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第六部:救済か破滅か

その147 情報

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 「いてて……朝食が昼食になるとは……アイディールさん、ちょっとやりすぎだと思うぞ……」

 レイドが町を歩きながらアイディールに恨み言を呟いていた。一応、直後に回復魔法をかけていたらしく外傷も後遺症も無さそうだった。恨み言だけで終わるのがレイドらしい。

 「悪かったわよ。ルーナには内緒にしておくから」

 「分かってないじゃないか!? 後、ルーナちゃんとは付き合ったりしてる訳じゃないからな? 告げ口にはならないぞ?」

 少し不機嫌になったレイドに、そろそろマズイかとアイディールが謝っていた。

 「ちょっとからかったちゃったわ。ごめんね!」

 「はあ……ディクラインさんもよく一緒に居られるなあ……」

 「どういう意味よ!?」

 「そうだぞ、ディクラインは私のだ」

 「違うわよ!」

 二人が顔を突き合わせて、ぐぬぬ……とにらみ合っていると、昼食を食べていたチェイシャがクスクスと笑っていた。

 <ふむ、狐の姿で久しく忘れていたが、一緒に歩くのは楽しいのう。こうやって同じ目線で話せる日が来るとは思わなかった>

 「……ホントにチェイシャなんだな……」

 <そうじゃ。襟巻きにされたり、狼達に尻尾を咥えられたりしたが、一応、本来の姿じゃ>

 「それじゃ他の獣達も?」

 <うむ……人だった頃の姿は分からんが、元・人間じゃ。ワケアリの魂を集めている、そんなところじゃったな確か>

 チェイシャがキョロキョロと嬉しそうに眺めながら町を歩く。前を歩いているチェイシャを見てレイドがアイディールとカルエラートに言った。

 「久しぶりの姿で浮かれてる?」

 「うーん、どうかしら? ちょっと違う気がするのよね」

 「うん。嬉しそうなのは間違いないんだが……」

 三人で唸っていると、チェイシャが果物屋で何か果実を買いながら三人を呼ぶ。

 <何をしておる? ギルドへ行くのじゃろう? 急がねば日が暮れるぞ>

 占い師がつけるような顔の下を隠す布をつけたチェイシャが果実を食べていると店主から話しかけられる。

 「お譲さんたち、ギルドへ行くのかい? ……止めておいた方がいいよ……」

 「どうしてだ? 少し情報が欲しいだけなんだが……お、甘いな……」
 
 カルエラートも、チェイシャのかじっている果実を買いながら、店主に尋ねる。砂漠で育つ果実のようで、カルエラートも干した実を食べて甘みを感じていた。

 「行けば分かるけど……そっちの子は注意しなよ? 誘拐されるかもしれないからね」

 「誘拐、か」

 ルーナが最近ベルダーに連れて行かれた事が記憶に新しい。

 「ま、こっちは勇者パーティだし何とかなるでしょ。女神の封印の情報を聞きに行きましょ」



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 <ハウラの町・冒険者ギルド>


 「しゃーい……」

 新聞を読みながら、覇気の無いおっさ……年配の男性がレイドたちを見もせずとりあえずの声をあげていた。しかし、中に居た冒険者達はレイド達に目を向けていた。

 「感じが悪いな……少しいいか?」

 「ホント、チラチラ見てるわね」

 「……ああん? キレイどころを三人も連れてりゃそうなるだろうぜ。で、何だ?」

 新聞をたたみながら眼鏡の位置を直すおっさ……年配の男がレイドに用件を尋ねる。

 「遺跡や洞窟、ダンジョンのようなものを探している。条件は『最近まで無かった』ものだ」

 カルエラートがレイドを押しのけて受付の男に用件を告げると、こちらを見ていた冒険者が一人近づいてきた。
 
 「アレ絡みみたいだな、お前の方が詳しいか。頼むわ」

 

