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第六部:救済か破滅か
その140 出現
しおりを挟むユリを追ってベルダー達は通行人に話を聞きながら移動していると、やがて東の門へとやってきた。そこに立っていた門番が師範へ話しかけていた。
「あ、サイゾウ殿! ユリが凄い勢いで外に行ったが何かあったのですか?」
「少しな。ユリはどっちへ?」
「このまま真っ直ぐ駆けていきましたが……」
すると、ベルダーが門番が指差した方を見て、礼を言った。
「……感謝する、行きましょう師範。フレーレにセイラ、すまんが俺達は先に行く。後から追いついてきてくれ。それとバステトを借りるぞ」
<にゃんだふる!>
ベルダーがバステトを脇に抱えて道案内をさせるようだ。緊張で凛々しい顔つきになったバステトが妙にマッチしていた。
そして一気に駆け出し、ベルダー達の姿はどんどん小さくなっていった。
「あ! 追いつけってどうやって探すんですかーー!」
フレーレが叫ぶと、横に居たカイムが種明かしをしてくれる。
「この米……食べ物なんですけど、これに色を塗っているんです。ニンジャはこの米を撒いて道しるべにしています」
セイラがカイムの手の平にある米を見たあと、しゃがみこんで地面を確認する。確かにピンク色の粒が点々と続いているようだった。
「急がないと、怪我を治せるのは私達だけだからね。……着いたら終わっている、とかあるかしら?」
「そこまで楽観はできませんよ、行きましょう!」
「こちらへ!」
カイムを先頭に、フレーレ達も走り始める。ルーナの補助魔法があれば……と、フレーレは思っていた。
しかし今はいない。できる事をやるべきだと頭を振って走っていた。
---------------------------------------------------
出発して15分。東の門から飛び出したベルダーとサイゾウはバステトの導きで目的地へと近づいていた。しかし、ユリ・アネモネの姿を捉えることは出来なかった。
<その木の所を左に曲がるにゃ! で、そのまま真っ直ぐにゃ!>
「……よし」
しばらく林の中を走ると、開けた場所に出た。目の前には崖があり、よく見るとぽっかり穴が開いているのが見えた。
「どうやらアレのようじゃな?」
<そうにゃ、アネモネの匂いはここで途切れているけど間違いないにゃ。ここまで近づいてやっと分かったけど、女神の封印の気配もあるにゃ>
「……? いつもと違う、とでも言いたいのか?」
<うーん……なんと言っていいかにゃ……私達は近くにいるとお互いの存在を感じ取れるようになっているにゃ。たとえ分身でもにゃ? けど、今のアネモネはかろうじて『匂い』が『そう』であるだけで、まるで感じ取れないのにゃ>
バステトが小脇に抱えられたまま腕を組んでうーんと唸る。チェイシャがジャンナの気配を感じ取れた事と同じ事が全員できるはずだが、それが出来なかったとバステトは言う。
「今はそれを討論している暇は無い、入るぞ……」
<そうだにゃ……(私は私で警戒しておいた方がいいかもしれないにゃ? これは異常だにゃ……)>
洞窟の中の通路には一定の間隔で蝋燭が立っており、火もついていたため前が見えないということは無かった。ただ、それが逆に不気味さを浮き立たせているようにも見える。
「ふむ、しめ縄か……ここは特別な場所のようじゃな」
<主がこの国に合わせて封印したからだと思うにゃ。私は良く知らないけど、私を封印した場所は聖域みたいな場所になっていたにゃ>
「……エクソリアが何を考えていたかは分からんが……」
「気になるのはオデの町からそれほど離れておらんのに誰も気づかなんだことじゃな」
バステトはそれに結界で見えないようにしていたハズだと答え、バステトを先頭に先へ進んだ。
言葉少なめに、殆ど直線の洞窟を慎重に進む。
やがて、明るく広い、天井の高い部屋へたどり着いた。そこには蒼希の国の神社や寺にある”鳥居”が建てられていて、その奥には祭壇らしきものも見えた。
「到着、か?」
<その通り。女神の守護獣が居るなら追いつけるわね」
鳥居の上で座り、頬杖をついたユリがニヤニヤと笑いながらベルダーたちを見下ろしていた。ユリとアネモネらしき声が混ざったような感じに聞こえている。
<……お前は誰にゃ? アネモネは人を操るなんて真似はしないハズにゃ>
バステトが質問をすると、ユリの口から白い蛇が顔を覗かせバステトをじっと見ながら喋り出す。
<アタシはアネモネさ。100年も封印されていたら性格も変わるってもんだろう? そういうことだよ」
「お前が誰であろうと俺には関係ない。ユリの体を返してもらおう」
チャキ、と神殺しの短剣クリムゾン・サクリファイスを構えながらユリを見るベルダー。
蛇の頭が喉の奥に引っ込みユリの声で喋り出した。
<残念だけど、この娘の意識はもう消えるよ。このまま本体の器として使わせてもらうから安心するといい」
ユリ・アネモネが鳥居の上に立ち肩を竦めてそんな事を言う。ベルダーは鳥居を駆け上がりながら叫ぶ!
