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第六部:救済か破滅か
その139 嫉妬
しおりを挟む翌日、師範ことサイゾウに事情を話すため、ベルダーとフレーレ、セイラは師範の部屋へと集まっていた。
「ふうむ……女神の封印か、お主達は世界の危機を救おうというのじゃな?」
「……はい、俺もユリの事があるので離れたくは無いのですが……」
「わたしの友達を助けるためにも女神の封印を解くことは必要なんです。無理にとは言いませんが、ベルダーさんに抜けられると戦力的に厳しくなるのでできれば全てが終わるまで待っていただきたいんです」
ベルダーが話そうとしたが、ベルダーだけの問題ではないため、ベルダーだけに話させるわけにはいかないとフレーレがお願いする形になった。
「まったく、成長したと思ったら成長しすぎじゃな。分かった、ユリも連れて行ってやれ。これ以上お主と離すのも酷だろうしのう。……早く孫を頼むぞ?」
「……」
ベルダーが目をそらして、なんと答えようか考えていた時だった。
「も、申し上げます! ゆ、ユリ様が、ユリ様がご乱心を!」
若いニンジャが慌てて襖を開けて報告をする。昨日の宴会で料理を運んだりしていた真面目な男だ。腕前はまあまあで、優秀な部類に入るが優しすぎて戦いには向かない性格なのが実力を発揮しきれていない原因だと師範は言う。
「何!? どういうことだ?」
「べ、ベルダー殿、とにかく来てください!」
「案内せいカイム!」
「わたし達も!」
カイムに引っ張られ、師範とセイラ達も移動する。バステトが鼻をひくつかせながらそのあとを追う。
<この匂いは? ……でもどうして気づけなかったにゃ?>
---------------------------------------------------
案内された場所は入り口の門だった。駆けつけた時にはすでに何人かが倒れており、今も一人が蛇に締め上げられているところだった。
「ユリ!」
<おや、ベルダーかい? ……あたいはここから出て行くことにしたよ」
「……どういうことだ?」
<分からないかい? 昨日もそこのフレーレとお楽しみだったんだろ? あたいは見ていたよ、あんたがその子に覆いかぶさるところをさ! 10年も待ってこれじゃあ惨めで仕方ない……だからあたいも男を見つけに出て行くのさ」
「昨日……あ!? あれは蛇が急に襲い掛かってきたからそれを庇ってくれただけですよ! それに部屋にはセイラも居ましたし、バスちゃんもいました。今から行く女神の封印の件で話し合っていただけですよ!」
フレーレが叫ぶと、ユリは目を細めてフレーレを睨む。そんな事は知ったことか、と。
「目を覚ませ! 俺はお前が好きなんだ、他に手を出したりはしない!」
「そうですよ! わたしもベルダーさんみたいに脅迫したり、寝起きが悪いおじさんは好きじゃありません! これっぽっちも! だから気にしなくていいんですよ!」
「……こっちの嬢ちゃん、中々キツイのう……」
「私も会ってそれほど経ってないんですけど、だいたいこんな感じみたいです……」
ベルダーとフレーレの説得により、ユリに変化が訪れた。
「う、うう……ベル、ダー……あたいを好きだって……」
<あの二人はお前を陥れようとしているだけだ……ああいえばお前がおさまると思ってね……裏で何をしているやらさ>
<あ、ああう……!」
「くっ、今の声はどこから……」
「正気に戻りそうだったのに……」
まだ説得をする必要があると、ベルダーが直接ユリに向かおうとしたその時である。
<そこまでにゃ! かすかな匂いで気づいたけど、ユリさんにはアネモネが憑いているにゃ!>
バステトが死角からユリに攻撃を仕掛けたのだ! その気配に感づき、袖から蛇を出してバステトの爪をガードした。
「蛇……? もしかして女神の封印を守っている?」
<そうにゃ、『嫉妬』のアネモネだにゃ! でも、こんな事をする人じゃないんだけどにゃ……>
蛇の猛攻を捌き、距離を取るバステトにアネモネ・ユリが舌打ちをする。
<クソ、バステトか!? 狙いはアタシかい?」
<主から、残りの封印を解いてアイテムを持ってくるように言われてるにゃ! セイラ、あの石を!>
「あれね!」
エクソリアから預かった石をアネモネに見せるが、アネモネ・ユリはくっくと笑い、バステトを攻撃してきた!
<にゃにゃ!? 何するにゃ!>
<それがどうした、石は分かったけどアタシはまだ死にたくない。それにいい嫉妬を持った体も手に入れたからね、ここいらでお暇させてもらう……よ!」
アネモネ・ユリが最後の言葉を言うと同時に、腕から蛇を伸ばしてフレーレを襲った! バステトの方を向いていたのでフレーレは油断していたので狙われたのだ!
「あ……!」
「危ないフレーレさん!」
フレーレの前に躍り出たのは、案内をしてきたカイムだった。フレーレの代わりに、ぐじゅると腕を噛み付かれた。
「ぐうう!」
「カイムさん!? この、離しなさい!」
フレーレがメイスで何度も殴ると、蛇は腕から口を離した。そこに師範の武器、刀が首を切り裂き叩き落す。
「むん!」
「まだ動いているわね《フリーズ》」
セイラが魔法を使い蛇の頭を完全に凍らせるとそれでようやく動かなくなった。
<チッ、分身体じゃ分が悪いね。やっぱり撤退させてもらうよ、追ってきたらこの女の体がどうなるか分からないよ!」
ユリもニンジャの修行を受けているため、物凄いスピードで屋根から屋根へと飛び移り姿を消した。ベルダーはユリの体の事を言われ、咄嗟に動けなかった。
「……ユリ……」
<何してるにゃ、すぐ追うにゃ!>
「ちょっと待って、バスちゃん。……今治しますからね《リザレクション》」
「う……痛みが引いた……」
「ありがとうございます、庇ってくれて! わたしだったら首を噛まれて死んでいたかもしれませんでした」
ニコっと笑うフレーレを見て顔を赤くするカイム。
「あ、いや……その……」
「?」
もごもごしているカイムをみて首を傾げるフレーレだが、バステトの言葉により緊張が走る。
<急ぐにゃ! アネモネは人質みたいな事を言っていたけど、本体を憑依させるつもりだにゃ。憑依されて時間が経つとユリさんの意識が消えてしまうにゃ>
「な、何じゃと!?」
<私も気づけなかったにゃ、申し訳ないにゃ……どうも気配が違うからお互いを探知できなかったにゃ……>
「そういえばチェイシャは『近づいたら分かる』って言ってましたね、それが分からなかった……?」
「話は後よ、追いかけましょう」
フレーレが考えるが、セイラの言葉で我に返る。ベルダーも頷いていた。
「……恐らく東の洞穴だろう、行こう」
<匂いを覚えたからいけるにゃ>
「ワシも行こう、娘を取り返さねばな」
「私も行きます! ユリ様をお助けせねば!」
師範とカイムも着いてくると、武器を手に宣言する。カイムはチラチラとフレーレを見ているが、本人は気づいていない。そのままベルダーとバステトに続き歩き出す。
「行きましょう、女神の封印を解いてユリさんを助けるために」
「やれやれ、すんなり行かないとは思わなかったわ……エクソリアさん、この石、役に立たなかったよ……」
フレーレがセイラを見て呟き、セイラがため息をついて女神に恨み言を言っていた。
一行は女神の封印がある東の洞穴へと駆けていった。
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