パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
125 / 377
第六部:救済か破滅か

その146 城下

しおりを挟む
 <???>


 「姫、これ以上は……」

 「分かっておる。じゃが水は有限……ここで開放しても雨が降らなければ枯渇して民は死に絶える。それだけは避けねばならん……」

 「ひ、姫様!? そ、外に民衆が!」
 
 「なんじゃと?」


 


 「水を独り占めしている強欲な王族を許すな!」

 「我々を殺す気か!

 「お願いします……この子だけでも、水を……!」

 「よぉーし、俺様達が王族から水を解放してきてやる。水はそれで手に入る……そしてここで王族を倒せば俺達は英雄だ!」

 城の前に水を求めて集まった民衆が騒ぎ立てる。このところ雨が降らず、井戸も残りわずかとなり貯蓄は城の地下に溜めている分しか無かった。

 もちろん独り占めをしているハズもなく、雨が降るまでの繋ぎとして水の制限を行っているのだ。これを解放してしまえばすぐに枯渇するのは目に見えていたからだ。

 「……貴様が先導してきたのか」

 「姫様、いけません!?」

 姫と呼ばれた褐色の肌に青白い髪をした女性は、格子状の閉じられた門の前まで出向き、状況を確認する。その向こうにはいつぞやに謁見に来た冒険者が下卑た笑いをあげる。

 「へっへ……どうだ? 俺がちょっと合図すりゃお前はこいつらに蹂躙される。しかし俺も鬼じゃねぇ、前に言った話を考え直してくれれば……」

 「断る。わらわはこの国の王女じゃ、理解が得られなくても民の為には苦しい決断もせねばならん。この選択が後に良かったと、必ず思うてくれるはずじゃ。貴様のようなごろつきに王が務まるはずもない。それにわらわはお前の性根が好かん」

 「はっ、言ってくれる! だがもう限界なんだよ! いつ雨が降る? 水は後どれくらいある? 不安なんだよご町内のみなさんはよ! 行き過ぎた節制は強欲ととられるんだ、覚えておきな! ……みんな、交渉は決裂だ! かかれ!」

 

 おおおおおおお!!


 「ひ、姫お逃げくだ……ぎゃああ!?」

 何とか食い止めていた門番達も数の多さには勝てない。あっという間に殺され、門がガシャガシャと揺さぶらる。

 「これでは殺されてしまいます! さ、こちらへ!」

 「ならぬ。ここで逃げれば、あやつらの思う壺じゃ。しかしおぬしを巻き込むわけにもいかぬ。シャールよ、今まで世話になったな」

 ブオン……

 「こ、これは転移陣の魔法道具!? 姫様! 姫さまぁぁぁぁ!」

 「達者でな……」

 シャールと呼ばれた男が目の前から消えたと同時に門が破壊され、民衆が庭へなだれ込んできた。

 「もうこうなったら、お前は殺すしかねぇ……」

 すると、姫は膝をついて民衆へと叫び始めた。

 「聞いてくれ、この町に住む者達よ! 水は確かに城にある。十分とはいえないが、少しずつであれば永らえる事もできよう! その内必ず雨が降る、それまでどうか、わらわに任せては貰えんじゃろうか! 年老いたものや赤子が死に絶えているのも分かっておる……じゃが、ここで水を一気に使って全滅するわけにはいかんのじゃ!」

 姫の演説により、集まった民衆はざわざわとお互いの顔を見合わせ話し始める。これで本当にいいのか? といったような声もちらほら上がっていた。

 「騙されるな! こいつは水を独占しているから肌もきれいだし、艶もいいんだ!」

 「そ、そうだ! この悪魔め!」

 冒険者の男が叫ぶと、また民衆が怒号を上げた。説得できたと思っただけに姫の落胆は大きかった。

 「……ダラード、貴様……!」

 「お前が、お前が悪いんだ!」

 「何を……! うっ……」

 立ち上がろうとした姫の胸にダラードと呼ばれた男の剣が突き刺さっていた。白いドレスは見る見るうちに赤く染まっていく。

 「ひゃは、ひゃははははは! この国は俺が見守ってやるから安心しな! おい、お前ら城へいって水を探して来い!」

 「あ、ああ……」

 「(くっ……ここで朽ちるとは……願わくば、わらわの命と引き換えに、罪無き民に恵みの、あ、め、を……)」


 ポツ……ポツ……

 「あ?」

 ポツポツポツ……

 「雨だ……」

 小さな雨粒がやがて滝のような雨へと変わる。

 「見ろ! こいつを殺した途端に雨が降り出したぞ! やはりこいつは悪魔だったんだ!」

 「し、しかし……いつかは雨が降ると……うが!?」

 「黙れ! 俺は王女を殺した……この国は俺のものだ、逆らうやつは皆殺しだぞ!」

 ダラードが男を一人殺し、仲間の冒険者がダラードの横に着き武器を構える。違う国の者が親身になって助けてくれようとしていたように見えていたが、本性を現したかのように恫喝してきたのだ。