「ならばその前にお前を引きずり出すまで!」
<子供くらいなら作らせてやるよ! アタシの子供だけどね!」
ブン!
ベルダーのダガーをバックステップで回避し、そのまま鳥居から落ちる。
それを見た師範が着地狙いをするため走り、ユリに斬りかかる!
<父上……! あたいを斬るのですか!?」
「む!? ……ぐお!」
一瞬躊躇った師範の動きを見逃さず、ユリは師範を蹴り、奥にある祭壇へと向かう。
<はは! 甘いねぇ!」
<いけないにゃ! 本体が出てくる!>
「チィ!」
鳥居から飛び降りながらユリに手裏剣を投げるが、大蛇の体に阻まれ落ちてしまった。
そして、祭壇がせり上がり、その姿を現した!
「!? 何と!」
<え!? なんにゃ!?>
ベルダーとバステトがその姿を見て驚きの声をあげる。そして師範が冷や汗を流しながら呟く。
「これは……こいつはもしや、オロチ……」
「師範、知っているのか?」
「昔の話じゃよ、悪しき蛇の魔物がこの国を暴れまわっていた、という御伽噺がある。ただ、白い大蛇ではなかったと思うがの」
いつしか倒され、この国の地面の土台となった。それがオロチだと、師範は言う。しかし、バステトは違う事で驚いていた。
<(アネモネは確かに蛇の守護獣にゃ、白い大蛇……でも、頭は八つも無かったのにゃ!)>
<さて、爺さんとおっさんと猫が寝起きの食事とは何とも面白くない話だがあの女達もじきに来るか? 女は美味いらしいから、メインディッシュの前にお前達を食ってくれる!>
「う……」
ズシン……ズシン……
ユリの体を自らの体に埋め込み、上半身だけを体の中央に出したまま、ベルダー達の前へと歩いてくる。
「くっ……」
「怯むなベルダー! でかいなら狙いようはあろう!」
<大きいからって素早くないとは限らないよ!>
首を伸ばし、ベルダーと師範を跳ね飛ばす! 移動速度は遅いが、首が攻撃範囲を広げているのだ!
「やるな!」
「八本はずるじゃろ!?」
<ベルダー! お爺ちゃん! アネモネは元々一匹の大蛇だったにゃ! だからどれか一本しか本物がないはず
……片っ端から潰していくにゃ!>
「幻術か何かというところか? 望むところ、ユリを攫った事を後悔するくらいに殺しきってやる……」
「ホントに変わったのう、カイムもお前と旅立たせたら変わるかのう?」
コキコキと首を鳴らしながらベルダーの横に立つ師範。バステトも足元で爪を鳴らす。
<この姿をみて怯まないのは褒めてやるよ、でもここまでだ!>
八本の首がベルダー達に襲い掛かってきた!
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