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第六部:救済か破滅か

その148 酷似

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 フードを被った女の子に案内された先は、本当に町外れと呼ぶにふさわしい場所で、町を囲っている外壁ギリギリの場所にひっそりと建っている家だった。

 「こんな端っこにも家があるのねー」

 「……そっちの人はこの国に来た事があるの?」

 アイディールの言葉を聞いて女の子が振り返って尋ねる。うんうんとアイディールとカルエラートが頷いていた。

 「ディクラインの装備を求めてあちこちに行っていた時にここにも寄ったわ。ただ、観光目的じゃないからゆっくり見て回ってないのよね(転移陣が設置されているのもそのせいだし)」

 「そう。昔のほうがこの国は良かったらしいけど」

 最後は小声でレイドにしか聞こえなかったが、女の子は少し満足そうに再び歩き出した。

 「ここよ。ただいま。お客さんを連れてきたわ」

 <邪魔するぞ>

 チェイシャが女の子に続いて家へ入り、アイディール、カルエラートと続き、レイドが一番最後に入った。

 フードを取った女の子がレイド達を座らせた後に奥の部屋へ行き、話を知っているという祖父を呼んできた。眼光の鋭いその祖父は、チェイシャを見て少し驚いた様子があったが、すぐに平静を取り戻していた。

 「……お前さんが、100年前の出来事を知りたいという変わったお嬢さんかい?」

 <うむ。100年前、王女が水を独り占めしていたのを冒険者が解放した、という話は知っておるのじゃが、その後どうなったか知らぬのでな。知っておれば……>

 チェイシャが言い終わらない内に爺さんが激怒して語り始めた。
 
 「解放したじゃと? 違う! あれは乗っ取りじゃ!」

 <ふむ、では当時の事を教えてくれるかのう>

 激怒してテーブルを叩く祖父に対し、チェイシャは顔の布を外し、涼しい顔をして続きを頼むと微笑む。その笑顔に毒気を抜かれ、ため息をついて乱暴に腰掛けて話し始める。

 「わしも父から聞いた話だから本当かどうかは分からん。が、冒険者が王女を殺したのは事実だ。時の王女は干ばつや侵略に備えて水を蓄えていたんだ。そして100年ほど前に大干ばつがこの国を襲った」

 「備えていた水が持たなかったのか?」

 レイドが腕組をしながら祖父に質問を投げかける。一瞬、チェイシャを見て話を続けた。

 「水はまだ残っていたが、配られる水は最低限だったそうだ。王女はいつか必ず雨は降るから、今は我慢して欲しいと懇願していたが……もうみんな限界だったんだろう、よその国の冒険者が扇動し、王族を糾弾すると城をせめた」

 <そこまでは知っておる。言い争いの後に王女は冒険者に殺されたのじゃろう? 冒険者は英雄になりそうなものじゃが……>

 「……王女が殺された後、豪雨が降り出してな。当時の民は王女の言うとおりだった、大変な事をしてしまったと騒いでいたが、殺した張本人の冒険者が王女を殺した直後に雨が降り出したからこいつは悪魔だと言い出した。それに反論した民もいたんだが、その冒険者に殺されたのじゃ。恐怖で誰も逆らえなくなり冒険者の男……ダラードは仲間と共にこの国の王座についた」

 <(国を乗っ取ったか……まあ、大体予想通りじゃな)>

 「その後はどうなったのだ? まさかそのまま言いなりに?」

 カルエラートが怒りを露にしながら祖父に向かって聞く。どうやら王女が理不尽に殺されたのが気に入らないようだ。

 「もちろん何とかしようとしたさ。だが、ダラードは腕の立つ冒険者で、さらにこの国の冒険者も味方につけておった。結局覆す事はできず、今に至る」

 <と言う事は、ヤツの息子か孫が城におるのか? 警戒心が強いというのも気になるが知っておるか?>

 「……よ、よく知ってるのう? うむ、わしと同じくらいの歳の息子が今の王じゃ。警戒しているのは当然じゃろう。国を乗っ取っておるから、いつ誰に復讐されるかわからんし、当時、王女の側近にシャールという男が居ての。その男が王女が殺された時にどこにも見当たらなかったとか。その男がいつか復讐に来ると、ダラードはいつも怯えて暮らしていたと聞いたことがある」

