にします。ゆっくり休んでください……」

 <ちと早計ではないか? 一ヶ月も経たないうちにすぐ攻めるというのか?>

 おかしなところを突っ込んでいくスタイルで会話を進めようとチェイシャは食事をしながら話をする。シャールは気にした様子もなく返答をする。

 「いいえ、むしろすぐだからこそいいのです。王女がここに居るということは誰も知りません、まだ態勢が整わないうちに攻めるのです」

 <しかしわらわが『居なくなった』ということは向こうも知っておる、警戒されておるとは考えないか?>

 「……問題ありません、こちらにはグリフォンがいます。空からと地上から両方でかく乱すれば……」

 するとチェイシャはあっさりと肯定した。

 <そうじゃな、カームが居れば問題なかろう。そうじゃ、レイド達にも助けを乞おうではないか! あの者らは強いぞ、何せ勇者じゃからな!>

 「……他国の者の手を借りる事はしません」

 ギリっと歯軋りをするシャール。少し感情が見えた気がする、とカマをかけてみることにした。

 <うーむ、しかしあの男はわらわの恋人じゃ。国を取り戻したら結婚する予定なのじゃ>

 「な!? いつの間に……?」

 食いついたか? と、チェイシャはさらに続ける。

 <うむ、おぬしを逃がした後に助けられての。危険を犯して助けに来てくれた所に惚れたのじゃ。そういう他国の者もおる、だから……>


 「おっと、私はまだ仕事がありました……失礼いたします……」

 チェイシャが得意気にレイドの事を言うと、シャールは苛立たしげに食堂から出ていった。ふん、と鼻を鳴らしチェイシャは食事を続ける。

 <(さて、どうなっておるのじゃろうな。シャールは本物じゃろうが、カームと同じく操られておる気がするのう……。ミトを見て頭痛がしておったようじゃし。それにここに居る限りは国は無事じゃろう、もう少し足止めをしてみるか? レイド達がサンドクラッドに戻るには2日はかかる、鉢合わせより余裕を持っていたほうが良かろう>

 予定をずらさせるためにどうするか、食事を続けながら難しい顔で作戦を考えるのであった。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。