 「ああ……お前達の探しているダンジョンかわからんが、あるぞ。中に入った人間が帰ってこない、悪魔の巣と呼ばれるダンジョンが」

 「悪魔……危険な場所なのか?」

 そう聞くと、若い男がレイド達にテーブルで続きを話すと言い、席に着かせた。

 「ここから南に二日ほど歩いた所にあるダンジョンでな。危険かどうかは帰ってこない者ばかりなので、察してくれ」

 「どうして情報を? ダンジョンはお宝があるからそうそう教えないだろうに……」

 アイディールが目を細めて聞くと、若い男は頭を振りながら答えた。

 「20人」

 「ん?」

 「もう20人が行方不明だ、ダンジョンに向かったきりな。探そうにも、俺達より腕の立つ人間が行方不明なんだ、行く気も失せたさ。ただ、行きたいというやつは止めない。もしかすると、それで解決するかもしれないからな」

 すると横に居た別の女性冒険者も言葉を続ける。この国の出身なのか、チェイシャと同じく褐色の肌をしていた。

 「あたしはやめたほうがいいと思うよ。ダンジョンの入り口までいった人が、男の呻き声を聞いたって……何か居るんだよあそこには……」

 体を抱きしめながら、青い顔をする。しかしチェイシャはケロっとした感じで返していた。

 <死者がこの世に残る事はないからのう、まあ魔物の類じゃろう。ちょっと行って倒してくるわ! レイドが!>

 「俺!?」

 「……確かにあんたは強そうだが……一応忠告はしたからな?」

 <あ、待て。一つ聞きたいことがある。100年ほど前、この国に大干ばつが起きたはずじゃ、その時王女が殺されたと思うのじゃがその後どうなったか知りたい>

 チェイシャが不意にそんなことを言い出し、若い男は勿論、レイド達も「?」が頭に浮いていた。

 「んん……? 俺はこの国の人間じゃねぇから知らないな……お前は?」

 「あたしは当時の王女が国民を殺すつもりだった、って事くらいしか……」

 <ふむ、流石に100年前じゃ知る者も少なかろう。すまぬな、変な事を聞いて。ではダンジョンへ行くとしよう>

 チェイシャが席を立つと、レイド達も立ち上がり若い男に金貨を渡してその場を去る。後ろから「毎度」と声がかかったがそのままギルドを出た。


 ……その時、若い男とは別に、奥の方にいた男が顎で合図し何人かの男がレイド達に続いてギルドを出た。




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 「何か気になる事があったの?」

 外に出た一行。最初に口を開いたのはアイディールだった。

 <ん? いや、丁度わらわが死んだ時が大干ばつじゃったからの。王女が死んだ後、どうなったのか知りたかったのじゃ。好奇心というヤツじゃな>

 準備はしっかりやろうぞ、と前を歩くチェイシャの足取りは少し重そうだった。

 「(もしかして殺された王女がチェイシャなんじゃないか?)」

 「(喋り方もそれっぽいし、そうかもしれないわね)」

 「(どれっぽいんだ?)」

 ひそひそと話していると、チェイシャに何者かが話しかけているのを見かけ、三人は慌てて近づく。誘拐という言葉が頭をよぎったからだ。狐の姿なら好きにさせるが、今はほっそりとした美女。何かあってからでは遅いのだ。


 「……さっきの話を聞いていた。昔の話を聞きたいなら、ウチの爺さんのところに案内してやるよ?」

 <む、本当か! 爺さんなら確かに知っているかもしれんな! あやつらも一緒にいいか? おーい三人とも! 少し寄り道をしたいんじゃが!>

 フードを目深に被った、恐らく女の子。チェイシャが先程ギルドで聞いていた、”その後”について知っている人物に心当たりがあるという。
 
 「……構わない、けど叩き出されるかもしれないけどいいかい?」

 「チェイシャを一人にしていく訳にはいかないからな、着いていくさ」

 「チェイシャ……」

 ピクっとフードが動いたがレイド達は知る由も無い。

 「遠いの?」

 「……町外れ。あまり遠くないけど怖いなら来なくてもいい」

 「問題ない、案内してくれ」

 アイディールが聞き、カルエラートが答えて話は決まった。レイドは後ろを少しだけ振り返って考える。

 「(さて、俺は後をつけてくる奴等をどうにかするか?)」

 そして4人は女の子の案内で町外れへと向かうのだった。
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