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第六部:救済か破滅か

その153 相対

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 砂漠の屋外よりマシな部屋の中でゆっくりと休む事ができ、レイド達は奥に向かって進み始めた。いざ歩いてみると、地下二階からは魔物の数が確かに増えてはきたが、それほど苦戦する相手はいなかった。

 「これならチェイシャのダンジョンのファイアフライとかの方が強かったな」

 <そうなのか? わらわは自分の部屋から出た事がないからどんな構造かも知らんぞ>

 チェイシャを守るように編成をしながら、他愛話をする一行。

 また、ミトも小さいながら魔物相手に健闘していた。

 「や!」

 キュエェェェ……

 小型犬くらいの大きさがあるアリの魔物の頭を切り裂き、どろっとした体液を出しながら息絶える。ミトの武器は剣と大剣の中間くらいの長さの剣で、刃は反っているというものだった。

 「中々筋がいいな。誰かに習ったのか?」

 後ろを歩くカルエラートがミトに声をかけるとミトが振り向き応える。

 「うん。おじいに。元々冒険者として活躍していたから、私がそれを受け継いだみたいな感じ」

 <シャールも宰相ながら剣の腕は良かったから血筋かもしれんのう>

 「えへへ」

 チェイシャに褒められて喜ぶミト。歳の離れた姉みたいに感じているのかもしれない。

 そしてチェイシャの指示で迷い無く進み、他の部屋とは違う豪勢な扉の前へとたどり着いた。

 「……ここ?」

 <うむ、どうやらそのようじゃ>

 「しかし、他にも冒険者が来ている筈なのに死体すら無いのが気になるが……」

 「今それを言っても始まらないわよ。もしかしたら女神の守護獣が食べちゃったかもしれないじゃない?」

 アイディールがレイドに今は自分達の事を考えなさいと言われ、頷く。レイドが扉に手をかけると、すんなりと開いていく。

 ゴゴゴゴゴ……ガコン……


 「広い……」

 カルエラートが天井を見て呟いた。それもそのはず、天井の高さは10メートルはあり、横幅も左右に300メートルはあろう広さだ。

 「何も無い」

 <……いや、奥におるぞ>

 薄暗くて見えにくいが、チェイシャの言うとおり巨大な体躯をした何かが横たわっていた。少しずつ近づいていくとその姿がいかに大きいか分かる。

 <ぐごごごご……>

 「この鳥さん、寝てる?」

 ミトが『鳥さん』といって首を傾げたのは訳がある。頭は鷲で背中には羽が生えているが、下半身はライオンのような胴体をしているからだ。

 <カームじゃ。確かグリフォンとかいう魔獣をモチーフにしたとか主が言っておったな>

 「ふうん。見た目はかなりかっこいいわね?」

 「バステトも封印を解く前はかなり大きかったし、手ごわかった」

 「さて、話合いに応じてくれるかどうか……チェイシャ、起こしてくれるか?」

 カルエラートの言葉を聞いて、レイドが気を引き締める。同じ女神の守護ということでチェイシャにまずは話してもらうつもりだった。

 <うむ。カーム! わらわじゃ! チェイシャじゃ! ちょっと話があるから起きろ!>

 <ぐごごごごご……>

 「さっきよりいびきが大きくなった」

 <うるさいのう……ほれ、起きんか! 折角来たのに寝ておるとはいい度胸じゃ!>

 「お、おい、あまり乱暴にするなよ?」

 鼻先をぺちぺちと叩き、チェイシャが憤慨する。アイディールも面白がって鼻の頭を撫でたりしていた。

 「お、結構ふかふかよ?」

 「ほう……」

 「私も」

 女性陣が鼻先をいじって遊んでいると、カームの鼻がぶるっと震えた。

 <いい加減……起きろー!>

 そしてチェイシャのチョップがいい角度で入る!

