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第六部:救済か破滅か

その154 反抗

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 自らをシャールと名乗った若い男。

 チェイシャが疑問系で名前を口にしたのが気になり、レイドが男へと確認する。

 「シャール? ミトのひいおじいさんならもっと歳を取っているはずだが……どういうことだ」

 「スナタロウが一緒に居るし、肖像画のひいおじいで間違いない。でも、どういうことか分からない……」

 レイドが呟くと、ミトが肯定する。それにはチェイシャも同感のようだった。

 <わらわが最後に転移させた時のままじゃな。ミトの話ではお前は旅立ったようじゃが?>

 するとシャールは頭に「?」を浮かべて、チェイシャに聞き返す。

 「ミト、というのは誰の事でしょう? 私は王女に転移させられた後、この洞窟へ逃げ込んだのですが……」

 チェイシャへ困惑したように話すシャールに嘘は無さそうだが、後ろで様子を伺っていたアイディールとカルエラートがひそひそと話をしていた。

 「(どういうこと? 100年前の時の記憶で止まってる?)」

 「(分からん……ミトを知らないといのもフリでは無さそうだが、油断はできないぞ)」

 尚もシャールの言葉は続けられていた。

 「しかし、王女もご無事だったとは僥倖です。囚われている……悪ければ殺されたかしている可能性はありましたが……いずれにしても城へは向かう予定でした」

 <……ふむ、それは殊勝なことじゃが、城へ行ってどうするつもりだったのじゃ?>

 するとシャールは自信満々の表情でチェイシャに告げる。

 「もちろんあの冒険者共に報復をするためですよ? さあ王女にご挨拶をしなさい」

 <?>

 チェイシャが眉をひそめて訝しむと、暗闇の奥から数十名の武装した集団が現われた。レイドが思わずぎょっとして身構える。

 「これは……!?」

 「どうしたミト?」

 「……この人達、ダンジョンで行方不明になった冒険者達……」

 「なんですって?」

 ミトの言葉に驚くアイディール。一体これはどういうことなのであろうか? チェイシャ以外が冷や汗をかく中、さらにシャール会話を続けていた。

 「どうです? 私の説得で集まってくれた同士です! 他国の冒険者共と王女を裏切った民を皆殺しにしましょう!」

 <皆、目が死んだようになっておるが……>

 「瑣末な事です」

 チェイシャが言うように、冒険者達は目がうつろで焦点があっていない。まるで操られているかのように……。

 「ひいおじい、王女は国を取り返すつもりは無い。冒険者達を解放してあげて?」

 「お前は何だ? 私をひいおじい? ……う、あ、頭が……」

 「何だ? おい、大丈夫か?」

 急に呻き出したシャールに声をかけるが、聞こえていないようにシャールはぶつぶつと何かを呟いていた。

 「う、うぐ……」

 <シャール!>

 「……ふう、申し訳ありません。少し気分が悪くなってしまいました、それでは城へ向かいましょう」

 シャールがチェイシャへ向かおうとするのをレイドとミト、そしてカルエラートが阻む。

 「悪いが、チェイシャは……一度死んだ身でな。今は俺たちと行動を共にしている。そしてチェイシャはこの国に未練は無いそうだ」

 「だからお前と一緒に行かせる訳にはいかない、お前一人で行く事だな」

 「……さっきからあなた達が目障りでしたが、チェイシャチェイシャと王女に馴れ馴れしすぎますね?」

 <わらわが良いと言ったのじゃ。レイド達に責は無い。聞いての通りじゃ、お前が本物でも、ミトを他人と呼び、冒険者を誘拐するような男と一緒に行く事はできん。去るのじゃ>

 「……この者達に唆されましたか、やはり他国の者は信用できない。ではこの者達を排除してから王女を連れて行くとしましょう」

 シャールが合図をすると、レイド達を取り囲もうと移動を始めるが、それは叶わなかった。


 <待て待て、ここは俺の寝所だぞ。大暴れされてはたまらん。それにチェイシャは行かないと言っているのだ、大人しく立ち去るのが筋というものではないか? チェイシャのためを思うならな>

 カームが体の大きさの割りに素早い動きでレイド達と冒険者の間に立つ。流石に驚いたシャールが慌てて言葉を放つ。

 「な、なんだお前は! ええい、王女は誑かされているのか! お前ら、王女を取り返せ!」

 すると、ザザっと遠巻きに囲い始める冒険者達、カームは呆れたように目を細めて言い放つ。

 <仕方あるまい、チェイシャ達よ、まずはこいつらを蹴散らそうぞ>

 そこでミトがカームを見上げて懇願する。

 「お願い、冒険者達は殺さないで。皆悪い人たちじゃない」

 <分かっている、なあに俺がやればすぐ……>

 カームがニヤリと笑い飛びかかろうとしたその時だ。





         『でもそれじゃ面白くないんだよね。手伝ってあげるよ』






 どこからか声が聞こえてきたと思った瞬間、カームに異変が起きる。

 <む……むぐ……!? 何、侵食してくる!? ぬおおおおおおおおおおおおお!!>

 <どうしたのじゃカーム!?>


 白かった羽が見る見るうちに黒く染まり、目の色が赤くなっていくカーム。そしてゆっくりとレイド達に振り返り、近くにいたレイドへ腕を叩きつけようとしてきた!

