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第六部:救済か破滅か
その144 門出
しおりを挟むフレーレ達はオデの町へと帰還し、再び屋敷へと戻った。
意識を取り戻したユリがベルダーの背から降りなかったのはデレていたからだけではなく、憑かれていた事もあってか体力をかなり消耗しており、すぐに部屋へ寝かしつけていた。
「そういえば口移しでユリさんに何かを飲ませていましたけど、あれってなんだったんですか?」
「……あれは……」
ベルダーがもごもごと口を動かそうとしたが、代わりに師範が答えてくれた。
「ありゃ酒精の強い酒じゃ。ワシらは炎の術を使う事があるんじゃが、あの酒を媒介にして燃え広がらせたりするんじゃい」
「強すぎるので、飲んだりするのはかなりキツイんですよ……蛇によく効いたのはそのせいかと」
アネモネを見ながらカイムが困った顔で言う。横になり、冷たく濡らした布を頭に乗せたユリがかすれた声でその場にいる者に語りかけた。
「……喉は確かに痛いけど、あれが無かったらアタイはもう居なくなっていたかもしれない……ベルダーありがとうね」
「……問題ない。今はゆっくり休め」
「うん。でもまさか自分から口付けするとは思わなかったよ」
「そうなの?」
セイラがその言葉に食いつき、ユリの横へズザザっと滑りながら座った。横にはアネモネが申し訳ない顔でとぐろを巻いている。
「自分に自信が無かったからだと思うけどね、今は……立派なニンジャマスターさ。ね、父上?」
「そうじゃな。『もう逃げるのは無しだ! 大事なユリは必ず助ける!』とか言っちゃうくらいじゃからな!」
「し、師範!?」
顔を赤くしたベルダーが師範に掴みかかろうとしたが、ヒラリとかわして廊下へと出て行った。それに続き、フレーレ達もぞろぞろと出て行く。
「お、おい?」
「ご馳走様ってね! 私達は戻るからベルダーさんはしっかりユリさんの看病しててね」
セイラも立ち上がり、ベルダーに指を突きつけてそんな事を言う。横に居たアネモネもユリに頭を下げながら謝罪していた。
<今回は本当に申し訳なかったね……改めてお詫びするよ>
「アンタも何かあったみたいだね? とりあえずもう敵にならないならアタイはいいよ」
<それじゃ行くのにゃ>
バステトがアネモネを抱えてユリの部屋から出て行き、二人だけになる。しばらく沈黙があったが、天井を見ていたユリからベルダーへ話しかけていた。
「……ごめんよベルダー。アタイ、アンタを信じきれていなくて……」
「俺の方こそ、ずっと寂しい思いをさせていたみたいで……すまなかった。あの時も言ったが、まさか待っていてくれるなんて思わなかったんだよ」
「ふふ、お互い不器用なモンだね……でも、もう離さないよ」
ゆっくりと体を起こしたユリをベルダーが支え、そのままキスを……
「(きゃー! キスですよキス!)」
「(そこじゃ、ぶちゅっといけ!)」
「(ちょっと静かにしないと聞こえるでしょ!?)」
「(師範……)」
「「……」」
……することは出来ず、ベルダーはユリを寝かせてシュッと姿を消した。
「あ、あれ?」
フレーレがベルダーを見失い困惑していると、後ろから声がかかった。師範はすでに姿を消している!
「お前達……」
こめかみに怒りをあらわにしたベルダーが静かにフレーレ達に声をかける。
割と珍しいくらい怒っている様子と思い、その場にいた全員がそれぞれ別の方向へと逃げ出した!