 「(シャールって人知ってる?)」

 アイディールがチェイシャに耳打ちをすると、小声で返事をした。

 <(うむ、あやつは忠実な部下じゃった。わらわは殺されると悟っておったから、あやつは直前で逃がしたのじゃ)>

 「(そ、ありがと)」

 カマをかけたら見事にひっかかったとアイディールはほくそ笑む。やはりこの国の王女だったかと、次に別の思考をめぐらせ始めた。

 「結局、そのシャールって人は帰ってこなかったのだな」

 「……うむ、父は待ち望んで追ったようじゃが、もしかしたらどこかで見つかって殺されたのかもしれんし、逃げてしまったのかもしれん。行方は分からずじまいじゃ」

 <無事を確認できぬのも辛いのう……>

 「話はこれくらいじゃ。役に立てたか?」

 チェイシャが悲しそうな顔で目を伏せると、祖父が気を使って声をかけてくれた。チェイシャはニコリと微笑んで、ありがとうと一言だけ言った。

 すると女の子が祖父の肩を叩いて眉をひそめる。
 
 「……おじい、囲まれてる」

 「なんじゃと……?」

 すると、レイドとアイディール、カルエラートが立ち上がり、レイドが呟く。

 「ここからは俺達の出番かな? じいさんと君は連中が何者か知っているか?」

 「……わたしはミト。おじいはモルトっていう。外の連中は知らない」

 レイドはそれを聞いた剣を抜いて入り口に立つ。

 「果実屋のおばさんが言ってた誘拐犯かしらね?」

 「どうかな、ギルドからついてきていたしな。俺が先に出る、俺が囲まれたら後ろから迎撃してくれ」

 「分かった。気をつけろよ」

 カルエラートも槍と大盾を背中から降ろし、備える。コクリと頷いたレイドはそのまま扉を蹴り開けて外に躍り出た。

 「そこだ!」

 「うお!? ぶえ!?」

 扉の横に張り付いていた男の顔を裏拳で殴り昏倒させる。ガントレット付きの裏拳の効果は絶大だった。そのまま少し走ると、家の影に隠れていた男達が数人、レイドを囲んできた。

 「気づいていたか。やはり腕は立ちそうだな?」

 褐色の肌をして頭に布を巻いた男がレイドへ声をかける。どうやらこの男がリーダー格のようだ。

 「腕が立つかは知らんが、そんなに気配を出していたら気づかないはずが無いだろ?」

 レイドが睨みつけると、リーダー格の男は手を上げてレイドと取り巻きに告げる。

 「……なるほど、そんなに気配を出しているつもりは無かったんだがな。まあいい……おい、帰るぞ」

 「良いのですか?」

 「逃げるのか? 潔いな」

 「俺は敵対するつもりはない。後をつけたのは悪かった、家の横に居るやつは回収させてもらうぞ?」

 警戒を解かず、レイドは家の入り口まで下がり道を開ける。取り巻きの若い男が気絶した男を背負い、リーダー格の男の下へ戻った。

 「邪魔したな。連れの女だが、注意するんだな」

 ぞろぞろと去っていく男達の背中を見送り、見えなくなった所で剣をおさめた。目的が不明だが、チェイシャに気をつけろと言っているのだろうか?

 再び家に入るとアイディール達が緊張した面持ちで喋り始めた。


 「何だったのかしら」

 「聞いていたか?」

 <うむ。連れの女に、という辺りは聞いておった。ミト、心当たりはあるか?>

 「ない。というかそっちの男の連れならあなた達の事だと思うけど」

 <おお、そうか>

 ポンと手を打つチェイシャに不安を覚える三人。そしてチェイシャが話を切り上げ始めていた。

 <モルトとやら、世話になったな。おかげで気になっていた事が分かって良かった。雨は降ったが血の雨が降らなかったのが良かった……>

 町が残っていたので滅亡はしていなかったのは分かっていたが、乗っ取られてこの国の人間が奴隷にされたり、虐げられているのではとチェイシャは思っていた。また、自分が死んだ後、シャールや他のものが敵討ちだと戦争をしていなかったのも僥倖だった。

 <(死人に引っ張られて道を違えてはならんからの)では、わらわ達はこれで失礼する。レイド、ダンジョンへは明日から向かうか?>

 「あ、ああ。そうだな。今日はまだ日が高いし、買い物をしておこう。到着まで日数を要するみたいだからな」

 「そうね。おじいさん、貴重なお話ありがとう!」

 「では失礼する」

 四人はそれぞれ礼を言い外に出て行った。




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 残されたモルトとミトは四人を見送った後、息を吐く。

 「おじい……」

 「ふう……緊張したわい……父がシャールだとバレておらんじゃろうな……」

 そう言って懐から一枚の紙を取り出し、ミトと話す。

 「親父の持っていた肖像画そのままだった。こんな事があると思うか?」

 「わからない。でも、ギルドであの人を見た時、絵でしか見たことない王女が、絵から出てきたのかと思った。これはおじいに会わせないとと思ったの」

 「……運命、なのかのう……我が父シャールが仕えていた王女と瓜二つの女がこの家に来るとは……」


 「あの人達はダンジョンに行くと言っていた。どうしよう、あそこはすごく危険」

 「こっそり後をつけてくれるか? お前の腕ならついていけるだろう?」

 「分かった。あの人が王女様ならこの国をまた治めてくれるかな?」

 「この国を、あの者達から取り返してくれるじゃろうか……未練があればあるいは……親父の悲願を……」

 家に来た女が100年前の王女な訳がない。そもそもその時死んでいるのを多くのものが見ていたと聞いている。だが、頭ではそう思っていても、先程の女はあまりにも似すぎている。しかし、正体を調べようとすれば煙のように消えてしまうかも知れない……モルトの心は少しばかり興奮していたのだった。
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