 <ふぇっくしょぃ!>

 「きゃあ!?」

 くしゃみの風圧で女性陣が吹き飛びコロコロと転がる。レイドが助け起こしに行こうとするが、カームが目を覚まし立ち上がる。

 <んあ? 何だあ? お、おお……人間か! えっと……『こんな所までご苦労な事だな、人間よ! この聖地にに足を踏み入れた以上、生きて帰れるとは思うなよ? しかし俺も鬼ではない、即刻立ち去れば見逃してらろう』>

 「……」

 レイド達を見下ろしつつ、棒読みのような台詞を言うカーム。誰かが来たときに言うため作っていたのだろう。
 
 「棒読みじゃない、しかも噛んでるし!」

 <かかか、噛んでなどおらん!>

 起き上がったアイディールが指をさして指摘すると、カームが焦る。続けてチェイシャが声をかけていた。

 <やっと起きたか、久しぶりじゃなカーム>

 <……誰?>


 しかしカームは首を傾げてチェイシャを見ていた。チェイシャはそれを聞いて怒り出す。

 <わらわじゃ、チェイシャじゃ! 強欲の封印じゃ!>

 <え? あれ? 強欲のチェイシャって狐だったハズだけど……>

 そこでチェイシャが、あ! と声を上げる。

 <そうじゃ! わらわ達は人間の時の姿を誰も知らんのじゃ!>

 「で、でも気配で分かるんだろ? なあカーム、そういうのはどうなんだ?」

 レイドが聞くと、カームが目を瞑ってふんふんと匂いを嗅ぎ始める。

 <……ふむ……そうだな、人間の姿のせいかかなり気配が薄いが気合を入れればかすかに分かる。確かにチェイシャのようだな>

 「そんなに分からないものなのか」

 <わらわも結構気合を入れておったから、カームの言う事は分からんでもない>

 <まあその辺はどうでもいいだろう。改めて久しぶりだなチェイシャ。そして初めましての人間達よ。ようこそ傲慢の封印へ>

 体を寝転がせて、レイド達の前に顔が来るように伏せの態勢をとるカーム。

 「傲慢という割には丁寧よね」

 <色々あるからな……それよりもこんな所までどうしたんだ? そもそも封印はどうした?>

 カームがチェイシャに質問を投げかけた。それに対してチェイシャはカームへ今までの経緯を話していた。

 <……という訳で、もはや封印を守る必要は無くなったのじゃ>

 <なるほどなあ、主を含めて女神に下克上……>

 「そこまでは……いや、そう言われたらそうなのか……」

 レイドが首を傾げてカームの言う事を考えると、カームは面白そうにニヤリと笑って話を続ける。

 <ま、ここに居ても退屈なだけだし、外に出られるなら悪くない。俺も着いていくぞ!>

 「話が早くて助かるな」

 「ああ、今までは何だかんだで戦って倒していたからな……」

 レイドはチェイシャ、ジャンナと戦っている。アントンはファウダー、カルエラートはバステトと基本的に戦って封印を解いているので、話し合いで解決したのは初めてである。

 <では、額の宝石を砕かせてもらうぞ>

 <おう、バーンとやってくれ!>

 目を瞑っていよいよという時に、事件が起きた。

 メ"ェェェ"!!

 「あ、スナジロウ君どうしたの?」

 ミトが急に叫びながら立ち上がったスナジロウを見て綱を引いた。少し遠くを見ながら、興奮状態だ。

 「どうしたんだスナジロウは? ん! 誰かいるのか!」

 カルエラートが盾を構えて前に出る。レイドもその横に並び、剣を抜いた。するとぼやっと明かりがつき、一匹のラクダが現われた。

 その体には布のようなものを覆っており、顔は少し凛々しい感じがした。

 「スナタロウ!?」

 現われたラクダを見てミトが珍しく声を荒げて叫んだ。ひいおじい、シャールが連れて出て行ったラクダだというのだ。

 <……何故こんなところに?>

 ミトがスナジロウと一緒に近づこうとした所で、スナタロウの後ろに人影見える。レイドがその影に声をかけ反応を確かめる。

 「話では死にに出た、と聞いているが、あんたはどっちだ?」

 それには応えず、その場で立ち止まる人影。そしてミトが小さく呟く。

 「ひいおじい……?」

 それにチェイシャが続けて問う。

 <お前は……シャールか?>

 人影は一呼吸を置いた後、口を開く。

 「はい、間違いなく貴女の側近で宰相を務めていたシャールにございます……」

 ゆらりとスナタロウの横まで歩いてきた男は……チェイシャに仕えていた時のままの姿のシャールであった。
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