 もしかして自分達はとんでもない間違いをしてしまったのでは? 民の誰かがそう呟いたが時すでに遅く、呟きは激しく振る雨に掻き消された。

 空は泣いているかのごとく、この後しばらく、雨は止まなかった。




 ---------------------------------------------------
 --------------------------------------------------
 -------------------------------------------------
 ------------------------------------------------
 -----------------------------------------------
 ----------------------------------------------
 ---------------------------------------------
 --------------------------------------------
 -------------------------------------------





 「レイド! ああああああんたぁぁぁ!」


 レイドを起こしにきたアイディールとカルエラートが特に気にせず部屋のドアを開けたその先にとんでもない光景が広がっていた。


 アイディールの叫び声が部屋にこだまする。カルエラートの顔は赤い。

 すると、レイド。寝起きはいいためすぐに目を覚ましてムクリと起き上がった。

 「あふぁ……朝から大きい声を出してどうしたんだ?」

 あくびを噛み殺しながら、アイディールとカルエラートを見るレイド。なぜかアイディールが怒っているのが分からないといった感じだった。

 「昨晩はお楽しみだったようね?」

 尚もシラを切るのかと眉をひくつかせ、腕組をしながらレイドに言う。

 「何のことだ……?」

 「……それは本当に言っているのか……? 隣に寝ている、その、裸の女性とごにょごにょしていたんじゃないのか?」

 「隣?」

 顔を赤くしているカルエラートの目線を辿ると自分のベッドだと気づく。そのまま下に顔を向けると……。

 「な!? だ、誰だ!?」

 そこには褐色の肌に青白い髪をした女性がすやすやと眠っていた。レイドにはまるで覚えが無い、が、アイディールが怒っている事の正体はこれで確認ができた。

 「あんたが連れ込んだ女の子でしょうが! 成敗!」

 「ち、違う! これは何かの間違いだ! おい! あんた起きて……は、裸!?」

 ギョッとして慌てて立ち上がるレイドにアイディールのメイスが丁度ヒットした!

 「う……」

 ドサリと、女性に覆いかぶさるように倒れるレイド。鼻血を出しながら意識を失った。その騒ぎの中、女性がむにゃむにゃと不機嫌な声を出し起き上がってきた。

 <うるさいのう……昨日は疲れたんじゃからもう少し寝かせてくれてもええじゃろ……おかげで変な夢を見てしまったわい……>

 「疲れた……や、やっぱり!?」

 カルエラートが顔を手で隠しながら頭を振り興奮状態だ。しかしアイディールはその女性を見て、ある事に気づく。

 「……ま、まさかとは思うけど、あなた、チェイシャ?」

 <まさかも何もわらわじゃ。狐につままれたような顔をしてどうしたのじゃ? って狐はわらわじゃったな! はっはっは>

 チェイシャは冗談を言いながらいつものように跳ね様として違和感に気づく。体が重いのだ。

 <な!? まさか、太った!? 体が重……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?>

 感触を確かめようと掌を見てチェイシャは叫ぶ! いつもの肉球ではなかったからだ。そして体をぺたぺたと触り、アイディールを見てから呟く。


 <わらわ、何で裸なんじゃろ……>

 「え!? そこ!?」





 ---------------------------------------------------




 気絶したレイドをベッドに(半ば捨てるように)寝かせた後、アイディールはチェイシャ(と名乗る)女性に服を貸し、尋問を始めた。

 色々聞いた結果、どうやら本物のチェイシャで間違いないようだとアイディールは納得する。
  
 「ルーナと旅していた話が判断材料になったわ。チェイシャと認めましょう。で、昨日は何も無かったのね?」

 <言い方に含みがあるが……うむ。気づいたのはさっき起きてからじゃし、わらわがレイドとどうにかなるなど有り得ん。そもそも、こやつはヘタレじゃし>

 アイディールは真面目な顔でコクリと頷いた。

 「しかしどうして人間になったんだろう。心当たりは無いのか?」

 <……この姿になったから言うが、わらわはこの国の出身じゃ。そしてこの姿は……死んだ当時の姿そのままじゃな。歳は22じゃったかのう……>

 思い出すように目を瞑って自己紹介のような独白をするチェイシャ。そこでアイディールがふう、とため息をついて話し出す。

 「ま、女神の封印を解くのが目的だし、チェイシャが人間になっても特に問題ないわよね? 死んだのっていつぐらいなの?」

 <もう100年は過ぎたな。知っているものもおらんじゃろう。一応顔は隠すつもりじゃ>

 「その肌をしている者が居れば、少しは町の人の警戒も解けるかもしれないし、丁度いいと思う。チェイシャ、改めてよろしく頼む」

 カルエラートが握手を求め、それに応じるチェイシャ。しかし頭の中では違う事を考えていた。

 <(未練は無いが、あの後どうなったのか気になるのう……少しどこかで話を聞ければ嬉しいのじゃが)>

 昼過ぎまで気絶したままだったレイドが起きだしてから、一向はハウラの町へと繰り出すのであった。
 

 
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。