 <ぐおおおおおお!>

 「うお!? 操られているのか? アイディール、カルエラート! チェイシャとミトを連れて逃げろ!」

 「分かったわ、チェイシャこっちに!」

 「ミト! こっちだ!」

 チェイシャが後ろ髪引かれるように振り向きながら出口に向かって走る。ミトはシャールをみながらオロオロしていた。

 「ははははは! これはいい! この魔物が居れば城どころか世界を手に入れるのも難しくないぞ!」

 <シャール!? お主は!>

 「いけ! 王女を連れて来い!」

 <うおおおおん!>

 シャールが指示を出すと、カームがその声に反応し飛びかかる。アイディールが魔法で顔に攻撃を浴びせていた。

 「まったく、どうしてこうなるのかしらね! 《マジックアロー》! ダメか! カルエラート!」

 「任せろ!」

 チェイシャをくわえて攫おうとしているのだか、頭を下げてくるカーム。それを大型の盾でチェイシャの前に立ち弾く。ガードと同時に剣で斬りかかるがヒラリと身をかわすカーム。

 「止まるなよ! くそ、数が多い! なら!」

 アイディール達の様子を見ながら冒険者をあしらうが、手が足りない。カバンからもう一振りの剣を取り出し構える。

 「両手に剣はあまりやった事がないが……デストラクション、頼むぞ」

 レイドが再び斬りこむのをよそに、ミトはシャールの所へと駆けていた。

 「ひいおじい! どうしてこんなことをするの! 王女は戦いたくないって、国を取り返したければひいおじいだけでやればいい!」

 「さっきからひいおじいとうるさい子供だ! 死にたくなければ下がっていろ! お前ら、可愛がってやれ」

 「あう!?」

 「ミト!」

 食い下がるミトを張り倒し、チェイシャの方へと歩き出すシャール。冒険者がミトへ襲い掛かかるが、間一髪レイドが助けに入る。

 チェイシャはカームの攻撃を回避しながら呟く。

 <……おかしい、わらわ達をどうにかするには主で無ければできんはずじゃ。まさか主、わらわ達を……?>

 「いいから、今は逃げるのが先よ! きゃ! どこ触ってるのよ!」

 後ろから組み付かれた男をメイスで殴りながらチェイシャに叫ぶアイディール。カルエラートもカームの攻撃からチェイシャを庇いつつ叫ぶ。

 「狙いはチェイシャだ、先へ……くう!?」

 <カルエラート! 仕方あるまい、戦略的撤退を……!>

 ここに居ればカルエラート達の負担になると、チェイシャは開けてくれた道を通って出口へと向かう。しかしそこには……。

 <ここまでくれば! みんな、こっちじゃ! ……あ!? お、お主らは!? もが……>

 「つ、つかま、え、た……シャールさ、ま……」

 出口に到着したチェイシャを待っていたのは、宿で誘拐しようとしていたナハル達だった。口を押さえられた途端意識を失うチェイシャ。

 「よくやってくれた。手分けしておいて良かったな。そうなるとこいつらには用は無い、行くぞ」

 「逃がさないわよ!」

 「無駄な努力はしない方がいいぞ? ……さらばだ、命だけは助けてやろう」

 「これは転移の光か!? 通せ!」

 殺さないように攻撃していたのがアダとなり、シャールの行く手を阻む冒険者。そしてそのままレイド達を残し、その場から全員消えてしまった。
 
 「消えた……」

 「戻るぞ! あいつは城だけじゃなく、町も攻撃するつもりだ!」

 「ミト、動ける?」

 アイディールが倒れたミトに駆け寄り、回復魔法をかけると青い顔をしたミトがこくんと頷く貞操の危機でもあったので無理も無い。

 そこにラクダのスナジロウ、そして何故か残されたスナタロウがミトのところまで歩いてきて顔を舐めていた。

 「スナタロウ君……ひいおじいはどうしちゃったの……?」

 しかしスナタロウは「メ"ェェェ」と鳴くばかりであった。

 「ラクダが二匹はありがたいな。しかしカームはいったい……?」

 「エクソリアが裏切った?」

 「ルーナの所から居なくなっているかどうかは分からないからな……とりあえずチェイシャの救出だ。カームも何とかしなければな」

 カルエラートが言い、一行はダンジョンを抜ける。どこに転移したか分からないが、ここから早くても一日半はかかる。
 間に合えばいいがと焦りつつ、歩を進めた。


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 一方その頃……




 『ふぁっくしょん!?』

 「風邪ですか? というか女神も風邪引くんですかね?」
 
 修行中のルーナの横で狼達の訓練を手伝うエクソリアが盛大なくしゃみをした。それを見てルーナが声をかけて、シルバがエクソリアの胸元へぴょんと飛ぶ。 

 「わんわん」

 『ああ、ありがとう。シルバは優しいな。あれだよ女神とはいっても、別に食べ物を食べなくてもいいわけじゃないし排泄もするよ? だから勿論病気になることもある。心の病気になった神はこじらせるとだいたい邪神とかになって迷惑かけるから早めに治療しないといけないけどね』

 「あ、それじゃあエクソリアさんも病気なんですね」

 『なんでだ!? 今の話聞いてた!?』

 「いや、だって世界を破壊しようとしてるわけですし……心の病気なのかと」

 『それは……ああ、いや、いいや面倒だし……』

 「わん?」

 シルバを撫でながら疲れたように呟くエクソリアだった。 
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