「ごめんなさーい!」
「お似合いよ二人とも、お幸せに~♪」
「……申し訳ない! 今後の参考にと……!」
<みんな、好きなんだにゃあ恋愛話>
<まあそういうものよ人間ってね>
「……ったく、あいつらは……」
悪態を吐きながらユリの部屋に戻ったベルダーの顔は、笑顔だった。
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ベルダーとユリを部屋に残し、散り散りに逃げたものの、最終的には師範の部屋へと集まっていた。帰りの道中、今後の事を話したいと相談されていたからだ。
「私達の目的は終わったので、遅くても明後日には魔王城へ戻ろうと思います。元々女神の封印を解く事でしたから、丁度良かったんですよ」
セイラは女神のアイテムを魔王城に届ける必要があると師範に告げた。
「あい分かった。不可抗力とはいえユリの件、感謝しますぞ」
フレーレとセイラの前に師範とカイムが座っており、二人が頭を下げる。フレーレは慌てて手を振りながら二人に頭を上げてくださいと言った。
「いいんですよ、困った時はお互い様ですし。それで、ベルダーさんの事なんですけど……」
「うむ……そのことなんじゃが、あやつはここに残してもらえるとありがたい。急に戻ってきたベルダーとユリが結婚する事を快く思わんものもおるじゃろうし、それにずっと待っていたユリとまた離れるのは忍びない」
「そうですね。魔王城ももしかしたら戦場になるかもしれないですから、私はユリさんとベルダーの事を聞いてからここに残ってもらおうと思っていました。強力な戦力ですが、無理は言えません」
セイラが真っ直ぐに師範を見ながらハッキリと言った。
<いつもそれくらい真面目ならモテそうなのににゃ……>
「なによ? いいのよ、私は分かる人が分かってくれれば」
「ふふ、セイラは美人さんですからね。それじゃ、私達は部屋へ戻りますね! 明日はお土産を買いに行きましょうか?」
<アタシもアンタ達に着いていいかい? 主に聞きたいことがあるし>
「もちろんですよ! あ、お昼回りましたね、外に食べに行きましょうよ」
「そ、それでしたら私がご案内しますよ!」
フレーレ達はぞろぞろと師範の部屋から出て行き、一人残る師範。腕組をしてふぅーむと考える。
「……さて、どうするかのう……」
---------------------------------------------------
そして出発の日……
「い、いや俺も戻るぞ!? ディクラインに何て言われるか分からん」
「いーえ、ベルダーはここに残って次期師範としてユリさんと一緒に居てもらいます!」
門の前で言い争っているのはセイラとベルダー。ベルダーには告げず出て行くつもりだったが、見つかってしまったのだ。
ベルダーは戻る気満々だったようで、荷物を下げて屋敷から出ており、ユリも荷物を持っていた。
「師範さん、二人には言ってなかったんですか?」
「そういえば忘れておったわい! ほれ、二人とも。セイラさんとフレーレさんの言うとおり、この屋敷に残ってくれ。皆に説明もせねばならんし、結婚式もな」
「し、しかし今後の戦いが……」
「心配しないでください、ディクラインさんを筆頭に勇者や魔王が居るんですから! こっちは何とかするんで、ベルダーさんはユリさんと今まで離れていた分ゆっくりと一緒にいてください」
食い下がるベルダーに師範とフレーレがお願いをし、勢いが弱まる。
「……すまん……感謝する……。ディクラインによろしく伝えておいてくれ……」
「アタイからも頼むよ」
「はい! それではお元気で!」
「あ……」
カイムが何か言おうとしたところで師範がフレーレ達を一瞬引き止める。
「二人の事、感謝する。しかし、ベルダーを引き取ってはい終わりではこちらとしても申し訳ない……カイムよ、お主ベルダーの代わりに着いていってくれぬか?」
「え?」
間の抜けた声を出すカイムにベルダーが肩を叩く。
「なるほど、修行として行くのもいいかもしれん。俺もこの国から一度出て各地を歩き回って強くなる事ができた。人や魔物……色々なものが経験になる」
「い、いいんですか?」
「カイムがよけれ「行きます! 是非行かせてください!」わんよ」
師範が何か言っていたが、それより早くカイムが反応した。それにフレーレとアネモネが話し始めた。
「カ、カイムさん大丈夫ですか? ご家族とかは……」
「大丈夫です! 親に捨てられた身なので、師範の許可があれば私はいけます!」
親に捨てられたと聞き、フレーレが一瞬顔を曇らせるがすぐ笑顔になりカイムの手をとってニコッと笑う。
「ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね!」
「は、はひ! (ずっとよろしくお願いします!)」
<ならアタイの蛇之麁正はカイムが使うといい。刀だから馴染むのが早いだろうしね>
「喜んで!」
カイムはアネモネを抱えあげて興奮気味だ。そのやり取りを見ていたセイラがバステトに不満を口にしていた。
「あーあ、舞い上がっちゃって……何でフレーレに惚れて、私じゃなかったのかしらね?」
<本質を見抜かれてたんじゃにゃい?>
「どういう意味よ!?」
<あ、やばいにゃ……さ、先に行くにゃー!>
「こら、待ちなさいバス! あ、それじゃ色々終わったら遊びに来ますね! またー!」
バステトを追ってセイラが駆け出し、フレーレも挨拶をしてそれを追う。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? それじゃベルダーさん、色々ありましたけど……お世話になりました。セイラの言うとおり、全て終わったらまた来ますね! それじゃ!」
「……ルーナにもよろしくな。すまなかった、と伝えてくれ……」
振り返ってコクリと頷き、フレーレとカイム、そしてアネモネは魔王城へ戻るのだった。
「セイラー! モーニングスターを町中で振り回したらダメですよ!?」
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